機動戦士ガンダムGナッシング~西海岸は煉獄と化した!!   作:ミノフスキーのしっぽ

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第5話

 狙撃ポイントへ その3

 

 コロニー落とし後の世界で、それぞれがどのような活動をしていたかを報告し合っていた政治家たち。

 その輪の中、准将に昇進した旧友が、激務により変わり果てた姿となっていたことを知り愕然とするローナン・マーセナスであった。

 

 「…申し訳ありません、ベーコン議員。そろそろお時間です」

 

 そんな政治家たちの輪の外側から、コロラド選出の議員、アルフレッド・ベーコンに声がかけられた。ここ、新たに連邦軍の前進基地となったサクラメント国際空港指令に就任した、ハルトマン中佐からである。

 

 「ああ…私の出撃時間だな」

 

 「その通りです」

 

 「了解した。ローナン君、カイオウジ君、私は70式大隊の狙撃チームに同行する。先に行かせてもらうぞ」

 

 そう言って、政治家たちの輪から離れようとするベーコン議員。かつて戦車隊に在籍し、退役後に政治家に転身した初老の議員は、70式大隊へと合流しようと指令室を後にするのだ。

 

 「もうそんな時刻ですか…御武運をベーコン議員」

 

 「ご武運を」

 

 「君たちもな。ローナン君、カイオウジ君」

 

 「我々も後に続きます。最初の一撃はお願いしますよ」

 

 「任せろ! ジオンの輩に目のモノ見せてくれる!」

 

 笑顔で敬礼し、指令室から去っていくベーコン。それを二人の連邦議員と、マーセナス家の執事が敬礼して見送った。

 出撃するベーコンと並んで歩き、再びハルトマン中佐が戦闘準備のことで話しかける。

 

 「議員、案内の士官から各種装備の受領を。装備を固めていて悪いことはありません。みなさんには生き残ってもらいます」

 

 「はははは。私の身を心配してくれるのは嬉しいが、元軍人の政治家が真っ先に装備を固めたら若い兵士が怯える。装備は私が乗る車両に運び込んで置いてくれ」

 

 「ですが議員」

 

 「それに戦車兵は軽装でなければいかんだろう。下手にジャケットなど着込むと内部の計器に引っ掛かる。私の心配よりも、問題のない70式の運用と長距離射撃の成功だ。そうだろう?」

 

 「それは…その通りです」

 

 「こう見えて、昔はAIの補佐の下、一人で61式を運用したこともある! 心配せんでくれよ!」

 

 「そこまで言われるのなら…了解であります!」

 

 考えを改めたハルトマン中佐はその場で敬礼し、ベーコンをそのまま行かせた。

 

 「うむ……そうだハルトマン中佐…」

 

 だが、しばらくするとベーコンは立ち止まり、ハルトマンへと振り返る。

 

 「なんでありましょう?」

 

 「…老婆心ながら言わせてもらう。歩兵隊にはずいぶんと若い兵士の姿も見えた。彼等が生きて帰ることができる指揮を頼むぞ。司令官」

 

 そう言って、ハルトマンに再敬礼するベーコン。言外に、彼等を生かして返さんと承知せんぞ。そう伝えているのである。

 事実、ベーコンの指摘通り連邦軍の内情は苦しく、とくに後方は足りない人員を若年兵で補っているのだ。

 これは、食料不足の折、若年者を兵士とすることで、満足な食事を与えるための措置でもある。戦時下では、常に軍属優先となるのである。

 そのことを知っているベーコンは、あえてハルトマンに彼等を使い潰すなと釘を刺したのだ。

 

 「! ご期待に沿えるよう最善を尽くします!」

 

 「うむ。頼む」

 

 そう言い残し、ベーコンは大隊と合流すべく案内の士官と共に空港外へと向かって行った。

 

 「…旦那さま、流石はベーコン議員ですな」

 

 「そうだな。私も見習わねばな」

 

 ダグラスの言葉に同意するローナンである。実際、戦争を早く集結させ、息子のリディが銃を持たされることがない時代が来てほしいと願う。

 

 「…さてローナン。我々もそろそろ出撃の準備をしよう。私はデプ・ロッグ隊で爆撃手となる予定だ。君はフライ・マンタだったな」

 

 「ああ。そうしよう。行くか」

 

 「そうだな。君も死ぬなよローナン!」

 

 「君もな。カイオウジ!」

 

 互いの手を固く握り合い、武運長久を願い合う両議員。これより二人にも、新たな戦いが始まるのである。

 

 「…」

 

 その姿を複雑な表情で見詰めるマーセナス家の執事ダグラス・ドワイヨン。できることなら自分も主ローナンと共に戦場にでたい。

 しかし、一介の執事でしかない自分は、その邪魔にしかならない。

 その現実を知るダグラスであった。

 

 「失礼致します」

 

 再び政治家たちの輪の外側から、連邦士官から声がかかる。ローナン、カイオウジ両議院の護衛兼案内役の士官からである。

 

 「ローナン卿、カイオウジ卿、自分はこの空港警備を担当するニコラス・ベルであります。これから出撃までの間同行し、お二人を御守り致します!」

 

 「うむ。頼む」

 

 「短い間だが世話になる」

 

 「はっ!」

 

 カイオウジと共に、そうベル士官と挨拶を交わしたローナン。出撃を前にして執事ダグラスへと向き直る。

 

 「旦那さま…」

 

 「ダグラス、私は生きて帰ってくる。君が言ってくれたように、リディやシンシアのためにもな! そしてアラスカに共に避難しよう。それまでにここを引き払う準備を進めて置いてくれ。頼むぞ」

 

 「…仰せの通りに。御武運をお祈りしてお待ちしております!」

 

 「ああ!」

 

 もう戦って死んでみせるなど言わんぞ。そう態度で伝え、執事ダグラスとの暫しの別れを惜しむローナンであった。そんな二人の表情には、ミデア輸送旅団がやってくる前の悲壮感は存在しなかった。

 

 

 「ハルトマン中佐、ベル士官、それまで私の執事を頼みましたぞ。まだサクラメントに残っている連邦市民たちと共に」

 

 「必ず!」

 

 そう約束するハルトマンや執事ダグラスをその場に残し、ローナン、カイオウジは肯き合い、ベルと共にそれぞれが乗り込む航空機が待つか滑走路へと向かっていった。

 

 ◇◇◇

 

 ゴゥッ!

 

 空港上空では、連邦軍の戦闘機TINコッドが大気を切り裂き高速で飛行していた。僚機であるミデア戦術輸送機を守護するための任務である。

 その轟音が定期的に空港周辺に響き渡り、疲れ果て、やっとの想いでサクラメント国際空港に辿り着いた難民たちに安堵感を与えていた。

 

 そう。

 

 連邦軍は自分たちを見捨てず助けにきてくれたのだ。

 

 我々は見捨てられたのではなかった。

 

 これでやっと、ジオンによる地球降下作戦の一環、難民を意図的に生み出し混乱を誘発させる攻撃から逃れ、辺境の大規模シェルターへと逃れられる。

 

 重工業地帯や航空基地を攻撃する月のマス・ドライバーはティアンム艦隊により破壊されたという。

 だが、いつ同様の設備が用意され、質量弾攻撃が再開されるか解らない。

 すでに多数の質量弾を撃ち込まれた北米、ヨーロッパ、ユーラシア東部の重工業地帯は壊滅状態だ。

 

 だが地下シェルター兼軍事要塞であるジャブローほどではないが、同様に地下に建造されたアラスカの大規模シェルターなら、それらの攻撃を防げる。

 

 大気中で爆発する隕石の爆風、衝撃波に、生身で晒されるよりかは格段に安全だ。

 

 そんな安堵感を得た難民たちは、徐々に希望を取り戻し、その行動も落ち着いたものとなっていた。

 

 

 ベルに引率された二人の議員が専用通路を抜け滑走路に降り立ったのは、そんな状況下。

 そこには、各種軍需物資を積み下ろしを終えた多数のミデアの姿があり、その開いた格納スペースと機内に、新たに難民たちを機上させている真最中であった。

 

 「ん…あれは、マーセナス議員じゃないか?」

 

 「どれ? ああ、マーセナス議員だ! 間違いない!」

 

 「本当?」

 

 「ああ! 俺たちのマーセナス議員だ!」

 

 すると、もっとも専用通路入り口から近くに着陸していたミデアのタラップを昇り、機上の人にならんとしていた難民たちが、ローナンの姿を見止め手を振り出した。

 

 「ローナン議員、ありがとう! 俺たちを助けるために、これまでずっと連邦軍と交渉を続けてくれたんだな!」

 

 「ありがとう! ありがとう!」

 

 「俺…このままジオンの無差別攻撃で死ぬんだって…ずっと思って…議員! ありがとうがざいました!」

 

 「…議員のおかげでやっと、やっと安心して寝れる場所に行ける…ううう」

 

 「子供たちに言って聞かせるわ! あなたが助けてくれのだと!」

 

 「伝えるわ…私もこれから生まれてくるこのお腹の赤ちゃんに…きっと伝えるわ!」

 

 「議員、ありがとう!」

 

 そんな歓声を聞き、難民たちに対し敬礼する、ベルをはじめとした護衛の連邦軍人たち。

 

 (いや。今回の作戦を指示したのは私ではないのだが)

 

 そう困惑しつつも、ローナンはカイオウジと共に、ベルたちに倣い難民たちに返礼する。

 

 「プレシィ閣下の御命令で、今回の大規模避難作戦はマーセナス卿が話を纏めたと難民たちには告げてあります」

 

 困惑するローナンに、そう説明を始めたのはベルである。

 

 「む?」

 

 「ジオンを倒しても、戦後の地球圏が連邦軍閥中心の軍政下に置かれしまっては、議会制民主主義国家としての地球連邦は敗北したも同然です。マーセナス卿はじめ、連邦市民の代表たる議員のみなさまには、下々の声が政治に活かされるよう、権力と体制を維持してもらわねばなりません」

 

 「そういうことだローナン。そのためにはこういったプロパガンダも必要なのさ。ザビ家以外にもファシスト勢力は存在する。戦後の混乱に乗じ、そういった連中が姿を現し連邦の政治を壟断しようとするやもしれん」

 

 「その通りです。お二人には一議員の枠を越えて英雄となっていただきます。その影響力を持って議会制民主主義を維持し、ファシスト勢力の台頭を防いでいただきたいのです」

 

 カイオウジ議員もまたベルの説明に同調し、ベルもまたその主張を肯定した。

 

 (ハルトマン中佐が言っていた通り、確かにルースによって議会制民主主義を守護する道は整えられているということか)

 

 「…そうすることが、我々にも、連邦市民のためにもなるということか」   

 

 「その通りです」

 

 「その通りだ」

 

 (…ならば私は!)

 

 「良いだろう。地球連邦から議会制民主主義を失くさぬために、ルースがプロデュースした英雄として語り、演じて見せよう。それが巡り巡って、リディやシンシアを含めた連邦市民のためになるというのならば」

 

 ローナンは志を同じとする者たちにそう告げ、名門政治家一族の当主らしく笑顔で民衆たちの許に近付いていった。

 

 「我が同胞、地球連邦市民のみなさん! 長らくお待たせしてしまい申し訳なかった! だが、もう心配はいりません! 私もこれから連邦軍と共に戦場に征き、みなさんとこれより後にやってくる被災者のみなさんが、無事にアラスカに脱出するまでの時間を稼ぎます!」

 

 そう宣言して民衆たちの輪に入り、親身になって彼等の声に耳を傾けた。

 

 「行かくないで! 側にいて私たちを守って!」

 

 そう訴えてくる女性や少女たちには。

 

 「ありがとう。ですが、あなた方を守るために私は出撃しなければならないのです」

 

 そう諭し。

 

 「マーセナス議員、生きて帰ってきてください!」

 

 そう言う少年たちには、無言で頭を優しく撫でてやり。

 

 「御武運をお祈りします。マーセナス議員に神の御加護があらんことを」

 

 そう語り敬礼してきた老齢の男性には、同様に敬礼して返礼するのであった。

 

 

 ローナンは、プレシィ准将のプロデュース通り、語り、演じ、出撃ギリギリまで英雄議員の役目を果たし続けるであった。

 

 ◇◇◇

 

 その頃、一足早く指令室から離れ、行動を共にする70式大型戦車大隊と合流していたベーコン議員は、大隊指揮官ステイシア・スタンフォード少佐を指揮官兼砲手とする70式に、すでに乗り込んでいた。

 

 「これが70式の内部か。しかし、プレシィ君も思い切ったことをしたものだ。本来は拠点防衛用である70式を、ほぼすべて送り込んでくるとはな」

 

 「御言葉ですが、そうでもしなければ我々はジオンのザクとは互角に戦えないのです。それほどまでにザクは…モビルスーツという兵器の汎用性は高く、規格外なのです」

 

 「ふむ。プレシィ君やジーン・コリニー将軍は、その現場の意見を聞き入れたということかな?」

 

 「はい。その通りなのです。ですから一機でも多くのザクを我々は鹵獲し、連邦軍がジオンと同じ土俵で戦えるようにしなければならないのです」

 

 「同じ土俵か…良く解る話だ。そのためのザクⅡj型鹵獲か」

 

 「上層部も、いずれは連邦軍独自のMS開発等やり始めるのでしょうが、それまで待っていては、兵の損耗とジオンの支配領域が拡大するだけなのです」

 

 作戦の目的と意味を話し合い確かめ合うことで、互いの意思疎通を円滑にする作業としているベーコンとスタンフォード少佐であった。

 

 「それで、我々はロサンゼルス方面へとこのまま南進し狙撃ポイントへと向かう訳だ」

 

 「はい。61式戦車大隊を先頭に、強行偵察中の敵地上部隊を突破することになると思われます。エスコートは、航空隊と無人偵察機スカウト・ミサイルを操るエンジェルアイズ中隊です」

 

 「厳しい戦いとなりそうだな」

 

 「はい。しかしジオン側は、キャルホルニアベースと友軍が放置してきたたⅤⅢ型潜水艦を防衛しなければならない状況です。この時点で我々は、すでにジオン地上軍を分断しています」

 

 「やってやれないことはないという訳だな」

 

 「そうです。それにキャルホルニアベースには、フライ・マンタ、TINコッド各隊が太平洋側から仕掛ける手筈となっています。それでさらに敵の分断を誘えます。我々も彼等に負けぬようにやって見せますよ」

 

 「そうか…そうだな。この北米に…いや、地球に住むすべての者たちのために、やって見せねばならんな…と、スタンフォード少佐、こちらはオールグリーンだ」

 

 「こちらの各計器異常なしです。走らせていた各種異常検出プログラムも異常の発見ありません」

 

 会話しつつ、共に各種計器の異常がないかチェックを済ませていたふたりである。

 サクラメントに降ろされた連邦地上軍が、南進を開始するまでの予定時間は、後数分といった時点での各種チェックの終了であった。

 

 「うむ。機関出力も安定している。南進開始予定時間までは、後3分」

 

 「了解です……それでは知事、参りましょう!」

 

 「うむ!」

 

 「各隊に告ぐ! こちらステイシア・スタンフォード少佐である! これより我々アップル大隊を主力とした混成軍は、キャルホルニアベース狙撃ポイントを目指し南進を開始する! 続け!」

 

 ステイシアが無線と外部スピーカーで各隊に檄を飛ばした。空港を司令部とし全体の指揮を執るハルトマン中佐に代り、彼女が前線の指揮を執るのだ。

 

 ドゥルルルル……キュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラ……

 

 大きな駆動音を響かせ、70式各車両が一斉に動き出す。

 それを合図に、前衛の61式戦車隊、後方のホバー式装甲車両ブラックハウンド隊、ホバーバイク隊、長距離ミサイルランチャー隊が移動を開始した。

 

 キャルホルニアベースから260キロ離れた、120mm低反動キャノン砲による狙撃ポイント目指して。

 




 作中で語ったマス・ドライバーによる質量弾攻撃の威力は、ツングースカ大爆発程度を想定しています。

 2000平方メートルに渡り樹木8000万本がなぎ倒され、1500キロ離れた都市でも揺れが観測されたとのこと。

 余談ですが、ゲームの水天の涙作戦が成功していたら、これを上回る被害だったのかな?

 いずれにせよ、ジオンの地球降下作戦前に、小さな都市は消滅してしまう威力の攻撃が、ティアンム艦隊が施設を破壊するまでに、地球に多数撃ち込まれたのです。

 コロニー落としの後も、これで甚大な被害と大量の死傷者が出て、恐怖した北米の住民達が難民となり、サクラメント国際空港に押しかけてきた設定です。

 大規模シェルターがあるアラスカ目指して。

 ちなみに辺境の地に多数の大規模シェルターが存在する理由は、ユニコーンで語られた地球連邦初代首相の暗殺事件に起因する設定です。

 首相官邸であるラプラスコロニー爆破事件です。

 地球連邦は、その創設時から大規模テロと隣り合わせで、いつテロリストによって宇宙から地球の都市部目掛け大質量を落下させられるか、心配は尽きなかったことでしょう。

 だから大規模地下シェルター兼軍事要塞であるジャブロー同様に、テロの標的となっても耐えられるような大規模シェルターが、辺境の地に多数建設された設定にしてあります。


 読者様からご指摘に回答を。

 宇宙世紀が現実世界の歴史とは、まったく関係ないルートを歩んだ完全なパラレルワールドである。

 とりあえずフィクションであることは別にして、上記のような設定がバンダイやサンライズの方から公式見解としてアナウンスされないかぎり、ガンダムセンチュリーなどに掲載されている旧い設定は無視するべきと、私は思っています。

 たとえば、連邦政府樹立の1999年に各国が12の州に再編されたとの御指摘ですが、このようなあまりに時代に即さない設定は、現実世界の時代が下ると共に有名無実化し、死に設定となったのではないでしょうか?

 今現在、2017年です。

 ガンダムは長く続くコンテンツです。これからも、時代に即して設定は度々改変されていくと思います。

 各種兵器も設定も、新しい作品公開と共に拡大し続け、公式に都合が悪い設定は淘汰されていくのではないでしょうか?

 私はこういった事柄には、ファンの立場でも柔軟に対応していく必要があると考えます。

 それはそれとして、御指摘ありがとうございました。

 変更すべき点は、変更しておきます。

 それでは。
 

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