機動戦士ガンダムGナッシング~西海岸は煉獄と化した!!   作:ミノフスキーのしっぽ

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第4話

 狙撃ポイントへ その2

 

 「了解した。私が話そう」

 

 説明を迫るローナンの求めに応じ、カイオウジ議員がこの2カ月の間にあった連邦軍内部の変化を語り出した。

 地球各地の連邦軍も、ローナンたち同様に地獄の経験をしていた。

 それらを語ることは、同じく地獄を見てきたカイオウジとしても些か辛いことであったが、旧友の頼みとあれば無視もできぬ。

 

 「プレシィ大佐が准将に昇進し、各地の大規模シェルター最高責任者に抜擢されたのは、レビル将軍が奇跡の帰還を果たしたすぐ後だ……因果なことにレビル派によって失脚させられた彼は、レビル将軍によって大抜擢されたのだよ」

 

 

 ◇◇◇

 

 2カ月程前。

 

 コロニー落としのあまりの被害の大きさに、地球上の行政機関は停止し、一時期、すべてに置いて空白期間が発生した。

 その僅かな間にも、各地からの被害状況の深刻さと、救助と支援要請が続々とジャブローへと齎された。

 

 しかし、コロニー落としによる空前絶後の被害は、連邦官僚たちにとって想定外のことであり、官僚たち頼みの綱のマニュアルが一切存在しない事柄であった。

 

 そう。

 

 コロニー落とし後の世界は、官僚たちにとって未知の世界。まったくの暗闇の世界。手探りで一歩一歩進むしかない世界であった。

 

 これまで半世紀以上、地球連邦の巨大な組織を運営してきた官僚組織すら、何を優先し、何から手をつけるべきか、全くもって解らない状態だったのだ。

 

 また、コロニー落としの標的とされたジャブローからは、大多数の官僚、軍人たちが逃げ出しており、彼等が戻るまで行政は滞り、それが混乱に拍車をかけていた。

 

 「呆けるな! まずはレーザー通信網の回復からだ! レーザー通信を搭載した航空機! 無人偵察機を全機飛ばせ! そのレーザー通信で、各地との通信インフラを回復するのだ! 各地の航空画像と宇宙からの画像を組み合わせ、正確な被害規模を算出しろ!」

 

 その空白期間を逸早く打ち破った人物こそ、グリーンランドのフィヨルドシェルターにおいて冷や飯を食わされていた、当時連邦軍大佐であったプレシィである。

 

 かつて、人倫を無視したサイド3殲滅を連邦軍上層部に訴え、狂人と見做され閑職へと追いやられたその人であった。

 

 「各シェルターの食料生産設備、医薬品、生活必需品生産をフル稼働! 難民の受け入れ態勢を整えろ!」

 

 「しっ、しかし大佐ジャブローからの指令がまだ…」

 

 「ジャブローからの指令だと? あっても独自に行動しろだろうさ! これから宇宙軍は艦隊決戦だ! ジャブローもその支援優先なのだ! 我々は独自の判断で行動するしかないのだ! 迅速に動かねば、地球の有権者たちがバタバタと死んでいく! 解かれ!」

 

 そのようにしてプレシィは、ほぼ独断で各地の大規模シェルターを経由する航空機を利用したレーザー通信網を造り上げ、コロニー落としの被害が甚大である北米、太平洋沿岸、各諸島、オーストラリア大陸へと、支援物資を満載したミデア旅団を派遣していった。

 

 「貴様、知っているか? あのミデア旅団を指揮しているのは何者だ?」

 

 「はっ! プレシィ大佐であります!」

 

 「プレシィ大佐? 聞かぬ名だな、どういった経歴の持ち主だ?」

 

 「はっ! 大佐はかつて上層部に、ザビ家は危険だ! 連中が事を起こす前に始末をつけねばならない! 人倫を無視してでもサイド3を殲滅すべきだ! そう訴え、狂人と見做されて閑職へと追いやられたお方です!」

 

 「⁉…それは…正しい世情の見方であったと解るな…今のこの地球の惨状を見渡せば…」

 

 「はい。我が隊の隊長殿もそう考え、プレシィ大佐に付き従っております!」

 

 「うむ…励めよ」

 

 「はっ! 少佐殿も御無事で! 失礼致します!」

 

 「…これも…アイランド・イフィッシュを阻止できなかった代償か…寒い時代になったものだ…」

 

 プレシィの経歴が連邦軍内部で噂になると、コロニー落としの被害を受けた地域出身の兵士たちを中心にして、その旗下で働こうとする者たちが続々と集まってきた。

 戦前であれば決して許されない、プレシィのサイド3殲滅論と失脚の経緯を聞き、多くの将兵が共感して、その下で働きたいと申し出てきたのである。

 

 もしプレシィのプランが戦前に実行されていれば、今のこの地球の惨状は無かったのではないか?

 連邦上層部は倫理を重視するあまり、地球の有権者を防衛するための必要な手段を講じていなかったのではないか?

 プレシィも地球を愛していたが故に、倫理を無視したサイド3殲滅論を上層部に訴えたのではないのか?

 

 多くの将兵が、連邦上層部への批判もあり、そう思い込んでしまった。

 

 それは、コロニー落としの惨状を体験した者たちにしてみれば、無理からぬことであったのかもしれない。

 

 誰だって、自分と心情を同じにする者達と共にありたいと願うものだ。

 

 少なくともプレシィ大佐の下で働く限り、故郷を愛し、救いたいと願う者達と共に働けると。

 

 そしてプレシィ旗下となった彼等は、通信インフラが寸断されていたことを良いことに原隊すら離れ、救援活動に注力し始めた。

 そして、自らをプレシィ大佐の軍閥、プレシィ派の一人であると嘯き始めたのだ。

 

 その間にも、ルウムでの連邦艦隊の敗北とレビル将軍の虜囚。それに続く、実質連邦の敗北に等しい休戦協定の事前交渉と、歴史上の重大事件が続いた。

 

 この時期、連邦軍の指揮は最悪の状況であった。職務を放棄し、脱走した兵士も少なくないほどだ。

 

 もしかしたらプレシィ派を自称する彼等の中で、プレシィ大佐を新たな希望と祭り上げることで、自らの精神を何とか安定させようとする意識が働いたのかもしれない。

 

 多くの。あまりにも多くのものを失った代替行為として。

 

 

 そして、そんな状況下で、レビル将軍が奇跡の帰還を果たす。

 

 

 「私はこの目で、ジオンの内情をつぶさに見てきた。我々も苦しいが、ジオンも苦しい。彼等に残された兵力はあまりに少ない!」

 

 

 このレビル将軍の演説により、休戦条約締結間近の連邦は息を吹き返し、ジオンとの交渉は南極条約を含む、いくつかの軍事条約締結に留まり、戦争継続が決定された。

 

 

 無論、地上に帰還したレビル将軍の耳にも、コロニー落とし後に独断専行著しいプレシィ派の動きが入ってくる。

 

 「レビル将軍。じつは連邦軍内部で、こういった動きがありまして」

 

 「何事か?」

 

 「じつは、あのプレシィ大佐がいつの間にか派閥を形成しております…」

 

 「プレシィ? ああ…あの。どういった問題か?」

 

 「こちらの資料をお読みください」

 

 「…30分後にまた来てくれたまえ。この問題の対応を決定する」

 

 「はっ! 失礼致します!」

 

 そして。

 

 「は? 昇進…プレシィ大佐を、でありますか?」

 

 「そうだ昇進だよ。彼の独断専行は目に余る部分もあるが、それによって数多くの市民が救われたのもまた事実だ。我々連邦軍上層部としては、その功績に報いなければならない。違うかね?」

 

 レビル将軍は、居並ぶ軍高官たちを前にそう宣言した。

 

 「し、しかし、将軍…」

 

 「さきほど渡された資料によると、プレシィ君は難民支援だけではなく、孤児たちの大規模コールドスリープによる口減らしや、少年兵の育成など、これからの戦争継続に必要な措置を、大胆に講じているとのことじゃないか。どうだね?」

 

 「はい。その通りであります」

 

 「ジオンと継続し戦い続けるためには、我々は難民たちに足を引っ張られる訳にはいかない。プレシィ君が望んでその問題を解決してくれるというのだ。利用させてもらおうじゃないか」

 

 「それは……確かにその通りですな!」

 

 「うむ。理に適いますな!」

 

 「そうだろう。この際、細々とした仕事はプレシィ君…プレシィ准将に一任し、我々はジオンとの決戦に注力しようではないか」

 

 「確かに…些事にこだわり内輪揉めをしていては、ジオンを利することになりかねません。有能な味方は最大限活用するべきかもしれません」

 

 「細々とした仕事はプレシィに…確かに悪くないアイデアです」

 

 「流石です。レビル将軍」

 

 「それではレビル将軍、ミデア輸送旅団と各地の大規模シェルターの指揮は、プレシィ旗下に組み込んで再編…ということでよろしいでしょうか?」

 

 「ああ。それと勝手に原隊を離れ、プレシィ隊に合流した兵士たちも不問とする。今や正規の訓練を受けた兵は貴重だ。有効活用しなければならんのだよ」

 

 「…確かに、我々はカニンガン准将はじめ、多くの将兵を失いました」

 

 「ジオンも苦しいが、我々も苦しい。いまや我々の兵も、あまりにも少ないのだ。理解してくれるな?」

 

 そう、先の演説を逆にした形で語り、レビル将軍は話を締めくくり、会議を終了させた。 

 

 レビル将軍もまた、敗北を喫したルウム戦役と虜囚を経て変わっていた。ジオンに…いやザビ家に対抗するためには、利用できるものはすべて利用しなければならない。

 必要な措置はすべて講じる。

 まして、内輪揉めなどして遊んでいる余裕はない。

 

 連邦軍の現状を受けいれ、レビル将軍はそちらの方向に舵を切ったのである。

 

 ジオン公国を倒し、地球連邦を勝利させるために。

 

 そしてこの後。

 

 ルース・リュウノスケ・デュ・プレシィ大佐は准将へと昇進。

 

 正式にミデア輸送旅団と各地の大規模シェルターは、プレシィ准将が統括することとなった。

 

 

 ◇◇◇

 

 「…そんな経緯があったか…」

 

 「…プレシィ卿も我々以上に、御苦労なされたのですな…」

 

 連邦軍人の職責を果たした旧友の逸話を聞かされ、ローナンとダグラスは天を仰いだ。

 

 「…さぞかし忙しい日々だったろうに…よくぞ!」

 

 万感の想いを込めそう発言するローナン。

 

 「…それなんだがな、ルースの奴の直近の姿を収めてある。見てやってくれ」

 

 そう言ってカイオウジは、共通の友人であるルースことプレシィ准将の姿を記録した私物の携帯映像機を取り出した。

 すぐさまスイッチをONにする。

 

 ⁉

 

 その映し出された姿を視認し、ローナンとダグラスは愕然とした。

 

 数年前、映像通信で会話した頃、ルース・リュウノスケ・デュ・プレシィの頭髪は黒々としていた。ヤマト系とフランク系統の血筋によるものである。

 

 しかし、現在の彼の頭髪は……真っ白の白髪であった。

 

 「…開戦から1カ月後辺りから徐々にだそうだ」

 

 (おお…ルース)

 

 寝る間も惜しむ激務によって大きく変化した旧友の姿に、言葉もないローナンであった。




 宇宙世紀には宇宙コロニーなんて巨大建造物がある。

 ならばジャブローほどではなくとも、地球上に旧世紀の廃坑やフィヨルドなどを利用した大規模なシェルターがあっても可笑しくないね。
 Vガンダムやクロスボーン・ダストでも海底都市が出てきたし!

 つぎにコールドスリープですが、ZZやユニコーンでシステムの存在が確認されています。クロスボーン・ゴーストでもラストで、主人公がヒロインと一緒にコールドスリープしています。

 核戦争を想定したシェルターや、木星に人類を効率的に送り込むためには必須の技術だったので登場させました。
 
 作中では難民…特に孤児たちを中心にして使用されたとしました。

 口減らしをして食料と生活必需品の消費量を削減するためと、子育ての手間削減、幼児を利用する性犯罪への対策です。

 連邦軍も、大量の難民を抱え込んだまま総力戦なんてできませんから、これだけの設備は用意しているだろうと考えました。

 

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