機動戦士ガンダムGナッシング~西海岸は煉獄と化した!!   作:ミノフスキーのしっぽ

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第3話

 狙撃ポイントへ その1

 

 「ハイパーナパームか…それほどの威力なのか?」

 

 「はい。レッドバロンの一斉投射が成功すれば、周辺一帯は灼熱地獄です。ザクⅡj型パイロットが即応し、急いでその場から離れようと、脚部の損傷は免れません」

 

 ハイパーナパーム。近未来、サイド7でホワイトベース隊がシャア・アズナブル旗下の部隊に強襲された後、ルナチタニウム性のV作戦成果物を焼却処理した、極めて高い威力を誇る燃焼兵器である。

 先のヨーロッパ戦線の戦訓を基に、できるかぎり効率的に敵機を撃破する兵器を用意してある。そうハルトマン中佐は説明するのであった。

 

 「なるほどな。地上で人型モビルスーツが脚部を損傷すれば致命的だ。そうして機動力と戦闘力を奪い、鹵獲する訳だな」

 

 「そうです。我々も無傷のザクⅡj型を鹵獲できるとは考えていません。手に入れた各パーツを持ち帰り、ニコイチ整備で組み上げることになります」

 

 ザクⅡj型鹵獲作戦内でのレッドバロンの役割。その説明をハルトマン中佐から受けつつ、ローナンとダグラスは軽快な足取りで国際空港内を移動していた。

 新たな未来への選択肢を掴み取るべく、空港内に新設された連邦旅団の司令部に向っているのである。

 

 アラスカのミデア旅団と、ジーン・コリニー将軍旗下の機甲旅団二大軍閥連合軍は、ここ難民輸送を終えるサクラメント国際空港を前線基地とし、合同でザクⅡj型鹵獲作戦を決行するのである。

 

 この前線基地の指令となるハルトマンの指示で、すで空港内には衛兵が各区に配備されていて、ローナンたち三人は、敬礼してくる彼等とすれ違う度に返礼しつつ、司令部へと向かった。

 

 「しかし、敵のモビルスーツの各パーツを組み上げるとは。まるで古典の怪物フランケンシュタインですな。とはいえ、そうでもしてMS部隊を創設しなければ、後の反撃は難しいということですかな?」

 

 「残念ながらその通りなのですドワイヨン卿。我々も敵の兵器を使うのは、正直好ましくは思いません。しかし、残念ながら使えるものは何でも有効活用しなければならない。哀しいかな、それが今の我が軍の現状なのです…む!」

 

 カッ カッ カッ カッ!

 

 「ハルトマン中佐! ステイシア・スタンフォード少佐旗下の70式大型戦車大隊が出撃準備を完了しました! 指示を待つ! とのことです!」

 

 司令部詰めの士官なのだろう。ローナンたちが向かう方向からやってきた男性士官は敬礼し、上司であるハルトマンにそう報告を上げた。

 

 「御苦労。こちらの準備が整い次第、出撃命令を出す。しばらく待機していてくれと伝えてくれ」

 

 「はっ! それと、カイオウジ議員とベーコン議員も、さきほど司令部に入られました!」

 

 (⁉)

 

 士官からそんな不意打ちの報告を聞き、ローナンが驚きの表情となる!

 

 「本当かね君! 今回私と共に作戦に参加するのは彼等なのか! ハルトマン中佐!」

 

 そう言って、男性士官とハルトマンに詰め寄るローナン。まさか若き日の友人である彼等が、今日のこの時、戦友となるとは思ってもみなかったローナンである。

 

 「はい。カイオウジ卿、ベーコン卿共に本作戦に志願し、ここサクラメントにやってきています」

 

 「なるほど……ルースの指示で参加させたか。やってくれる!」

 

 「はい。ではお二人が待つ指令室に急ぎましょう」

 

 「ああ。そうするとしよう!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 「おお…カイオウジ! それにベーコン議員!」

 

 「! ローナンか!」 

 

 「ローナン君か! 久しぶりだな! お互い無事でなによりだ!」

 

 「カイオウジ議員、よくぞご無事で! カントーは津波で壊滅状態と聞き、心配していましたぞ!」

 

 「ダグラス君、君もローナンも息災のようで何よりだ!」

 

 ハルトマン中佐に先んじて指令室に飛び込んできたマーセナル家主従が、カイオウジ議員とベーコン議員の姿を確認して駆け寄った。そして、友人政治家たちと数カ月振りの再開を果たしたのだった。

 

 すでに宇宙世紀0079年3月の時点で、地球圏の総人口の三分の一以上が死亡し、総人口の半分の死亡も間近と言われていた時期だ。

 そんな時期に古い友人と無事に再会できるなど、ある意味奇跡と言えた。ローナンとダグラス、共に高揚感を覚えずにはいられなかった。

 

 ローナンはすぐさまカイオウジ議員と固い握手を交わし、続いてベーコン議員と互いの肩を叩き合い、その身が壮健であることを確認し合うのだった。

 

 「聞いたぞ! よくぞキャルフォルニアの難民救済委員となり、避難民たちを根気良く主導し、アラスカに送り続けた! 私の地元コロラドからサクラメント経由でアラスカに渡った避難民たちも感謝していたぞ!」

 

 地元密着型の政治家らしく、カウボーイスタイルで決めていたベーコンが、カウボーイハットを取りローナンに謝意を示した。

 

 「いえ…こちらも内陸部のコロラドには助けられました。西海岸が津波で壊滅した当初は、我がキャルホルニアの難民たちが、そちらでお世話になりました」

 

 「ははは! ならばお互い様だな!」

 

 「はい!」

 

 ベーコンに謝意を示され、まんざらでもないローナンである。コロニー落とし以後、同格の政治家から感謝を示されたのは初めてである。

 

 ジャブローや各地の大規模シェルターに早々に逃げ出した政治家を除いて、皆がその分も重責を背負わされ、職責を果たさんと戦い続けたのだ。

 

 あまりの激務に倒れた政治家、官僚は、両手の指の数では数え切れない。

 

 そんな状況下で倒れもせず職責を果たした。それは並大抵のことではないのである。

 

 それを見事にやり遂げた。そんな大丈夫に謝意を示されれば、ローナンならずとも高揚感を覚えずにはいられないだろう。

 

 その上政治家という立場を越え、これから連邦軍と作戦行動を共にしようという面々との再会だ。いやが上にも気分は盛り上がる。

 

 「しかしカイオウジ、極東選出の君がよくこちらにくることができたな。ニホン沿岸部も壊滅と聞いていたのだが…」

 

 「ああ…じつは、ニュータイプと言うべき少女がニホンには存在してな。彼女が一種の状況把握能力を発揮して、コロニー落着前に早期の避難を呼びかけてくれたのさ」

 

 ベーコン知事との無事を確かめ合ったローナンが、続いてカイオウジ議員にこの場にこれた理由を尋ねると、そんな答えが返ってきた。

 人類の総数が100億を越えた時代だ。そんな特殊能力者も少数ながら存在を認知されているのであった。

 

 「それでカントーからは多数の市民が津波の被害から逃れられた。その分だけ、俺は自由に行動できたのだ……中央政府の馬鹿共め、我が身可愛さに直前までコロニー落としの情報を隠しやがって! それがなければ、もっと多くの人々を助けられたものを……」

 

 もっと多くの人々を助けられた。自分にニュータイプのような能力があればと嘆き、中央政府の政治家、官僚たちの、我が身可愛さの不実をなじるカイオウジ議員である。

 

 コロニーが阻止限界点を突破したなら、素直にそれを公表しろ! 奇跡がおきて、コロニー落としが失敗するなんて幻想に縋るな! それで被害が拡大したんだよ!

 

 ここでそれを言っても仕方がないが、同僚議員たちにそう心情を吐露し叫びたい。

 

 そんな衝動を必死に抑え、冷静にローナンの質問に答えようとする、ニホンのカントー選出議員であった。

 

 「…ニュータイプの少女…そんなことが…」

 

 「ああ。それで極東の連邦軍と共同で、ホッカイドーやサハリン、カムチャツカの大規模シェルターへのニホン市民避難を終わらせた。その後で、各地の大規模シェルターの最高責任者となったプレシィ准将に作戦の打診を受け、ここまできたのだ」

 

 (⁉)

 

 「そうだ! ルースだ! なぜ失脚したも同然だったルース・リュウノスケ・デュ・プレシィが、准将となって各シェルターの最高責任者になっている! 教えてくれ! カイオウジ! ベーコン知事!」

 

 まだ知らされてない話題が出て、思わず大声を上げてしまうローナンであった。

 

 ルーナンが政治の世界に飛び込む以前のカレッジ時代。若さを持て余しスポーツで発散していた頃に出会い、好敵手と認めた人物。

 

 そのルース・リュウノスケ・デュ・プレシィが、如何にして連邦軍の失脚状態から脱し、准将へと昇進して各地の大規模シェルターの最高責任者となったのか?

 

 詳しく聞かない訳にはいかぬローナンであった。

 




 ちょっとだけ、ガンダムの2次を書くみなさんがあまり触れようとしない、1年戦争当時の難民状況に切り込んでみようかなと思っています。

 まあ、基本的に難民問題なんてつまらないから仕方ないよね。

 そんなことよりも、カッコイイモビルスーツ戦とかの描写をしたい気持ちは理解できます。

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