一昔前の少女漫画の王子様の様なスティルの登場で、密かに巴マミを狙っていた男子は卑屈に好きじゃなかったアピールを、
王子様に特別扱いされる巴マミに嫉妬した女子たちは、「あの子調子乗ってるよね。前から思ってたけど性格悪くない?」と、
裏で、というか巴マミには聞こえてスティルには聞こえない絶妙な位置で噂話を連日続ける。
そこで、弱った巴マミにひたすら頼ったり、頼られようとしたりする美少年スティル。
彼女が唯一の逃げ道に徐々に依存していく要素は準備されていたと言っていい。
彼女と登下校も共にしようとし出すスティルだったが、ある日用事があると言って先に帰っていった。
巴マミもその時には用事があった。――――――魔女退治と言う用事が。
巴マミが魔女を無事に倒した後、その視界の先に最近よく見る金髪があった。
「~■~~」
「~~■■~」
その会話の対象はキュゥべえだった。
良く知る二人(一人と一匹)に巴マミが近づいていくと彼らの会話が聞こえた。
「ねえ、日本の猫は皆喋れるの? それとも化け猫だけ?」
「意味が解らないよ…」
漸く聞こえる様になった会話はとても間抜けなようだった。
そして二人はマミに気が付いたキュゥべえの声によって同時に振り返った。
「マミさん、そのドレスも可愛いね。近代日本的ファッションは良く君に似合ってる」
「…彼は不思議だね。マミの友達かい?」
魔法少女の装束を着たマミに驚くことなくマイペースに口説く様に話しかけるスティルと、
そんな彼に視線を一瞬流して溜息を吐くキュゥべえ。
そんな彼らに話を振られた巴マミはというと、流れる様に彼女の手を取って至近距離で話しかけるスティルと、
彼が恐らくコスプレを日本の近代的なファッションだと認識していて、それが染みついていると思われた事に赤面していた。
だから彼女は気が付く事も無かった。魔法
どうしてキュゥべえと語り合っているのかという根本的な疑問に。
次の日も彼がいつ魔法少女の服の事をクラスで話すか気が気で無かった巴マミだったが、
結局彼の口からその言葉が出る事は無かった。
なので一応、下校の時間にスティルにそれとなく秘密にするように釘をさす巴マミだった。
「あのね、昨日の服に関しては秘密にしてくれるとうれしいのだけれど…」
その言葉に彼は何時ものように爽やかな笑顔で答えた。
「じゃあ、僕達二人だけの秘密だね。
だからまた今度、僕だけに見せてくれるとうれしいな」
もう、少女漫画の世界であれば理想的な回答だった。
巴マミの理性が沸騰しそうになる位だった。
思わず足がふらつきそうになった彼女を、まるで構えていたように、
スティルは余裕のある優雅な動きでその腰に手を伸ばして引き寄せる様に支えた。
巴マミの依存度はまた
他のものが見えなくなっていくほどに。