一つの器に一つの人生。
このある種の決まりごとは人間だろうとモンスターだろうと生物として生きる者の万物共通に適用されるものだった。しかしいつの時もイレギュラーは発生するもの。
いくら入念に何度も何度も何度も確認したところでいつかは必ずほころびが出る。そしてイレギュラーは誕生する。クルペッコもそのうちの一つに過ぎなかった。
クルペッコには二つの記憶が混在していた。
一つは生まれてから今日に至るまで身をもって体験し記録した狩りやモンスターの鳴き真似、自らの食物連鎖の位置づけといった記憶。もう一つはこことは違った別世界で一人の人間として生きた生前の記憶。
クルペッコが生前の記憶を思い出したのは成鳥となって間もない時だった。
頭を打った拍子にまるで塞ぎ込められていた生前の記憶が濁流のごとく脳内に流れ込む。
忽ち記憶はクルペッコに革命をもたらした。
それまで外界からゆっくり一滴一滴と蓄えられていった知識が突然内から湧き出てきたのだ。湧き出てきた知識は留まることを知らず、クルペッコは人同等かそれ以上の知能を手に入れた。
するとクルペッコの中である疑問が浮かんだ。
今の私にとっての食物連鎖における位置付けはどこだ?なにが天敵でなにが強敵だ?
事と次第によっては今までの立ち回り方を変えなければならない。
クルペッコは考えた。しかし考えたところでそれは仮説にすぎない。試さなければ。
その日からクルペッコは目に留まるモンスターを手当たり次第にその手に殺めていった。モス、アプケロス、アイルー、ドスジャギィ、アオアシラ、イャンクック、ババコンガ時には同族さえも殺めた。驚異の知能の得たクルペッコの前ではリオレイアでさえ歯が立たない。いつしか孤島においてクルペッコの敵なりうる存在は数えるほどにまで減っていた。
ある程度の力を確立したクルペッコは次にモンスターを取りまとめようとした。
これには自分の敵となる存在に対しての対応処置という意味合いが込められている。そしてクルペッコはゆっくりとそして着実にその計画を推し進めるのだった。
全ては王となるために。
さっそくクルペッコは巣近くに棲みつくアイルーを力をもって自らの配下に加え、同時に彼らに新たな知識を与えた。アイルー達は与えられた知識をスポンジのごとく吸収し自らの生活に生かした。その成長速度にはクルペッコも目を見張るものがあった。
そして知識はすべてを変えた。アイルーの生活や思考そしてクルペッコに対する考え方さえもすべてに変化をもたらした。やがて暴君クルペッコはいつしか仁君クルペッコとしての信頼を勝ち取っていた。
クルペッコが巣穴に戻るとアイルー達が彼の帰還を出迎えた。
「王の帰還ニャ」「王ニャ」「お帰りニャ」「我らが王をたたえるニャ」「ニャ―」と数匹の歓喜の声を聞きつけて岩肌に開いた無数の穴から次々とアイルーが顔を出す。クルペッコは足元に群がるアイルーを傷つけないようにとゆっくりと巣へと降り立つ。
「進捗はどうだ?」
クルペッコはアイルー語でまとめ役を任せたジーに声をかけた。
「各部署から報告を受けてるニャ。まずモスの養殖は万事順調に進んでるニャ。このままいけばキノコ採取にも頭数を回せそうですニャ。次は農作班からニャ。先月開墾した畑の担当者からOKサインが出たから早速栽培を始めるそうニャ。担当者から最初はマタタビの栽培をしてもいいか?と」
「却下だ」
「………言っておくニャ」
「養殖池はどうなっている?」
「それが………少し厄介なことになってるニャ」
アイルーはきまりが悪そうに言う。
「建設予定地がロアルドロスの縄張りになっていたニャ。あまり刺激しないように計画を進めてたのニャ。ニャけれども一昨日作業中のアイルーがルドロスに襲われて死傷者が出たニャ。このままでは犠牲が増えるだけニャ。一度計画を見直さないといけないニャ」
彼の視線の先には二つの墓が隣り合うようにして立っていた。
「その必要はない。明日部隊を向かわせろ。次は我も同行する」
「ニャ!?王自らかニャ!?」
後日、総勢20名ものアイルー達は仲間に見送られ浜辺へと向かって列をなしていた。浜辺に到着すると岸から半円状に弧を描いてまるで堤防のように石壁が設置されているのを確認できた。あと半分。さっそくアイルー達は作業を始めた。
「安全に気を付けて今日も一日頑張るニャ」
「「「ニャ―!」」」
作業は至ってシンプルなもので近くの岩肌から石を採掘しそれを組み合わせて石壁として設置していくというもの。しかしこのままではただの水槽に他ならない。これを養殖池として機能させるには条件があった。
鍵を握っていたのは石壁の高さ。数カ所の石壁の高さをを周囲より少し低くし、満潮時の高さに近くしておく。そうすることで満潮時にのみ魚が入りこみ干潮時には出られないという、自然の営みをうまく利用した養殖池が完成するのだ。
途中休憩をいれながら作業の始めること数時間。一匹のアイルーが声を上げた。
「ロアルドロスニャ!ロアルドロスが出たニャ―」
違うんです。何かが違うんです。でも今の自分にはこれが限界。
そのうち書き直しますかと思います。