駆け出しハンターと転生ペッコ教授   作:RGT

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サブタイトルはあれですが本編とは全く関係ありません。


君の名は

 

 人語を巧みに操るクルペッコに大敗を喫したアイラのもとに第二の危険が迫っていた。傷だらけのアイラを狙ってジャギィ・ジャギノスが集まってきたのだ。

 ジャギィ達は一定の距離を保って様子を伺う。

 先のクルペッコとの闘いでいかにアイラが弱っているからと言って、ジャギィにとってハンターとは格上の存在。近くにはオトモアイルーのニコもいる。数で優っていようとも勝てる確証がない以上はむやみやたらに襲ってはこない。

 しかしその距離はゆっくりとだが着実に詰められていく。

 

 実際のところ、今のアイラにジャギィ相手にもう一戦する余裕などなかった。

 ここにいてはやられる。立ち上がる。それだけで体中が悲鳴を上げる。倒れそうになる。踏ん張る。痛い。でもいかなければ。ここにいてはいずれ食われる。

 アイラは全身の痛みに堪え、逃げるように孤島を後にした。

 

 アイラがやっとの思いで集会所にたどり着くと辺りは騒然とした。

 折れた大剣、頭から血を流し全身傷だらけのアイラ、そして一緒に受注した相方の不在。

 戦いの凄まじさをアイラ自身が物語っていた。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

 アイラはジンでもない少女の泣く声でもない、はたまたアイラ自身の声でもない人の声に安堵した。すると張りつめていた緊張が緩み、全身に力が入らなくなる。アイラはそのままその場に倒れこんだ。

 

「ハンターさん!?ハンターさんしっかりしてニャ!」

 

 アイラは薄れ行く意識の中、声にならずとも口を動かした。大丈夫と。

 

 

 

 

 

 それから数時間後。

 アイラは集会所の長椅子にシーツや藁を合わせて作られた簡易ベットで目を覚ました。

 いつの間にか体の傷には治療が施され包帯が巻かれていた。

 

「よかった。気が付いたのね。皆さん、アイラさんが気が付かれましたよ」

 

 受付嬢の一言でぞろぞろと人が集まってきた。彼ら彼女らは口々に安堵の念を口にした。

 

「ここは………そうか、帰ってこれたんだ」

 

「ハンターさん!よかったニャー!」

 

 ニコは目元から大量の涙粒を零しながら、アイラを中心にしてできた人混みをかき分けて彼女の胸元へと飛び込んだ。よかったニャよかったニャ本当に良かったニャと声を震わせながら口にし、何度も何度も顔をこすりつける。

 

「痛い痛い痛い。痛いよニコ」

 

「こら!傷口が開いちゃうでしょ!離れなさい」

 

 すぐさま受付嬢に首根っこをつかまれアイラと離される。

 

「ご、ごめんなさいニャ」

 

 それを見ていた最前列にいたガーグァフェイクをかぶった男が口を開いた。

 

「まぁまぁ、大目に見てやりなよ。この猫っころだってご主人様が心配で心配で溜まらなかったんだから。それにしてもほんと君は大したもんだよ。その傷で孤島から帰ってきたんだ。普通ならとっくに俺のばあちゃんと川向うで仲良くしているところだ。さて冗談はこのくらいにしてと………一体何があったんだい?君の折れた大剣にその傷。尋常じゃない。それに君と一緒にいた少年は?」

 

「彼は―――「あのジンというガキはハンターさんをおいて逃げたニャ!それでハンターさんはクルペッコと一人で戦うことになったニャ!今思い出すだけでも腹立たしいニャ。今度会った時はとことんお灸を添えてやるニャ!」

 

 首根っこを掴まれたままニコは怒りを体で表現する。ニコの怒りは相当なものだった。しかし受付嬢はそれを気にも留めず、「暴れちゃダメでしょ」の一言と共にニコは強烈なデコピンを食らい身悶えた。

 

 ニコの話を話を聞き、ある者は「なんてやつだ!」と声を荒げ、またある者は「そのジンとかいうガキをとっ捕まえてくる」と集会所を後にした。

 

「あの、ジンをそこまで責めないであげてください。もし私が彼の立場だったら同じように逃げ出していたと思うから………」

 

「いったい何があったんだ?」

 

「クルペッコが人の声を真似たんです。しかもその意味をちゃんと理解して」

 

「そんな馬鹿な。クルペッコが人を言葉を真似するなんて聞いたことがないぞ。それに意味を理解してだって?それは確かなのか?」

 

「ホントニャ!それにアイルー語まで話してたニャ」

 

「ほんとのほんとにクルペッコが人を真似て言葉を喋ったっていうのかい?」

 

 アイラは首を縦に振る。

 

「面白そうじゃないか、そのクルペッコ。俺たちが見てこよう」

 

 そう言って話に入ってきたのは全身をレイアシリーズで統一した男だった。西洋甲冑のような頭装備で顔は見えない。しかし声音からしてアイラと同じくらいか少し上の若いものだった。アイラはこの男のことを知っていた。

 男の名は神代秋人(カミシロアキヒト)。秋人はここいらではちょっとした有名人で、つい最近ハンター家業を始めたばかりのルーキーだというのに、パーティメンバーと破格の勢いで上位まで上り詰めたという。そのためもあってか期待の新人狩人として各所から注目されていた。

 

「わ、私も連れてって。リベンジしたいの」

 

「そんな無茶だ。その傷じゃあついてったところで何もできない上、足手まといになるだけだ」

 

 彼らのパーティならクルペッコをとアイラは秋人に頼み込む。それにガーグァフェイクは猛反発。しかしアイラも食い下がろうとはしない。

 

「クルペッコのことは私が一番知っている。何か助けになれるかもしれない」

 

「しかし」

 

「まぁまぁ、俺たちもまだやらないといけない依頼が何件か残っているんだ。それを終えてからそのクルペッコを狩りに行くつもりだ。それまでには彼女の傷も治っているだろう」

 

「しかし秋人さん」

 

「俺が付いてるから大丈夫だって。君名前は?」

 

「アイラ。あなたは?」

 

「俺は秋人。神代秋人だ。よろしく」

 

「アキヒト?ここらじゃ聞かない名前ね」

 

「よく言われるよ。こことはだいぶ違うところから来たからね」

 




次回クルペッコ編です

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