駆け出しハンターと転生ペッコ教授   作:RGT

10 / 10
短いながらも無事完結させることができました。
これも多くの人に見ていただけ、モチベーションを上げることができたからです。
本当にありがとうございました。

次回作は艦これを予定しています。もしよろしければそちらもご覧になっていただけると幸いです。

ありがとうございました。


最終話

 

 孤島の最悪から日をまたいだ次の日。

朝刊のトップ記事には既に孤島での惨劇が取り上げられていた。現在ハンターズギルドの報告で分かっているだけでも死傷者約70名以上、及び行方不明者約14名。

今回の騒動では過去類を見ないほどの被害をたたき出しただけでなく、比較的安全で危険度の高いモンスターがいないと言われ、多くのハンターたち定番狩スポットとして名高かっただけあって驚きの声が大陸各地で湧き上がっていた。

 

 事態を重く見たハンターズギルドは古龍観測所の気球を例外的に調査に向かわせた。

観測員によれば、狩場と村を隔てていた門は無残にも破壊され、村には種族を問わず飛竜種・鳥竜種・牙竜種・獣竜種といった多くのモンスターがばっこしているという報告と共に悪い知らせがギルドの耳に入った。

 

 まだ村に人が取り残されている。

 

 弱り目に祟り目。ハンターズギルドは大きく頭を悩ませた。

モンスターの規模もわからない、負傷者の手当てが追い付いていないといった現状の収拾がついていないまま、孤島にハンターを送り込むというのはあまりにも愚策。無意味にも犠牲を増やしかねない。かといってこのまま生き残りを見捨てさえすれば、ハンターズギルドに対する世論の反応は容易に想像がつく。

 究極の選択に各々が各々の意見を主張する。議論は一向に進む気配を見せはしない。しかしその間にも生き残りの命は刻一刻と削れていく。

 

 長きに及ぶ会議の結果ギルドは救出兼孤島奪還作戦を計画した。

 

『孤島救出奪還作戦』

条件:孤島に取り残された人々の救出及び、モンスターの撃退

目的地:孤島<昼>

依頼主:ギルドマスター

内容:皆も周知のとおり、先日孤島の村がモンスターによって壊滅的被害を受け、調査員を派遣したところ村にはまだ取り残された人々がいることが発覚した。我々ギルドは彼らを見捨てるなどということはできない。勇敢なハンター諸君、ぜひ君たちの手を貸してくれ。

 

 ギルドは犠牲よりも世論の反応を危険視したのだ。

 

 すぐさま依頼書は各地の依頼板へと張り出された。それを目にした正義感の強い者、仲間を失い復讐に燃える者、取り残された者を救いたいと願う者、それぞれ違った思惑の初級・中級・上級・G級ハンターがそれぞれ名乗りを上げた。

 

 ギルドの依頼に応じたのは総勢100名のハンター。各階級のハンターが入り乱れて集まる。その中に一人アイラは参加していた。しかしその表情はどこか浮かない表情をしていた。オトモアイルーのニコは心配そうにアイラを見つめると口を開く。

 

「ハンターさん、大丈夫かニャ?」

「ん、え、あぁ、うん。大丈夫、大丈夫。ありがと」

 

 顔に出ていたかと無理に笑顔をつくる。しかし心情は複雑だった。

「あなたが逃げ出さなければ、秋人は死なずにすんだ!なんで秋人が死ななければならないの!あなたが死ねばよかった!!!」

アイラの中でユキの一言が深く心の中に突き刺さっていた。

 

 秋人がクルペッコに敗れ帰らぬ人なって以降、ユキの行き場のない怒りと悲しみがアイラを襲った。抵抗しないアイラ。それがまたユキの怒りを駆り立てた。

 あまりの暴力と怒声にジェイとその他の周りの者にいた者に押さえつけられ、その場は程なく済んだが、それ以降ユキの心にぽっかりと穴が開いたかのように抜け殻状態になってしまった。医師曰く精神的にまいってしまったらしく、いまは何か言われない限り食事もとらないほどの精神状態らしい。

 

 そんな彼女がアイラをより一層苦しめた。それでもアイラはここでハンターをやめるわけにはいかなかった。立ち止まるわけにはいかなかった。秋人のためにも村の人のためにもクルペッコを討たなければ負の連鎖は止まらない。やめるのならそれからでも遅くない。アイラは嫌な気持ちを振り払うと乗船し孤島へと向かった。

 

 

 

「島が見えたぞ」

 

 船頭が言う。船首にハンターが集まった。そして皆が皆言葉を失う。

 今なお経ち込める黒煙。物が焼け焦げた匂い。血と歯肉の匂い。モンスターの咆哮。地響き。島に近づくにつれ惨劇の全貌が露わになる。被害は村全体に及んでいた。

 

 壊れかけの港に何隻もの船がつける。総勢100名ものハンターが島に乗り込んだ。各々が怒声や雄叫びで自分を奮起し、村に散らばる。それと同時に村のあちらこちらでモンスターの咆哮が響き渡り、地響きがより一層強くなった。

 

 のちに語り継がれるモンスターとハンターたちの戦争の火ぶたが落とされた。

 

 

 

 

 

 アイラとニコは船を下りると村の奥へと門を目指し、先頭を切ってモンスターの中に切りかかっていく。襲い来るジャギィやルドロスの攻撃をひらりとかわし、的確にのど元へと獲物を突き刺す。蝶のように舞い蜂のように刺す。避けてた突き刺し避けては突き刺す。彼女は恐怖を切り捨てた。もう何も怖くない。失うものは自分だけ。もう誰にも迷惑はかけない。不思議と体の重荷が消え、アイラは思う以上の動きができていた。

 

 そんな彼女の前に立ちはだかるのは昨日のティガレックス。アイラは足を止める。自然と片手剣を握る手に力が入る。両者お互いの力量を見定める。しかし誰が見ても力の差は歴然。先に動いたのは圧倒的力量を保持するティガレックスだった。大きく口を開き、その柔肌を装備事かみちぎろうとアイラとの距離を詰めていく。

 

 避けれない。ならばいっそのこと。アイラもまた距離を詰める。ティガレックスが大きく口を開いたその時アイラはティガレックスの腹へとスライディングで滑り込む。空を食らうティガレックス。ティガレックスはアイラを見失った。

 

「秋人の敵!死ね、糞トカゲ!」

 

 アイラは片手剣を肋骨の隙間へと何度も何度も突き刺す。突然の痛みに暴れるティガレックス。アイラは必死に剣を深くまで差し込みしがみつく。

 吹き出す血しぶきがアイラの全身を包む。全身の血液が流れだし、動きが鈍っていくティガレックス。やがてその場に倒れた。その呼吸は荒い。アイラは確実にと腹から剣を抜くとのど元に剣を突き刺しとどめをさした。

 

 ティガレックスという強者に勝利したアイラは勝利の美酒に酔うしれたいところだったが、それは叶わなかった。アイラの目の前に両翼を大きく広げ、一匹のモンスターが降り立つ。そして一言。

 

「どうやら一皮二皮剥けたようだな人間」

 

この発端の現況、クルペッコが降り立った。その声音はどこか嬉しそうだった。

 

「………クルペッコ。あなたを倒せば彼らは、モンスターたちは止まるの?」

「我が配下の者は退却を始めるだろう。そうすれば散らばった戦力を集めることは可能だ。我を倒せればの話だがな」

 

 アイラは武器を構えた。クルペッコは両翼を大きく広げた。

 両者ともこれ以上の話し合いをしたところで事は進まないことを理解している。どちらかが死なない限り、この戦いは終わらない。

 

「楽しませよ、人間!」

 

 アイラはクルペッコに切りかかる。合わせてニコは死角へと回り込む。

 

 クルペッコは避けようとはせず、火打石を振り上げた。片手剣の刃先がクルペッコの腹部に深い切り傷を残す。クルペッコは火打石を振り下ろす。アイラは腰を低くし盾で防ぐも、あまりの衝撃に膝を地面に落とした。

 

 そこからはお互い一糸乱れぬ動きで繰り広げられる死闘。痛み分けに続く痛み分け。ニコには付け入る隙がなく、無理でも参加すればアイラの邪魔になることは目に見えていた。もはやニコはただ茫然と立ちすくみアイラの勝利を祈ること以外出来なかった。

 

 アイラ、クルペッコ共に距離をとる。両者とも傷だらけで呼吸も荒い。本来なら既に意識を失っていてもおかしくはない。それほどまでにボロボロだった。お互いが思考を巡らせる。もって次が最後。なら今持てる力を次の一手にすべて注ぎ込む。

 

 アイラとクルペッコは同時に地面を蹴った。

 

「はぁぁぁぁぁ!」「Gaaaaa!!!」

 

 アイラの斬撃がクルペッコを捉えた。

 クルペッコは血を流しながらもアイラの右腕をかみ砕く。骨の砕ける音が響く。

 

「腕の一本ぐらいくれてやる!冥土の土産にもってけ!!!」

 

 アイラは片手剣を左手に持ち変えるとクルペッコの心臓めがけて剣を突き立てた。

 

「見事なり」

 

 クルペッコの身体は揺らぎその場に大きく倒れ込む。アイラもその場に膝をついた。

 

 勝敗は決した。ニコは慌ててアイラの下に駆け寄るとありったけの回復薬を飲ませた。体の切り傷や擦り傷は見る見るうちに消えていく。しかし砕かせた腕は元には戻らない。傷が深すぎるのだ。

 アイラは治療したところで右腕がもう動かないことを悟った。

 

 アイラは立ち上がるとクルペッコの前に立つ。クルペッコの呼吸は荒いながらもまだ息はある。しかし動くほどの気力はもう持ち合わせてはいなかった。

 

「見事だ、小娘まさか腕を捨てて―――………なぜ泣いている?うれし泣きというものか?」

 

 アイラは目元から体力の涙をあふれさせていた。

 

「違う。違うよ。あなたほどの知能を持ち合わせたモンスターなら、きっと私たちは友好な関係を築けたはず。なのに私がその可能性を考えもしなかった。私がこの結果を招いた。最初にあなたに会った時、呼び止めてさえいれば話してさえいれば、私たちは争うことはなかった」

 

「なにを言うかと思えば………お前だろうとなかろうと結果は変わらなかった。お前の責任ではない。ただ我々はお前たち人間にも知ってほしかった。モンスターにも我に及ばずとも知性があり、家族がいることを。怒り、悲しみ、復讐する気持ちがあることを。モンスターは人間に狩られる存在ではない、狩る存在なのだと。だから行動を起こしたまでだ。そして我は負けた。ただそれだけだ」

 

「私たちはこれからどうすればいいの?」

 

「いま我が言ったことを広めろとは言わん。せめて心にとどめておいてくれ。それが我の願いだ。………もう長くはない。せめて最後にお前とアイルーの名前を教えてくれ」

 

「私はアイラ。この子はニコ」

 

「アイラ。それにニコ。いい名だ。………良き死に場所を得た。こういうことかロアルドロスよ」

 

 そうしてクルペッコは息を引き取った。

 

 〇

 

「なぁ、片腕の女片手剣使いって知ってるか?」

「片腕の片手剣使い?なんだそれ。どうやって片腕で片手剣なんて使うんだよ」

「それが専用のオリジナル片手剣装備で手で剣を握って、前腕部分に盾を装着して狩りするらしいんだ。それでその人めっちゃ可愛くて強いらしいんだよ」

「へぇー、世の中にはそんなすごいハンターもいるんだな」

「そうなんだよ。しかも無駄な殺生は好まないらしくてさ、モンスターに力の差と自分の狩の縄張りを教え込ませることで近づかないようにさせるんだってさ。だから武器もモンスターを殺さないようにいつもペッコの片手剣を使っているらしいぜ」

「すげーな、それは」

「おっと時間だ。行こうぜ」

「おう」

 


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