駆け出しハンターと転生ペッコ教授   作:RGT

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プロローグ

 ハンターズギルドに一件の討伐依頼が舞い込んだ。

 

『奇妙なクルペッコ』

 条件:クルペッコ1頭の狩猟

 目的地:孤島<昼>

 依頼主:孤島の村の自警団隊長

 内容:先日、我が村の近くで一匹のクルペッコを見かけたのだが、それからというもの妙な胸騒ぎが収まらん。なにか不吉な予感がする。くれぐれも気を付けてくれ

 

 

 

 大きく膨らむ赤い鳴き袋。扇のように開く尻尾。ラッパのような形に広がる嘴。

 これらを用いることで他のモンスターの鳴き声を真似し、聞きつけた周辺のモンスターを呼び寄せるという面白い生態を持つ鳥竜種の大型モンスター彩鳥クルペッコ。

 ハンターズギルドが定めた危険度は☆3つ。

 しかしこの定められた危険度というのは割とあいまいなもので、個体の持つ鳴き真似のレパートリーによっては☆5つや6つに跳ね上がる。

 

 ギルドはさっそく調査に乗り出した。結果、個体としての鳴き声のレパートリーは少なく危険性は低いと結論付けられ、駆け出しハンターに依頼してもさほど問題なかろうと下位クエストの依頼板に回された。

 

 その依頼書にまじまじとのぞき込んでいたのは当時駆け出しハンターだった少女アイラ。

 

 アイラは依頼書に手を伸ばしてはその手を下ろし、また伸ばしては下ろすという動作を繰り返す。悩んでいたのだ。

 ハンターの間ではクルペッコといえばいわば狩人を生業としている者達がぶち当たる最初の壁。これを達成できれば、またひとつハンターとして大きく成長し、その力量も認められる。しかし相手の力量を履き違え返り討ちにされるハンターが後を絶たず、帰らぬ者やハンター人生を終えた者も数多くいる。

 

 繰り返すこと数回。アイラに声をかける者がいた。

 

「あの、すいません。それってクルペッコの討伐依頼ですよね」

 

「そ、そうだけど?」

 

「もしよかったら僕もご一緒していいですか?」

 

 少年の名はジン。彼もまたアイラと同じように駆け出しハンターの身だった。

 アイラは考える。ジンと行くことで報酬は半分になってしまう。しかしハンター二人にアイルー二匹の人数差のアドバンテージは戦いで大きな差を生む。

 一度の報酬とクルペッコに勝つ可能性を天秤にかければ、答えは一目瞭然だった。

 

「ぜひぜひ。ひとりで行けるかどうか不安だったから助かるよ」

 

「実は僕もなんです。それにしてもよかったです。断られたときはどうしようかと。あ、自己紹介がまだでした。僕はジンです」

 

「私はアイラよろしくね」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

「じゃあ受注してくる」

 

 アイラは意気込んで依頼書を受け付けへと持って行った。

 

 

 

 

 

 しかしアイラは受注したことを後悔することとなった。

 目の前に立ちふさがるこのクルペッコは確かにギルドが調査したように鳴き真似のレパートリーはドスジャギィや全身を包むアシラシリーズのアオアシラなど比較的弱いモンスターだった。

 が、それ以外にある声真似を披露してみせた。

 

 人だ。この個体、人の声真似をするのだ。

 

 ある時は幼い女の子の悲鳴や泣きじゃくる声。またある時はアイラやジンの声をその場で真似ることで、指示に対してお互い疑心暗鬼になり戦略もあったものではない。

 

 そして今まさにアイラは絶体絶命のピンチを迎えていた。新調したばかりの大剣は破壊され、頭からは血が流れ意識はもうろうとし、ジンはいつの間にかその姿を消していた。

 

「痛い痛いよ。アイラ後ろだ。もうやめてよ。ジン下がれ。なんでそんなひどいことするの?」

 

「ニコ。逃げて」

 

 アイラは自分のオトモアイルーに告げた。

 

「いやですニャ。ハンターさんをおいてなんて逃げられませんニャ!」

 

 ニコはアイラとクルペッコの間に入ると武器を構えた。その手は震えていた。

 

「ld、s:ぱkfぱkヴぉあk?」

 

 クルペッコが口を開いた。アイラの声真似でもジンの声真似でも少女の声真似でもない。そもそも人語ではない。アイラには何と言っているのかわからない。

 しかしニコは違った。

 

「!?ニャ、ニャニャニャ。ニャニャニャ!」

 

 するとクルペッコはアイラとニコに交互に見ると背を向け、ゆっくりと遠ざかると空高く飛んで行った。

 

「どういうこと?なんでクルペッコは私を殺さなかったの?」

 

「あ、あのクルペッコアイルー語を喋ったニャ。なぜその女をかばおうとする?って言ってたニャ。だから答えたら………行ったニャ」

 

 アイラとニコはクルペッコが見えなくなるまでその姿を目で追った。

 

 のちにこのクルペッコが一人と一匹に多大な影響を及ぼすことになろうとはこの時知る者はいない。

 


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