対魔忍世界に対魔忍♀で転生   作:VISP

1 / 14
第一話 (尊厳を)守るために

 間違って死なせちゃった☆ お詫びに特典付き転生させてあげる!

 

 そうハガレンの真理みたいな奴に言われたので、思い切って言ってやった。

 

 「転生先の世界で、必ずチートになる能力持たせて転生させてください。」

 

 おっけー☆

 

 聞いた瞬間、意識が暗転した。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 「ターゲット確認。」

 

 夜、東京キングダムにも程近い、ビル風の吹き荒ぶ高層ビルの屋上に、人影があった。

 灰色のローブを纏い、ゴーグルをつけた姿からは人相は見て取れないが、それ以上に目を引くのが床に伏せた状態で構えられた物々しい対物ライフルだ。

 元々は米連の装備品であるバレットM82の鹵獲品だ。

 その入手法は非合法と言うか…戦場で死体から剥いだものだ。

 

 「すー…はー…すー…はー………。」

 

 風向きと風速、銃身の向き、手の震え、更に呼吸による僅かな振動。

 スコープの先にいる標的に、安全な距離から鉛玉をプレゼントする。

 標的、それはここ最近妙に羽振りのよくなった、一見にして普通の輸出入業の社長だ。

 しかし、この男の会社は今まであった借金を全て返済し、更に大幅に売り上げを向上させている。

 そして、運ぶものは人だ。

 食料としても、娯楽品としても、これ以上ないと言える程の贅沢なもの。

 無論、人間相手ではない。

 魔族と言われる、この世界の外に住まう者達。

 東京キングダムと言われる人工島に、否、この世界の各地の裏側に潜む彼らへと蜜を運び、褒美に快楽と富を貪る。

 実によくできた関係だ。

 素晴らしい、感動的ですらある。

 思ったと同時、呼吸も手先の揺れも全て止まり、ほんの僅かな凪の瞬間に弾丸が宙を駆け抜けた。

 

 「………命中、確認。」

 

 そして、狙い澄ました様に汚い鮮血と肉片が飛び散っていた。

 周囲の人間が慌てて周囲を警戒するが、もう遅い。

 これでミッションは終了した。

 

 「帰るか、学園に。」

 

 灰色のローブが立ち上がる。

 やたら小柄な人影は、それ以上自らが作り出した惨劇に興味を示さず、その場から霧の様に立ち消えた。

 

 

 

 ……………

 

 

 五車学園 校長室にて

 

 「貴方ね、これで何度目なの?」

 

 その部屋の、否、この学校の長である井河アサギは、笑顔のまま額に血管を浮かせながら目の前の生徒に詰問していた。

 

 「ターゲットの周囲は警備が厳重であり、指定された娼館や会社には常に魔族が控えていました。よって、不必要な交戦による混乱を避け、狙撃で対処しました。」

 

 詰問されているのは、一人の少女だった。

 日本人としては極普通の黒髪はショートだが、前髪の左側だけが伸ばされ、左目を隠している。

 隠れていない右目は濃いブラウンであり、常に眠そうな半目だ。

 前髪さえ除けば、特におかしな所のない、一見極普通の少女は、この五車学園の生徒の一人だった。

 小中高まで一貫したエスカレーター式かつ対魔忍の育成機関であるこの学校で、ここまで目立たない特徴をした女子生徒もそういまい。

 だが、生来の美貌か、将来的には確実に美人になる、と言う片鱗にも似たものも確かにあった。

 要はこの生徒は美少女なのだ。

 クラスで三番目位の目立たない感じがするだけで。

 

 「私が貴方に命じたのは班員と共同しての潜入、後に標的の暗殺だったと思ったけど?」

 「あのまま校長と班長の指示に従い、奴隷として潜入した場合、高確率でそのまま娼館に売られていました。」

 

 実際、この女生徒の意見を聞かず、校長の指示のまま動いた二人の班員は奴隷として拘束及び軽度の人体改造を加えられ、抵抗する事も出来ず娼館に売り払われていた。

 が、ギリギリの所でこの少女に救出されており、心身共に無事で済んでいた。

 

 「貴方なら、それ位切り抜けられると思うけど?」

 「はい。実際、切り抜けました。」

 

 別に彼女にとって、魔術を込められた奴隷の首輪や肉体改造、精神や魂、感情への干渉等、その気になれば容易に無力化できる。

 しかし、だからと言って敢えてかかりたい訳ではない。

 少なくとも、この学園の結構な数の関係者や裏側の住民たちの様に、好き好んでそんな戻れない道に入りたくはなかった。

 

 「…まぁ、今回は以前と違って、班員を見捨ててないから良いでしょう。」

 「ありがとうございます。では失礼します。」

 「待ちなさい、話はまだ」

 

 一瞬、本当に一瞬目を離した隙に、歴戦の対魔忍である井河アサギの前から、女生徒は消え去っていた。

 

 「本当に勿体ないわね…。」

 

 嘆息と共に、アサギは報告書に目を通した。

 そこに書かれている事実に、また頭が痛くなってくる。

 先程の生徒、倉土灯がターゲットの移動の際の警備の薄さを突き、狙撃一つで解決していた。

 しかし、班員であった二人はあっさりと無力化され、後一歩で娼館の洗礼(これで心を折り、快楽漬けにする事で脱走や反抗を防止するため)のオークによる輪姦直前だった所を、灯が班員二人を抱えて撤退、仕掛けていた爆弾によって娼館を発破解体して離脱に成功する等、前者に比べて大分派手だった。

 幸いと言うべきか、班員の二人の負傷は心身ともに治療すればすぐに治る程度のものだし、爆破されたのも東京キングダム内部なので、こちらがどうこうする必要は無い。

 だが、班員二人の救助には「おまけ」感が漂う。

 無論、助けた事だけでも結構な進歩なのだが。

 

 「これでもう少し協調性があれば言う事は無いんだけど…。」

 

 と言うのも、この倉土灯、以前受けた任務では仲間を見捨てて帰還しているのだ。

 内容は情報収集であり、素早く潜入捜査を行い、首尾よく情報をゲットした灯に対し、班員の一人が競争意識を抱き、独断専行したのだ。

 下手に指示とは異なる行動をして灯が情報を集めたため、それなら自分だって出来る!と競争心を燃やしたらしい。

 もう一人は班長であり、責任感があったため、その一人を追いかけたのだが…あくまで冷徹な灯は班の二人を置いて帰還してしまった。

 なお、二人は今現在に至るまでも発見されていない。

 常人よりも遥かにタフな対魔忍である。

 きっと何処かで元気にアへってる事だろう、と灯はそこで思考を打ち切っていた。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 「つかれた…。」

 

 どさりと、灯は寮の自室にあるベッドに倒れ込んだ。

 

 「もういっそ楽に…いやいや、アへ顔は嫌だよ、うん…。」

 

 せめて純愛ルートが良い…と一人愚痴る姿は、先程までの冷徹さは感じられない。

 そこには、ただ死んだ目を虚空へと向けてブツブツ呟く、人生に疲れ切った少女の姿があるだけだ。

 なお、その枕元には胃薬の入った瓶とミネラルウォーターの入ったペットボトルが置いてある。

 しかも、瓶の中身は殆ど入っていないので、割と結構頻繁に利用している事が分かる。

 余談だが、この部屋は元々二人部屋なのだが、今現在は灯一人だ。

 かつての同室者は敵への内通及び情報漏洩を灯にばらされ処分、その報酬として灯の一人部屋にしてもらったのだ。

 

 (実際、チートが無かったら危なかった。)

 

 本当に、この世界は一歩表を外れたら、即行で凌辱ルートが待っている。

 ナンパ男が、ポン引きが、スカウトが、保険・宗教勧誘が。

 一見普通の人間だが、どいつもこいつも裏側の匂いがするのだ。

 無論、本物の上位の魔族に比べれば、それは格段にマシだが、それでも一般人では一方的に狩られるしかない。

 そんな展開を、この能力で嫌になる程に見てきた。

 その能力の名を「シュレディンガーの猫」。

 要はあのヘルシングの敵役、ミレニアムの人狼部隊の准尉殿の能力だ。

 自身が自身を認識できる限り、何時何処にでも存在出来ると言う破格の能力だ。

 これを用いて、私は状態異常無効化(胃痛は既に常態化しているので治り難い)や瞬間移動、物質透過や装備品の取り寄せ等を瞬時に行っている。

 その気になれば短時間の時間遡行も可能なので、仕事面でも色々と重宝している。

 だが、私は必要に迫られなければこの能力を多用する事は無い。

 似た能力を持つ血界戦線のチェイン・皇の様に、多用し過ぎると自己を見失いかねないからだ。

 そうなると、私は完全に消滅するしかない。

 誰にも気づかれず、誰にも葬られず。

 別段、それは良いのだが、一応世話になった祖父母には恩返ししたい。

 両親?そんな奴らいない、いなかった、いない事にしてくれ…。

 スワッピングNTRプレイにド嵌まりしてる変態カップルなんて、私の身内にはいないんだ(白目)。

 

 「どいつもこいつも…どうしてあんなアへ顔で興奮できるのか…。」

 

 時折ネットで見かける校長や教師陣のアへ顔動画を目撃すると、一気に萎える。

 本当に萎える。

 止めてくれ、私はアンタらのアへ顔なんて見たくないんだ…。

 一歩間違えるとアレらの仲間入りする可能性がある世界になんて転生したくなかった…。

 でも仕方ない。

 転生先自体はランダムだったし、この能力のお蔭で何とか生きていられるのだから。

 

 「取り敢えず、寝るか…。」

 

 既に予習復習は終わらせ済みだった事もあり、灯は疲労感に身を任せ、夕食も取らずに眠りに就いた。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 倉土灯は優秀な対魔忍の卵である。

 それは周囲の人間全てが認める所だった。

 常に成績は5~10位で維持され、実技面もそんな感じだ。

 また、同年代のゆきかぜや凛子の様なカリスマや美しさ、人当たりの良さこそないものの、猪武者やプライドの肥大したボンボンなんかと比べれば、遥かに話が通じる。

 更に、任務の達成率は今の所100%なので、悩みの種でもあるが、何だかんだで教師陣からの受けは良い。

 数少ない欠点は、その徹底した人付き合いの悪さと引きこもり癖にある。

 必要が無い限り、誰か他人と話す事が無い。

 学校の売店や授業においてもそれは同じで、寧ろそれ以外で話している所を目撃した者は五車学園においても数える程しかいない。

 引きこもり癖だが、本当に出不精なのだ、灯は。

 土日や祝日に他の生徒が街へと繰り出すのに対し、彼女は一歩も部屋から出ない。

 中で何をしているのかと言えば、授業の予習・復習に、漫画やライトノベルの読書、ネットサーフィンにネットゲーム位で、本当にゴロゴロしつつも一歩も出ない。

 ある日、クラスメイトの一人が突撃して外に連れ出そうとしたのだが、ドアを開けると、先程までアニメの声が漏れ聞こえていたのに、静かで片付いた無人の部屋が広がっていたと言う。

 そんな訳で、彼女は誰とも話さないし、誰とも出かけない。

 時折、通販で漫画やゲームを取り寄せているが、それにしたって一階の寮長室で預かった筈のものが、顔も見せずに何時の間にか消えていたりするので、本当にもう筋金入りだった。

 灯本人からすれば「何があるか分からないのに、気軽に出歩いたりしたくない」との事だ。

 実際、休みで気の抜けた対魔忍の卵が拉致されたり手籠めにされたりするのはよくある事例なので、その警戒は間違っていないのだが。

 だが、そんな変人と言っても良い灯だが、ファンが存在する。

 悪く言えばコミュ障の引きこもり、良く言えば孤高の天才とも言える灯は、その容姿に相反する雰囲気もあって、男女問わず人気が高い。

 実際はこの世界の余りの惨状に絶望しているが故の陰鬱とした雰囲気なのだが…知らないとは幸運な事だった。

 中には家の力を利用して彼女を抱こうと画策した馬鹿な男子もいたが、気づけば不幸な事故(棒)で入院していたり、転校していたりするので、誰も近づけなくなった。

 そんな隠れた人気が気に食わない女子が突っかかった事もあったが、徹頭徹尾無視され続け、逆にその女子の心が折れた事もあった。

 正に触らぬ神に祟り無しである。

 だが、倉土灯が密かな人気者である事は事実であり、学園に設置された監視カメラ(と言う名の盗撮カメラ)や生徒以外の関係者(MADな天才外科医や汚いおじさん系用務員、潜入中の魔族等)等に、目下最大の標的にされている事を、隙あらば強引な手で拉致強姦とか普通にされかねない事を、本人だけが知らない。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 視点は戻って校長室

 

 「どうにかしたい所だけど…あ。」

 

 (他にやる事は大量にあるのに)灯の事を考えていたアサギだが、不意に良い事を思いついたのか、ポンと手を打った。

 そんなアサギの脳裏には、コミュ力の高い明るい妹の姿が浮かんでいた。

 もしこの場に灯本人がいたら「おい馬鹿止めろ」と立場を気にせずに言っていただろう。

 だが、今此処に彼女はいない。

 

 (さくらなら、あの灯でも打ち解けられるでしょ。)

 

 そして、アサギも一度思いついた事を止める程、頭の良い人間ではない。

 寧ろ、勢いのままに突っ走るのがアサギと言う女だった。

 斯くして、灯は未だ見習いの身でありながら、またもや任務に就く事となってしまった。

 

 (簡単な内容で、お出かけ的なものにすれば…うん、さくらとも口裏を合わせて…よし、行ける!)

 

 対魔粒子って肉体は強化するけど、知性や精神は確実に劣化してるよね。

 その任務を通達された時、内心をひた隠しにしながら、灯は内心でそう愚痴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。