月を守る太陽である為に何が出来るか…?   作:ぬヰ

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この話は8話となります


月の決断

クリスと調はそれぞれの場所へ戻る時にこんな話をした。

 

「今ノイズ現れたらお前戦えるか?」

 

クリスと切歌は戦える体では無いため、今はエルフナインが治してくれたシュルシャガナを纏える調しか装者は居なかった。

 

「今まで皆さんに迷惑かけて来たのでそのくらいは出来ます!」

 

「よぉし、いい意気込みだー頼むぞー!」

 

クリスは左手で調の頭を撫でる。

調は少々頬を赤らめ、照れている様だった。

そうした後にクリスと調は別れた。

その時クリスはバレない程度に早歩きをして、メディカルルームへと戻った。

メディカルルームの扉を開けて、エルフナインが居ないことを確認する。

 

「エルフナインは………?」

 

クリスはメディカルルームを出て、ベッドルームへと向かってみる。

ベッドルームに着くと調が今入ったらしく後ろを振り向く。

 

「エルフナイン居るか…?」

 

「はい、ぐっすりと眠ってます。シュルシャガナを夜中頑張って治したので疲れたのでしょう」

 

「なるほど………ありがとな…」

 

とクリスは言い放ちメディカルルームへと急いで戻る。

メディカルルームの扉を開けて今度こそ中へ入る。

扉が開くと同時にクリスは床に膝を着いた。

 

「がはッ…!!はぁ……はぁ……」

 

さりげなく抑えていた横腹から手をどかしてみると服に血がにじみ出ていた。

 

「はは……これは……はぁ……厳しいな……」

 

クリスは四つん這いになって、ベッドの横の台に置いてある包帯と止血剤を取りに行く。

そうしている間にも前腕からも血がにじみ出てきた。

止血剤とは言え血がピタっと止まるわけでもなく効果は薄れていく。

クリスの予想以上の元気さに調とエルフナインは安心してしまったのだ。

 

「アホはあたし……の方か……」

 

ベッドにたどり着いた時、傷の痛みが激しくなっていた。

 

「ぐっ…ッ!がはっ!はぁ………はぁ………」

 

次第に出血は酷くなり、血が垂れ始めていた。

クリスは止血剤と包帯に手を伸ばす。

 

「これがあれば……はぁ……多少は……」

 

そしてクリスはなんとか止血剤と包帯を取る。

しかし、貧血で頭がフラっとしてクリスは倒れてしまう。

 

「クソッ!……これで…………!!」

 

その後、メディカルルームに声が響くことはなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「また…これだ…」

 

調は昔の記憶、孤児院にいる時の記憶が徐々に蘇っていた。

マムや少し幼い切歌と調、マリアの存在も分かってきた。

 

「嫌だ……私は月読調なんだ!他の誰でもない!この記憶は月読調の物なんだとしても!今の月読調は月読調なんだ!!」

 

調はバサッと布団をどかして起き上がると日が昇り始めている状態だった。

 

「どうしたら……」

 

調は切歌に話すためベッドから起き上がった。

エルフナインの様子を見ると、ぐっすりと眠っていたので起こさないようにした。

 

「クリスさんも連れて行こう…」

 

多少勇気を出せると思い、調はクリスの元へ向かう事にした。

ベッドルームを出て右に歩くとすぐクリスがいるメディカルルームがある。

調はクリスが起きているか確認するために扉を開く。

しかし、そこにはクリスがベッドの横で倒れている姿が調の目に映し出された、

 

「クリスさん!!!」

 

調は血だらけのクリスに顔を青ざめ駆け寄る。

 

「クリスさん!!しっかりしてください!!クリスさん!!」

 

調は懸命にクリスの体を揺らす。

 

「……ん……」

 

「!!クリスさん!大丈夫ですか!?」

 

「……ん、おはよう…」

 

「おはようじゃないですよ!これは一体…!」

 

床には血溜まりが出来ていてその上にクリスは倒れていたのだ。

 

「あぁ、止血剤と包帯をなんとか巻き付けて止血したんだけどな、貧血で倒れてそのまま眠ったみたいだ」

 

どうやらクリスはその状態で寝てしまったようだ。

 

「驚かさないでくださいよ……!!」

 

「悪ぃ悪ぃ、ちとシャワー浴びてくるから待ってな」

 

クリスはそう言うとメディカルルームに備え付けてある小さいシャワールームへ向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「んで、切歌に言いに行かないのか?」

 

クリスは調が用意してくれた食パンをかじりつきながら言う。

 

「クリスさんについてきてもらおうと思ったんです。その方が勇気が出ると思って……その矢先にコレですよ!!」

 

「まあ何とかなったんだし、大丈夫だろ」

 

「ほんとに心臓止まるかと思いました!!」

 

「悪かったて……」

 

クリスはパンを食べ終わると調を連れて切歌の元へ向かった。

廊下を歩いているとクリスが口を開く。

 

「お前、どこまで覚えてる」

 

「えぇっと、切歌さんとクリスさんが私に挨拶しに来た時すぐサイレンが鳴った時は鮮明に覚えてます」

 

「って事は2度目のカルマノイズが現れた時か……お前、あたし達と遊びに行った時は覚えてないのか……?」

 

「不思議なことにその事は覚えてます。切歌ちゃんが一生懸命に何も知らない私に説明してくれたことも…」

 

「まあそれが覚えてるならまだ大丈夫だな」

 

そうしてクリスと調は切歌の居るメディカルルームに到着し、扉を開ける。

その時切歌は立ち上がって着替えている所だった

 

「およー?調にクリス先輩、おはようデス!」

 

「切歌ちゃん!!とりあえず服着て!!」

 

切歌は丁度全て脱いでいて、下着状態だった。調に言われて服を着た切歌はベッドに腰を掛ける。

 

「体は大丈夫なのか?」

 

「この通りバッチリデース!今度はホントデスよー?」

 

「お前の回復の速さはどーなってやがる……」

 

「クリス先輩も元気なようで」

 

「まあな」

 

(昨日の夜大変な事になった事は言わないでおこう…)

 

「それよりもコイツが何か言いたそうだったぞ」

 

調が言いにくそうにしていたのでクリスは敢えて調の発言時間を与えた。

調は覚悟を決めたのかゆっくりと切歌の元へ近寄る。

 

「どしたデスか?調」

 

「………切歌ちゃん……」

 

切歌は首を傾げて調の次の発言を待っていた。

 

「実は……記憶が徐々に忘れて言っているの、今の記憶が……」

 

「と言うのは……?」

 

「つまりだな、記憶が無くなる前の記憶が最近見えるようになってきてその代わり記憶がなくなった後の記憶が無くなっているらしい」

 

「切歌ちゃん、私もう、切歌ちゃんとクリスさんに初めて会った時の事も忘れて……2回目のカルマノイズが出現した時までしか覚えてない……」

 

調が泣き目になりながら勇気を振り絞って切歌に打ち明けた。

 

「やっと、私に言ってくれたデスね」

 

「えぇ?」

 

「ずっと待ってたデスよ、調が私を頼ってくれる時を……」

 

切歌は立ち上がり調をギュッと抱きしめる。

調は驚きを隠せずに涙だけが流れていた。

 

「驚いたりしないの……?私が今の記憶が無くなってることに……」

 

切歌は抱きしめた後調の肩両手を乗せると、少しの間があって切歌が口を開く。

 

「調」

 

切歌に呼ばれた調は涙を流しながらも切歌の顔を見る。

 

「知ってたデス」

 

切歌は今の調が見た事もない笑顔で言った。

調はどうして…と言うと今よりも大量に涙が溢れてきた。

 

「調、記憶が戻るって言葉に怯えてたデス。私も体以外は元気だったから考えてたデスよ、調の記憶が戻るのは凄くいい事デスけど記憶が戻ったら失ってた間の記憶はどうなるのかって…」

 

切歌は調に散々色々な事をされてもなお調の事を第一に思っていた。

 

「結果は思った通りデス、調が怯えた瞬間に私の考えてた今の記憶は無くなってしまうと言うのは憶測から確信に変わったデス」

 

切歌の憶測は完璧過ぎて、クリスも何も言えなかった。

 

「方法は2つデスよー。このまま記憶がなくなるまで楽しく過ごすか、記憶を無くさずに記憶を取り戻すか」

 

「記憶を無くさずに記憶を取り戻すことなんて出来んのか?」

 

クリスは率直な疑問を問う。

 

「それは調次第デス、今の記憶の調次第……私たちにどうこう出来る問題じゃないんデスよ」

 

いつもの切歌なら「出来るようにするんデスよ!」と言うが、絶望を味わった切歌は1つ成長していたのだ。

確かに記憶を無くさずに昔の記憶を取り戻す方法なんて切歌には分からなかった。ただ、自分がどうしてやる事も出来ないという事だけは確信していたようだ。

 

「私は……記憶が無くなっていくのは怖い……だけど、だけど!昔の記憶を取り戻した方が月読調としてはいいんだと思う…」

 

調は続けて話す。

 

「って考えたいけど…やっぱり自分が消えるのは怖い……」

 

「しょうがないデスよ、誰だって自分が消えるのを怖がるデス。今の調はどうしたいデスか?」

 

そう聞くと調は暫く目を瞑り考え込んだ。

その調に何を言うこともなく切歌とクリスは調が自分で答えを出す時を待った。

 

「決めたよ」

 

調は決心したように顔を上げた。

その顔には涙は映し出されていなかった。

 

「私は、私の為に今の記憶を無くす。それが今後記憶を取り戻した後の月読調にとって楽だから」

 

「調ならそう言うと思ったデス」

 

「ま、それしかないわな」

 

切歌とクリスはどうやら調の出す答えを大体予想していたらしく、特に反論もせず受け止めた。

 

「そうと決まれば最後に遊びまくるデース!!」

 

ウィィン!ウィィン!

 

「そうも行かないみたい、私行ってくるね」

 

サイレンが鳴り、調は司令室へ向かう。

 

「さて、私も準備するデスかね」

 

「ん?どこ行くんだ??」

 

「何言ってるんデスか」

 

 

 

「私も戦いに行くんデスよ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「調君、君一人で大丈夫か?実践経験はあるだろうが、記憶が無いのなら初体験と同じような物だ」

 

「やって見せます!!」

 

「私もいるから大丈夫デスよ」

 

司令室に切歌が現れた。

 

「何を言ってるんだッ!切歌君はまだ体が万全じゃないんだぞッ!」

 

「んなことアイツに限って分かりきってるだろおっさん!」

 

後からクリスも入ってくる。

風鳴弦十郎も無理に止めるのを辞める。

 

「切歌はアイツのためなら何でもやるって聞かねぇからな」

 

「クリス君、君はダメだぞ!」

 

「わーってるって、こんな無様な格好で戦えるか」

 

切歌と調はノイズのエネルギー反応が出た場所へと向かう。

幸いと言っていいのかわからないがカルマノイズは出現していなかった為、切歌と調にとっても負担が少なく済みそうだった。

 

「調!行くデス!!」

 

「うん!!」

 

「ーZeios igalima raizen tron 」

「ーVarious shul shagana tron」

 

2人は詠唱を唱え、イガリマとシュルシャガナを纏う。

 

記憶を無くしてるとは言え、イガリマとシュルシャガナの相性はバッチリで、ノイズを次から次へと灰にさせる。

 

「バッチリデス!調!!」

 

「うん、なんとか動ける!」

 

ノイズを倒していると中央にボスらしき大型ノイズが現れ、切歌と調は一緒に飛び込む。

 

「デェェス!!」

「やぁぁ!!」

 

手を繋いだ切歌と調は大型のノイズに1発蹴りをお見舞いした。

いつの間にか切歌と調はユニゾンの力を発していて、フォニックゲインが上昇していた。

おかげで大型のノイズを倒す事が出来て、その場からノイズは消えた。

 

切歌と調は本部へと戻る。

すると本部にいた人全員よくやったと言ってくれて切歌も調も嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ、改めて最後に遊びまくるデス!!」

 

切歌は調を引っ張って早速出発しようとした。

その切歌を見たクリスはやれやれと呆れた顔をしながら切歌の後を着いて行く。

丁度エルフナインも起きたようで、クリスは無理矢理エルフナインも連れて行くことにした。

本部の外へ出ると前には緒川さんが車から降りて待っていたかのように手を振る。

中には未来も居て、未来が車から出てくる。

 

「迷惑かけてごめんね、みんな乗って」

 

切歌と調は何が起きているか分からなかった。

クリスは緒川さんにアイコンタクトを送り、車に乗る。

 

切歌と調が戦闘中の時に、緒川さんから未来が退院した事を聞き指令、風鳴弦十郎が緒川さんに最後の思い出作りの手伝いをしてやれと言ってくれて、移動手段として手配してくれたのだ。

その事を切歌と調に話すと切歌はとても喜びはしゃぎながらも車に乗る。

 

「もうこれは要らねぇな」

 

クリスは車に乗ると右腕に付けていたギプスを取り、包帯すら取った。

包帯の下に現れた上腕は嘘みたいに何も跡が無く、横腹も包帯は必要だが、殆ど傷が治っていた。

 

「何でデスか!?」

 

「言ったろ?あたしは人1倍体が丈夫なんだ」

 

(ここまで治るのは想定外だったが……)

 

そして、緒川さんの車に乗った切歌、調、クリス、エルフナイン、未来の5人は遊びへと出掛けたのだった。

 

 




ご覧頂きありがとうございます!
時間が無く、少し期間が空いてしまうかと思いましたがなんとか8話を書くことが出来ました。
今まで暗い話ばかりでしたが、8話の最後にはみんな揃って出かけると言う展開になりました。
恐らく次回最終話となります。
短い期間でしたがご覧頂いた方はありがとうございました!
9話の後には番外編として切歌、調、クリスの3人がこの話を読んだ感想みたいな感じの話を書きたいと思います。

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