月を守る太陽である為に何が出来るか…?   作:ぬヰ

7 / 10
この話は7話となっております


変わりない日々

「調?クリス先輩……?」

 

切歌は気付くと夜中の街にポツンと立っていた。

辺りを見渡すと調とクリスがこっちを見つめている。

切歌が2人を見つけると2人は切歌を置いて行くように背を向けて歩き始めてしまった。

 

「調、クリス先輩!ちょっと待つデス!!どこ行くデスか!!」

 

切歌は手を伸ばしながら走り、追いつこうとする。

その途端、目の前にノイズが現れる。

 

「っ……!!ノイズ…?」

 

切歌はすぐにシンフォギアを纏おうとペンダントを取り、手の上に乗せた。

だが、手の上に乗せたペンダントはパリィン!と音を立て砕けてしまう。

「なんで……イガリマが……」

 

そうしている間にもノイズが迫ってきて、いつの間にか囲まれていた。

切歌はどうしていいか分からずにただ立ち尽くしていることしか出来ない。

遂に切歌はノイズの大群に呑まれてしまった…………

 

 

「デデェェェェス!!!!!」

 

目を開けると次に見た景色はメディカルルームの壁だった。

 

「夢……?」

 

切歌は何があったか記憶を遡る。

 

「私は暴走して、それで……」

 

暴走した後の事はよく覚えていなく、頭が痛くなる感覚だった。

 

「……!!クリス先輩!!」

 

記憶を遡ったお陰でクリスの事も思い出した。

切歌はイグナイト状態のままエルフナインにクリスを任せたっきりその後の事は何も知らない。

ベッドから起き上がってクリスの元へ向かおうとする。が、、

 

バタンッ!

 

切歌の視界がグワンと歪み、その場に倒れてしまった。

 

「どこも何も痛くないはずなのに……体が言うこと聞かないデス」

 

地面に座り込んだ切歌の元に風鳴弦十郎が姿を現す。

 

「切歌君、まだ動いたらダメだ。君の体は考えている以上に疲れている」

 

「で、でも何処も彼処も痛くないデスよ?」

 

「例え、刺激的に痛く無くても体の中は疲れきっているのだ、最近は頑張りすぎだ。少し休め」

 

「分かったデス…」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

未来を病院へ運んだ緒川は未来の状態を確認する。

 

「心、身体どちらとも異常は見られませんでした。少し休めばまたいつも通り生活出来るでしょう」

 

医師から説明を受け、指令に連絡する。

 

「未来さんの様態は異常は見られなかったとの事です。すぐに休めば大丈夫らしいです」

 

『うむ、分かった』

 

「そちらは大丈夫なのですか…?」

 

『切歌君は意識は元気だが疲れきっている、動くと体全てを壊しかねない。しかしクリス君は切歌君よりも重症だ。右の横腹を切断され、前腕も斬りつけられている。病院じゃ対処出来ないレベルだ』

 

「そうですか……」

 

『そっちは任せたぞ』

 

「了解しました」

 

緒川は風鳴弦十郎との会話を辞め、未来の看病へと移ることにした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「エルフナインちゃん!まだ!まだ血が……!!」

 

「分かってます!止血剤を投与して、出血を抑えましょう!!」

 

切歌から血塗れのクリスを受け取ったエルフナインは血の気が引いた。

まだ息はしているもののとても弱っていた。

 

「とりあえず、これで大丈夫かと…」

 

エルフナインはクリスの腹に包帯やガーゼなど使えるものはありったけ使い、クリスの出血を止める。

腕も動かないようにギプスの様なもので固定し様子を見る事にした。

 

「すみません調さん、クリスさんと出来るならば切歌さんの事を見ていてくれませんか?」

 

「エルフナインちゃんは……?」

 

「僕は…少しやる事があるので……」

 

「…分かった」

 

調はエルフナインに何も聞くことなく受け入れると、エルフナインは「ありがとうございます」といい、切歌のは別のメディカルルームから離れた。

エルフナインが居なくなった後すぐ、事態が動く。

 

「………んっ……」

 

「……ん?今……」

 

「……ゴホゴホッ…いててて……」

 

「クリスさん!!」

 

クリスの意識が戻ったのだ。

意識が戻った後で混乱していたクリスに調は起きた事を話した。

 

「ハハ……情けねぇな……」

 

「よかった…ほんとよかった…」

 

調は安心したのか、足の力がどっと抜けてその場に座り込んだ。

その調にクリスは立ち上がりながら話す。

 

「心配かけちまって悪いな。カッコつけて助けるだなんてほざいて自分がやられるとは……」

 

「クリスさん!まだ立ったら…!」

 

「だーいじょうぶだ、あたしはそんなに脆くねぇ」

 

(フィーネに散々あれこれやられたからな…体の傷は人1倍丈夫だと勝手に思ってるけど…)

 

イグナイト状態を本当の意味で纏えたわけではないクリスの体はかなりボロボロなはずなのに、クリスは難なく立ち歩くことが出来ていた。

 

「それよりも、切歌のほうだ」

 

「指令が止めてくれなかったら今はどうなっていたか……」

 

「早速向かうぞ」

 

クリスが外に出ながら呼びかけるが、調はその場から動こうとはしなかった。

 

「ん?どした?」

 

「怖い……切歌ちゃんと会うのは……次会ったら今度こそ私の全てを嫌ってしまう」

 

「あーなんだ、よーするに"私のせいでこんなになっちゃったから切歌ちゃんと会ったら何か言われそうで怖いー"、ってか?」

 

「は、はい」

 

………

 

「アホか」

 

「えぇ?」

 

「アイツがそんなに心が狭い奴じゃねぇっつーの。お前だって上書きされてないなら分かってるはずだ」

 

「それは…」

 

「それに、切歌に会えば小さな可能性かもしれないが記憶が戻るかもしれないだろ?」

 

「っ…!!そうですね……行きましょうか……」

 

調は"記憶が戻る"と発した時ビクッと体を震わせた。

クリスにはそれは何を表すか分からなかったが、多少は自分で解決出来るだろうと言う判断で敢えて何も言わずに切歌の元へ向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

切歌の居るメディカルルームにクリスと調は入った。

 

「およー、調じゃないですかぁ、それに……ク、クリス先輩!?」

 

「よっ」

 

「よっ、じゃないですよ!!体大丈夫何デスか!?」

 

「思ったよりも傷が深くなくてな、あたしでも不思議なくらいだ」

 

「エルフナインちゃんと私で何とか止血したんだけど、一時期血が止まらなかったんですよ!」

 

「えぇ!?…………まじか…」

 

いつの間にいつもと何ら変わりない空間が作り出されていた。

どこか懐かしい様な感覚がクリスの心に染み渡る。

 

「出来ましたー!!!」

 

話をしているとエルフナインが走って飛んできた。

 

「もう!クリスさんの部屋行ったら誰もいなかったのでびっくりしましたよ!」

 

『出来ましたー!!…………アレ?』

 

エルフナインは自分であの時の様子を思い浮かべる。

誰にも見られてなくて良かったと心の中で感じ、ほっと息を吐く。

 

「出来たって何が……?」

 

調が聞くとエルフナインの口から信じられないものが発せられた。

 

「シュルシャガナ…!治りました!!」

 

エルフナインは櫻井理論の資料に沿ってシュルシャガナの修復を夜の睡眠を削り、全力を尽くしていた。

 

「ウソ…?」

 

「よかったデスね!!調!これで記憶が戻る可能性も増えたデース!」

 

この時もやはり調は"記憶が戻る"という言葉に身を震わせていた。

 

(もしかして戻るのが嫌なのか……?いや、だとしたらなんでだ…?あんな失敗して戻りたがるのが普通だと思うんだけどな…)

 

調の様子がおかしいとクリスは感じ始め、様子を見る事にした。

 

「切歌ちゃんは体は大丈夫なの…?」

 

調はエルフナインから貰ったペンダントを首に掛けながら問う。

 

「この通りバッチリデス!!……と言いたいところなんデスけど、流石に今回は堪えたデスねー」

 

「そりゃあイグナイトを第二段階まで上げるとかアホなことしたからだろ」

 

「そうじゃないと倒せなかったデスよー!」

 

「そうで"あっても"の間違いじゃねぇか?」

 

「な、な、なんデスとぉぉぉ!!」

 

「ひー怖い怖い」

 

切歌とクリスのやり取りを見ていた調はクスッと笑い、それに切歌とクリスは目を見合い、なんだか可笑しくなり2人も声を上げて笑った。

 

「しかし、みんな元気で何よりです」

 

エルフナインが笑いが絶えた後に言う。

 

「ま、そりゃああたし達だって特訓やらなんやらやったからな」

 

「切歌ちゃん達一時期私に殆ど目を向けないで特訓してたもんね」

 

「それは!調が記憶無くなったとかまた言ったからデスよ!何考えてるんデスか」

 

「うぅ……悪かったてぇ……」

 

調はしょぼんとしてしまい、切歌が慌てて慰める。

時間は刻一刻と過ぎていきその間に小さな言い争いや笑い話やたくさん話した。

 

「ふぅ…そろそろ疲れたデスねー」

 

「そうだな、あたしは向こうのメディカルルームに戻ろうかな」

 

そう言うとクリスは椅子から立ち上がり切歌に挨拶をして戻ろうとした。

同じく調もベッドルームに行くと言ったので調を先に通した。

クリスは調とすれ違う時、バッチリ調の表情を捉えた。

 

(何か怯えてるな…)

 

クリスは切歌に向けて手を挙げ、別れを告げる。

切歌は手を振ってベッドに横になると、すぐに眠りについてしまった。

 

調に気付かれないように着いて行ったクリスは調が倉庫に入っていくのが見えた。

倉庫へ向かうと調は奥の右の扉へと入った。

 

「全く……2人して倉庫大好きかって……全く同じ場所が落ち込む場所ってか」

 

クリスはそっと扉に近づく。

切歌ならば近づくと声が聞こえてくる。

調の場合は何も聞こえてこない。

クリスは勇気を振り絞って扉を開ける事にした。

 

ガチャッと音が鳴ると、扉が開く。その中には調が扉のそばで体育座りをして顔を伏せていた。

調は開いた扉からクリスが現れて驚いたのか顔を上げて

 

「なんでここに…?」

 

と言った。

 

「第一声まで同じとは……流石としか言えねぇな…」

 

以前切歌もここで泣いているところをクリスが入った時「なんでここに…?」と声を発した。

 

「そんな事はほっといて、お前、なんでそんな怯えてんだ?」

 

「………怖いんです……」

 

「アイツが?」

 

「いえ……自分が……」

 

「どーゆー事だ?」

 

「時々私の知らない記憶が映る時があるんです。多分これは記憶を失う前の記憶なんだと思いますけど」

 

「なるほど、つまり記憶が戻ったら今の記憶は無くなってしまうんじゃないかって考えた訳か」

 

「そう考えるとどんどん不安になってしまって……」

 

調は最近、徐々に知らない記憶が頭の中に過ぎっていた。

 

(ギャラルホルンに飛び込んだ先輩達がカルマノイズを倒してくれているのかもしれない…)

 

「でも、こうは考えないのか?失う前までの記憶だけが戻り、記憶が無くなった後の記憶はそのまま記憶されるって」

 

「考えたいんですけど……クリスさん……貴方達はいつどこで紹介しましたっけ……」

 

「確か、最初はアイツがお前に色んなことを教えてたな……まさかお前……」

 

「徐々に記憶が薄れて行くんです……きっと元の記憶が今の記憶を侵食している……」

 

「なるほど、これは切歌に言ってみよう」

 

「また迷惑掛けてしまいます!!切歌ちゃんだけには!!」

 

「そーやって1回失敗したろ?みんなで考えれば何かいい方法が飛びかかるかもしれない」

 

「……分かりました…自分の口から話します」

 

「その方がいい」

 

そして今日はクリスはメディカルルーム、調はベッドルームにそれぞれ行き、事情は起きた後に話そうと決めた。

 




ご覧頂きありがとうございます!
今回はゆっくりと物語を進めた(つもり)ことが出来ました。
切歌の体の疲れ、クリスの人を思いやる力、調の恐怖心などがこの回で目立ってくるはずだと思います。
のこり2話、3話で物語が終結するかと思います。
残り少ない期間ですがよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。