調が記憶を失ってから一週間が経とうとしていた。
あれ以来黒いノイズは現れず、普通のノイズをクリスと切歌で殲滅していた。
本部へ戻ってきた切歌は毎日すぐ、調が居る部屋へと向かい、調と話していた。そのお陰で調は前よりも笑顔を見せるようになっていた。
そして今日も、、
「調ー会いに来たデスよー!」
扉を開けながら言うとそこには調とエルフナインが居た。
「お疲れ様です、切歌さん。今調さんにシュルシャガナの事を教えていたところです」
「おおー、調は理解してるデスか?」
「何となくですけど……私に出来るかどうか……」
「調の身体には問題が無かったんデスから問題ないと思うデスけどねー」
ベッドの横にある椅子に切歌は腰を掛け、背もたれに肘を付く。
「以前の調さんはしっかりと纏えていましたし、身体に異常も見当たらなかったのでペンダントさえあれば即纏えると思うのですが……」
「完全、消滅…デスよね、、」
エルフナインはこくりと頷く。
「一応賢者の石のほんの一部は残って付いていたのでそこからの修復を試みます」
「イガリマの情報も欲しいので切歌さん少しだけ来てもらえますか?」
「了解デース!調、また戻ってくるデース!」
「分かりました、行ってらっしゃい…」
手を振って、切歌はエルフナインと研究室へ移動した。
◇
「一週間が経ちそうなのにまだ謎だらけです…」
「調の記憶喪失の原因ってなんなんデスか?」
研究室へ移動し、エルフナインにイガリマを渡しながら切歌はエルフナインに問う。
「それに関してなんですが、2つほど可能性があります」
「一つ目はギア装備中のペンダントの破損によるもの、二つ目はカルマノイズの特殊攻撃に記憶に関する効果があるの2つが考えられます」
「ムムム…二つ目の方が辻褄が合ってるように思うデース…」
一つ目も二つ目も充分可能性があるが、二つ目の方が考えやすいため、2人は二つ目の考えを仮定としていた。
「昨日最初に思った事は後頭部などを強く打ち記憶が喪失したと考えたのですが、メディカルチェックの結果何処にも損傷は無かったんです」
エルフナインの難しい説明に切歌は話について行くのがやっとだった。
「よーするに、あのカルマノイズってーもんを倒せば可能性が絞ることが出来るって事だろ?」
話を聞いていたのかクリスは入口の傍に立ち、簡潔にまとめた。
「それはそうなのですが、、少し奇妙な点がありまして……」
「奇妙な点、デスか?」
「調さんと話していた時に少し感じたんです、記憶を失った割にはとても楽しそうだと」
「調は大人しい性格デスけど、基本楽しそうにしてるデスよー?」
「ですが、シュルシャガナを見た時調さん辛そうな感じでした、それに何か…懐かしいものを見るような目をしていたんです」
「懐かしい者を見るような目……デス?」
「シンフォギアは最悪命を落としかねない物です。それをいきなり見せられて何も知らない人は驚くか、怯えるか…他にもあると思いますけどそのような反応すると思ったんです。ですが、少し苦しそうな時や軽く微笑んだ時がありました」
「むむー…じゃあ調は記憶を失ってる訳ではないって事デス…?」
「記憶が一部ブロックされてるんじゃねぇか?」
「その可能性は充分に有り得ます。まだ分からないですが…」
3人の会話に沈黙が訪れる。
「それならー」
すると入口からこの3人以外の声が聞こえ、3人は入口の方を向くとそこには未来が居た。
「3人で遊びに行ってみたら?」
未来の提案に3人は首を傾げる。
「楽しい事を新たに作れば、少しは記憶のブロックも解除されるかも♪」
未来の提案で、切歌と調、そしてちゃっかりクリスも着いて行き、遊びに出かけた。
まず出かけたのはカラオケ
「調ー!!私の歌唱力を見るデース!!!」
切歌達はカラオケボックスに入り、一人一人曲を歌った。
「切歌ちゃん、歌上手なんですね」
切歌の歌を聴いた調は拍手しながら言う。
「そんな、照れるデスよーさささ!クリス先輩も歌うデース!!」
「えぇ!?あ、あたしはいいよ…」
クリスは照れながら断る。
「クリスさんの歌聴いてみたい…」
横に座っていた調はクリスの方をじーと見つめる。
「……ぅわかった!歌えばいいんだろ!!」
クリスは切歌からマイクを奪い取り、照れながらマイクのスイッチを入れたーーー
◇
「楽しかったデース!」
「切歌さんもクリスさんも歌がお上手で聴いてて楽しかったです」
カラオケを出た切歌達はブラブラと街を歩いた。
「しっかし、クリス先輩があそこでラブソングを歌うなんて、、乙女心マシマシデース!」
「べ、別にいいだろ!?たまたま歌える曲がトップに出てただけだ!!」
クリスは頬を赤くしながらそっぽを向いた。
その後切歌達はクレープを食べ、洋服を見てゲームセンターで遊んだりと、とても満喫した。
気付けばもう空はオレンジに染まっていた。
「今日は楽しかったデスね!調!」
「はい!とっても楽しい1日でした!」
「クリス先輩も、調に感謝デスよー、そんな可愛いウサギのぬいぐるみ取ってもらってー」
「そんなに欲しいって思ってないっつーの!!」
ゲームセンターでクリスはウサギのぬいぐるみのUFOキャッチャーを眺めていると調がそのぬいぐるみを取って、クリスに渡していた。
「余計なお世話でしたか…?」
今日のクリスは切歌と調の圧力に負けっぱなしだった。
「あーもー!!嬉しかったよ!!」
「あークリス先輩顔赤くなってるデース!」
「うるせー!!」
「およー怒ったデース」
「ほら!!帰るぞ!!!」
本部へと戻った切歌達は未来と会った。
「あ、みんなーおかえりーどうだった?」
「楽しかったデースよ!!」
「それは良かった!調ちゃんも楽しそうで何より!」
未来はクリス可愛いウサギのぬいぐるみを抱えていたのに気づきクリスに向かってクスッと笑った。
「なっ……!!」
クリスは顔を真っ赤にして下を向いた。
切歌達は調のメディカルルームまで連れていき、メディカルチェックなどをエルフナインに任せた。
「それじゃ調!おやすみなさいデース」
「はい!おやすみなさい」
切歌は調見送った後、歯を食いしばりながらクリスの場から立ち去った。
しかし、その切歌の表情を見過ごさなかったクリスは気付かれないように後を付けていく。
(アイツのさっきの表情…悲しみ、いやそれよりも酷い……あの表情は苦しみ……か)
◇
切歌の後を付けたクリスは調が記憶を失った日に切歌が本心をぶちまけた倉庫にやってきた。
だが、そこには切歌の姿は無かった。
奥に入ってみると右に扉があるのを見つけ、そこに切歌が入っていくのが見えた。
クリスも続いてその扉を開けようとしたその時…
「調………いつになったら……記憶が戻るんデスか……」
切歌は泣きながら喋ってる声が聞こえ、クリスの手が止まった。
「調……し…らべ………」
(アイツ、人の居ないところでずっと泣いてたのか…だが、それもいつまでもつか…調の記憶が戻らない以上アイツが辛くなるだけだ…)
クリスは切歌と鉢合わせする前にその場から離れた…
◇
そして次の日、丁度記憶が無くなってから1週間が経った時、思いもよらぬ出来事が起きていた…
「調ー!会いに来たデースよー!!」
「今日はあたしも来てやったぞー」
いつも通り調はメディカルルームのベッドの上に居た。
しかし、いつもと様子がおかしかった。
調は切歌達が入ってきたとき、悲しそうに窓の外を眺めていた。まるで記憶を失った日のように……
そして、調の口が開いた。
「あなた達は……?」
その言葉に切歌とクリスは固まった。
状況が判断出来ていないのだ。
「調?どうかしたデス?」
「しら…べ…?」
「まさか…!!お前!昨日何したか覚えてるか!?」
「昨日……すみません、考えると頭が痛くなってしまって……」
クリスは状況を確認しようとエルフナインに聞きに行くべく、調に明るく少しだけ大雑把に言い放つ。
「…ごめんな、強く言っちまった。また来るからそん時自己紹介な!ちなみにあたしらはお前さんの知り合いだから、顔と名前!教えるから覚えろよ!?」
「わ、分かりました。助かります」
調はオドオドとしながら返事をする。
切歌はその場では喋ることも出来なかった…
クリスは切歌を連れ、エルフナインの場所へと向かう。
「おい!チビッ子!!」
「ぅぇえ!?僕ですか??」
「どーゆー事だ!!!」
「…調さんの事ですか?」
「今の状況わかってる見てぇだな、なんでまた記憶が無くなってんだ!!!」
「恐らく記憶のブロック、その上書きかと」
「なんだよそれ!!」
「僕の憶測ですが、一週間経つとその一週間の記憶がブロックされ、また記憶が無い状態になったんです」
「そんなことしたら…アイツの体が!!」
「そうならないように研究を進めてるんです!」
「調は……」
切歌がこの場でようやく話す。
「昨日の調は、楽しかった思い出は…!全部無かったことにされたんデスか!?」
「悪く言ってしまえばそうなってしまいます…」
「そう…デスか…」
「大丈夫ですか…?切歌さん…」
「大丈夫デスよ、調は調なりに頑張ってるんデス。私はそれを手伝うことしか出来ないデスよ」
そう言うと切歌は指令室から出て行ってしまった。
「ごめんなさい、手当り次第解決方法を見つけますから!」
「エルフナイン君は頑張っている。あまり無茶はするな」
指令がエルフナインに言う。
クリスは何も言わずその場から立ち去る。
それは調に会うため…ではなく、切歌を追いかけるため。
倉庫の奥にクリスは姿を表した。
そして右側の扉の近くに来ると、切歌の声が聞こえてくる。
「なんで…なんでデスか……昨日の楽しかったことも全部台無しじゃないデスか……ここまで教えた事も全部水の泡デス…」
「何故調だけ……あんな目に……」
「アイツの前に居る時と大違いの顔だ」
「ク…クリス先輩……!?」
切歌はぐちゃぐちゃな顔を隠して、服の裾で拭いた。
「なんでここに…?」
「分かってんだよ。お前、毎日ここで泣いてるだろ」
(本当は昨日知ったんだけどな)
「知られてたデスか……すみません醜くて……」
「醜いなんて思っちゃいねぇよ」
「クリス先輩はこんなの耐えられるデスか…?」
「あたしはギリギリのラインだ、泣いていいってあたしのプライドが許すなら泣いてるだろうな」
「凄いデスよ…クリス先輩、でもクリス先輩は耐えられるかもしれないデスね」
「どういうことだ?」
「クリス先輩には分からないデスよ、昔から大事にして来た親友がいきなり自分のことを忘れてしまう絶望感なんて」
「……」
「クリス先輩は楽デスよね…まだ先輩後輩の立場で……」
「……」
「大事な人を死ぬとは別に失うって経験無いデスもんね」
「まあ、確かにそうかもしれない」
クリスがそう言うと切歌は強く歯を食いしばる。
「だが、あたしは大事な人を目の前で失ったことならある、大事な人を死ぬと言う意味で失った事ならある」
「それは……?」
「パパとママだよ、小さい頃あたしの前で死んだ」
切歌は言葉に出来ず涙を拭く。
「今でもちょくちょく夢に出てくるさ、その度に胸が苦しくなる。涙がこみ上げてくる。けどな、あたしが泣いてたら……」
クリスは下を向いていた切歌の傍に寄り、切歌頭を撫でながら言う。
「可愛い後輩に心配かけるだろ?但しお前はあたしの後輩だ、後輩なら後輩らしくあたしを頼れってんだ。何があっても助けてやるから」
クリスがそう言うと切歌はクリスに抱きつき、クリスの胸の中で泣き叫んだ。
クリスはずっと切歌の頭を撫でながら自分も涙を堪えていた。
少し時間が経って、切歌は全てを出し切ったように地面に座った。
「少しはスッキリしたか?自称デンジャラスガール」
「自称でもデンジャラスガールでもないデス!」
「元気になったなー」
「ありがとデス、クリス先輩」
「お、おう」
クリスは頬を赤くしながら返事を返す。
「でも、調はどうしたら記憶を取り戻せるんデスかね?」
「やっぱカルマノイズをぶっ潰さないと無理じゃないか?」
「でも、あのカルマノイズ相当強かったデス、3人でも手をつけられなかったデース」
「ユニゾンはどうだ?」
「ユニゾン…デスか…」
ユニゾンはラピス・フィロソフィカスによる抜剣封殺であり、簡単に言えば装者同士の結びつきを起点に、2人の装者の想いが合致すれば共通の旋律が出来、立ち回りがしやすく、弱点を補える。もっと簡単に言えば切歌と調が一緒に戦うと一つの詩ができ、いつも以上に力を出すことが出来るということ。
「その為にはまず特訓だ!今日はできるようにするまでやるぞ!」
「なんか、、クリス先輩がガチになっちゃったデース……」
そして、クリスと切歌はユニゾン成功を目標にいつも以上に特訓をすることになった
ご覧頂きありがとうございます
相変わらず不定期ですが、ご了承くださいませ。
多少の感動シーンを埋め込んでみました。
誤字、脱字等ありましたらコメントよろしくお願いしますm(*_ _)m