フェバル~TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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267「ヴィッターヴァイツの悪夢 4」

 トリグラーブ市立病院でユウと対峙した後、ヴィッターヴァイツは『無限迷宮』の奥で傷を癒していた。

 彼がクリスタルの転移先として指定していた隠れ家であるが、帰還した彼を動揺させたことは、『無限迷宮』はもはや無限ではなかったことである。

 世界崩壊――ミッターフレーション――の煽りを受けて、かの迷宮も無限という神秘性を失っていた。空間は切り取られて、彼の住処は暗闇に浮かぶごく小さな領域に分割されてしまっていた。

 彼が転移したとき、あとほんの二、三歩右にずれていれば、アルトサイドに直接落ちてしまうところであった。

 そしてアニエスが予想していた通り、彼がユウから受けたダメージは大きなものだった。気功を極めた彼の回復力をもってしても、一月以上は絶対安静を強いられたのである。

 

 彼はうなされ、やがて目を覚ました。

 

「ちっ。またあの夢か」

 

 ヴィッターヴァイツは、最近悪夢を見ることが増えていた。

 世界が不安定になっているからか。ユウにあの妙な黒い力で攻撃を受けてしまったせいか。あるいはどちらも原因か。

 

 トリグラーブ市立病院でユウと対峙した後、ヴィッターヴァイツは『無限迷宮』の奥で傷を癒していた。

 彼がクリスタルの転移先として指定していた隠れ家であるが、帰還した彼を動揺させたことは、『無限迷宮』はもはや無限ではなかったことである。

 世界崩壊――ミッターフレーション――の煽りを受けて、かの迷宮も無限という神秘性を失っていた。空間は切り取られて、彼の住処は暗闇に浮かぶごく小さな領域に分割されてしまっていた。

 彼が転移したとき、あとほんの二、三歩右にずれていれば、アルトサイドに直接落ちてしまうところであった。

 そしてアニエスが予想していた通り、彼がユウから受けたダメージは大きなものだった。気功を極めた彼の回復力をもってしても、一月以上は絶対安静を強いられたのである。

 

 彼はうなされ、やがて目を覚ました。

 

「ちっ。またあの夢か」

 

 ヴィッターヴァイツは、最近悪夢を見ることが増えていた。

 世界が不安定になっているからか。ユウにあの妙な黒い力で攻撃を受けてしまったせいか。あるいはどちらも原因か。

 

 アルトサイドの化け物はナイトメアと言ったか。【支配】があるから手懐けられたが、何もせず触れればこちらが危ないかもしれん。

 

 さて。完治とまではいかないが、傷は癒えてきた。

 あまりのんびりしていては、世界がどうなるかわからない。彼もまた、世界が徐々に崩壊へ向かっているのは肌で感じていた。

 

 ユウと決着をつけねばならない。奴もそれを望んでいる。

 

 ユウの能力が何かを彼は知らないが、奴が通常の状態であれば、【支配】を破るものとして機能しているのはもうわかっていた。

 ユウがたいそう大事にしていたあの女。あの女に【支配】が効かなかったとき。

 

「なぜ貴様なのだ。なぜ今さらなのだ」

 

 正直、複雑な気持ちだった。

 どんなに求めてもついぞ得られなかった本物の人間が、そこにいた。ユウの側には当たり前のようにいたのだ。

 もしや嬉しかったのかもしれない。間違いなく、それ以上に妬ましかった。怒りさえあった。

 だから当てつけのように目の前で殺してしまった。大人げないことをしたとは思う。だがそうせずにはいられなかったのだ。

 

 もっと早く出会っていれば、もしや違う道を歩めたのではないか。

 一瞬の脳裏に浮かんだ考えを、彼は馬鹿げたことと振り払った。

 

 もう遅い。すべては今さらのことだ。イルファンニーナたちが戻ってくることは、もうない。

 

「……いいだろう。貴様があくまで人間ごっこを続けるというなら、オレが現実を教えてやろう」

 

 格下と侮るつもりはもうなかった。彼はフェバルとして、全力でユウを迎え撃つつもりである。

 

 もはや余計な策を弄さずとも、奴は来るだろう。

 ただ勝つだけなら方法はいくらでもある。また人質を取ることもできるだろう。

 だがそれでは意味がないのだ。

 正面から力で叩き潰さねば。人のままフェバルに挑もうなどという甘ったれた考えを徹底的に叩きのめし、現実を思い知らせてやらねば意味がない。

 

 もし奴が絶望し、誰よりもフェバルらしいあの黒い力によってこのオレに止めを刺すというのなら――それでも構わない。

 

 彼にとって、これはもはや単なる戦いではない。フェバルの力とそれに抗う人の意志との代理闘争だった。

 そしてユウもまた、同じく理解していた。

 

 立つ側が逆でも、彼らは深いところで分かり合えたのかもしれなかった。

 だが運命は彼らを許さない。宿敵として対峙することは必然だった。

 

 決着のときが近づいていた。


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