フェバル~TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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・あらすじ
 両親を亡くしてから二年。親戚に引き取られていた8歳のユウは、彼らにきつく当たられる辛い日々を送っていた。この頃ユウは、いつも不思議な夢を見るようになった。夢に現れるのは、自分とそっくりな謎の女の子。ユウは彼女に、あなたが望むから自分は現れたと告げられる。彼女と話すことで、ユウはどうにか日々の辛さを紛らわせていた。そんなある日、レンクスという青年がユウの住む町にやってきた。彼はユウのことを気にかけて、あれこれと世話を焼き始める。

・話の傾向
 舞台が地球ということで、あまりファンタジー要素はない話です。日常系。バトルはしません。性的な描写はありませんが、主人公が親戚にきつく当たられるという鬱要素があります。

・キャラクター紹介

星海 ユウ
性別:男
年齢:8
 主人公。可愛いらしい容姿から女の子と間違えられることがよくある。本人はそのことをあまり快く思っていない。

星海 ユウ?
性別:女
年齢:??
 ユウの夢の中にいつも現れる、ユウとそっくりな女の子。

星海 ユナ
性別:女
年齢:享年31
 ユウの母親。二年前の事故で亡くなったのだが……。

レンクス・スタンフィールド
性別:男
年齢:??
 ユウの住む町にふらっとやってきた金髪の青年。ユウのことを気にかけ、色々と世話を焼く。

遠藤 ヒカリ
性別:女
年齢:8
 ユウの幼馴染となる女の子。ユウが通っている小学校に転校してくる。

今石 ミライ
性別:男
年齢:8
 ユウの幼馴染となる男の子。同じく転校してくる。

おじさん
性別:男
年齢:36
 ユウの親戚のおじさん。すぐに手が出る。

おばさん
性別:女
年齢:34
 ユウの親戚のおばさん。すぐに口が出る。

ケン
性別:男
年齢:9
 ユウの従兄。立場の強さと、一つ年上であることにかまけてユウをこき使う。


金髪の兄ちゃんともう一人の「私」
あらすじとキャラクター紹介~1「もういやだ」


 また楽しくないご飯の時間がやってきた。

 食卓の向かい側には、いつものようにおじさんとおばさんがいる。俺はいつものように、従兄のケンの隣に座った。

 今日は、ハンバーグか。

 みんな大好きだよね。俺も大好きだけど、別に嬉しくも何ともないよ。

 だって俺は、いつもおかずがほとんどもらえないんだ。全部ケンが持っていく。ちょっと羨ましいけど、文句なんか言ったら、おじさんに殴られるから。

 ほんのちょっぴりのハンバーグで、ご飯を食べた。量が少ないから、すぐに食べ終わっちゃうよ。

 

「ごちそうさま」

 

 そして俺はいつものように、おじさんとおばさんとケンが食べ終わるのを待つ。

 みんなごちそうさまをして、食卓を立ってどっか行ったら、いつものようにお皿を洗うお仕事をするんだ。

 お皿を洗うだけじゃないよ。服を洗うのも、掃除機をかけるのも、違うことも、全部俺のお仕事なんだ。

 テレビで野球を観てるおじさんから、声がかかった。

 

「おい、ビール!」

「はい!」

 

 俺はお皿を洗う手を止めて、冷蔵庫を開けた。そこからひやっとしたビールを見つけたけど、高くて中々手が届かない。

 なんとか背伸びして取ると、右手と左手で持っておじさんのところに持っていく。

 

「おい! 早く持ってこいっつってんだろ!」

 

 いらいらしてる。応援してるチームが負けてるからだ。そんなにいらいらするんだったら、野球なんて観なきゃいいのに。

 やっとビールを渡したら、グーで思い切り頭をゴチンとされた。

 すごく痛くて、頭を押さえた。

 

「お前は、お遣い一つもぱぱっとできねえのかよ!」

「ごめんなさい……」

「謝るだけだったら誰でもできるんだよ! 役立たずめ!」

「…………」

「お前なあ、ここに住まわせてもらってるって自覚はあるのか? 言ってみろ。身寄りもなくなったお前を、善意で引き取ってやったのは誰だ!?」

「おじさんです……」

「だよな? だったら、もうちょっと感謝の気持ちを持っててきぱき動けや!」

「はい……」

 

 頭も心も痛くて、すぐに動く気になれなかった。

 ほんのちょっとぼーっとしてたら、おばさんに怒鳴られた。

 

「なに休んでるの。まだ洗い物終わってないよ! さっさと戻りな!」

「すみません。すぐやります」

「ったく、あの女みたいな生意気な目してさ」

 

 お皿を洗うために戻ろうとしていた、俺の足が止まった。

 お母さんのこと、言ってるの?

 

「あの女のそういうところが、ずっと気に入らなかった。事故で死んだって聞いたときは、せいせいしたね。きっと罰が当たったんだよ」

 

 おばさんのその言葉が、どうしても許せなかった。

 

「今の言葉、取り消してよ!」

「あら? 口答えする気?」

「お母さんは、罰が当たるような人じゃない! お母さんは、お母さんは……!」

 

 いつも強くて、優しくて。あったかくて。

 

「お父さーん、ユウがまたあの部屋行きたいって」

 

 怖くてぶるぶるした。あの部屋だけは、いやだ!

 

「またか」

 

 テレビを観ていたおじさんが、ゆっくりと立ち上がった。

 

「悪い子にはお仕置きだね」

 

 そう言ったおばさんは、まるでこないだ観た○○レンジャーの悪い人みたいな顔をしていた。

 おじさんが、怖い顔をしながら近づいてくる。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい!」

「だから、謝るだけなら誰でもできんだっつってんだろ! 何回言っても聞かねえ奴だな!」

 

 背中を掴まれた。

 必死に逆らったけど、おじさんの方がずっと強くて、無理やり持ち上げられて。

 

「いやだ! やだよ! おねがい! ゆるして!」

「うるせえ!」

 

 お腹を強く殴られた。息ができなくなるくらい苦しくて、胃の中のものを戻しそうになる。

 しゃべる元気もなくなった俺は、そのまま連れて行かれると、電気も付いていない、暗くて小さな物置部屋に放り込まれた。

 そして、外から鍵を掛けられた。

 こうなると、もう朝まで出してもらえない。ずっとずっと、この狭く暗くてむし暑い部屋の中で、怖い思いをしなくちゃいけなかった。

 

 静かになって、ずきずきとお腹の痛みだけが残った。きっと痣になってる。

 とっても惨めだなって思ったら、すごく悲しくなってきて。涙が出てきた。

 でも、声に出して泣いたらまた殴られる。だから服を口に押し当てて、静かに泣くしかなかった。

 お母さんとお父さんがいたときは、楽しかった。

 どうして、俺を置いて遠くへ行っちゃったの? どうして?

 もういやだ。

 こんなの、いやだ。

 どうして。どうしてだよ。

 いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。

 俺じゃない。俺は、いやだ。こんなの、いやだ。 

 こんなの、俺じゃない。

 

 

 ***

 

 

 気が付くと、俺は真っ暗な空間に立っていた。

 あれ。

 ここ、どこだろう?

 そのとき、俺の声とほぼまったく同じ声が、横から聞こえてきた。

 

「まだここに来るときではなかったんだけど。どうやら強い気持ちが、一時的に繋げてしまったみたいね」

 

 振り向くと、そこには――。

 

「えっ!? 俺? いや、違う」

 

 見た目も感じもよく似ていたけど、俺の目の前にいたのは女の子だった。

 

「誰なの?」

 

 女の子は、くすりと笑った。

 

「誰だと思う?」

「わかんないよ」

 

 正直に答えると、彼女は左手の人さし指で俺のことを指さしながら言った。

 

「私はあなた」

 

 それから指を返して、自分のことを指して言う。

 

「そして、あなたは私」

「どういうこと?」

「ここは、私たちの心の世界なの。私は星海 ユウの、言ってみれば女の部分かな」

「女の部分?」

「覚えてないの? この前聞こえてきたテレビで言ってたよ。人の心には、誰でも男の部分と女の部分があるものだってね」

「へえ。そんなこと言ってたんだ」

「うん。それで、本来なら、私はユウの精神に影響を与えるだけの裏方なんだけどね」

 

 だけど、と「私」は俺に優しく微笑みかけた。

 

「あなたが望むから、私は現れたよ」


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