急に明日予定が入ってしまったけど、とりあえず今日はできることがない。シズが何かやってくれるそうなので、期待して待っているしかないかな。
よし。ぼちぼちハルのところへ行こうか。
彼女の元へ訪ねるのは、シンヤを治療した日以来だ。同じ世界の記憶と問題意識を持つ「戦友」への近況報告という意味合いもあるけど、病院暮らしで退屈しがちなあの子は、きっと喜んでくれるだろうと思ったのが一番の理由だったりする。
シズも離れていることだし。多少は話もしやすいかな。
電車を乗り継いで、トリグラーブ市立病院までやってきた。ユキミ ハルへの面会を受付に伝えると、もう何度も来ているのもあって、すんなり通してもらえた。
彼女の病室は、701号室だったね。
ドアの前でノックすると、「どうぞ」と明るい声で返事が来たので入る。
「来たよ。ハル」
俺の姿を見るなり、彼女はぱああっと光が射したように顔を綻ばせた。
「ユウくん! わー、来てくれたんだね!」
両手を広げて、いっぱいに喜びを示してくれる。可愛いなあ。
足がまともに動いたら、きっとすぐ飛びつかれていただろう。そのくらいのはしゃぎようだ。
「どうしたの。やけに嬉しそうだね」
「いやあ。だってね。討伐祭のユウくん、とっても強かった。カッコよかったね! ボク、嬉しくて。感動してしまって」
ああ。それでか。
納得した。この子は純粋にヒーローとかそういうものには目をキラキラさせるので。今の俺はさぞかし英雄の帰還みたいなものなんだろう。
「君も来てたんだ」
「うん。キミのこと、ずっと見てたよ。楽しかったなあ」
目を瞑り、たぶん討伐祭のことを思い浮かべながら、手をベッドシーツの上でぱたぱたさせている。微笑ましいものだ。本当に楽しかったんだろうなあ。
それからしばらくは、大魔獣討伐祭の話題で持ち切りだった。特に俺とレオンとの試合の下りになると大興奮で、受付のお姉さん顔負けの臨場感たっぷりに振り返り、あのときはこのときはと次々尋ねてくる。少なくとも向こうでは、あの戦いを目でしっかり追えるくらいの実力者ではあるみたいだ。
何かにつけて「ユウくん」の凄さを当人に向かってとくとくと語るものだから、聞いてるこっちとしては嬉しいやら気恥ずかしいやらでいっぱいだった。
「まあ、レオンとは結局引き分けちゃったんだけどね」
「いやいや。引き分けただけでも大したものだよ!」
「はは。そうかな」
「そうだよ! みんなまさか、あそこまでユウくんができるとは思ってなかったと思うよ? まあボクはキミのこと、ずっと信じていたけどね」
「ありがとう。もし次機会があったら勝てるように、もっと鍛えるつもりだよ」
「うん。その意気だよ! 剣麗もきっとさらに腕を上げてくると思うから。負けないようにね」
「ああ」
そうか。レオンもさらに強くなるかもしれないんだよな。
でもあり得ることだ。ラナソールは許容性無限大。あの世界に限っては鍛えれば鍛えるだけまだまだ強くなる可能性がある。既にそこらの世界では許容性限界の頭打ちになり、単純な強さという点では伸び止まってしまっている俺にとっても、あれほど恵まれた環境はそうないだろう。
あそこで強さの最大値を上げておけば、今後その最大値よりも許容性限界が低い世界に行ったとき、自動的にレベルMAXのような状態になってくれる。かつ、許容性縛りが効くので、効きのやたら悪い普通のフェバルみたいに強過ぎて困ってしまうこともない。ラナソールで鍛えるメリットはあれど、デメリットはないように思えた。
よーし。ジルフさんとの修行、もっと頑張らないとな。
「あ、そうだ。そう言えば、ハルティ・クライって名前の冒険者の子がいたんだけど……」
「ああ。『剣姫』だね。キミと剣麗の試合の立役者になってくれた」
「あれは君じゃないのか?」
「んー、さあどうだろうね?」
くすくすと笑われて、はぐらかされてしまう。
うーん。わからない。この子、心を隠すのが相当上手いみたいだ。【神の器】の読心能力は漠然とした感情しかわからない。相手が隠したがっていることは中々読み取らせてもらえないからなあ。
もしハルを二つの世界のパスにできたら、ほぼ固定位置で使いやすいんだけど。この調子だと向こうの彼女を見つけるまではお預けになりそうだ。
それから、互いに夢想病や世界のことに関する進捗を話し合った。とは言っても、二人とも大した進展はなしだったのだけど。
「そうだ。ねえ、ユウくん」
「なんだ」
「ボクを外へ連れて行ってくれないかな?」
得意の首ちょこんでお願いしてくる。病弱で可愛いボクっ娘がこんな仕方でお願いをしてきて、すげなく断れる男子がどれだけいるだろうか。この子、明らかに自分の武器をわかっていると思う。
まあ別にだからってことはないけど。
「いいよ。やっぱり普段退屈だよね」
「誰かが付き添いでないと、外出許可をもらえなくてね」
「そうだよなあ。身体弱いし、足悪いもんな。家族とかに連れていってもらったりはしないの?」
「お父さんもお母さんも、もういないんだ。夢想病でね」
「そうか……。悪いこと聞いたね」
シェリーと一緒の境遇というわけか。加えて自由に動き回れないとなれば。それはよほど寂しいし退屈だろうな。夢想う彼方の世界に愉しみを抱き、夢想病についてずっと考えてしまうくらいには。
せめて俺のいるうちは、時々顔を見せてあげよう。そう思った。
「いいんだ。別に珍しくもないことだからね。最近は特に。だからこそ、何とかしなきゃと思うんだけどね」
「……あのさ。俺がもっと早く来てくれたらって思うことはなかったか?」
どうしようもなかったことだけれど。俺がもっと早く来ていれば、君の両親は死なずに済んだのかもしれない。どうしてって気持ちはなかったのだろうか。
彼女は少し考えて、申し訳なさそうに小さく頷いた。
「正直言うと、ちょっとだけ思わなくもなかった、かな。うん、身勝手だよね。ボク」
「いや、そんなことはないさ。普通の気持ちだと思うよ」
「ありがとう。でもね。それよりも嬉しい気持ちの方がずっと大きいよ。やっと希望が見つかったんだからね!」
ハルは、キラキラした目で俺を見つめ上げて、にこっと笑った。
「そうだな。一緒に頑張ろうな」
「うん。頑張ろうね」
改めて決意を固める俺とハルだった。
「さて、どこ行きたい?」
車椅子を押しながら、ハルに尋ねてみた。こちらへ振り返った彼女は、実に楽しみな顔をしている。
「せっかくだから、少し遠くへ行ってみたいかな。向こうの世界みたいにね。大自然の中でね、いっぱいに日の光を浴びてみたいんだ」
「そうかあ。いいね。でも、さすがに日が暮れるまでには帰らないといけないからなあ」
病院の人に確認したところ、夕食の時間までには必ず帰ってきて欲しいと、そのような返答がきた。
あまり遅くなると心配させてしまうし、問題になって次から外出しにくくなるかもしれない。日が暮れるまでには帰るつもりだ。
「そこはほら、キミがいるじゃないか。どこへでも簡単にひとっとびだろう?」
「悪いね。ラナソールにいるときみたいに、何でもできるわけじゃないんだ。物凄く速く走ったりとかもできないよ」
「そっかあ……残念だなあ。うん、仕方ないよね」
そんな露骨にがっかりした顔されると、心苦しいよ。
なんとかできないか。なんとか。
「そうだ」
「ん?」
走るで思い出した。こういうときのためのバイクじゃないか。
「バイクがあるんだ。それでドライブしよう」
「本当かい? 嬉しいな」
外へ行き、ハル以外誰も見ていないことを確かめて、『心の世界』からバイクを出現させる。
彼女には見せてあげた。どうやら俺の能力のことはある程度知っているみたいなので、今さらだろう。幸いシズハもいないことだし。
実際に何もないところから出すのを見せると、ハルはすごいものを見たと大喜びで。
「わあ! 便利だね。キミの能力」
「まあね。それで、どうかな」
我が愛車、ディース=クライツを手で示す。
エルンティアの誇る最高峰のマシンだ。こいつを見せるときは、ちょっと得意な気分になってしまうのは仕方ないだろう。
「うわー、カッコいいなあ!」
車椅子から身を乗り出して、首を傾けながら興味津々にあちこち観察している。
ああ、いいな。いいよその反応。待ってたんだ。わかる女子って素敵だと思う。ユイはあんまりわかってくれないからな。このカッコよさ。
『いや、普通には好きだよ。人並みにはわかってるつもりだけど』
『……あのさ。一々言及するたびに地獄耳で突っかかってくるの、心臓に悪いからやめてくれない?』
『え、やだ。それはあなたが大好きなお姉ちゃんに酷な要求というものだよ?』
『そうだね。うんわかってた。俺もユイのこと大好きだよ』
『うん知ってる。でもありがとうれしい』
向こうの世界からでも余裕で素直な喜びが伝わってくる。やっぱりユイの心が一番よくわかるね。
『まあ半分あなたみたいなものだし、バイクとかも好きには好きなんだけど。そのものより、それを見て目をキラキラさせてるユウを眺める方が面白いんだよね』
『なるほど。なるほど』
いつも通りの答えだったな。
気が付くと、ハルは既にバイクからは目を離し、こちらをきょとんと見つめ上げていた。
「何だかとっても楽しそうな顔してるね、ユウくん。いいことでも思い浮かべているのかな?」
「えーと。まあ、そういうもんかな」
「ふうん」
探り伺うように目を細める彼女。あはは。お見通しか。
すると、あっと何かに気付いたように口を開けた。
「あ、でも、ラナソールから来たのに、免許あるのかい?」
「あるよ。……人からもらったやつが」
シズハさんマジありがとう。
「もらった? あはは。本当に面白いね、キミは」
ハルはくすくすと笑っている。まあ本物かどうかは知らないけどね。
ああそうだ。一応エルンティアではきちんと勉強して、教習も受けて、一番上等の免許は持ってるよ。この世界の交通ルールも本で叩き込んである。だからどうしたって話だけど。
宇宙共通運転免許とかあればいいのに。国際免許の超パワーアップ版みたいな。
「ところで出しちゃってから言うのもあれだけど、バイクは大丈夫か? しっかり掴まってないと危ないからね」
「うん。大丈夫だよ。上半身はちゃんと力が入るから。だけど、乗るのはちょっと大変かな」
甘えた目で見つめてくるので、期待されている通りのことをしてあげた。
「わあ!」
お姫様だっこになってしまったけど、こんなに喜んでくれているからいいか。
「はい、と」
座席の上にそっと降ろしてやる。
大型バイクなので、座っているというより乗っかっている感じだ。大人しくちょこんとしているのが、何とも可愛らしかった。
「ありがとう。ふふ、ユウくんってやっぱり男の子だよね。細いのに力持ちで」
「まあ君くらい軽い子なら朝飯前だよ」
「でもすごいなあ。ひょいって簡単に持ち上げちゃうんだもん」
すると彼女が物欲しそうな目をするので、どうしたのかと思っていたら。
「ねえ。ちょっと腕、触ってみてもいいかな?」
「え? まあ、いいけど」
別に減るもんじゃないしな。
左腕をめくって出すと、小さな白い手で興味津々に触ってきた。
「わー、すごいね。鍛えられてるね! 外はカチカチなのに柔らかくて」
「あんまり言うと恥ずかしいよ……」
鼻息混じりでしきりに二の腕をふにふに愛でるものだから、最初はよかったけど段々もどかしくなってきた。適当なところで切り上げる。
「はい終わり。そろそろ行くよ」
「ああー……うん。そうだね」
二人乗りのバイクの前方座席に腰掛ける。大の男よりは小さい俺が乗ってもやや余り気味だ。
しっかり掴まるように言うと、彼女は両手を脇に回した。
それだけならよかったんだけど……後ろで、シートの擦れる音がした。うんしょ、と小さく声を出しながら、馬乗りの姿勢のまま身体の位置を前へずらして来ている。
間もなく、背中と前がぴったりくっついた。
うわあ。ハルが……べったりだ。完全に預けている。いつかのユイみたいに。
あのね。確かに掴まれとは言ったけど。そこまで全力でしがみつけとは言ってないよ!
どうしよう。ユイよりはずっと感触控えめだけど……その、やっぱり当たってるんだけど。
「やっぱり男の子だなあ。背中も大きい。ボクとこんなに違うんだね」
こちらの動揺もお構いなしに、楽しそうに身を寄せる彼女に対して、
「あ、あのさ。君も随分無防備だよね」
微妙に上ずった声で、どうにか最低限の体裁だけは保ったつもりで言った。それも怪しいけど。
思うんだ。そう割合は多くないにしても、世の中の女性のいくらか、俺に無防備過ぎやしないだろうか。
俺だって男だ。これでも狼なんだぞ。そそり立つものもあれば、込み上げるものだってあるんだ。一番盛りたい時期に肉体が止まっちゃってるから、余計にね。
自他ともに認めるむっつりだし、たぶん結構エッチだ。甘えたいし、くっつきたい方だという自覚もある。最大限気を付けてはいるけど、絶対間違いが起こらないとは限らないじゃないか。
……特に、さっきからこんな風に好感たっぷりに甘えられたら。
ミティのようなごり押しより、こちらの方がくるものがある。
リルナリルナリルナ。落ち着け。
「そうかな? 前も言ったけど、相手は見極めているつもりだよ」
「でも気を付けた方がいいと思うよ。もし想定以上のことになったら、跳ね除けられないじゃないか」
「ふふ。心配してくれてるんだね。でもボク、別にユウくんになら何されても平気だよ。優しくしてくれそうだし?」
「はは……そういうの、反応に困るなあ」
リクじゃないけど、結構タイプかも。って、いけないいけない何考えてるんだ冷静になれ! リルナリルナリルナ!
相手は17歳だぞ。いくら多少強いところがあったって、さすがにリルナほどじゃない。身体も弱いし、病院の外の世界も、男もあまり知らないだろう。そもそも愛より、実に少女らしい憧れで想いを寄せてきてる子だ。それがわかっていて、そんな子を衝き動かれるままに食べて、時期が来たらごめんさようなら。
絶対にダメだ。傷付ける。泣かせるに決まってる。
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、ハルは無邪気なのか計算ずくなのか、とにかく喜んでいる。さらっととんでもないことも言い出した。
「あ、そうだ。これは一応デートになるのかな?」
「ぶっ!」
さ、寒気が……。またリルナ案件が増えるから! やめてくれ!
『にやにや』
君も一々にやにやするのやめろよ! もう!
「ん、その顔……既に想い人でもいるのかな?」
「ま、まあね」
ちゃんと本当のことを言うと、ちょっぴり残念そうに彼女は口をとがらせた。
やっぱり好意を持たれているみたいだ。それもかなり。なんか俺、最近モテ期来てないか。
『来てるね。うん。来てる。お姉ちゃんちょっと複雑な気分だよ』
『今までこんなにモテたことなかったよな。君の話だと、レジンバークでも結構モテてるらしいし。どうして急に』
ラナソールとトレヴァークに来てからだ。
ユイと分離してしまったことで、女成分が足りなくなって、知らず知らずのうちにオスが強まり、求めるフェロモン的な何かが出ちゃっているとか? そこに成長から若干頼れるアトモスフィアが出てきたのと噛み合って。てか何だよ女成分って。意味わからないよ。
セルフ突っ込みを入れていると、ユイはうんうんと頷いてから言った。
『まあどうしても妬いちゃうけど。私はあなたをちゃんと任せられそうな人なら、誰と付き合っても干渉はしないから。ユウの好きに生きていいからね』
『うん。ありがとう』
ということは、ユイ的にはハルは合格なんだろうか。ミティはダメで彼女はOKな基準がわからないけど。
『でも、リルナさんとのことはちゃんと自分で責任取ってね。知らないからね』
『はい』
そりゃあそうだ。君の言う通りだ。大人が自分の色恋沙汰のけじめくらい付けられなくてどうする。
「ふふ。ユウくんはわかりやすいよね」
「悪かったね。わかりやすくて」
「まあ予想できないことではなかったよ。キミみたいな人は、いつまでも女の子は放っておかないだろうからね」
「そうかな」
言っちゃ悪いけど、レンクスとかアーガスとかの方がよっぽどカッコいいと感じることが多かったよ。俺には。あれこそ放っておかないだろう。
……女として二人を見てきて、たまにドキドキしちゃったときの補正もたぶん入ってるけど。
「そうとも。でもやっぱりかあ。ちょっと残念、かな」
「あはは。ごめんね。本当に」
しっかりと目を見て謝る。ハルは聞き分けの良い子だ。きっとわかってくれる。
「いいとも。ボクの知る限り、その人は近くにはいないようだけど……」
「そうだね。今は、とても遠くにいるよ」
「だと思ったよ。でも大切に想っているんだね?」
「ああ。ずっと大切に想っている」
「ふふ。いいなあ。羨ましいよ。まあキミ、見るからに一途そうだもんね」
納得したように頷くハル。何だか申し訳なくて、俺はもう一度謝った。
「うん。本当は、君のことも受け止めてあげられたらよかったんだけどね。ごめんね」
「謝ることはないさ。それでいい。いいや、それでこそユウくんだ! その気持ちは大切にすべきだと、ボクは思うよ」
「ありがとう」
「それに……ボクの貧相なカラダじゃあね。何の魅力も、ありがたみもないだろうからね……」
ハルは溜息を吐いて、肩を落とした。顔にはそれなりに自信ありそうだけど、カラダの方はよほど自信がないみたいだ。
でもだ。俺に言わせればだよ。いや、リクもまずそう言うだろう。トリグラーブの男性千人にアンケートを取ってもいい。
何を言ってるんだ。君は自分の魅力がわかってるようで、何にもわかっていない! そこが可愛いんじゃないか!
思わずそのままの勢いで力説しそうになったが、ぐっと堪えて優しく諭すように言った。
「そんなことはない。もっと自信を持っていい。とても魅力的だと思うよ」
「それは……本当かい?」
まだ自信がなさそうにもじもじしている。そんなハルの目をもう一度しっかり見て、本当に本当のことだから言った。
「思うさ。ほら、君がくっつくせいで、こんなにドキドキしてるんだ」
証拠にと、ハルの手を引っ張って、自分の胸に押し当てる。高鳴る心臓の鼓動が彼女に伝わって、彼女はあっと口を開けた。そしてどこか安心したような、心から嬉しそうな顔をした。
「ね。だから、気を付けてくれよ」
「もう……。そういうところがね。ずるいよね、キミは」
……女たらし認定されてしまった。アーガスごめん。俺もそっち側になりそうだ。
「でも、そっか。ユウくん、ボクでもこんなに喜んでくれるんだ」
ん、あれ? また変な方向に希望を与えてしまったか……?
色々心配になる中、ハルは何やらすっきりしたようで。もうすっかり明るさを取り戻していた。
「ねえ。これからも良い戦友でいようね。ユウくん」
「あ、ああ。もちろんだよ。ハル」
笑顔と一緒にぱちりとウインクが飛んできたとき、思わずドキリとしてしまう。
やばい。これだから、正面から好きで来られると。弱いなあ、俺。
慌てて目を反らし、前を向く。とにかく、気持ちを切り変えよう!
「よ、よし! ぼちぼちいくぞ!」
「う、うん。そうだね。楽しみだよ」
おずおずと、今度は控えめに「気を付けて」掴まってくれたので助かった。
えーと。どこにしよう。町の北。うん。トラフ大平原がいい。あそこは見晴らしがいいからな。そうしよう!
キーを回す。エンジンが入る。たまたま旧来式の設定だから、エンジン音が鳴る。
アクセルを踏み込む。早く。早く走れ。
ブルンブルンブルン……ガガガガガ……ぷすん。
あっ……。
……エンストした。
しまった。いきなりアクセル強く踏み込み過ぎた……。何やってんだ!
頭を抱えたい気分だった。墓穴があったら飛び込みたい!
非常に情けなく、また申し訳なく思い、後ろのハルを見やると。
「……ぷっ」
彼女が吹き出すのが、ほぼ同時だった。
「あははははははははは!」
「あ、はは、は……」
「ユウくん。動揺し過ぎだよ! もう、かわいいなあ! あははははははははははは!」
「「……あははははははははははは!」」
一緒に大笑いした。馬鹿みたいで可笑しくなって、半分やけくそになって笑った。
でも泣きたい! 超カッコ悪いよ!