フェバル~TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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13「ヒュミテ王救出作戦会議 1」

「ユウ・ホシミです。アマレウム出身の旅人です。今回の作戦で、助っ人を務めさせてもらうことになりました」

 

 異世界から来ましたでは変に思われるので、テオが捕まったという町、アマレウムの出身ということにした。エルン大陸の町なのでヒュミテはごく少ないが、まったくいないわけでもないらしいので問題ないだろう。

 ヒュミテの首都ルオンヒュミテ出身とするのが一番自然だけど、すると作戦の最終目的地であるそこへいつかたどり着いたときに、何も知らなくて必ずボロが出ると思ったのでやめた。

 大方からは特に怪しまれることもなく、反応は概ね普通だった。ただ一人、レミだけは旅人という言葉に納得がいかない顔をしていたが。

 

「もう話には聞いているかと思いますが、俺は自由自在に男や女に変身できるという変わった能力を持っています。二つの身体それぞれで、性質や得意なことが違うので、状況によって使い分けています」

 

 まず今の自分を指し、述べる。

 

「こっちの方は、気剣術という特殊な剣術を得意としています。主に戦闘で力を発揮できるかと思います」

 

 それから俺は、説明のために女に変身した。

 周り、特に初めて変身を見る者たちから「おお」と驚きの声が上がる。

 やっぱりこれが普通の反応だよね。アスティがおかしいだけで。

 にやにやする彼女を一瞥してから、私は一段高くなった女の声で続ける。

 

「こちらの身体は、生命反応を一切持ちません。なので、主に潜入などで活躍できると思います」

 

 ついでにお気持ち表明を。

 

「基本的に男でも女でも同じ人間のつもりですが、やっぱり違うところもあるし、そう言われたりもします」

 

 身体が違えば、声や感触や匂いや、色々なことはどうしても違ってくる。

 精神性においても、「私」の影響を受けているからね。

 

「性別がはっきりしないので、少し扱いに困るかもしれませんが、どちらの私にも気兼ねなく接してくれると嬉しいです。これからしばらくの間、よろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げると、小さな拍手が起こった。

 頭を上げたところで、ウィリアムが代表して言った。

 

「こちらこそよろしく頼む。ユウは、ラスラに打ち勝つほどの実力の持ち主だ。大きな戦力として役に立ってくれるだろう」

 

 一部の人が驚きの声を上げる。

 どうやらラスラの実力は、かなり信頼されているようだ。

 

「では、ここからは私から時計回りにいこうか。まあ大体の人は知っているだろうが、一応な」

 

 ウィリアムは、コホンと一つ空咳をしてから名乗った。

 

「私はウィリアム・マッケリー。ルナトープの隊長として、曲者揃いの隊員たちを取りまとめている。今回の作戦では、総指揮を務めることになった。作戦の成否は言うまでもなく、我々一人一人の力にかかっている。どうかヒュミテの未来のために、諸君の力を貸して欲しい」

 

 再び拍手が起こった。私もみんなに合わせて拍手する。

 

 次はラスラの番だった。

 今の彼女は、初対面のときのようだ。

 冷たい印象を与えかねないほど、すっと表情を引き締め、落ち着き払っていた。

 まあとっくに彼女の熱い本性を知ってるので、もう誤解することはないけれど。

 

「ラスラ・エイトホーク。ルナトープの副隊長だ。実行部隊の先鋒を務めさせて頂く。よろしく頼む」

 

 続いて、オレンジ髪のチャラチャラした男が立ち上がる。

 彼は髪をかき上げると、かっこつけた声で自己紹介を始めた。

 

「俺はロレンツ・リケイズ。人呼んで――」

「軽薄浮気男」

 

 彼の二つ奥にいた金髪天然パーマの女性から、鋭い茶々が入る。

 

「そう、軽薄浮気男! ってなに言わせんだマイナ!」

「だって事実でしょう?」

 

 周囲からどっと笑いが起こる。

 ロレンツはこの手のかけ合いには慣れているのか、少しも動じていなかった。

 彼はキザったらしく指を振る。

 

「チッチ。俺はただ女が好きなだけさ――男の本能のままにな」

 

 彼は決め台詞とともに、キリッとどや顔を放つ。

 不覚にも少しイラッと来てしまうくらい、うざい顔だった。

 なにこいつ。そこはかとなくレンクス(あのヘンタイ)と同類の臭いがするんだけど。

 いや、あいつはあくまで私一筋で、それ以外には割と普通だからね。

 節操がない分、あいつよりひどいかも。

 

「つうか、これじゃしまらないぜ。いいかい、俺は人呼んで戦場のラッキーボーイ。俺のすぐ近くじゃあ、一度も死人が出たことないのさ」

 

 それは地味にすごいな。たまに持ってる人っているよね。

 

「ま、神頼みよりばっちり安心、この俺をぜひ頼ってくれよな。特に女性諸君。俺の胸にウェルカムだぜ。ってことでよろしく!」

 

 拍手はあまり起きなかった。

 へらへらしっ放しの彼が座る前に、即座に隣の青髪の男が立ち上がる。

 そして、彼の脇腹に一発ど突きをかましてくれた。

 ナイス。

「うぐ」と呻くロレンツを無視して、男は快活に名乗った。

 

「デビッド・ルウェン。横のバカとは同期だ。こいつのことは、オレがよーく目を光らせておくから安心してくれ。で、そうだな――」

 

 突っ込みで頭が回ってなかったのか、少し考えてから続ける。

 

「一応双剣術を得意としている。ラスラと共に前衛を務めさせてもらうつもりだ。よろしく」

 

 主に女性陣から、大きな拍手が起こった。私もささやかながら拍手を加える。

 

「いってーなデビッド。少しは手加減しろよ」

「お前こそ、もう少し自重しろ」

「へいへい。この茶目っ気を理解してもらえないとは、残念だぜ」

 

 二人は仲良く席に着いた。あの様子からするに、互いに気の知れた友人同士なのだろう。

 次に立ち上がったのは、さっき茶々を入れた金髪の女性だった。

 

「マイナ・スペンサーよ。変わった子が多いうちの中では、比較的常識人寄りの方かしら。戦闘の他に、装備の管理などを行わせて頂くわ。みんな必要なものがあれば、遠慮なく申し出てちょうだい」

 

 マイナも拍手を受けながら座る。

 それと入れ替わりで、アスティが元気よく立ち上がり挨拶した。

 

「こんにちはー。アスティ・トゥハート、19歳でーす。ルナトープの中では最年少で、ガンナーやってます! 結構腕には自信あるんですよ。今回の作戦でも、バシッと力になれたらいいなって思ってます」

 

 そこで、ちらっと私の方を見てにやっと笑う。

 

「あ、それから現在かわいい後輩募集中です! みんな、よろしくねー」

 

 拍手が起こると、彼女は天真爛漫な笑顔を振舞いながらご機嫌で着席した。

 どうにも自由というか、ふわふわしてて掴みどころがない人だよね。嫌いじゃないしむしろ好きだけど、一番苦手なタイプかも。

 隊員の中で最後に腰を上げたのは、銀髪の寡黙そうな雰囲気の男性だった。

 

「ネルソン・グラフォード。参謀役として、隊長と副隊長の補佐をしている。よろしく頼む」

 

 彼は簡潔に紹介を済ませると、さっさと座ってしまった。見たまんまの寡黙な人みたいだ。

 

 続いて、アウサーチルオンの集いの上部メンバーの自己紹介へと移った。

 二人の男が名乗った後、リュートの番が来た。

 彼はいつもの軽い調子で名乗る。

 

「オイラはリュート。すばしっこさには自信があるんだ。情報収集や潜入任務なら、オイラにばっちり任せてくれよな!」

 

 レミは素の気が強いキャラを隠し、よそ行きの表情で丁寧に挨拶した。

 

「レミと申します。上司のクディンとともに、後方支援に当たらせていただきます。皆さんのお力になれますよう、精一杯務めてまいりますので、どうかよろしくお願いします」

 

 最後に、クディンがゆっくりと立ち上がり、粛々と言葉を紡いだ。

 

「アウサーチルオンの集い、代表のクディンだ。此度は、遠路はるばる危険を冒してこのギースナトゥラまで足を運んでくれたこと、まことにご苦労だった。まずはこうして無事我らが合流できたことを喜びたいと思う」

 

 一呼吸おき、全員の顔色を窺う素振りを見せてから、彼は続ける。

 

「ヒュミテ王テオは、言うまでもなく最重要人物だ。本作戦の成否が、我々の行く末に決定的に関わることは間違いない。それに何より、これまで僕らに道を示し続けてくれた、大恩ある彼を見殺しにすることなどできはしない」

 

 そこで自らを指し示し、改めて意思確認する。

 

「我々の力で、何としてもテオを救い出そう。すべては僕を含めた諸君の尽力にかかっている」

 

 気持ちが入っているのか、机に手を突く音がはっきり聞こえた。

 

「我々は失敗を繰り返してきた。もう時間は残されていない。もう失敗は許されない。必ずだ。必ず成功させよう」

 

 彼の口調こそ、終止落ち着いてはいたが、この作戦に賭ける想いの強さがひしひしと感じられる語りだった。

 全員の目つきが真剣なものに変わり、しっかりと言葉を噛み締める。

 これまでで一番大きな拍手が上がった。

 

 やがて落ち着いたところで、ウィリアムが締めに入った。

 

「ありがとう。我々は運命共同体だ。ヒュミテもナトゥラもなく、互いに支え合っていこうじゃないか」

 

 そうだね。そんなことが、ここだけじゃなくて世界で広がるといいなと思うよ。

 

「それでは、早速だが、一週間後に予定する本作戦の概要に入る。アウサーチルオンの集いが用意してくれた、手元の資料を見ながら聞いて欲しい」

 

 私は、机の上に配られた資料に目を下ろした。


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