指先に映る貴女   作:とある世界のハンター

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書き納めです。続きません。


№2 併された糸

 

 

 

 

 

 走る。走る。誰よりも速く。

 伸ばした糸は━━━━━━━━届い

 

「たァっ!!」

 

(1Pは動きを止めるのに2本。2Pは3本で3Pは5本...一度にやりあえる量はもう分かった。あと10分は欲しいのだけれど)

 

 ギシギシと今にも壊れそうな音を立てる仮想(ヴィラン)と、それを慢侮するのは糸包クミ。各所に糸が絡まり、自由に動くことが叶わない仮想(ヴィラン)はそのまま機能停止してしまう。これで更にポイントを確保できる。これを繰り返してもう何度目か、さすがに彼女の肩は疲労を震わせていた。

 

「標的発見!標的発見!!」

「ブッ殺ス!!ブッ殺ス!!」

 

「3と1...これで合わせて51、か」

 

 大通りという性質上、仮想(ヴィラン)も受験者も標的を見つけやすい。今回はクミが見つかる番のようで、裏路地から顔を出した奴らの餌となった。

 しかし先攻を取ったのはクミのようで、彼女は先程壊れた仮想(ヴィラン)の千切れた四肢を本体に糸で繋ぎ合わせて補強、彼女の思うがままの玩具とする。そして右手の糸を全て使って、ようやっと使用可能となった玩具は彼女の手に連動して動く。サイドスローの様にして手を振れば、それに合わせて3Pの仮想(ヴィラン)の右側面へと突撃。人差し指を弾いて左碗部を操作。仮想(ヴィラン)の内の一つにそれを突き刺し、破壊。残りの一つにはその残骸を思い切り投げつけて吹き飛ばした。仮想(ヴィラン)はポイントが増える程、強度と大きさ、戦闘能力が上がっている為、3Pと衝突した1Pは所々砕けながら機能停止、即ち戦闘不能となる。

 

「っ...!」

 

(こんなに重いの持った事ないから指が...!)

 

 こんなポイントの稼ぎ方を試験開始からずっと続けていたクミの指は限界に達していた。指先はジンジンと痛みを発し続け、糸の放射口からは血が流れ出ている。心做しか肩から先に上手く力が入らず、脱力したような感覚が彼女の身体を巡っている。

 しかも頭も痛くなってきたようだ。更に身体に重圧が掛かるような気がする。動悸も速まる。ドクドクと、どくどくと。

 

 瞬間、轟音と共に彼女が踏ん張っている地面が大きく揺れ、試験会場を包んだ。混乱渦巻くビル群の中に、突如として現れたのは摩天楼かと見間違える程の巨大なロボット、仮想(ヴィラン)だった。

 

「...でか」

 

 少しでも気が抜けば倒れる。そんな状態のクミにとって、()()()()()()()()()()()()は格好の獲物だった。

 

(3ポイントとは比にならない大きさ...ざっと見積もっても30倍?って事はだいたい100ポイント......)

 

「ホント、頭おかしいよ。雄英高校...」

 

(こいつ倒せば...試験合格は確実)

 

 今の彼女の脳内は、目の前の巨大な塊のみが映し出されており、それを打ち倒す手段が勢い良く書き出されていく。

 

(今まで通りのやり方じゃダメ。動きを制限する為の本数が圧倒的足りない...あの巨体をどうにかする術...機能停止?電源を切る...何処にあるか分からん...思い切り投げ飛ばす?そんなパワー、私の糸に無い...)

 

 廻る廻る。思考は巡り廻る。

 

(...切る...斬る?どうやって?それを斬れる程の鋭い刃...は、無い)

 

「でも、下位互換の硬度なら幾つもある...か」

 

 彼女の目線の先には、先刻打ち倒した、打ち倒された仮想(ヴィラン)の群集があった。それらはまるで夜中3時に目覚める玩具達の様に立ち上がり、動き始める。

 

「烏合の衆...集めて、合わせて...」

 

 まるで自らの意思でクミの元に集まるゴミ屑達は、歪な形をしながらも凡そ真っ直ぐに、縦に伸びる。試験会場中の玩具達は集まり、高く、更に高くと伸びていく。

 

「...併せて」

 

 壊れかけの機械、そしてそれを纏める10本の糸で構成された巨大な刀。刀というよりは棍という言葉の方が合っているだろうが、彼女のそれは刀だった。摩天楼かと見間違う程の仮想(ヴィラン)に勝るとも劣らない程の高さの其れは、たった一人の少女によって支えられていた。

 

「せーのっ!!!」

 

 その刀剣は、『振るう』と言うより『押し潰す』という形で標的を襲う。其れは大型トラック同士が高速道路で対面衝突したかのような轟音を放ち、そこにいた筈の仮想(ヴィラン)は膝が崩れ落ち、残った胴体は恰も彼女に負けを認めるかのように頭を垂れた。 壊れた機体は砂埃を巻き上げ、忽ち辺りを包み込む。

 

「すごいね...アンタ」

 

「...ん、大丈夫?」

 

 砂埃の傍から現れたのは、小柄でボブカットの少女。どうやら右腕を負傷しているらしく、左手で必死に抑えている。指先からは零れた血が小さな川のようになって落ちているのも見えた。

 

「...ちょっと腕貸して」

 

「え?ちょっと!」

 

 有無を言わさずに彼女の着ているジャージを脱がせると、クミは自身のタオルを傷口へと被せて糸を巻き付ける。

 

「タオルはまだ使ってないから綺麗な筈。後で保健室に行ってキチンとした包帯で巻いてもらったがいいかもしれない」

 

「え?え、えと...ありがと」

 

「うん。それとあと...見物人、ちょっと下がって...さすがに辛いんだけど」

 

 いつの間にか、彼女達の周りを囲むように受験者達が集まっていた。やはりあの並外れた巨体の仮想(ヴィラン)をたった一人で倒した受験者に興味津々のようだ。だがそんな彼らを一瞥したクミはすぐに退るよう指示。素直に言う事を聞いた受験者達がある程度離れたところで、彼女は個性を解除した。

 

「ドンガラガッシャーン...ってね」

 

「これ...さっきの」

 

「衝突し、壊れ合い...崩れ去り。飛び散ったデカい欠片は一応集めて上で留めといた。擦り切れた糸だともう耐えらんなかったから、ちょっとだけ新調させてもらったけど」

 

 彼女らの傍には先刻の機械片が一塊になって山のように積み上げられている。殆どが幼児以下程度の大きさだった。

 空中で毀損された彼女の玩具は、様々な大きさになり重力に従って地に向かい落ちようとしていた。だがしかし、クミは其れを縛り付けていた糸を瞬時に操りビル群の間に巨大なネットを形成させた。出せる量目一杯を放ち、糸の密度を上げて取りこぼしの出ないように。

 

(この数十分の間で、随分糸の強度が上がった気がする...)

 

 

 

 

 

 

 

 試験終了の合図を受けて、出口へと向かう受験者達の波の中にクミはいた。隣には先程助けた少女もおり、同じ歩幅で歩いている。

 

「仮想(ヴィラン)追っ掛けてたら急に出てきたデカいのに吹き飛ばされた...か。それは災難だったね...」

 

「ホントね。あん時押し潰されるかと思ったんだけど、アンタがぶっ潰してくれたお陰で助かった。まじでありがと。」

 

「別にいいよ。あんだけデカいポイント、貰っておかなきゃ損だしね。」

 

「え?...あいつ、0Pなんだけど。話聞いてなかった?」

 

「...え?」

 

「え?」

 

「えっ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...私の苦労どこいった」

 

 

 

 

 

 

 


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