まあスリザリンと一番絡まなさそうな
ハッフルパフじゃね…
D.M「フォーイ」
相変わらず生徒でごった返している図書館、クディッチの試合が終わって以降その数はさらに膨れ上がっていた。クディッチの練習で忙しかった選手たちも、クディッチの熱で現実から逃れていた生徒たちも加わり今の図書館は自分が座る場所を探すのさえひと苦労する。ひたすら羊皮紙と教科書を睨み、羽ペンを無我夢中で走らせる生徒の中に何故か俺に向かって小さく手を振っている連中が居た。
「こっち、空いてるわよ」
「…ありがとう」
そう言ってきたのはハーマイオニーだった、その隣にはハリーとロンの二人も座っている。どうやら、こいつらも勉強のためここに来たようだ。…もっとも実際はハーマイオニーが二人に勉強を教えているのだろうが。
席を紹介してくれた彼女に礼をいい、その席に座らしてもらう。そして俺も他の生徒同様に羊皮紙と羽ペンを取り出した。
「あっそれ…使っててくれたの、調子はどう?」
「ああ、ペン先が冴えている。それに羊皮紙の滑りも良い」
そうだ、これはクリスマスプレゼントとして彼女から貰った物だ。
…実はあの時、贈ってくれるヤツが居るとは思っておらず彼女とキニスに何も贈っていなかったことに後で気づいた。今度は必ず贈らなければ…、俺は少しの後悔を思い出し、申し訳ない気分になりつつも勉強を開始した。
この時期はもう、例の呪文の研究は全くせずに学期末試験のための勉強に専念していた。というよりは一時中断と言った方が正しいのだろう、あの日閲覧禁止の棚に侵入し主な本は決めていた。それにいつ再び侵入するのかも決めてある、その為今研究を焦る必要はないのだ。
だが、不安はある。それはあの日見たもう一つの物、クィレルだ。無論あいつとスネイプの行動だけは分からないというのもあるが、何よりヤツが企んでいる事が何なのか、それが俺の心に緊迫したものを残していた。あれからだいぶたったがクィレルは俺が見ている限り特に目立った行動はしていない。故に、ヤツの狙いは未だ分からない。だからこそ漠然とした不安が俺の中に漂っているのだ。
「…ねぇキリコ、ニコラス・フラメルって知ってる?」
「…賢者の石の作成者だな」
そう、以前読んだ本に書かれていた人物だ。
…しかしこの質問は何の為だ? こいつの事について知らなければならないような試験は今学期出ないはず。単純に知識を満たすのが目的なのか。だが質問の理由はその後ろから察することが出来た。
「や、やっぱりキリコも石を―――」
「ロン!」
石、それは間違いなく「賢者の石」のことだ。だがそこから何故俺に繋がるのか―――
…まて、「キリコも」? これは俺以外に石に関わるような人間がいるということなのか?
賢者の石、命の水、不老不死、それに関わろうという人間が居るとしたら、その理由は不老不死の可能性が高い。そんな人間が居るとするなら―――そいつは―――つまり―――
「…俺が賢者の石を狙っている、…そういうことか?」
「「「!!」」」
この反応、間違いない。ヤツらは俺と…おそらくクィレルが賢者の石を狙っていると考えている。そうなら今までの不審な行動の理由も―――
…? ならあの時、ハリーに呪いを掛けていた理由は何だ? ヤツが石を狙っていると仮定してもハリーを襲う理由にはならない。それに俺も石を狙っていると、あいつらが考えている理由も分からない。
…こいつらは、恐らく俺の知らない事を知っているのだろう。それを聞いてみる必要があるかもしれない。
「…何故、俺が石を狙っていると思った」
「い、いや!? そんな事全然思ってないよ!?」
「ロン…もう駄目だよ…」
「…ハリーとロンから聞いたの、クリスマス休暇の時あなたがクィレル教授とスネイプの話を盗み聞きしていたって」
「ハーマイオニー! そいつに言って大丈夫なの!?」
「…それを確かめたいから聞いてるの」
…どういうことだ、まさかあの時こいつらも居たというのか? だがそんな人影は何処にも無かったはずだ。…あの時一瞬だけ感じた違和感、あれがまさか… いや、どちらにせよ見られていたのは確かだ。だからあそこに、クィレルが訊問されるような場面に居た俺も、ヤツ同様石を狙っていると疑っているのか。
「そうだ、俺はあいつらの話を聞いていた。…逆に聞くが、お前達は何故ヤツが石を狙っていると考えた」
「キリコは初めてハリーがクディッチの試合に出たとき、箒の様子がおかしかったのは知ってる? あの時私達は
それだけじゃないわ、貴方も見たと思うけどスネイプはクィレル教授を脅していた、あれは石の在りかを聞き出すためだと私達は考えたの。
証拠にスネイプは石が隠されている部屋の罠を突破する方法を―色々な人から聞き出していたわ」
「…罠?」
「そう、あの部屋には石を守るために先生達が色んな罠を仕掛けているわ」
…どういうことだ? 何故こいつらは呪いを掛けたのを
…おかしい、あの時呪文を唱えていたのはクィレルも同じ、ならば何故スネイプの方に火をつけた? どちらが呪いを掛けているか分からないなら両方に火を着ければよかったはずだ。
いや、思い出せ、あの時クィレルは何処にいた? そうだ柱の近くにいたはずだ。そしてグリフィンドールの観客席は………
「…あのクディッチの日、お前達の席からクィレルは見えたのか?」
「えっ、クィレル教授?」
「そうだ」
「……………ハリー、あなたあそこでクィレル教授見かけた?」
「いや、僕は客席を見てる余裕はなかったよ」
「じゃあロンは?」
「え? えーと確か居たとは思うけど、…僕らの席から見た覚えはないなぁ、もしかしたら僕らから見えない所にいたのかも」
………! そうか、いや、もしそれが狙ったものだとすればヤツの目的は…まさか……
「キリコ、石が隠されている部屋の…罠の越え方を知りたくない?」
…? 急に何を言い出したんだこいつは、俺を疑っているのに何故それを助けるような事を言うのか、それとも別の狙いがあるのか。
「知りたいなら教えてあげる。ただし私達も知りたいことがあるの、それは石が隠された部屋。もしそれを教えてくれるなら教えてあげてもいいわよ」
こいつらは俺を疑っている、つまりこの取引の意図は…俺が石を狙っているかどうか見定める事。恐らくそれだ、もし俺がこの取引に乗ればそれは、「石の在りかを突き止めている」つまり石の在りかを知ろうとする理由が存在することを。「罠の越え方を知る必要がある」それは石を手に入れたいから知る必要がある。という二重の証拠を得ることが出来る。
ならば俺の選択は、というよりもそれしかない。
「知る必要はない、何より俺は石の在りかを知らない」
…実のところ、見当はつく。四階廊下の突き当たりに存在する「死の潜む部屋」に石はあるのだろう。しかしそれはあくまで見当でしか無い以上、取引に使うことはできない。それに俺自身賢者の石に興味が無いため、罠の突破方法も要らないからだ。
「…お前達は石を守るつもりなのか」
「ええ、もちろん」
「………」
「………」
…しばしの間続く沈黙。クィレルの目的も、呪いを掛けた理由もわかった今これ以上話す理由は何処にもない。このままこいつらを放っておくことが俺にとって一番平穏な道だ。
だが、俺も何時からかお人好しになっているらしい。死ぬかもしれない場所へ行くのを何もせずに放っておくことは出来なかった。
「…止めておけ」
「心配ありがとう、でも私達がやらなきゃならないの。」
「何故だ? お前達が調べたことを教員に報告した方がより確実ではないのか」
「言ったわよ、でも先生達はスネイプを信用しているから私達の言うことは聞いてくれない。だから私達が―――」
「
「…えっちょっと待ってどういうこと? 石を狙っているのは
そして俺は話した、呪いを掛けていたのはスネイプでは無くクィレルだということを、そしてそこから考えられる事実…ハリー達が石を守ろうとすること。それこそがヤツの狙いである可能性が高いということを。
「そ、そんなまさかクィレル教授が石を…!?」
「で、でも何でそんなことする必要があるんだよ!?」
「それは分からない、だから可能性と言ったんだ。それに恐らくこの事はダンブルドアも気付いている」
「何だって!?」
「だからこそ、わざわざ敵の罠に飛びいるような危険を侵す必要は無い。俺が言いたいのはそれだけだ」
「で、でも僕達も行った方が確実に石を守れるはずだ! それに―――」
「ハリー、ロン、ハーマイオニー」
「………」
「命を粗末にするな」
そして俺は席を立つ、これ以上居てもあいつらが気まずいだけだろう。だがこれで伝えることは出来たはずだ、もう余程の事が無い限り危険に首を突っ込むことは無いだろう。
…俺はどうする? いや俺も同じだ、クィレル…スネイプかもしれないが、奴等の企みをダンブルドアが知っている以上下手な手出しは余計な混乱を産み出す。
俺は俺のすべきことをするだけだ。
「あのー、キリコさんちょーといいですかね…」
図書館を出ようとしていた俺にキニスが話しかける。…大量の菓子を持って。
「えー、その、申し難いのですが他の課題が多すぎて…魔法薬学まで手が回らず」
「………」
「なので、このお菓子あげるんで………」
「………」
「課題写させて下さい!」
…あまりに酷い取引に俺は呆れながらもこの取引を
「………ハアアアァァァー、き、緊張したわ…。 …そもそもハリー達が「キリコが石を狙ってる」なんて言い出さなければこんな質問を勉強時間削ってまで考える必要もなかったのに」
「ごめんハーマイオニー、…でもまさか、クィレルが黒幕だったなんて」
「でもそれは絶対じゃ無いんだろ?」
「ええ、でもこれでキリコが石を狙ってないのはハッキリしたわ」
「でもさ、キリコがバレたくないから嘘をついたのかもしれないじゃないか」
「確かにそうよ、でもキリコはあんなに私達のことを心配してくれたのよ? そんな人が嘘をつくなんて私には思えないわ」
「それでもキリコが石を狙ってないって断言は出来ない。だから気を許すのは危ないと思う」
「…そうね、でも私は信じたいの。そうでないならハロウィンの時あんなに心配して私達を助けてはくれなかった筈だもの」
テストもいよいよ近づいてきたある日、大広間はどの寮もざわついていた。その原因はグリフィンドールにある、一体何があったのかたった一晩で一五〇点も減点されていた。その結果グリフィンドールは寮対抗において最下位まで見事に転落することとなったのである。あと何故かスリザリンも二十点減点されていた。
まあ原因は簡単に予想できる、あそこまで深刻な顔でテーブルに座る三人…と一人の男の子、つまりハリー、ロン、ハーマイオニーと一人の男の子だ。それにしたって一五〇点も減点されるものだろうか、一体あいつら何をしたんだ。
…まさか、あれで尚賢者の石を守ろうとしているのか、それで何かしらの無茶をやったと考えれば筋は通る。だが実際はどうなのだろうか、本人達に直接聞くのはいくらなんでも気まずいので知ってそうなヤツに聞くことにする。
「キニス、減点の理由はハリーか?」
「うーん、さすがに細かくは聞いてないよ。僕が聞いたのはハグリットがドラゴンが何だかですごい喜んでいたってことぐらいだからね、その理由までは答えてくれなかったよ」
…ほぼ答えを言ってしまっている。つまりドラゴンの卵を欲しがっていたハグリッド(本人は秘密にしているようだがほとんどの人が知っている)が何かしらの方法でそれを手に入れた。だがドラゴンは許可なしに飼うことを禁じられてるため、困り果てたハグリットは…もしくはそれを知ったハリー達がそれを助けようとして教師に見つかった。もしくはその過程で何かしてしまった。…と言ったとこだろう。証拠にハグリッドの顔色もこの世の終わりと言わんばかりに青くなっている。
その日以降ハリー達に対する生徒の態度は一変した。それまではスリザリンに勝てるからと、英雄のようにもてはやしていたが今やグリフィンドールのみならずレイブンクローやハッフルパフからも侮辱の視線を浴び続け、スリザリンは心の底からの感謝を廊下ですれ違うたびに言っている。勝手に期待しておいてこの変わりよう、すがすがしいまでの手のひら返しに俺は少しの同情を覚えた。
「大変だキリコ! ハリーが死んじゃうよ! 助けに行かないと!」
「死ぬ? 何故だ」
ハリーが死ぬ? 罰則でか? そんな危険な罰則は流石にないはずだが。
「今夜罰で禁じられた森に行くらしいんだよ! 狼男に大蜘蛛にミノタウロスに…とにかくそんな危険な場所に行ったら大変だ!」
「落ち着け…生徒だけでいく筈が無い。随伴の教員が居るはずだ」
「え、あ、そりゃそうか。でも大丈夫かなハリー達」
日が没し、暗闇を映す窓を見るキニスはだいぶ心配そうな顔をしている。とはいえ俺もキニスもできることは無いのだ、しばらく経ち部屋へ帰ろうとするキニスと共に、あいつらの無事を祈ることで精一杯なのだろう。
賢者の石、不老不死。
それを守るもの、狙うもの、
揃いつつある役者たち、もうじき整うその舞台。
その中に巧妙に隠された真実への付線、
それを集め、繋ぎ合わせた時完成したのは戦いへの招待状。
乗るか、乗らないか。
いよいよ放たれる真実への扉、賽を振る俺はそれに気づく。
既に断たれた虚構と安息への道。
戦いから逃れることは出来ない、それこそが俺の運命なのだ。
昨日の朝、安息を手に入れ人の心に触れていた。
今日の昼、命を的に夢見た炎を追っていた。
明日の夜、愚かな油断と大きな孤影が、偽りの心に楔を穿つ。
これはニコラスが作ったパンドラの箱。
倫理を問わなきゃ何でもできる。
次回「喪失」。
明後日、どんな先の事でもわかりきっている。
名探偵キリコ テレテーレーテレテーテーテテー
ちなみに本編でも示唆してますが、
ハー子はあの質問即興でやったわけではありません。
流石に事前に考えてからやってます、
…頭良くし過ぎたかな、どっちも。 ハリー?ロン?知らない子ですね…
ハリー ロン「」