【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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最近コーヒーメーカーを買った。
美味い(気分的に)

今回特別に2話同時投稿です、こっちが前半。


第七十三話 「影法師」

 外は地獄だ。

 キリコとダンブルドア、ゲラートの活躍により、ホグワーツ湖の艦隊はほぼ轟沈した。

 だが上陸しきった武装歩兵の数が減る訳でもなく、むしろ士気は高まるばかり。

 吸魂鬼が撃退されたことで死喰い人も戻って来てしまい、戦場は混乱の一途を辿っていた。

 

 三つ巴の大混戦、散布される毒ガス。

 次々と投入される巨大なドラゴン。

 マグルの兵士も、死喰い人も、ホグワーツの生徒も、バタバタと死んでいく。

 そんな中、幸運にもまだ生き残っている者達も居た。

 

「おっと危ない! デスクワークで体が鈍ったんじゃないか?」

「お前達だってデスクワークじゃないか!」

「違う違う、残業代無し、二十四時間労働のブラック労働(デス・ワーク)さ!」

 

 冗談を飛ばすフレッド&ジョージと、頭に血を昇らせ続けるパーシー。

 だがそのジョークに何時ものキレはない、何故なら無理矢理捻り出したネタだからだ。

 しかし、無理矢理にでも笑わなければならない。

 目の前の地獄から目を背けはしないし、笑い飛ばしたりもしない。

 こんな状況だからこそ、彼等は何時も通りあろうとするのだ。

 

 だが現実は無情にも、彼等の何時もを踏みつぶしてく。

 

「アバダケダブラ!」

「しまっ───」

 

 緑色の閃光が弾け、パーシーが動かなくなる。

 ……誰が。

 叫ぼうとした双子の前に、彼を殺した女が現れる。

 

「ははははっ!

 ざまあぁぁぁないねぇ、血を裏切る者!」

「「ベラトリックスゥゥゥ!!」」

 

 笑いを捨て、怒りを剥き出しにして杖を構える。

 混迷の戦場で、思うがままに暴れ狂う彼女は正に、死の飛翔そのものだ。

 あの女を許してなるものか!

 しかし、突撃しようとした双子の前に、一人の女が割り込んできた。

 

「「ママ!?」」

「おやおや? 誰かと思えばマグル風情に殺された馬鹿の雌犬じゃないか?

 夫婦そろいもそろって、いぃっぱい苦しんで死ににきたのかい? キャハハハハ!」

 

 死人をも冒涜する挑発、彼等の母親モリーは、怒りに燃えていた。

 

「……よくも」

「あ?」

「よくも私の息子を殺したな雌狐!」

 

 瞬間、呪文が爆発した。

 

「ぐぅっ!? 何だこの力は!?」

 

 呪文の力はその人の感情によって多少だが左右される。

 多少だが、息子を殺された彼女の怒りは、頂点などという場所に納まってはいない。

 

「よくも私の夫を冒涜したな! 

 あの人は誰よりも優しかった、誇り高かった!

 それを貴様のような! 血に縋るしかない貴様風情が!」

 

 圧倒的弾幕に押されるベラトリックス。

 いや弾幕だけではない、剣幕、覚悟。

 全てにおいてベラトリックスは負けていたのだ。

 

「馬鹿にするなぁぁぁ!!」

「ば、馬鹿な!? 我が君ぃぃいいぃ!!」

 

 あれだけ、あれだけ猛威を振るった暴風が、一瞬で鎮められた。

 ベラトリックスは粉々に砕け、モリーは魔力を使いすぎ、膝をつく。

 

「……あ、あなた達は逃げなさい」

「「何を言ってるのママ!?」」

「あなた達まで死んだら、もう私は耐えられない!」

「「…………」」

 

 彼女にとって、家族を失うことはトラウマであった。

 第一次魔法戦争で両親を失って以来、それは恐怖であり続けた。

 そしてアーサーの、パーシーの死が、絶望を抉り出す。

 だからこそ。

 

「残念だけどママ、そりゃ無理だ」

「だって俺達、もう成人だし」

「ここまできて、まだ聞き分けのないことを言うの!?」

「その通り! 何せ俺達は悪戯仕掛け人!」

「死ぬまで悪ガキさ!」

 

 ここで離れれば、ママは間違いなく壊れてしまう。

 パーシーと喧嘩して、あんな険悪な空気になって。

 あれ以上の地獄何て、真っ平御免だ!

 

 双子は杖を構える、目の前に広がる鉄の騎兵を前に。

 真実の愛は、狂気の暴力に踏み潰されようとしていた。

 

 

 

 

 また、ここも地獄だった。

 ホグワーツの隠し部屋の一つに、呻き声のオーケストラが始まる。

 ダンブルドアや、マダム・ポンフリーの意向により、マグル魔法使い問わず、怪我人を治療していた。

 しかしこの混沌、この地獄。

 治療しても治療しても数は減らず、あっと言う間に部屋を埋め尽くす。

 

「包帯が足りない!」

「カーテンを千切れ! なければ自分のローブをだ!」

 

 もう薬はない、包帯もない。

 あるのは魔法だけだが、ポンフリーの魔力も限界に近付きつつある。

 

「先生! ネビルが!」

 

 駆け込んできたルーナの抱えるネビルは、全身が焼かれて爛れていた。

 

「静かに! どうしたのですか!?」

「マグルの持ってる筒から炎が出て、それで───」

「分かりました、スプラウト先生、直ぐに軟膏を!」

 

 ネビルは火炎放射器で全身を焼かれ、意識不明の重体。

 監視をしていたリー・ジョーダンは、スタングレネードを喰らい失明。

 コリン・クリービーに至っては、死喰い人の呪いにより、全身から蛆が沸いていた。

 その呪いを撃ったラバスタンは、肺に穴が空き今にも死にそうになっている。

 敵味方の区別なく治療する姿は、医者の鏡と言ってもいいだろう。

 だがそこに、一個のボールが転がって来た。

 

「フ、フリットウィック先生……!?」

 

 ルーナが絶句し、嘔吐する。

 それはフリットウィックの生首だったのだ。

 彼はこのある意味最重要区画である治療室を守る役目を負っていた。

 だが彼は今、生首になっている、つまり。

 

「居たぞ! バケモノの巣窟だ!」 

 

 雪崩れ込むマグル軍が、次々と人を焼き払っていく。

 

「止めなさい! ここには貴方達の仲間だって───」

「もう駄目だ! こいつらは魔女に血を吸われたんだ! 殺すしかない!」

「逃げて先せ───」

 

 一人の生徒が死ぬと同時に、マダム・ポンフリーが粉々に千切れ飛ぶ。

 魔法使いだろうと死喰い人だろうとマグルだろうと関係無く、怪我人すら皆殺しにしていく。

 通常このようなエリアを攻撃するのは、軍規、法に違反する。

 しかし相手は人外の化け物であり、戦争法など存在しないのだ。

 

「見つけたぞ! 纏めて殺してやる!」

 

 更に反対側から乱入して来た死喰い人が、残るトロールを突入させた。

 ただでさえ狭い治療室に押しかけた、巨体のトロール。

 患者も看護婦も医者も、死に絶えるまでそう時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 地獄となる戦場を逃れ、必要の部屋を目指し走るハリーとハーマイオニー。

 灰色のレディが教えてくれた、レイブンクローの髪飾りは必要の部屋にあると。

 急げ、何時ヴォルデモートが僕の命を狙ってやって来ても可笑しくないのだから。

 

 イージス艦や戦艦がなくなったお蔭で、飛来するミサイルは殆どない。

 全くない訳では無いが、戸惑っていては何時まで経っても進めない。

 結局何時も通り、がむしゃらに走るしかないのだ。

 

 そうして七階に辿り着いた彼等、キリコの特訓のお蔭か、息切れ一つない。

 此処まで来れば一息、後は必要の部屋で、三往復するだけだ!

 しかし、それは余りにも楽観的過ぎた。

 ハーマイオニーは窓から見た、此処目がけて飛来するミサイルを。

 

「身を屈めて!!」

 

 何故と問うことなどせず、反射的に身を屈める。

 瞬間壁が崩れ落ち、二人の体を瓦礫が痛めつけていく。

 

「大丈夫か、ハーマイ……」

 

 言い掛けて、絶望した。

 そんな、此処まで来たのに。

 剥き出しになった廊下から見えたのは、大量の武装を積んだ武装ヘリの大群だった。

 

 艦隊が全滅するのは想定外だったが、予備の手段は備えていた。

 それがこの、武装空挺部隊。

 ハインドDを筆頭に、ミサイルや機関砲を積んだ武装ヘリが空を覆い尽くす。

 

 十機にも上る鋼鉄の暴力に、ハリー達は囲まれた。

 どう考えても逃げ場はない、よりにもよって真後ろは必要の部屋。

 攻撃を避ければ部屋に当たり……入口は消えてなくなるだろう。

 分霊箱は、永久に破壊できなくなる。

 

 最初から、この物量に勝てる訳がなかったのだ。

 さあ化け物の幼虫め、此処で死ぬがいい!

 機関砲が回り出し、外れ無しのロシアンルーレットが始まろうとした。

 次の、瞬間。

 

「がああああああああ!!」

 

 上から来た『何か』に、武装ヘリが殴られた。

 ローターが激しく歪み、何機か巻き込みながら墜落していく。

 唖然とする彼等に向かって、彼は振り向く。

 

「大丈夫か、ハリー」

「ハグリッド!? 何で此処に!?」

「お前さん達を探そうと、天文台の跡地からずっと探してたんだ」

 

 親友であるハグリッドの助けに、ハリーは心の底から安心する。

 とは言え、空挺部隊はまだまだ健在、危機であることには変わらない。

 あの攻撃を防ぎながら、部屋に入らなければならないのだ。

 

「必要の部屋に行く気か?」

「知ってたの? この部屋の事」

「まあ……というかホグワーツの教員は大体知っちょるぞ? 勿論入り方もな」

 

 ハリーは何故か、悪寒を覚えた。

 ハグリッドから怖い程の、威圧感を感じていたからだ。

 何故、こんな雰囲気を?

 不幸にもハーマイオニーは、訳に気付いてしまった。

 

「まさか!? 駄目よ! 幾ら巨人の血を引いてたって、あんなのを喰らったら!」

「ハグリッド! 一体何をする気なんだ!?」

「盾よ! 部屋に入るまでの盾になる気だわ!」

 

 三往復するまでの間、機関砲とミサイルの嵐に晒され続ける。

 幾ら、どころではない。

 死ぬ、間違いなく。

 ハグリッドは、死ぬ気で此処に来ていた。

 

「そんなの駄目だ! 僕の為に」

 

 止めようと必死で叫ぶハリーの口を、彼は塞いだ。

 

「いいかハリー、おめえさんにはやらなきゃなんないことがある。

 それは誰もできねえことだ。

 例のあのひ……ヴォ、ヴォルデモートを倒せるのは、おめえさんだけだ」

 

 空挺部隊の陣形が修復され、ハグリッドを取り囲んでいく。

 彼はそれに向かって、仁王立つ。

 

「だから……その……何だ。

 上手く言えねえが……兎に角、突っ走れ!

 辛えだろうが、頑張るんだぞ!」

「ハグリッド!!」

「ハーマイオニーもだ! ハリーを支えちょくれ!」

「……ハリー! 早く!」

 

 泣きながらハリーは、部屋の前に立つ。

 ハーマイオニーはハリーの前に立ち、彼に流れ弾が当たらない様警戒する。

 焦らずゆっくりと、集中しながらイメージを浮かべる、『物を隠す場所』という部屋を。

 

 歩く。

 爆音が聞こえる。

 歩く。

 血の噴き出る音がする。

 歩く。

 悲鳴を必死で押し殺す声が、聞こえない。

 

 まだか、まだか、まだなのか。

 永遠にも思える距離を歩き、夢なのか現実なのかすら分からなくなる。

 けれど、往復した回数だけは、ハッキリと。

 

 歩き、終わる。

 目を開けるとそこには、必要の部屋の扉があった。

 ハリーとハーマイオニーは、何も聞こえなくなった背後に目を向けず、部屋へと飛び込んだ。

 

 その判断は、正解だったのかもしれない。

 彼は部屋を守りながらも、空挺部隊を撤退へ追い込んだのだ。

 仁王立つ影に空いた穴から、月明かりが差し込んでいた。

 

 

 

 

 何処も地獄、上も地上も。

 なら地下が地獄でない理由はない。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 息切れするキリコに、傷は一つもない。

 搭乗するATにも、損傷はない。

 だが周りには、壮絶な光景が広がっていた。

 

 鋼鉄でできていた壁は、マグマのように融解。

 空気は高温の余り、一部がプラズマとなり迸る。

 これが、一機動兵器によって作られたと、誰が信じるのか。

 

「分かったかキリコ、このレグジオネータを滅ぼすのは不可能なのだ」

 

 ワイズマンの乗るレグジオネータというATの力は、圧倒的どころの騒ぎではなかった。

 手を振れば、鋼鉄を両断する稲妻が迸る。

 直接殴れば、小隕石でも落ちたようなクレーターができあがる。

 指を突き出せば、嵐のようなレーザーが吹き荒れる。

 

 冗談じゃない、あんなのがATであってたまるか。

 異能によるものか、技量によるものか。

 天災に匹敵する神罰をどうにかかわし、攻撃をしてはみた。

 ロックガン、ヘビィマシンガン、機関砲、ミサイル、ソリッドシューター。

 悪霊の炎、バジリスクの複製毒、貫通、爆破弾頭。

 それら悉く、意味もなし。

 掠り傷さえ、付けられなかった。

 

 僅かでも傷を付けれるなら、突破口はある。

 それが偶然へと繋がり、破滅を齎すのだから。

 しかし、可能性がゼロでは如何に異能といえど成す術無し。

 ただただ一方的に溜まっていく疲労、間違いなく敗北の坂を転げ落ちていた。

 

「……憐れな、そこまで自分を追いつめて何になる?

 現実を見よ、私に敗北し全てを失うか、代行者となり友も愛も取り戻すか。

 答えは明らかではないか」

 

 服従の呪文と磔の呪文は最高の組み合わせである。

 磔で殺さない様痛めつけた所に、服従で至高の快楽を与えれば、堕ちぬ者はまず居ない。

 ワイズマンがやっているのも同じことだ。

 絶対無力をしらしめ、改めて甘美なる誘惑を教示する。

 

「…………」

 

 だが、それでも尚キリコは折れない。

 ふざけるのもいい加減にしろ、誰がお前に隷属するものか。

 ワイズマンは感心してしまった、その童にも似た諦めの悪さに。

 

「キリコよ、お前に改めてチャンスを与えよう」

「……そんなものは、願い下げだ」

「これを見るがいい」

 

 レグジオネータが指を掲げ、稲妻が走る。

 攻撃が来るか!?

 と、身構えるキリコだが、彼には何も来なかった。

 では何をした?

 稲妻の落ちた場所を見ると、一つの人影が立っていた。

 そのシルエットは、余りにも彼に似て、否、彼そのもの。

 

「───キニス!?」

 

 死んだ筈のあいつが、そこには確かに居た。

 だがその目に生気はなく、虚ろな幽霊のように立っているだけ。

 これで証明されてしまった、ある筈がないと否定したかったことが。

 

「見ての通りだ、こいつは生きている。

 私の代行者を受け入れれば、こいつもフィアナも返してやろう。

 断れば、こいつを今度こそ廃棄する」

 

 ワイズマンの誘惑というには邪悪な脅しと同時に、キニスが懐から取り出したナイフで、自身の首を切り裂こうとする。

 

「───止めろ!」

 

 代行者を受け入れたくはないが、目の前で二度も死ぬ光景も見たくない。

 わがままな思いが、レグジオネータに向けてライフルのトリガーを引かせる。

 尤も、やはり効く筈もない。

 それどころか、更に絶望的な宣言をされてしまう。

 

「無駄だキリコ、すでに命令は下してある。

 仮に私が滅ぼされたところで、こいつは自ら死ぬ選択を止めることは無い」

 

 何故だ、何故キニスはあんなヤツの命令に従う!?

 ワイズマンには、人を洗脳する能力でもあったのか!?

 自分の知らないワイズマンの力に戸惑う彼だが、それは違っていた。

 

「何故か、気になるのか?」

「…………!」

「図星か、いいだろう、教えてやろう。

 キニスが私の命令を遵守する理由は簡単だ、それは奴が『パーフェクト・ソルジャー』だからに他ならない」

「なっ!?」 

 

 キニスが───PS!?

 信じられないというキリコの顔を見て、ワイズマンは心なしか笑ったような顔をする。

 

「キニス・リヴォービアは、神秘部の戦いで廃棄する予定だった。

 だが、万一生き残った場合への備えが必要だったのだ」

「それが、PSか!?」

「そう、いざという時は私の制御下に置き、様々な方法でお前を揺さぶる事ができるように。

 戦わせる方法を考慮した場合、PS化の処置は必要だった」

 

 キニスのPS化は、いささか大変だったと、ワイズマンは語る。

 彼を意図的に事故に合わせ、入院。

 その際手駒に置いた医者達を使い、PS化の処置を施した。

 

 それは今までのPS技術の総決算。

 ギルガメス系の生体技術を中心に、脳を改造。

 更にバララント系の機械技術を発展させた、ナノマシンによる身体強化。

 最後にネクスタントの補助脳を応用した、精神のコントロール。

 

 ヂヂリウムの必要と言った欠陥は、依然として残っていた。

 だがこの問題は、新たな知識である『魔術』によって、解消することができた。

 結果生まれたのが、後天的かつ、欠陥も持たない、完全なる兵士。

 パーフェクト・ソルジャー、キニスの誕生であった。

 

「クィディッチの時奴が見せた凶暴性、あれこそPSの持つ闘争心の表れに他ならない」

「…………」

 

 俺は、どうすればいい?

 勝てない相手を前にしただけでなく、親友の命を盾に取られ。

 キリコは長い間生きてきて、初めて神を殺した時以上の混乱に襲われていた。

 此処で誘惑を無視して、鉛玉をぶち込める精神を、彼は本来持っている。

 だがこの状況において、そんな選択を取れるほど、キリコは特段強くはない。

 

「さあ、どうするキリコ」

 

 いや……そうではない。

 キリコはそこまで強くはないのだ。

 ただ誰よりも糞真面目で、優しく、繊細。

 それ故に、中々折れなかっただけなのだ。

 

「……お、俺は……」

 

 代行者にもなれない、親友の命を無視できない。

 運命の歯車に挟まれたキリコの精神は、軋みを鳴らし、今まさに折れようとしていた。

 

 ……だが、運命を。

 神如きが御しきれると。

 誰が、思っていたのか。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

「──────!!」

 

 上空から降って来た何かによって、キニスが真っ二つに切り裂かれた。

 唖然とするキリコ、ワイズマン。

 血の雨を降らせるキニスを背後に、そいつが振り返る。

 

「イプシ……ロン……!?」

「手紙の通り、再会の時は来た」

 

 キリコはどう反応すればいいか分からなかった。

 迷いをぶった切った彼に感謝すれば良いのか、それともキニスを殺した彼に怒れば良いのか。

 

「らしくもないなキリコ、そんな誘惑に戸惑う男とは思わなかったぞ」

 

 呆れたように呟くイプシロンに向けて、静かな怒りを滲ませる神が迫る。

 

「誰かと思えば、ロッチナの転生に引き摺られたPSか」

「お前がワイズマンか、ずっと会いたいと思っていたぞ」

 

 エディアの仮面はもうない、剥き出しの表情には、般若の面が張り付いている。

 

「愚かな、私に利用されるだけのPS風情が、敵うと思っているのか」

「…………」

「だが神罰は与えなくてはならない、キリコへの誘惑を破壊した罪は重い」

 

 レグジオネータが、生身のイプシロンに向けて手を構える。

 しかしイプシロンが気にする様子はなく、燃え盛る目で睨み付けるだけ。

 彼は語る、自らの怒りを。

 

「……例え意図されたものでも、それは誇りだった。

 お前はそれを穢した、あろうことか、キリコとの決着まで!」

「そうだ、それがお前の限界であり、運命なのだ」

「私はお前を許さない、()()()の誇りを穢すものを許しはしない!」

 

 パーフェクト・ソルジャーとして、勝利する事。

 誇りだったそれは良いように利用され、最後は茶番で幕を閉じた。

 彼は怒る、利用された彼の気持ちで。

 

()は貴様を許さない、()を、キリコを傷つけたお前を!」

「……何を言っている?」

 

 何だ、何だこの違和感は。

 神は再臨以来感じたことのない感情を味わい、動揺していく。

 

「例えそれが仮初だったしても、イプシロンの無念は、晴らさなくてはならない!」

「貴様は……まさか!?」

 

 エディアが、自らの顔を握る。

 彼等は、神に宣戦布告する。

 

「僕達は貴様を絶対に許したりなんかしない! してなるものか!」

 

 握った手を引っ張り、イプシロンの顔が、髪が引き千切れる。

 そこに居たのはイプシロンではない。

 エディアでもない。

 そう、彼は───

 

「キ……ニ……ス……!?」

「待たせてゴメンね、キリコ」

 

(何故? どうして?

 湧き出てやまない疑問の数々。

 神を探している時も感じてきた感情が、俺の中で溢れる。

 しかし致命的な差がそこにはあった。

 この気持ちは、決して悪いものではない)




暗闇から飛来する鉄穂が、賢者の目が仕組んだ(かいら)が、今重く厚い過去のベールを引き剥がす。
その後に語られる夥しい施術。
その後に明かされる、忌まわしい記憶。
憎悪と殺意の人間兵器、パーフェクト・ソルジャーの、彼は孤影。
細かく濃密な電子の網で、やがて赤い溶岩を晒す大地で。
次回、「孤影再び」。
鉄の(けだもの)達の競演が始まる。




はい、予想通り生きていました。
理由は次回です。

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