【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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正真正銘、最後の箸休め回です。
久方振りにあのストーカーの出番。
次回からはいよいよホグワーツ決戦に突入です。


第六十九話 「凶兆」

 英国魔法省とは、秩序の要。

 例えそれが死喰い人による、理不尽かつ頽廃的な、余りに無軌道なものだったとしても変わりはない。

 服従の呪文を掛けられたシックネスによる様々な政策により、ここは地下に建設された巨大な拷問施設になっていた。

 日々マグル生まれの魔法使いを裁判にかけ、その場で拷問し、その場で吸魂鬼の餌にする。

 こんな物が地下にあって、地獄でないとは言い逃れられまい。

 

 しかし今日、この地獄が終わる時が来た。

 否、新たな始まり。

 新たな地獄が産声を上げる時が来た。

 何の前触れもありはしない、ノアだけが生き残った大洪水のように、裁きとは唐突に訪れるものなのだから。

 

 唐突に魔法省を覆っていた透明化呪文が、解かれた。

 それだけでなく多くの人々によって築かれた護りの結界全てが、剥ぎ取られた。

 何もかもが剥き出しになった魔法省に、洪水が押し寄せ……ない。

 

 ……何も来ないぞ?

 結界が解かれパニックに陥った職員達だが、それ以上何も起こらないことに首を傾げ……泡を吹き倒れた。

 倒れる、血を吐く、崩れる。

 その様を見て漸く攻撃を受けていることに気付いた職員が逃げ出すが、そんなことで毒ガスから逃げ出せる訳がない。

 何人かは毒ガスと気付き、『泡頭呪文』で防ごうとするが、呼吸だけでなく肌からも殺しにかかる化学兵器には敵わない。

 悲鳴と絶叫が、次第に言葉にならない呻きへと変わって行く。

 しかし、意外にも使用しているのは非致死性の化学兵器であり、まだ死人は居ない。

 

 だがあくまで死んでいないだけ、意識は朦朧とし、吐き気と眩暈で今にも発狂しそう。

 それこそが、それこそが彼等の目的。

 対化学兵器装備をした兵士達が、戦車の大群が、洪水が押し寄せる。

 

 ガスにやられもがく職員を、片っ端から銃殺していく。

 ウジ虫のように這いずり回る連中は戦車で潰す、穴倉に立てこもる蟻共は砲弾で駆除する。

 そこを見てみろ、とっくに死んで頭が真っ二つになった死体を、満面の笑みで何度も何度も刺突している。

 そっちはもっと凄いぞ、大量の職員がキャタピラに呑み込まれ、まるでミキサーみたいだ。

 

 何故非致死性の毒ガスを使ったのか?

 答えは、自分達の手で殺す為だ。

 これは魔女狩りなのだ、ハンティングなのだ、正義に捧げる供物なのだ。

 今まで自分達を狩ってきたきた悪逆非道の魔物に与える、鉄と血と硫黄の炎。

 職員だろうが死喰い人だろうが、冤罪で捉えられていた魔法使いだろうが関係ない、全員虫だ、虫に区別はない、等しく焼却炉へぶち込んでしまえ。

 

 逃げる連中は当然殺す、逃げない連中も当然殺す。

 そして更なる混迷が巻き起こる。

 増援が来た!

 民間人の自称レジスタンスが現れた!

 

 今までの暮らしを全て壊された憎しみが、彼等を駆り立てる。

 まだ残っているガスに何人かやられるが、知ったことではない。

 逃げる職員を捕まえ、ごくごく普通の主婦が、手に取った包丁でそいつの目を抉った。

 農民の鍬が腸をぶちまけ、ただの浮浪者も瓦礫を手に取り、頭をかち割る。

 

 悍ましいのは彼等の多くが、笑顔だということだ。

 彼等に罪悪感はない!

 これは正当な復讐だからだ!

 世界を浄化する大義もある!

 菩薩の笑みは人を殺し、返り血で両手を染めると、更に美しくなった。

 死体と血溜まりから聞こえる、狂気で溢れた笑い声。

 

「おい! 豚が隠れていたぞ!!」

「ヒィッ!?」

 

 法廷の隅に隠れていたのは、ドローレス・アンブリッジだ。

 彼女は今までシックネス政権の元、マグル生まれ登録委員会会長として、多くの罪なき人々をアズカバン送りにしていた。

 その彼女が死ぬことに文句のある者は、当人以外居ないだろう。

 

「太っているぞ! まさしく魔女だ!」

「全身ピンク色? そうか血だ! こいつは全身に血を染みこませているのか!」

「魔女だ! 魔女がまだ生きてやがる!」

「ゆ、許してください! 何でもしま───」

 

 瞬間アンブリッジの頭が花火になって消えた。

 命乞いは聞かない以前に聞いていない、復讐の美酒に酔いしれているのだ。

 大量の兵士に取り囲まれ、散弾銃による暴行を受けた。

 バラバラに吹き飛んだ上のミンチ死体、その様は尻から空気を詰め込まれ爆散した蛙のよう。

 その蛙の残りカスを集めて、トイレに流す。

 

 返り血を浴びて、死体を全身に張り付かせて、魔法省をあらゆる意味で滅ぼしていくマグル達。

 老若男女も関係ない、誰もが等しく殺戮者。

 彼等は気付いていない、自分達がもはや軍隊でもレジスタンスでもないことに。

 

 暴徒、いや、ただの獣。

 獣以下の畜生、違うな、更にその下。

 喪失に腹を空かせ、満たされない復讐で飢えを満たさんとする餓鬼。

 彼らは餓鬼に、本能すら碌にないバケモノに成り果てていたのだ。

 

 

 

 

 果たしてこの状況を、神は制御しきる自信があるのだろうか?

 ロンドン市内に用意したセーフハウスから、魔法省崩壊を眺めるロッチナは思った。

 ……しかし、襲撃が上手く行き過ぎている。

 何故魔法省の護りの消えるタイミングが、マグルに分かったのか。

 ロッチナは考え、やはり『神』だろうと結論付ける。

 

「凄まじいことになっているな」

「どこの魔法省でも同じだ、もう魔法界の政治体系は持たないだろう」

 

 机を挟んで椅子に座り、紅茶を飲む。

 フウと、一息つき、その老人が話し出した。

 

「で? 私何ぞを招待して何のようだ?」

「お前と話したいだけだ、ゲラート・グリンデルバルド」

 

 首を傾げるゲラート、彼は用事……世界中を回り、どちらかといえば自分寄りな魔法使いを、闇の陣営から引き剥がしてきた彼は、最近になりイギリスへ帰国した。

 その時目の前にクィレルが現れ、ここへ連れてこられたのである。

 誰にも入国を悟られたくなかったので助かったが、正直疑問しかない。

 

「お前に話すようなことなど無いぞ? できて精々昔話だ」

「それを聞きたいのだ、もっとも昔話にしては少々最近だが」

「最近?」

「キリコに会ったな?」

 

 ゲラートはますます分からなくなった。

 確かに会ったには会ったが、キリコ本人に関して知っていることなど何もない。

 それどころかヌルメンガードで合ったのが初対面、そんな私から何を聞こうというのか。

 首を傾げる彼に、ロッチナが自分の目的……否、運命を告げる。

 

「私はキリコを探求する者だ、故に奴の関わった者、関与した事象、その全てが興味の中にある」

 

 かつてマーティアルの地下でキリコの資料を編纂していたように、彼はこの世界でもキリコの軌跡を追い続けている。

 ゲラートとの関わりも当然、知るべき事象の一つ、だから此処に呼んだのだ。

 そうか……で納得する筈がない。

 

「それは構わないが、何故そこまであの男に興味を持つ?」

 

 ふとロッチナの顔が強ばり、困ったようであり、懐かしそうでもある顔で天を仰ぐ。

 

「何故……か、それは非常に難しい問いかけだ。

 奴の不死性、異能に興味を持っていたのは確かだが、始まりに過ぎない。

 嫉妬もあった、ヤツは私が望んで得られなかった物を得られたに関わらず、あっさり捨てたのだから」

 

 ある意味最もキリコを知り、最も知らないと知る男、ロッチナ。

 彼の抱える感情は長い年月故に、とても複雑である。

 当の本人も今の今までキリコにしか興味を抱いていなかったせいで、初めて自分の思いについて考えたのだから。

 

「……そうだな、ある意味嫉妬が一番近いのかもしれない。

 全能の力にせよ、彼女にせよ、あれだけ追い回して尚、キリコの中に私は居ないのだから……む?」

「どうした? 何か分かったのか?」

「そうか、そういうことか。

 成る程、それはまさしく『毒』に等しい」

 

 一人頷くロッチナが得た答え、それは余りにもチープだが、そうとしか形容できないものだった。

 

「『愛』か、私はキリコを愛しているのか」

 

 ゲラートが訝しげな顔をする、彼にとってそういうのは、覚えのない感覚ではなかった。

 無論、そうではない。

 

「キリコは何なのか。

 キリコが持つものは何なのか。

 キリコは何を成すのか。

 それを知ろうとするのは、私も奴に魅せられた一人だからか」

「……結局、何が言いたい」

「至極単純なことだよ……私もキリコのファンだということだ」

 

 ファンだからこそ、より知ろうとする。

 ファンだからこそ、何処までもおいかける。

 そして、決して舞台に立つことのない観客だからこそ、嫉妬し、魅せられる。

 それはまさしく、『毒が回った』と言って相応しい姿であった。

 

「…………」

 

 しかしアストラギウスを知らないゲラートに、この複雑怪奇な心境を理解するのは無理な話。

 そうか、とお茶を濁すしかできなかった。

 

「まあ私のことなぞどうでもいい、今肝心なのはお前についてだ」

「……キュービィーと話したことを話せばいいのか?」

「そういうことだ、奴との会話はどうだった? ワイズマンについてどれ程教えた」

「!? 待て! お前はワイズマンを知っているのか!?」

 

 目の前の男から唐突に振られた、魔法界を支配する未知の名前。

 知っている人間などほんの僅かしか知らない存在を、何故こいつが知っているんだ。

 こいつは只のファンでは無かったのか!?

 ワイズマン、ロッチナ、そしてキリコの関係性について知らない彼は、尋常ならざる衝撃を受けた。

 

「知っているとも、私は『神の目』なのだから」

「『神の目』……だと?」

「魔法省が神の手足だとするならば、キリコを追いその動向を掴み続ける私は『神の目』になる。

 とは言え今もそうなのかは知らないがな」

 

 自分がこの世界に転生したのは、キリコとの『縁』によるものだと彼は語った。

 それは間違いではない。

 しかし、もう一つの可能性を彼は考慮していた。

 私はキリコを捕え続ける『目』として、ワイズマンに転生させられたのではないだろうか。

 

「……神の目だった、ということか。

 しかし、よくそれを自覚できたな」

 

 ワイズマンは人に気付かれない様、環境をコントロールし人を操る。

 知らないうちに課せられた自分の役目を自覚することが如何に難しいのか、ゲラートはよく知っていた。

 

「まあな、ある意味運が良かったのだろう」

 

 秘められた真実を語る理由は特にない、と適当に返すロッチナ。

 何か隠しているな、とゲラートは訝しみ、誤魔化すように言葉を続ける。

 

「恐らくは……だが、私が魔法省や各機関に報告したキリコに関する情報が、様々な機関を通じ、ワイズマンの目に届くようになっていると、推測できる。

 逆に言えば私が目を閉ざし、誰にも報告しなかったことは、ワイズマンも知らないだろう」

「裏切りか?」

 

 ロッチナの言葉は、ワイズマンに知られたくない情報を渡さないという、裏切り宣言と同一。

 ひょっとしてこいつも神への叛逆を望んでいるのではないか……だがロッチナは、薄い笑みを浮かべるだけ。

 

「私は中立だよ、一介のファンが舞台に乱入したら、全て台無しではないか」

「では報告しない時とは、どんな時だ?」

「キリコ探求が妨げられようとしている時に決まっているではないか」

「……またキリコか、随分とお熱だな」

 

 口を開けばキリコ、キリコ。

 一体こいつはどれだけキリコが好きなのか、辟易としてきた彼は小さくぼやく。

 

「フッそれは褒め言葉だよ、尤もワイズマンも一緒だが」

「ワイズマンが、キュービィーに?」

「奴とワイズマンの因縁は深い、アストラギウスの頃からな」

「アストラギウス?」

「私達はアストラギウス銀河という、別の宇宙の出身なのだよ」

 

 あっさり告げられた衝撃的な事実に、ゲラートは目を引ん剝く。

 それを他所にロッチナは話し続ける。

 アストラギウス銀河を三千年に渡り支配してきたことを。

 後継者を望み、不死、否、『異能生存体』であるキリコを誕生させたこと。

 しかしそのキリコに、二度も滅ぼされることになった事を。

 

「……信じがたい、だからお前はワイズマンについて知っていたのか」

 

 思わず天を仰いで呆然とする、こんなフィクションのようなSF世界が、実在していたとは。

 当然だ、魔法界を支配してきた超常的存在が、別の世界からの侵略者だと知って、唖然としない奴などいない。

 何から何まで無茶苦茶だが、これが現実、頭を抱えた。

 

「しかし、ワイズマンの目的は今までとは違うものになるだろう。

 後継者は失敗した。

 養育者は成功した。

 今度は何を望む?

 少なくともキリコを利用しようとしてることだけは、間違いないが……」

 

 神は賽を振らず、したたかだ。

 できなかった事を、もうやった事を繰り返す程、無駄なことはしない筈。

 再臨した神の意志は、ロッチナでも推し量れない。

 

「分からんな」

 

 ゲラートが首を傾げながら、彼に問う。

 

「何故そこまでキュービィーにこだわる? 確かに奴は素晴らしいだろう、『異能』とかいう『不死性』も。

 だが言ってしまえばそれだけだ。

 そこまでして『異能』が欲しいのか?」

「神は強欲なものだ、一度手に入れた物を諦める神など居ない、ましてやそれが自分で育てた物ならな。

 証拠に奴は再び、全銀河を手中に収めようとしている」

 

 銀河、銀河を支配する?

 かつては魔法界の頂点に立ち、マグルを支配しようとしたゲラートだが、銀河を支配するという考えたこともないスケールに、彼は今圧倒されていた。

 

「人類を発展させてきたのは常に戦争だ、魔法族とマグルの全面戦争により、人類は飛躍的な進歩を遂げるだろう。

 それは科学、魔法共に同じ、やがて肥大化した技術は地球などという一惑星では収まらなくなり、太陽系に納まらなくなり、銀河へと至る。

 かつて銀河の辺境へ追放された彼等が周辺文明を発展させたのと同様に、ワイズマンは地球の支配者から再び銀河の支配者へと到達するつもりだ」

 

 支配の愉悦、それは神にとって何物にも代えがたい快楽。

 ただの推測に過ぎない、しかし元神の目が語るその野望は、説得力に満ち溢れている。

 ゲラートは唾を飲む、一体……ワイズマンはどれ程の力を隠しているのか。

 

「まあ、最後はキリコに滅ぼされるだろうが」

 

 が、散々その力を強調しておいて、辿り着いた結論は非常にあっさりしていた。

 

「一先ず……地球脱出用の船でも頑張って用意してみるか」

「……地球脱出」

「地球が爆散したらキリコを追えなくなるからな、生きてさえいればキリコは追える」

「まて、何故地球が爆散する」

 

 疲れてきたゲラートの疑問に、ロッチナはよくぞ聞いてくれた……と考えていそうな顔で、異能の恐ろしさを語り出す。

 

「『異能』の力は生き残らせる力だ、もしワイズマンがキリコを狙っていて、地球が消滅しない限り死なないような相手だったとしよう。

 キリコが生き残る方法は一つだけ、地球が消滅することだ」

「……あり得るのか、そんな馬鹿げたことが」

「ククク……奴は有害なバクテリアだ、猛毒を持つ細菌だ。

 地球という苗床が奴を受け入れた時点で、いずれにせよ地球がただでは済まないことは確定しているのだ……そうなってもまだ、奴は死ねないがな」

 

 狂気に満ちた顔から一転、顔を伏せながらキリコの運命を語る。

 もう、あいつを追って何年になるのか。

 どれ程奴は苦しみ続けるのか、私は確かに、キリコのファンだ。

 しかし憐れにすら思う。

 終わりのない舞台程、虚しい物はないのだから。

 

 

*

 

 

 死ぬとこだった、とハリー達は語る。

 取り返した暁には、グリフィンドールの剣を渡すことを条件に、グリップフックの協力を得て行われたグリンゴッツ破りは成功した。

 侵入も何も、ダイアゴン横丁が壊滅していた為、彼等の精神を引き換えにしたものの、非常に楽に突破することができた。

 

 問題はその後、追手を警戒して辿り着いたホグズミード村での出来事だ。

 ダイアゴン横丁同様ホグズミードも廃墟と化していた。

 しかも武装したマグルが常に警備している状況、寄せ集めの死喰い人とは違う、訓練された警備網にあっさりと見つかり、捕まり掛けたのだ。

 もう駄目かと思った瞬間、自力で結界を張り店を隠していたホッグズ・ベッドのバーテンダーに助けられ、どうにか一息つくことができた。

 

「……ホグズミードも、なくなっちゃったんだね」

 

 ロンが悲しげに呟く、週末によく通い、色々なことをして遊んだ思い出の場所。

 廃墟と化した地平に、哀愁が漂う。

 

「……それで、お前達はヴォルデモートと闘うつもりなのか?」

「……そうです、その為にここまで頑張ったんですから」

 

 ダンブルドアそっくりのバーテンダーに、ハリーは強い意志を持って告げる。

 彼は警告する、勝てる相手ではないと。

 勝った所で、平穏は取り戻せないと。

 

「それでも、やります」

「……フン、そうか」

 

 ギイ、と扉があく。

 誰だ!?

 ここは姿を隠した避難所の筈じゃ!

 杖を構え警戒する彼等だが、扉から現れたのは……キリコだった。

 

「な、何だぁ……驚かさないで……」

 

 また悍ましい襲撃に合うのか。

 と震えていたハーマイオニーは、腰を抜かし崩れる。

 

「……貴様も帰って来たか」

「ああ」

「……どうだった? ニワトコの杖は破壊できた?」

 

 不安げに尋ねるハリーに、小さく頷く。

 破壊も破壊……遺体諸共粉みじんである。

 

「……お前も、戦うのか?」

「当然だ」

「そうか、なら勝手にするがいい」

「……貴方は戦わないんですか?」

 

 ハリーがバーテンダーに尋ね、彼はその通りと返す。

 勝てる訳がないからだ、という彼の理由は、掻き消された。

 

「貴方はそれでいいんですか、それで妹に顔向けできるんですか……アバーフォースさん!」

「…………」

 

 ハリーの一言が、バーテンダーの、いや、アバーフォース・ダンブルドアの胸を抉る。

 こんな終わり方でいい訳がない。

 それじゃこの人は、一生後悔する。

 色々な気持ちを混ぜ、彼を説得しようとする。

 

「「茶番はやめろ」」

 

 しかし、説得は強制的に終わらされた。

 キリコと、店の奥から出てきた誰かの声によって。

 

「は!?」

「ど、どうなってるの!?」

「アバーフォースさんが……二人……!?」

 

 店の奥からアバーフォースが、目の前に立つのもアバーフォース。

 これは何だ、ドッペルゲンガーか何かか。

 思考停止に陥った三人を無視し、店の奥から来た方のアバーフォースが、怒りを滲ませながら怒鳴る。

 

「こいつらは十七歳だ、それも三人しか居ない。

 そんな状況で、何時死んでもおかしくない地獄を生き延びてきたんだぞ!

 闇の陣営どころか、護ろうとしているマグルにもだ!

 ふざけるのも大概にしろ!

 それ以上ふざければ俺はお前を軽蔑する! 妹を見捨てたあの日以上に!」

 

 妹を、見捨てた!?

 アバーフォースの言葉に、ハーマイオニーがハッと口を塞ぐ。

 続けてロンとハリーも、息を飲む。

 

「……そうだな、いや、そうじゃな」

 

 アバーフォースの顔が、僅かに歪んでいく。

 知っている、これはポリジュース薬の効果が切れる時の見た目だ。

 そして、目の前に居たのは───

 

「ダンブルドア……先生……!?」

「ただいま、ハリー」

 

(今、一つの茶番が終わった。

 神もを食わす芝居が終わった時、俺はどれ程の咎を受けるべきなのか。

 今はただ、開かされる真実の一つを、見守るしかない)




膨大な、あまりにも膨大なエネルギーの放出。
巨艦を突き抜ける閃光。
塵も残さず消え去る艦隊。
1000年の歴史の彼方から、異能のエネルギーが降臨する。
混沌か、狂気か、キリコか。
未知なる意志を触発したのは何か。
次回「開戦」。
ホグワーツの空が燃える。



「ダンブルドア! 死んだ筈じゃ!」
「残念じゃったな、トリックじゃよ」
生きてやがったかこのジジイ。
何故生きていたのかは……次回。

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