【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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話数配分を考えていなかったせいで
僅か五千字になってしまったことを
深くお詫びします。

…次はもっと短くなるんだろうけど…





第七話 「観察」

「………」

 

俺は息を潜め、ヤツらの様子を伺っていた。そして居なくなったのを確認すると次の場所へ移動する。

…俺は夜の校舎を出歩いていた。

何故こんなことをしてるのかと言えば「閲覧禁止の棚」の本を見るためだ。既に図書館の本はだいぶ読み尽くしたため、そろそろ禁書を見ても理解可能な頃合いだと考えたため図書館への潜入を決定した。

しかし夜の校舎は監視の教員や用務員のフィルチにその飼い猫等が巡回しており簡単には侵入させてくれない。

中でも特に危険なのがあのやたら派手な格好をしているゴースト、ピーブズだ。

あのゴーストはかなりの悪戯好きであり入学してから俺を含めて多くの生徒がその犠牲になっている。よって万が一あいつに見つかれば大惨事は免れない。

だから今はこうして身を潜め教員の巡回コースやゴースト(主にピーブズ)の行動傾向を観察している。

…この調子ならあと三日程度で侵入可能になるだろう。そろそろ次の場所へ移動を―――!

 

瞬発的に俺は姿を隠す。誰だ、この時間はここに人は居ないはず。

 

「セ、セブルス!?あ、い…いや、私は…」

 

「私を敵にまわしたくはないだろう?」

 

「は…話がさっぱり…」

 

「よくおわかりの筈だ。近々また話すとしましょう。その時までにどちらの側につくのか決めておくんですな。」

 

廊下にクィレルとスネイプの声が響き渡る、理由は分からないがどうやらスネイプがヤツを訊問しているようだ。

その理由は分からない、しかし原因は分かる。あの時、クディッチの試合の時ハリーに呪いを掛けていたのがそうだろう。

あの時スネイプは対抗呪文を唱えて対抗していた、スネイプはヤツが何を企んでいるのか知っているのだろうか。

だが何故だ、何故わざわざこんな脅迫をする必要性がある? ほかの教師に知られればスネイプもただでは済まない。

…まさかダンブルドアはこのことを知っているのか、だとすれば合点がいく。校長が直々に許可をしてるのならこんなことをする理由も―――

いやそれもおかしい、校長が知っているのなら直ぐに、もっと直接的な手を打つのが普通だ。ならばこんな回りくどいことをする理由は一体…

 

………

 

どうやらスネイプ達は居なくなったようだ、改めて確認をとった後、俺は次の場所―――禁書棚へ向かうことにした。

結局訊問の理由も、クィレルの企みも校長が直接的な手段をとらない理由も分からなかった。

だが、脅迫までしてそれがただの汚職や失態とは考えられない、ヤツが隠していることが普通でないのは間違いない。

…あの試合の日から感じていた予感、それは今確信へと変わった。この学校には何かの陰謀が渦巻いている、その渦の中心に居座るものが何かは分からないが―――

…何か、何か凄まじいものが潜んでいる。戦場で培われたこの直感はそう確かに告げていた、そうだ、俺だけが知っている闇からの警告だ。

 

…しかし、それを知っている人間はそこに潜んでいたのだ。ヤツらに気を取られ俺は気がつかなかった、そこで潜んでいた透明の奴らに。

 

「な、なんであそこにあいつがいたんだ!? まさかあいつもスネイプの仲間!?」

 

「いや、仲間なら隠れる必要はないはずだ」

 

「じゃあキリコも賢者の石を狙ってるってことか!?」

 

「シーッ! フィルチに見つかるよ、それにもしかしたらキリコも石を守ろうとしてるかも知れない」

 

「トロールを簡単に殺しちゃうようなやつが…?」

 

「…分からない、と、とにかく早く寮に戻ろう、フィルチに見つかったら大変だ」

 

 

 

 

閲覧禁止の棚へ入り込んだ俺は、そこの本を一冊一冊確認していく。これは欲しい本を素早く見つけるために必要なことだ、本を探すのに手間取っていたらその分見つかるリスクが増える。だから数日かけて本棚の下見も行っているのだ。幾つかそれをリストアップしていく。「魂と肉体のあり方」、「石人形による生命の誕生」、「石人形全構成解体禁書」

…大体このあたりが、恐らく俺の求める本だろうか、もう時間がないそろそろ寮に戻らなくては

 

コツ…コツ…コツ…

 

…! まずい、誰かが入っている。周りを見渡し一つのドアを見つけた俺は静かに素早くその部屋に駆け込んだ。

…この部屋は昔使われていた教室のようだ、壁際の机と椅子がそれを証明している。なら、あの中心に置かれている鏡は一体何だ? 俺は鏡に近づき、自分の姿を映し出す。そこには―――

 

 

 

 

 

フ ィ ア ナ が 立 っ て い た 

 

 

 

 

 

「フィ……アナ………?」

 

肩まで届く長い長髪、今にも消えてしまいそうな儚くも美しい顔。鏡に映っていたのは間違いなく、あの日、俺の手から零れ落ちたささやかな願い、フィアナそのものだった。

 

「何故…何故フィアナが…!?」

 

フィアナは俺に肩を寄せ 優しく俺に寄り添う

かつて戦いの無い世界を祈って眠ったあの時のように

だが 彼女は居ない あの目覚めの後

彼女は消えてしまった 死んでしまった

いつかまた会えると信じていた しかしそれもダメだった

彼女は もう見ることのできない 優しい笑顔を浮かべ

俺に寄り添う 

あの時のように

あの時のように

あの時の………

 

「やめろおおおおおおお!」

 

俺は絶叫し、鏡から目を逸らす。フィアナは居ないそして二度と会うことは出来ない。そんな事は分かっていた、だから俺はそれを忘れようとしていた、この生活の中で少しでもこの悪夢を和らげようとしていたのだ。

会えない筈のフィアナは、俺にそれを思い出させたのだ、会うこともできず、死んで会いに行くことも出来ない絶望を思い出させたのだ。

…どうしようもない絶望に、まるで「忘れるな」と叫ぶかのように叩きつけられたそれに俺は打ちひしがれていた。

………かつて、あの日以降心の奥に押し込めていた悲しみ。溢れだした濁流を止めることは出来ない、ならせめて、この濁流に押し流されぬようにただひたすら耐えることしか俺には出来なかった。

…俺は、何時死ねるのだろうか。死ぬためにここに来たが未だ目処は立たない。もしかしたら、俺を殺せる魔法など無いのかもしれない。いつまで、一体いつまで地獄を彷徨えと言うのだ。哀しみのまま、俺は絶望の底へと沈んでいった。そしてどの位たったのだろうか、何とか落ち着きを取り戻したころにヤツは現れた。

 

「どうやら落ち着いたようじゃの」

 

「………ダンブルドア校長」

 

いつから見ていたのだろうか、あいつの言い方からすればだいぶ最初の方から見ていたのかもしれない。

 

「すまんの、見ているつもりはなかったのじゃが」

 

「…大丈夫です」

 

「そうか、それなら良い。この鏡はのう「みぞの鏡」というのじゃ、それも映ったものをただ写すのではない。映った物の本当の望みを映し出すのじゃ、故にこの鏡に魅入られ、身を滅ぼしたものは何人もいる」

 

「…………」

 

「なので丁度、これを明日移そうと思って来てみた所、君も居たというわけなのじゃ」

 

…君も? 俺以外にも出歩いているヤツがいたのか? 校則違反をした俺を責める気配もなく朗らかな笑いを浮かべながら俺をその青い瞳で見つめている。俺は、俺の全てを見透かしているかのような視線に警戒を覚えた。

 

「…キリコや、ホグワーツは楽しいかね?」

 

…? 一体こいつは何故こんなことを聞いてきたのだろうか。質問の意図は分からなかったが答えないのも不自然だろう、俺は差し当たりの無いことを言うことにした。

 

「ああ、…それなりに」

 

「そうか、それは良かった。ホグワーツはただの学び場では無い、(みな)の居場所であってほしいのじゃ」

 

「……居場所?」

 

「そうじゃ、ここにはどこにも居場所が無かった生徒もたくさんおる。だからこそ儂はこの学校が(みな)にとって楽しく、帰ってきたい。そんな学校になってほしいと願っているのじゃ」

 

「…………」

 

「儂は君のことを心配していたのじゃ。だからこそ、ここでの暮らしを楽しいと思ってくれたことが嬉しくてのう。」

 

やはり俺の直感は間違っていなかった。この男は既に…いや、感づいているのかもしれない。俺がここに来た理由が何であるか見抜かれているのかもしれない。この質問が俺を説得するための物なのか、それとも本心からでた物なのかは分からないが…何にせよ俺の目的を知られる訳にはいかないだろう。

 

「…キリコや、儂はこれからも君がここで生活し、そしてそれが楽しいと思えることを祈っている」

 

「…ありがとうございます。…では失礼します」

 

 

 

 

図書館を出た俺は再び決意をした。フィアナ、彼女に再び出会うためにも…俺は必ず見つけて見せる、俺を殺せる魔法を。

あの鏡に写されたフィアナから再び決意を受け取った俺は、巡回の教師に見つからないよう寮へ戻っていった。

 

 

 

 

 

…結局、あの子があの鏡に何を見たのか聞くことは出来なかった。仮に聞いたとて正直に答えてはくれなかっただろう。あの子が抱える闇、その正体が分からぬ今下手な言葉で説得をすれば余計闇へ落ちていくのは明らかなのじゃから。

だが…それでも一つだけ、確実に分かることはあった。あの子の闇の正体、そこには「孤独」が潜んでいることを。さきほど儂を見たあの子の目はひたすら、まるで二度と会うことの出来ない家族を求めるような哀しい瞳をしておった。ならばあの子を光の道へ導くにはその「穴」を埋めなければならぬ。

しかしその「穴」は埋まりつつあるのかもしれん、あの友人…キニス・リヴォービアといるキリコは僅かながら、だが確かに楽しそうな顔をしているのじゃから。

 

「…もしかしたら、儂がすることは無いのかもしれんのう…」

 

ならばそれが一番良いのじゃろう、…どこか、彼の闇に恐れを抱いている儂では彼を救い出すことは出来ないのかもしれん。しかしこれならば、もう心配はいらんのじゃろう。少し安心した儂は部屋を後にした。

…だが、もしも彼が闇に堕ちるようなことがあれば…その時は…

…その時は…

 

…馬鹿なことを、その時こそ、儂ら教師があの子を正しき道へ導かねばならぬのじゃ。あの子の「闇」から目を背けてはならぬ、諦めてはいけない、その闇を払わねばならない。

それが妹を、アリアナを死なせてしまった愚かな自分にできる、たった一つの贖罪なのじゃから。

 

 

 

 

 

クリスマス休暇が終わり、新学期が始まった。それと同時に授業は激化の一途をたどり始める、それは学期末に控えている試験のためだろう。それに備えて授業だけではなくそこから出される宿題の量も増加していた。その結果最近俺の隣には常にキニスが付きまとうようになっており、しょっちゅうヤツに勉強を教えることになっている。が、今日は居ない。明日行われる今学期初のクィディッチの試合の為にグリフィンドールの寮に行っているらしい。

 

尚、明日の試合日程はグリフィンドール対レイブンクローである。さらにその数週間後にはグリフィンドールとハッフルパフの対決が予定されている。そのため選手たちは勉強など目もくれずにひたすら練習に打ち込んでいる。

今の所一位はスリザリンとなってはいるが明日の結果次第では逆転ができるかもしれない。だが、それは現在四位のハッフルパフにとっては全く関係ない話だろう。最も俺自身興味は無いのだが。

 

 

 

 

試合が始まった時、試合会場…もといグリフィンドールの観客席には赤地に金の文字と、派手な垂れ幕が掲げられている。その内容は…まあ予想道理ハリーを褒めちぎったような内容だった。隣で自慢げにしているこいつの様子から昨日の用事とはこれの作成だったのだろう。

それを見たハリーは箒で見事な空中三回転を決めていた、効果は十分あったらしい。

 

試合が始まると初めは得点の取り合いとなった、片方が決めればもう片方が決める、まさに一進一退の攻防といえる、しばらく経つと得点の取り合いからボールの取り合いへと変化していく、その結果得点は変わらなくなり試合は硬直状態となった。ハリーもレイブンクローのシーカーも会場のあちこちをゆっくりと飛び、慎重にスニッチを探している。

実況もこうなると中々言うことが減ってくるのか試合開始ほど喋らない。…そういえば前の試合のようなグリフィンドール贔屓な実況はしていないのか、どうやらあれはスリザリン限定らしい。

 

「殺れぇ! 決めろぉ! 防がれただと!? ふぅざけやがってぶっ潰れろぉ!!!」

 

…キニスはどちらが何をしようが関係なく罵声を浴びせている。こいつの罵声はスリザリン限定という訳では無いらしい。正直なところ流石に止めた方がいい気がしてきた。

 

その時ハリーが動き出し、それに続いてレイブンクローのシーカーも動き出す、いよいよ試合も大詰めか。

ハリーに襲い掛かるブラッジャー、一撃目をかわす事には成功したが減速した影響で二発目が直撃した。すぐに姿勢を立て直すがその隙にレイブンクローのシーカーが追い抜いた。

スニッチは曲がる気配がない、ならば最後は単純な速度勝負になる。

実況と観客席から発せられる熱の中、スニッチを取ったのは―――

 

「グリフィンドールがスニッチを獲得!」

 

ハリーの方だった。

 

 

 

 

「いやー、やっぱクィディッチは興奮するねー面白かったー」

 

つまりこいつはかなり過激なクィディッチ狂いで、例え自分の寮だろうと何処だろうとああいった罵声を浴びせるということらしい。それはあの後、数週間後に行われたグリフィンドール対ハッフルパフの試合で証明してくれた。まあ試合が終わればどこの寮にも拍手を送るあたり平等なのだろう。…良くも悪くも。

クィディッチの試合が終わると同時に試験もすぐそこまで迫ってきている。それと同時に俺の計画も実行に移す時が来た。あの日鏡を見たことで、俺は決意を新たにしていた。俺は何としてもフィアナに合わなければならないと。

 

「…試験嫌だなぁー…キリコは…大丈夫に決まってるよねー…ハァ」

 

さっきと打って変わって気分を落ち込ませているキニスをしり目に、俺の覚悟は否応なしに高まって行っていた。

 

 

 

 

あの時鏡から、フィアナから受け取った覚悟

だが俺は気が付いていなかった

その覚悟もまた鏡だと言うことに

つまりそれが意味すること

それは所詮まやかしでしかないという真実

そこから目を背けた罪

それは罰となり

もう目の前までやって来ていたのだった

 




ペペレル三兄弟は、川に魔法を掛け明日を得た。
死は、三人の兄弟を陥れ、その命を得た。
キリコは魔法に、己の運命を占う。
今、ホグワーツで明日を得るのに必要なのは、ユニコーンと少々の狡猾さ。
次回「取引」。
ホグワーツには死の臭い。


キリコと校長、腹の探り合い
…まあ実際死にたいと考えてるなんて夢にも思わんよな。
という訳でトラウマ回でした、もうそうそう次は無いな!

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