【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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ダン「フフフ……ついに儂が奇跡の生還を果たす時が来た!」
鹿「ソウデスネ」
ダン「伏線も張りまくった儂に、隙は無い!」
鹿「ソウデスネ」

Part6最終話、始まります。


第六十二話 「パーフェクトソルジャー」

アームパンチが激突し、鉄の軋みと火花が廊下を照らし出す。

反動でお互い距離を取り、機銃を全力で打ち合う。

狭い廊下を飛び交う大量の跳弾に、一発も当たることなく壮絶な撃ち合いが続く。

 

「やはり当たってはくれないか」

 

それはキリコも同じ思いであり、掠りすらしない操縦技術に懐かしさを覚える。

この戦闘能力、ATの操縦技能。

キリコは確信した、こいつは間違いなくイプシロンであると。

PSの能力が、努力云々で身に付かないのは彼が最もよく知っている。

 

「そうだ、それでこそ私の怨敵!」

「ッ!?」

 

突如足元が爆発、何をされたと驚くキリコが見たのは、何時の間にか構えられていたソリッドシューターだった。

機銃と共に次々と撃ち込まれるミサイルを、ガトリングで次々と撃ち落としていく。

至近距離で撃たれたそれを迎撃する光景は、まごうことなき神業。

 

弾幕を掻い潜り、エディアが照準を構える一瞬。

そのタイミングに向けて、予知したようにトリガーを引き絞る。

破裂、そして飛来。

距離は既に、PSでも回避できない間合いとなった。

 

 

消えただと!?

弾は当たらなかった。

ストライクドッグが蒸発したからだ。

先程のソリッドシューターの逆、煙のように掻き消えた。

 

「甘い、甘いぞキリコ」

「ぐぉっ!?」

 

理解どころか視認する間もない、キリコは背後から羽交い締めにされてしまう。

何時移動した、どうやって消え失せたんだ。

 

「終わりだ!」

 

止めを刺すべく、象徴とも言えるクローを振りかぶる。

しかし、勢いを付けるべくやった構えがチャンスを生み、混乱しながらも貫通弾頭を真後ろへ乱射する。

だが。

 

……また消えたか。

やはり、躱される。

何処から来てもいいよう、全方向へ警戒心を構える。

次の攻撃は、壁から来た。

 

「…………!」

 

ターンピックで全体を回し、回避。

その時キリコは見た。

壁から生えたクローアームを。

 

次の攻撃は床から。

床から生えたソリッドシューターが、爆音を放つ。

次々と、床から壁から天井から。

あらゆる方向から、ストライクドッグが現れ襲いかかる。

 

「理解したか? 魔法を使えるのはお前だけではないということを」

 

如何に警戒しようと、防げない時もある。

このままではなぶり殺しになると、キリコはローラーダッシュを全開にし逃亡を図る。

 

ストライクドッグは消えたままだが、襲っては来ない。

これによりキリコは、謎の切っ掛けを掴んだ。

あれは瞬間移動ではなく、姿を何処かへ消して移動しているに過ぎないと。

だからこそ、今も速度で上回るこちらを追従できていないのだ。

 

キリコは危機を覚える、あのカラクリを解かねば負けてしまうと。

逃亡したキリコが辿り着いたのは、月明かりに照らされた渡り廊下である。

彼は考える、手品の種を。

 

「見つけたぞ! 逃げられると思うな!」

「!」

 

廊下の奥から疾走するストライクドッグを見たキリコは、反射的に銃を構える。

放たれるミサイル、渡り廊下。

キリコに閃きが走る。

 

ディセンド(落ちよ)エクスブレイト(爆破弾頭)

 

立て続けに放たれる二つの呪文。

落下呪文によりミサイルが落ち、爆破弾頭により誘爆させられる。

 

「何!? 小癪な!」

 

爆発が渡り廊下を崩落させ、ストライクドッグごとイプシロンを奈落へと追いやる。

暗闇へ消える彼を振り替えることなく、キリコは走り去った。

 

ヤツは姿を消せる、しかし先程は姿を表したままだった、そこに何が違う?

あいつが、あれで殺られるとは思えない。

未だ続く殺し合いの緊迫感が、窓から溢れる月明かりと共にキリコを照らす。

 

(月……夜……影……影?)

 

キリコは気付いた、その違いに。

その瞬間、暗闇の中から再び銃口が覗く。

だがもう遅い、種は解かれたのだから。

 

ルーモス・ソレム(太陽の光)

 

真っ暗な室内を照らす太陽光、影一つ無くなった部屋の片隅に、それはあった。

まるでヘドロのような、平べったく真っ黒な物体が。

瞬時に撃ち込まれたAKMが炸裂するのと、ヘドロからATが飛び出るのはほぼ同時だった。

 

「見破ったか、私の呪文を」

「…………」

「そうだ、自らを影にし、闇に溶け込む、それが私の呪文だ、だがお前は間違っている、この力の本質はそこではない!」

 

キリコの力量に感心しながら、手品の種を語る。

が、途端に消え失せ、闇へ姿を変える。

種は割れたのだと弾を撃ち込むキリコだが、変幻自在の流動体と化した彼は正に流れる水の如くいなしてしまう。

 

そのままするりと足元に滑り込み、実体化したクローが足を切り付ける。

対抗のアームパンチを撃ち込むが、これはフェイク。

切りかかるに見せかけ、そのまま天井へ。

腕を下へ向けていたキリコは対処できず、遂に肩へ直撃を貰う。

 

「とったぞ!」

 

純粋なパワーはあちらが上、肩を掴まれ身動きがとれなくなるキリコ。

呪文を撃って脱出しようとする、だが突然の浮遊感が、平衡感覚を狂わせた。

 

「なっ……!」

 

クローアームを使った、一本背負い。

スコープドッグは宙を舞いながら、窓の向こう……奈落の底へ落ちようとしていた。

この高さから落ちれば只では済まないだろう、それはキリコの勝機となる。

 

「落ちろ! ……は、離れない!?」

 

ATの肩とクローに永久粘着呪文を掛け、イプシロン諸とも落ちようというのだ。

……などという筈もなく、一人ATから脱出。

 

「開かない!? そういうことか!」

 

ついでにコックピットにも呪文を掛け、脱出不能にしておく。

そのまま跳躍し、窓へ手を掛け、校内へ戻る。

キリコは生き残り、イプシロンは落ちる。

誰が見ても納得する、キリコの勝利……だった。

 

「……ッ!?」

 

切れた。

窓が、その壁一体が。

掴んでいた命綱が、叩き切られた。

 

「形勢逆転だ、キリコ」

 

振り返り、理解する、

イプシロンの手元には、バランシング用の片刃槍が握られていた。

コックピットをこれで叩き切り、脱出。

そのままキリコの掴まっていた壁を、切り落としたのだ。

 

キリコはそのまま、暗黒の谷底へと消えて行く。

あの高さでは助からないだろう、死んではいないだろうが、イプシロンの勝利である。

……とは彼は考えなかった。

 

「……キリコ、貴様……!」

 

寧ろ怒りに震え、歯を軋ませる。

彼は感じてしまった、いや気付いてしまったのだ。

誰一人戦う者の居なくなったホグワーツに、一つの孤影が木霊した。

 

 

*

 

 

キリコがイプシロンに敗北した頃、ハリーとダンブルドアは丁度帰還していた。

その彼等が見たのは、上層階が酷く崩れたホグワーツだった。

 

「誰がこんなことを……」

 

呆然と呟くハリーだが、それよりもダンブルドアを医務室へ連れて行かなければならないことを思い出す。

 

「先生! 掴まって下さい、医務室へ行きます」

「待つのじゃハリー……儂は、よい」

「そんなことを言ってる場合じゃ!」

「下を……見よ」

 

天文台から下る螺旋階段を見たハリーは、愕然とした。

此処に迫るマルフォイ、彼以外にも血塗れのベラトリックスが凄まじい勢いで階段を駆け上っていたからだ。

 

「死、死喰い人!? そうかマルフォイは!」

 

ハリーはマルフォイの目的を、手段を完全に理解した。

だがもう遅い、彼に今出来るのはダンブルドアを逃がす事だけ。

 

「先せ……!?」

 

叫ぼうとする彼に向けて、自身の口に人差し指を当てる。

無言を意味するジェスチャーをした後、彼はハリーに隠れるよう指示する。

何を考えているのか、本当に大丈夫なのかと心配するハリーだったが、死喰い人が迫る今、悩むチャンスは無かった。

 

「…………」

 

ダンブルドアは溜息を吐く、これから待ち受ける自分の運命に。

どんな聖人君子だろうと死ぬのが怖くなかった筈はなく、恐いからこその死なのだ。

なら聖人君子とは程遠いダンブルドアが、恐れない筈もない。

しかし、覚悟を決めねばならない。

ここで臆病風に吹かれて逃げ出せば、キリコの、スネイプの、あいつの努力も全てパア。

もうこれ以上、何かを裏切るのだけは嫌だった。

 

「見つけたよぉ……老いぼれェ!」

「ほう、こんな夜更けに何の……随分ボロボロのようじゃが、大丈夫かの?」

「うるさい老害が! 殺してやる……と言いたいが、悔しいが、ナルシッサの為に譲ってやる」

「…………!」

 

ダンブルドアの前に出るマルフォイ、彼の膝は笑い、腕は震え、今にも泣きそうな顔をして、杖を構えている。

 

「か、覚悟しろ、ダンブルドア」

「……成程のう、儂はまんまと一本取られたという訳じゃ」

 

まんまと引っ掛かったという演技を行い、マルフォイの行動が漏れていなかったと印象付けて行く。

多少ではあるが、兎に角彼が生き残れる様にしなくては。

 

「しかし、おぬしに儂を殺せるのかの? 止めるのじゃ、自らの手を汚すことは無い」

「黙れ! 僕を舐めるな!」

 

諭そうとしたつもりだったが、却って怒りを招き、そのまま閃光が弾ける。

ダンブルドアはそれを躱す事すらできず、直撃を貰い杖を吹き飛ばされた。

 

ハリーは自分の口を塞いだ、塞がなければ、怒りと混乱と焦りの余り叫びだしかねなかったからだ。

だがそれを突き破り、叫び掛けた。

何故ならハリーの真横に、軽く血を流すスネイプが居たからだ。

 

「!!」

「…………」

 

心臓が飛び出そうなハリーを一瞥し、スネイプは階段を上がって行く。

 

「さあ殺れ! ドラコ!」

「ア、ア、アバダケダ───」

 

マルフォイが死の呪いを撃とうとした瞬間、スネイプの放った武装解除呪文がマルフォイを吹き飛ばす。

 

「!? 何をしている!」

「…………」

 

間一髪間に合った。

ダンブルドアが恐れていることは、マルフォイが殺人を犯し、魂を引き裂かれることなのだから。

 

その光景は、ハリーやベラトリックスといった、第三者から見れば別の意味となる。

 

スネイプは信用ならない、だがダンブルドアは何度も言っていた、彼は信用できると。

もしかしたら、本当にもしかしたらだが、いいのかもしれない。

彼は味方だと、信用してい

 

「アバダケタブラ」

 

光った。

倒れた。

落ちた。

誰が? ダンブルドアだ。

誰に? スネイプだ。

 

「…………え」

 

何が、起きた。

理解するのに、時間を要した。

余りの事態に、信じられない、夢のような光景に。

ハリーの視界は真っ暗になっていた、だから、逃げ出す死喰い人にも気付けなかった。

 

「…………あ」

 

血塗れの彼等を見て、意識が戻って行く。

自分に視線さえ見せず、逃げ出すあいつの顔が映り込む。

瞬間、ハリーは爆発した。

 

「あああああああああ!!!!!!」

 

心の内から、何もかもを吐き出しながら叫ぶ。

全身から燃えカスのような気力を、憎しみで燃やしながら走る。

裏切った、あいつはダンブルドアを裏切った!

あんなにも信じていたあの人を! 最悪の形で返した!

 

必死で走り、走り続ける。

逃がしてはならない、許しちゃいけない!

絶対の意志が彼を走らせ、裏庭で漸く追い付いた彼が見たのは、逃げる奴等と燃えるハグリッドの小屋だった。

 

「スネイプゥゥゥゥ!!!!」

「…………」

「よくも! よくも裏切ったな! あの人を!」

 

訓練の結果凄まじい弾幕を放てるようになった呪文を、出鱈目に撃ちまくる。

 

「裏切り者! 恥知らず! ろくでなし! 最低野郎!!!」

 

思いつく限りの罵倒をならべても、尚怒り足りない。

足りない部分は、呪文で補えばいい。

ハリーは怒りの余り、自分で封じていたあの呪文を撃ち込んだ。

 

セクタムセンプラ(切り裂け)!!!」

 

超高速で飛んで行く、鋭利な切断呪文。

例え知っていても、回避できる呪文ではない。

 

「…………」

「なっ…………」

 

かわした、それさえも紙一重で躱してしまった。

本来『姿くらまし』でも使わなければ間に合わないそれを、純粋な反応速度で躱したのだ。

反撃と言わんばかりに、全く同じ呪文がハリーを貫く。

 

セクタムセンプラ(切り裂け)

「うわああああっ!!」

 

肩から血が噴き出る、出ても出ても、あの日のマルフォイのように止まらない。

痛みと、同じ呪文が帰って来た衝撃にハリーは喘ぐ。

 

「な、何、で、おな、じ呪文、が……」

 

何故同じ呪文を使えるのか、自分しか知らない筈の呪文が。

謎のプリンスが作った、この呪文が。

謎のプリンス?

まさか、そんな、馬鹿な。

 

「ま、まさ、か、……おまえ、が……!?」

「そうだ、……『謎のプリンス』……だ」

「!!」

 

開発者なら、撃てて当然、かわせて当然。

そうして、絶望している間に。

動けない間に。

彼等は、バチンという音と共に、闇へと消えた。

 

「…………」

 

逃がした。

逃げられた。

逃げてしまった。

僕の力が足りなったせいで。

ダンブルドアが死んでしまった。

死なせてしまった。

 

「あ…あ…ああ…」

 

怒りの興奮が冷め、訪れたのは、後悔。

力が足りなかったことへの、悔しさ。

もう叫ぶ気力もなく、全てがごちゃ混ぜになったハリーは、ただ。

 

「ああーーー…………」

 

力なく、泣いた。

泣くしかなかった。

一人、悲しむしかなかった。

 

ジャリ、と足音がする。

涙を流しながら振り向いた先にいたのは、血で濡れたキリコだった。

 

「……キリ、コ?」

「…………」

 

何故血塗れなのか、その理由は聞かなかったし、聞けなかった。

キリコはすぐ振り返り、校舎へ行ってしまったからだ。

だからこそ、理解できた。

キリコも必死で闘っていたのだと、それでも、駄目だったのだと。

今の自分と、同じなのだと。

 

「ひぐっ、あ、ああーー……」

 

無様に泣いた。

今は、それしか、もう。

できない。

 

 

*

 

 

アルバス・ダンブルドア死亡の知らせは、彗星の如くホグワーツを、魔法界を駆け抜けた。

ある者は偉大なる賢者の死を嘆き、ある者はもう誰も死喰い人に逆らえないと嘆いた。

 

実際、ヴォルデモートに唯一勝てるから、というだけでなく、光の象徴としても果たした役割は大きい。

それが無くなった今、不死鳥の騎士団すら役に立たないだろう。

 

加えて、魔法界の中でも特に親マグル派だった彼が居ない今、マグルへの悪感情を押し止めるのも最早不可能。

ダンブルドア一人の死で、全ての盤面が笑える程見事にひっくり返されたのだ。

 

どれ程本人が愚者と言おうと、彼は間違いなく偉大だった。

そんな彼の葬儀は英国魔法省主導で行われる予定だったが、彼が此処を一番望むだろう、となりホグワーツで行われることとなる。

 

何人もの生徒が、教員が、幽霊ですら列に並び、感謝という別れを告げていく。

スリザリンの生徒ですら、何人か並んでいた、それ程彼は愛されていたのだろう。

 

そして最後に、あの男が立った。

 

「…………」

 

キリコが思っていたのは、ある種の『敬意』だった。

世界の為、一人の子供の為。

全てを騙し、罵られる覚悟で、殺される茶番を完遂した事への。

綺麗事だとしても、彼は敬意を感じ、棺に花を置いた。

一輪の、フキの花を。

 

「…………」

 

これで、けじめはついた。

あの時と同じ、再び歩き出す為の一歩が。

多くの花で飾られた、棺の中のダンブルドア。

その蓋を閉じ、彼は歩き出す。

 

「……キリコ」

 

ハリーが、キリコに声をかける。

彼だけではない、ロンやハーマイオニーも居る。

彼等の赤く腫れた眼が、その哀しさを主張する。

 

「僕、来年はホグワーツに戻らない」

 

理由は知っている、だが答えない。

自分自身で言うからこそ、その意思が確立されるのだから。

 

「ダンブルドアが居ない今、僕が分霊箱を探さなくちゃならない、これを含めて」

 

ハリーが握っていたのは、黒いペンダントだった。

これこそ、ダンブルドアが命懸けで手に入れた分霊箱の一つである。

その、筈だった。

 

「……ペンダントは偽物だった」

 

キリコの眉が、僅かに動く。

ロンはその事実に驚愕し、次に彼の死が無駄だったことに嘆き悲しむ。

そしてハリーが広げた、羊皮紙をハーマイオニーが読み上げる。

 

「『闇の帝王へ。

あなたがこれを読むころには、私はとうに死んでいるでしょう。

しかし、私があなたの秘密を発見したことを知ってほしいのです。

本当の分霊箱は私が盗みました。

出来るだけ早く破壊するつもりです。

死に直面する私が望むのは、あなたが手ごわい相手に見えたそのときに、もう一度死ぬべき存在となることです。――R.A.B』

……R.A.B? 一体誰なのかしら」

 

偽物だった揚句、既に破壊されていた。

ダンブルドアの苦労が根底から無駄だった事実に、ハーマイオニーも嘆き悲しむ。

だがハリーは、そうとは考えなかった。

 

「……破壊できたのかは分からない、だから破壊されていたとしても、本物を探さなくちゃならない」

 

ハリーの考えに、キリコは無言で同意する。

もしで行動し、一つでも破壊し損ねた場合、全てが台無しになるからだ。

 

「……でも、当てはあるの? 分霊箱は全部で六個あるんでしょう? やみくもに探して見つかるとは思えないわ」

「それでも探すしかない、それしかあいつを倒す方法がないんだから」

 

ハリーも口ではそういうが、実際は内心不安しかない。

何せ最悪の場合、その辺の川底の石が分霊箱だった……何てケースさえありえるのだ。

しかも世界中の何処か、正直自信は欠片もなかった。

それでも……そう思ったハリーに対し、突然キリコが紙を渡す。

 

「何これ、一体ど……!?」

「どうしたんだい? ハ……!!?!?」

 

ハリーが絶句し、ロンが絶句した。

何事かと覗き込んだハーマイオニーも絶句した。

何故なら、そこに書かれていたのは。

……何が分霊箱なのか、全て書かれていたからだ。

 

「俺の母親が残していた情報だ、使え」

「あ、ちょっとキリコ! 待って! キリコは来年どうするつもりなんだ!?」

 

ハリーは彼のことを心配していたのだ、キリコもまた、ヴォルデモートに命を狙われている人間だけに。

だがキリコはその言葉をいつもの通りに無視し、また立ち去ろうとしていた。

 

「じゃ、じゃあ一言! 一言言わせて!」

 

キリコに聞こえるよう、息を吸い込み、息を落ち着かせ、静かに叫ぶ。

 

「ありがとう、絶対に分霊箱を見つけ出すよ」

「…………」

 

ダンブルドアを守る為に一人戦ってくれたことへの感謝を、情報をくれたことへの感謝を。

一つの単語に込め、決意を示した。

 

その真っ直ぐさに、キリコは顔を合わせられずに立ち去った。

言えまい、これが茶番だったなど。

彼の悲しみも決意も、それが最善の方法だったとしても、ダンブルドアや自分達の手の上でしかないなど。

 

これでは自分もあの自称神と変わらないじゃないか、と自虐する。

何時か、自分から話さなければならない、その時溢れ出す怒りと悲しみを、全て受け止めねばならない。

 

スネイプや、あいつ以外知らない決意を抱き、彼は歩き出す。

キリコもまた、ホグワーツへ背を向けた。

 

彼は旅に出る、血と硝煙に包まれたマグルの世界へ。

何の因果か地球に再現されたアストラギウスを、再び彷徨う。

 

そこに、ワイズマンの真実があるのか。

知っている人間が居るのか。

ヴォルデモートを殺すのがハリーの運命ならば、ワイズマンを殺すのは俺の運命。

 

この旅で、全てが分かる筈だ。

俺の運命が、全ての真実が。

そして、終わるだろう、血塗られた因縁も。

そして、今度こそ付けねばならないだろう、あんな曖昧な形ではなく、完全なる決別を。

 

……イプシロンとの、再戦は近い。

 

再び始まる地獄巡り。

そして終わる、地獄巡り。

リドの暗闇から始まった、異能の因果が、俺を最後の戦いへ誘っているのを、間違いなく感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ……どうだった? ヤツとの戦いは」

「……貴様には関係のないことだ」

「関係ない? キリコに起こる全ての事象は私にとっての宝に等しいのだ」

「だから何だ?」

「満足してないのだろう?」

「…………」

「パーフェクトソルジャーとしてのプライドが、あんな茶番は認めないと言っているのだろう?」

「……そうだ、あの時、崖から戻ろうと思えば戻れた筈。

しかしヤツはそのまま落ちて行った! ヤツは敗北に逃げたのだ。

私が望むのはただ一つ、私が認められる結末だけだ」

「殺し、殺される、それが望みか」

「そうだ……といいたいが、ヤツを殺せないのはよく知っている、だが殺せずとも勝つことはできる、そうだろう?」

「なら待つことだ、何れチャンスは回ってくるのだからな」

「そうさせてもらおう」

「…………」

「…………」

「……どうした?」

「いや……いや、言っておこう、ケジメとして」

「…………」

「ありがとう、貴様のお陰で、私はこうして此処に居る」

「気にすることはない、因果が狂ってからの世界滅亡など望んでは居ないからな。

それに、また転生してキリコを探し直すのはこりごりだ」

「……そういうヤツだったか、では、また何れ」

「ああ、ではまた」




始めから分かっていた、心のどこかで。
固い決意の裏にある本音を。
燃える正義の底に潜む罪悪を。
似た者同士。
自分が自分を果たすために、自分を守ったものの数を数える。
声にならない声が聞こえてくる。
次回「六人」。
一足先に自由になった家族のために。



ダン「アレ? 儂死んだ?」
鹿「死んでますね」
ダン「実は"残念だったな、トリックry"とか……」
鹿「アバタケ直撃してるんで、無いです」
ダン「実はアバタケを防ぐ呪文が」
鹿「無いです」
ダン「キリコの異能を利用した、奇跡的に生き残る呪文が」
鹿「無いです」
ダン「つまり?」
鹿「出番終了です、お疲れさまでした」
ダン「ユルサレナカッタ……」

以上でPart6終了です。
次回から遂に、やっとこさ、漸く!
最終章突入です!
もう後腐れないから、バンバン主要人物も殺せるぜ!

☆事前情報:ホグワーツは消える(物理・存在共に)

てな訳で、2週間程ストック溜めの為、休みます。
では、また。

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