【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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ストック溜め直しながらなんで、以前のペースに戻るまでには、もうちょい掛かりそうです。


第五十一話 「運命」

改めて言うのもどうかと思うが、儂は長く生きている。

当然上には上がいるもので、もう旅立ってしまったニコラスを筆頭に、儂より長生きな者も大勢おる。

ともあれ、長い事世の中を見続けて思うのは、生きる事そのものは然程重要ではないという事じゃ。

 

より分かりやすく言えば、幸福な人生に長さは重要ではない。

ニコラスは賢者の石の力により、何世紀も生き続けた。

その上、儂が見る分には、幸福な顔で生涯を終えた。

しかし……彼以上に永遠が約束されているトムは、果たして幸福なのじゃろうか。

儂にはそうは見えぬ、誰も信じられず、常に"死"に怯え続ける永遠が、幸福だとは思えぬ。

 

では、人生に重要なのは?

それは即ち、"愛"なのじゃろう。

信じること、共に在ること、死を迎えること。

その根底にあるのはきっと……自分を、他人を愛する事なのじゃ。

あの三男も、決して"死"が恐くなかった訳が無い。

言葉でどう取り繕うと、恐くない者など居る筈が無い。

それでも彼が死を受け入れられたのは、きっと愛する者が居たからなのではないじゃろうか。

だからこそ、"力"に溺れる事も、"奇跡"に狂う事も無く、息子を"信じ"られたのではないか。

 

だから、儂は愛に憧れるのじゃ。

"力"に溺れ、"奇跡"を求めた結果、妹も、弟も、友も失ってしまったからこそ……

ハリーだけではない、多くの生徒達に、儂は愛の大切さを説いてきたのじゃ。

 

……もしかしたら、もう確かめることも叶わぬが、トムは儂の説く愛の薄っぺらさを見抜いていたのかもしれぬ。

もし儂が真に人を愛せていれば、こんな事にはならなかったのではないか。

無論手心を加える気などない、あやつを放っておけば、更に罪無き命が危機に晒されるのじゃから。

 

じゃが、アレは……何なのじゃろうか。

間違いなく、愛はあった。

しかし、アレを幸福と呼んでいいのか?

 

キリコ・キュービィ。

彼と初めてあった時、儂は言い様の無い、不気味な感覚を覚えた。

人から情動がすっぽり抜け落ちたような、野心に燃えておった、小さき頃のトム以上の不気味さを。

特にハロウィンの日、クィレルが招き入れたトロールを無惨にも殺害した時は……正直あやつの冷徹さに戦慄した。

 

じゃがその不気味さも、2年に上がる頃には大分収まっておった。

同じハッフルパフのキニスや、ハリーとの交流によって彼の冷たい心は少しずつ、溶けていったと。

バジリスクにキニスやグレンジャーが襲われた時の怒り、その証じゃと、儂は考えた。

 

……その頃からじゃ、あやつが予言の子、"異能なる者"ではないかと疑い始めたのは。

死の呪いを受けても、バジリスクの毒を心臓に喰らっても"奇跡的"に生き残る姿は、正に異能そのもの。

確信に変わったのは、4年の時、あやつが触れえざる者、ブラッド家の末裔にして、最高傑作だと知った時じゃ。

 

儂は思った、この子を正しき道へ導かねばならぬと。

しかし儂は同時に、その不死性に恐怖した。

完全な不死という、万物の摂理に正面から唾を吐く怪物の姿に。

 

いや違う、そうではない。

儂は、嫉妬していたのじゃろう。

かつて追い求めた末に、何もかも失う事となった"奇跡"が目の前にあったのじゃから。

最も望ましくないものを欲しがる……あれだけ後悔して尚、追い求めてしまうのか。

 

……じゃが、だからこそ知っている。

それに溺れた末に、何が待っているのか。

彼にはそうなってほしくない、それもまた儂の本心。

あの子にとって精神的な支えであったろうキニスが死んでしまった今、儂が支えねば……とまで傲慢とはいかぬとも、せめて見続けねばならないと、儂は決意した。

 

……それが、それが、その覚悟が。

……何もかも一片残らず勘違いじゃったとは、予想できる筈もなかった。

 

冷酷?

子供らしくない?

不気味?

当然じゃ、あの様な……儂等の常識では考えられぬ、アストラギウスという世界で生きてきたのならああなって当たり前じゃ。

 

小さき頃から兵士として生きてきたのなら、相手を殺すのに躊躇など無くて当然。

既に一生分の人生を歩んでいるのじゃから、大人で当然。

未知のゴーレムも、"アーマード・トルーパー"というサンプルがあるのじゃから作れて当然。

何より、自分自身の不死性……"異能生存体"を既に自覚していたのなら、これまでの無茶も当然。

言い訳などする気も無いが……儂のこれまでの気遣いは、全て的外れでしかなかった。

 

茶番、これでは茶番じゃ……

何があの子を導くじゃ、何が光ある道じゃ。

この、"転生"などという突拍子もない真実を知り、儂は呆然と笑うしかなかった。

 

……じゃが、儂にとって何より驚いたのは、あの子……彼が真の愛を知っていた事じゃった。

今なら分かる、五年前の夜、彼が"みぞの鏡"に見たのは、"フィアナ"じゃったのじゃろう。

 

彼の人生は、その末期に彼も参加していた"百年戦争"の時に、一度終わっていた。

それを不死鳥が、灰から甦るが如く蘇らせたのが、フィアナじゃった。

 

完全なる兵士、パーフェクトソルジャー。

異能生存体を模した、キリコの擬似的なコピー。

しかし、キリコを倒すために作られたそれは、そのキリコに惹かれてしまった。

彼もまた、彼女の愛に応えるように、彼女を愛するようになった。

彼は、人を愛する事を、取り戻したのじゃ。

 

……しかし、始まりがフィアナなら、終わりもまた炎。

パーフェクトソルジャーは、寿命が僅か二年しかなかった。

彼女と永遠を過ごすために、彼等は特殊な機械を用いて、永遠に、死にながら生き続ける選択をした。

それが間違いだとは言えぬ、生きるだけで追われる彼等には、それしかなかったのじゃろう。

 

じゃが、それも儚く崩れた。

彼等を利用しようとする者等の手により、結局彼女は死ぬこととなった。

彼は愛を知った、が、それを得る事は叶わなかった。

 

愛を失っても尚、彼は生き続けた。

生きるしかなかった彼は、最後の最後まで生き続けた。

そして最後まで生きて、親しい者達に見守られて逝くことができた……筈じゃった。

 

永遠の命、"異能生存体"は、それを許さなかった。

彼は再びこの世へ舞い戻ってしまった。

ホグワーツに来たのも、今度こそ"死"を迎える為。

それが彼の、異能生存体キリコ・キュービィの真実。

 

……儂は今まで、"愛"が重要なのじゃと思っておった。

しかし、彼は愛を知りながらも、幸福とは呼べぬ一生を、今も送っている。

真の幸福に必要なのは、"死"そのものなのではないじゃろうか。

限りがあるからこそ、人を愛せるのでは。

限りがあるからこそ、懸命に生きられるのでは。

 

フィアナと出会い、愛を知った。

しかし、あの世で再会すらできず、ひたすら孤独に生き続けることが……寧ろ、愛を知ったが故に苦しむのか。

彼は今、幸福なのじゃろうか。

 

儂は知った、奇跡は呪いなのじゃと。

奇跡には……代償が付き物じゃと。

……ただ、ほんの少しだけ、彼を羨ましく思う。

儂が得れなかった物を持っていることに、二度と得ることが叶わずとも、真の愛を知っていたことに。

……儂は、アリアナは、果たして、そうだったのか。

 

……しかし、憧れている場合ではない。

悲嘆にくれている場合でも、同情している場合でもない。

今尚力を増しているヴォルデモート、あやつを止める事が、儂に残された最後の償い方じゃ。

 

その為にも、やらねばならぬ事は山程ある。

あやつの奇跡を暴く事。

ハリーにあやつを倒す道を示す事。

ドラコ・マルフォイの危機を救う事。

キリコの助けになる事。

 

内一つは、過去を知れた事で大分進んだ。

あとは記憶を見る事で得た、事実を確かめるだけじゃ。

……しかし、手間が省けたというのかの。

あそこに何が隠されているのか、それは果たして儂等の力となるのか、ヴォルデモートに渡してはならぬ物なのか。

騎士団の召集は済んだ、あとは儂が向かうだけ。

……行こう、キリコ・"ブラッド"・キュービィ。

あの日焼け落ちた、彼の生まれた場所へ。

 

 

*

 

 

天気を心象風景に例える、というのはよくある話だ。

晴れなら明るい、雨なら悲しい、曇りなら重い。

ならば、今の天気は果たしてどうなのか。

雨でも曇りでもない、重たく薄暗い空模様が俺の心境を表していた。

 

どこまでも続く灰色の空を眺めながら、少し冷めてしまったブラックコーヒーを啜る。

こういう天気はどうしても感傷に浸り勝ちだ、少し油断すればキニスの記憶が……それだけではない、フィアナや共に闘っていたあいつらの思い出までもが、甦る。

 

気楽に思い出すには暗すぎる記憶から、一時的に逃げ出す為に、俺は独り、本棚の本を読み漁る。

 

(この本棚も、大分増えたな……)

 

数年前、ホグワーツに入る前にここにあったのは、どれも暗かったり明るかったり、丁度今の空の様に、雑多な内容の物語ばかりだ。

それらを集めたのは、フィアナの元へ行くことさえ叶わないという現実から目を背ける為の物だった。

 

今あるのは、ホグワーツから借りてきたり、ダイアゴンで購入した"死"や"不死"に関する本。

これは正しく、俺にとって希望そのものだ。

……だが、それを見るとやはり思い出してしまう、あいつらと一緒だった、長い五年間を。

 

唐突に、玄関からチャイムがなる。

 

(……来たか)

 

鋭い鐘の音が俺の思考を中断し、残ったコーヒーを一気に啜り込む。

軽くむせそうになるのを無理矢理堪えながら、俺は急ぎ足で玄関を開ける。

 

「……時間だ、準備はできているな?」

 

手元の鞄を軽く掲げ、肯定を表す。

そして差し出された手を掴むと、俺の視界はぐにゃり、と螺曲がった。

 

 

 

 

「此処からは歩いていく、目的地はマグルの住宅街、目についてしまうからな」

 

"姿眩まし"をした後、俺はスネイプと共に、暗い住宅街を歩いていた。

 

「目的は聞いているな?」

「……ああ」

 

事前にダンブルドアから聞いている、これは俺の、過去に向かってのオデッセイだと。

だが今やあちこちに死喰い人が潜んでいる今、単独行動は危険という理由で、こいつが護衛につくことになっている。

 

(過去、か……)

 

俺はこの状況に、何か懐かしい感覚を覚えていた。

これは……そうだ、あの時だ。

俺が初めて魔法会を訪れたあの時も、こうしてスネイプと歩いていた。

あの頃と比べ、色々変わってしまった。

ある意味一番大きな変化は、やはり……

 

「……しかし、知っていても違和感がある」

「…………」

「まさかお前が、吾輩より年上だったとはな……」

 

そう、俺の過去を知った事だ。

あの後ダンブルドアと話し合い、俺の安全を徹底する為に、騎士団のリーダー的存在であるムーディ。

そして死喰い人のスパイであるスネイプには、俺の正体を知って貰う事になっている。

 

「取って付けた様な敬語だとは思っていたが、年上か、ならば、取って付けて当然か」

 

…別に取って付けていた訳では無い。

あれはあれで、教わる立場として最低限の礼儀を考えたものだ、そこには年齢など関係ないと考えていたのだが、そうは受け取って貰えなかったらしい。

 

「…………」

「…………」

 

そこから目的地まで暫くの間、やはり終始無言のまま歩き続けて行く。

その道のりは記憶に無い筈だが、俺の肌は何故か懐かしい感覚を感じ取っている。

…そして、そこにあった。

 

(……ここが)

 

数少ない、仲間といえるあいつらに囲まれて、フィアナの元に行けると思ったあの時。

だが、目覚めた場所は、天国でも地獄でもなかった。

 

「……着いたぞ、ここが―――」

 

確かに、そして鮮明に思い出す。

炎から始まった、俺の新たなオデッセイを。

 

「―――お前の生まれた場所、ブラッド家の隠れ家だ」

 

炎に包まれ、焼け落ちた廃屋。

だが、間違いない、俺はここで生まれたのだ。

 

「来たか! キリコ・キュービィー!」

「……ムーディか」

 

その廃屋の前に立っていたのは、スネイプとダンブルドア以外で俺の過去を知る男だった。

 

「おお、着いたかキリコ」

「……ここが、俺の生まれた場所なのか?」

 

俺の記憶は、赤子の時の炎で途切れていた。

だから俺自身は、この生まれた場所を知らなかったのだ。

ムーディの後ろから現れたダンブルドアが、その質問に答えて行く。

 

「左様、ここが間違いなく、おぬしの生まれた場所じゃ。

お主の記憶を、第三者として、外側から見る事でここを特定できた」

「……しかし校長、分からない事が」

「何じゃの? セブルス」

「……我々がこやつが"ブラッド"だと知ったのは最近だとしても、この事実を昔から知っていた闇の帝王が、何故ここを特定できなかったのか?」

 

ブラッド家は、血塗られた一族。

だがそれが齎した研究成果は膨大、恐らくヴォルデモートも知らないであろう知識が保管されていると推測できる。

その情報がここに隠されているかもしれない、というのが、今回の調査の目的だ。

だからこそ腑に落ちない、そんな魅力的な場所が、今の今まであいつに発見されなかった事が。

 

「うむ、それは高度な封印術によるものじゃ。

知っての通りブラッド家はマグルや魔法族、全てから敵視されておった。

じゃからこそ自らを隠蔽する術にも通じており、ここにも高度な魔法が掛けられておったのじゃ」

「……だがおかしいぞ? こいつの記憶によれば死喰い人の襲撃を受けて燃えたんだろう? 隠されてないじゃないか!」

 

そうだ、封印されていた筈なのに何故襲撃されたのか。

だがムーディの反論に、ダンブルドアは頬をポリポリと掻くだけだった。

 

「……そうなのじゃよ」

「は?」

「それが分からぬのじゃ、どうもあの襲撃の時だけ、狙い済ましたかの如く結界が破れていたのじゃ」

「……その原因も、調査する訳ですな」

「そういう事じゃ、さ、始めようかの」

 

何とも締まらない空気の中、調査が始まった。

 

……が、やる事は主に瓦礫の撤去作業ばかり。

しかも火事のせいか、稀に物を見付けても大体が灰と化している始末。

 

「……ないな」

「……そうじゃの」

 

このまま何も出ず、ただの片付けで終わるんじゃないか……

暗めの空気が漏れだしてきた。

……その時だった。

 

「──ッ!」

「何じゃ!?」

「……光?」

 

突如俺の足元が光りだし、瓦礫が瞬く間に消えていく。

 

「……そうか、キリコじゃ、彼が封印の鍵じゃったのか」

 

後にあったのは、小さなとって付きの扉。

地下室への入り口が、そこにはあった。

 

 

 

 

突如現れた地下室、そこは今までとは全く違う場所だった。

コンクリートで組まれた白い清潔な床に壁、埃の一つも無い階段、だが光は魔法で賄われている。

中央に広がるのは、様々な科学薬品や魔法薬が綺麗に置かれた実験台。

科学と魔法をない交ぜにした、ある意味不気味な世界。

 

「……本命はここじゃったか、直ぐに調べよう」

 

清潔に保たれた地下室の中を歩き回る、初めてでありながら歩き慣れた感覚。

その度に、ここで産まれたのだと実感する。

 

(……あの部屋は何だ?)

 

地下室の扉はどれも、研究所にあるような扉ばかり。

だが目の前の一枚だけ、木造の古びた板だった。

 

ギイイと軋ませながら入ると、雑多に散らばった本や、生活用品が床に転がる部屋が現れる。

 

何故か俺の目線は、奥の机に釘付けになった。

正確には、その上に置いてあった一枚の手紙。

……俺は直感した、これが、今の俺にとって重要な物だと。

備え付けの椅子に座り、過去からの手紙を読み始めた。

 

 

 

 

こんにちは。

この手紙を読んでるという事は、私はこの世に居ないのでしょう。

居たとしても、死んでるのと同じなのでしょう。

本当は、手紙なんて残しちゃいけないのでしょう。

私の事は、誰からも忘れられるべきですから。

けど、ご免なさい、私は、忘れられたくなかった。

だから残します、私の思いを。

私は、ジャックリーン・ブラッド。

貴方の母親です。

 

もうブラッド家がどんな事をしていたかは知っていますね?

私も例外ではありません、私も……何人も、何人も、研究の為に殺しました。

 

それに疑問はありませんでした、産まれた時から、それが当たり前だったのです。

"完全な不死"、それを実現する為に、何でもしました。

そもそも何故不死を目指したのか、それすら知らないままに。

 

その結果、私は子供を授かりました。

……その頃、既に私の周りには誰も居ませんでした。

因果応報、当然の報い、そんな思いはありません、漠然と受け入れるだけです。

 

私はとても嬉しかったです、長年の願いが叶ったんですから当然ですね。

周りの死喰い人……ああ、当時の私の協力者、トム・リドルの部下の事です。

その人達も喜んで、すぐリドルさんに連絡しました。

 

リドルさんも喜んでたみたいです、初めて聞く程明るい声でした。

けど、リドルさんを待つ間に、私は何だか苦しくなってきました。

 

想像してただけなんです、この子をどうしようかと。

DNAをコピーして、クローンを作ろうかな。

死の呪いや毒物の耐性はあるのかな。

首を切ったら、心臓を抉り抜いたらどうなるかな。

何時も考えている事を、夢みたいに考えただけでした。

 

それを考えれば考える程苦しくて、苦しくて。

何故なのか、分かりませんでした。

でも、リドルさんが同じ事をしてくれると思うと、もっと苦しくて、私は遂に逃げ出してしまいました。

 

逃げてる間も、苦しみは収まりません。

死喰い人もいっぱい追ってきて、怪我も何度もしました。

漸く辿り着いたのが此処でした。

ここはリドルさんが唯一知らない、ブラッド家の隠れ家でした。

 

けど、そこでもやっぱり、分かりませんでした。

分からないまま、時間が過ぎて、いよいよ貴方が産まれる時が近付きました。

 

私は考えました、何時も考えてる事が辛いなら、反対の事を考えれば良いんじゃないかと。

貴方と一緒にご飯を食べる事を考えました。

貴方と一緒に散歩する事を考えました。

……とても嬉しかったです、あと、何故か涙が出ました。

 

苦しいのは止みました、けど何でかは分かりません。

でも、私の本心は分かりました。

私は貴方を守りたい、理由は分かりませんが、そう思っていました。

 

けれど、私は何時死ぬか分かりません。

もしかしたらこの結界も破れるかもしれません。

だから、色々しておきました。

 

一つはこの地下室です。

家とは別の、貴方のDNAコードだけに反応する封印術を掛けておきました。

手紙以外に使えそうな薬品や、リドルさんの不死のカラクリも……知る限り残してあります。

もし貴方が今リドルさんに追われているなら、役立てて下さい。

 

もう一つは、貴方です。

魔力の反応や"匂い"を無力化する呪文を掛けておきました。

これでリドルさんに、場所がバレなくなる予定でした。

でも此処に居る時点で、解除されているのでしょうから、ちょっと残念です。

 

私の残した物は以上です、そろそろお腹も痛くなってきたので、これ以上は書けそうにありません。

だから、最後に一言。

ありがとう、私は幸せです。

 

 

 

 

「…………」

 

不思議と涙は出なかった。

ただ不思議な感覚が胸を過っていた。

その正体が"家族愛"だという事は、分かっている。

分かっているが、感じるのは初めてだったのだ。

 

自分を肯定できている。

存在を認められている。

それでも、自分の親から"ありがとう"と認められる事が……どれだけ嬉しい事なのか、俺は知らなかった。

 

"愛される"という事、それは炎に燃える心の中に、僅かな、だが大切な物を、確かに残してくれたのだった。




孤高の闇を、ただ行く。
霊験な黒き石に詰め込まれるのは、希望か、破滅か。
男の罪が、女の残渣が、霊験な黒き石の中で、渦を巻く。
賢者は尋ねた、理想たる異能者に。
いつかは訪れたであろう、一時の決断を。
次回「二人」。
ミッシングオデッセイの幕が開く。



以上、ブラッド家実家調査編でした。
次回は、ある意味運命の分岐点です。
ここ次第で、世界の今後が決まります。
ヒント「指輪」

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