【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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少女終末旅行二期ハマダデスカ
ジョジョ五部ヤッター!
劇場版ノンノンビヨリココロガノンノンスルンジャー
という訳でお久し振りです遅れてすみませんボチボチ再開していきます。


「謎のプリンス」篇
第五十話 「暗転」


ぽつり、と声が聞こえる

 

「──あ」

 

いっそ間抜けにすら聞こえるその一言には、どんな思いが詰まっていたのだろうか。

まだ生きたい、死ぬのは嫌だ、まだ何もしていない。

分からない、何を思っていたのか、分かる筈もない。

 

分かるのは口に出した言葉だけだ、だからこそ俺が分かったのは唯一つ。

あいつは最後まで、底抜けのお人好しだったと言うことだけ。

 

「──ごめんね」

 

……何故謝る? 助けられなかったのは俺だと言うのに。

地獄へ付き合いきれなかったことへの謝罪なのだろうか、もしくは他の何かなのだろうか。

 

だがそれがどれ程の意味を持っていたとして、結果それが、俺の胸を深く、深く抉りとることに変わりはない。

グロテスクに抉られた胸の中を、無力感が、後悔が、あの時たったの一言も言えなかったことが、何も伝えきれなかったことへの無念が、ひたすらに反響していた。

何度も、何度も、何度も、何度も……

 

 

*

 

 

「──ッ!」

 

凄まじい寝苦しさに叩き起こされ、意識が一気に舞い戻ってくる。

息を荒くしながら起き上がり、先程までのあれが夢だったと自覚する。

 

胃の中に沈殿しているような、ドロついた思いを溜め息に込めていると、全身がベタつく汗にまみれていたことに気づく。

少しでも気分をマシにしたかった俺は、ふらつく足取りでシャワーを浴びに向かうことにした。

 

少し山積みになってきた洗濯籠に衣服を投げ入れ、この不快感から逃れようと倒れ込むような勢いでシャワーを起動させる。

電源も入れていない唯の冷水は寝起きの体に堪える、だが、この冷たさがとてもしっくりくる。

 

無心で冷水を浴び続けながら、今が何時かを思い出す。

確か午前4時位だった筈だ、人が起きるには早すぎる。

尤も戦場に余りにも長く居すぎた俺にとっては、寝る時刻など関係ないのだが。

 

肌寒くなるこの季節に浴びた冷水に感覚を重く鈍らせながら、俺はそのままリビングへと向かう。

とても二度寝などする気にはなれない上に、夢の中へ閉じ籠もる程現実が見えないわけでもないからだ。

 

そうだ、今日これから向かうのは、地獄ではない。

その入り口から、現実という罪を通して見る天国。

もう帰らないという、俺以外決して覆らない現実を確かめるための、やらなければならないことなのだから。

 

それでも、弔う機会が、葬式ができることが、少しだけ羨ましく見えたのは…あの銀河と比べてか、もしくは俺なのか。

 

 

 

 

葬式とはいうが、実際に教会で死体を燃やすわけではない。

キニスはアーチの向こう側、あの世へ直接消えたのだ。

遺体が無く、一定期間が過ぎてもいないので、マグルの法的には行方不明者扱いになっており、葬式をすることはできないのだ。

 

だが、あいつが死んだのは間違いない。

法的に死んでいないなら、弔わなくても良い、などという理屈は存在しえない。

死者を、居なくなってまった人を弔うのは、死体ごと鉄と炭に埋もれているのが当たり前のアストラギウスでも行われていた。

肝心なのは遺体ではなく、それを悲しむことそれそのものだ。

 

この感性を完全に捨てることができたなら、楽な人生を送れるのだろうか。

戦いに飽きることなく、自分の異能を責め立てることなく、自由に生きれるのだろうか。

 

今まで何回と繰り返した考えを、まだ飽きずに繰り返す。

少しの呆れと無念が堂々と巡り、疲れはてた脳内に木霊を鳴らす。

パチリ、と散った火花の音が、当ての無い脳内を鈍く照らし、そこに目の前の光景を焼き付ける。

 

「主よ、我等の元に召され──」

 

ぽつぽつと蝋燭が灯るだけの、薄暗い小さな教会の中央、そこに置かれた、死体の無い、ただ死のみを意味する空の棺桶。

金で呼ばれた神父が、如何にも、といった雰囲気で慣れきった言葉をつらつらと並べていく。

棺桶を囲みながらその呪文を聞くのは、キニスを知っている中でも、僅かな面々。

あいつの両親と、どうして死体がないのかを知る魔法界の面子が何人か。

 

本当はホグワーツ生の何人かもこの葬儀に参加しようとしていたが、既にあちこちで暴れまわる死喰い人による襲撃や、生徒に責任を負わせたくないというダンブルドアの意向により、生徒は参列を許されなかったのだ。

 

「ここを訪れ、責められるのは儂だけで良かったのじゃがの……」

 

本来なら俺も例外ではない…寧ろ異能の力を持っている分余計に危険なのだが、十分自衛は可能と判断され、一人程度ならダンブルドアが直衛できる為、同行を許されている。

それ以上に、同行を懇願したことが……どうしてもここへ来たかったという方が大きくはあるが。

 

その訳は贖罪……ではない。

罪悪感も、後悔も当然ある、あの時もう少し早く動ければ、もしもっと来ないように言っておけば、ああはならなかったのではないかと。

だがそれは所詮もしの話だ、過去は変えられないし、死が覆るなどあってはならない。

 

責め立てられることで罪を清算しにきた訳でもなければ、けじめをつけに来た訳でもない。

ただひたすらにここで起こることを受け入れる為に、生き残った方としてできることをする為に、俺は来たのだ。

 

「あの……もしかして、君がキュービィー君?」

「……そうだ」

 

少し小さめな声を掛けてきたのは、あいつそっくりな茶髪と、皺を余り気にさせない程度に若々しい雰囲気を纏った女性だった。

 

「やっぱり、あの子の言ってた通り、じゃあそちらの方がダンブルドア校長先生?」

「そうじゃ、始めまして、ミセス・リヴォービア」

「始めまして、ダンブルドア校長先生」

 

彼女が、キニスの母親。

そう思った時には既に、ダンブルドアは頭を下げていた。

 

「──申し訳ない」

「…………」

「儂等を信頼して預けていただいたにも関わらず、生徒を危険な場所に連れていってしまい、挙げ句死なせてしまった罪は、とても購えるものではない」

 

そこに居たのはいつもの飄々とした老人ではなかった。そこに居たのは俺と同じ、自身の無力さと、罪と、悲しさに震える独りの老人だった。

 

「赦してくれ……とは言わぬ、いや、赦されてはならんのじゃから」

 

ダンブルドアは、ある意味ヴォルデモートよりも残酷な人間なのかもしれない。

最初から慈悲の欠片もないヤツとは違い、人並みの優しさを持っていながら、その思いを抑え込み、冷徹な判断を下せるのだから。

 

たが、哀れでもある。

ハリーが死ぬという最悪の事態は免れたのに、キニスの犠牲だけで済んだにも関わらず、優しさ故に自らを責めるしかないのだから。

 

その姿勢を見かねた俺もまた、罪悪感と情けなさを抱えて頭を下げようとするが、それは俺に向かって突き出された手によって阻まれた。

 

「キュービィー、お主が罪を感じる理由は無い。

全ては儂の過ちなのじゃ」

 

この男は全てを背負おうとしているのか?

俺の分の罰すらも、何故受けようとしているんだ?

普段なら小さく光っているコバルトブルーの瞳には、何処までも暗く、苦しそうな、寂しそうな暗闇が広がっている。

 

「──顔を、上げてください、先生」

 

この空気にまるで合わない程明るい声が、垂れた頭を引き上げる。

それが必死で作り上げた声なのは、誰にとっても明らかだ。

 

「あの子は……友達の為に、戦ったんですよね?」

「……うむ、あの子は……優しい子じゃった」

 

走馬灯のように甦る、あの日、あの時。

止めようとしても、それでも死地へ行こうと、行ってしまったあの無謀さが。

 

「あの子は……友達を助ける為に、庇ったんですよね?」

「……そうだ、俺はあいつに、助けられた」

 

つらづらと、淡々と並べられる言葉。

よくもまあ、我ながら何故ここまで口に思いを乗せられないのか。

果たしてこの重さは通じているのか、不安を感じずにはいられない。

それを軽くしようと、いや、言葉にすることが肝心なのだと、ダンブルドアと同じ、こういった時の決まり文句を──

 

「……よかった」

 

──綴れなかった。

よかった、全くもって予想外の一言が、俺達の言葉を塞き止める。

 

「……よかった、とは?」

「……あの子はいつも、学校での、友人達との生活を楽しく話していました。

……それを、守りたいとも。

だから…きっと、後悔は無いと…思います。

私も、そんなあの子の……生きざまを、誇り……に、感じ……ます」

 

嘘なのは、明らかだ。

自分の子供が死んで、それを簡単に誇りなどで片付けられる訳がない。

 

「……だから、お願いですから、悔やまないで下さい、自分を……せ、責めないで下さ……い。

それじゃあ、あの子が……悲しみますから……う、うう……」

「…………」

 

誇りがあった。

無駄ではなかった。

そうでなければ、何故死んだのか。

そう思わなければ、自分自身が折れてしまう。

だが、このある種の現実逃避を、臆病だと非難するようなヤツはここには居ない。

ただひたすらに長い沈黙が、曇天のように埋め尽くしていた。

 

「……リヴォービア君の、父親は何処に?」

「……席を立っています、顔を合わせたら……多分我慢できないから……と」

「…………」

 

……頭で分かっていようと、気持ちが納得できるかは分からない。

諸悪の根元がヴォルデモートだと分かっていようと、俺達に怒りをぶつけるのが筋違いだとはならない。

寧ろ、それは誰よりも普通の反応なのだろう。

 

「……ごめん……なさい、他の方にも……挨拶しなきゃ…ならないので……」

「……ミセス・リヴォービア」

「……?」

「ありがとう、キニス君の……勇気のお陰で……生徒達は、守られた」

「……! そ、そう……ですか……。

それなら……う……良かった……です……う……うぅ……」

 

涙を押さえることは出来なかった。

ダンブルドアのせめてもの気遣いが、彼女を多少ではあるが、慰めたのかもしれない。

それが、それしかできないという、無力を証明するだけだったとしても。

 

「……キリコ」

「……分かっている」

 

キニスは死んだ。

それは覆らないし、覆ってもならない。

残された俺達にできることは、あの時出会ったことを、記憶を、軌跡を忘れないこと。

 

あいつが生きていたという記憶を、生かし、残し続けること。

記憶の中に生き続ければ、心の中で生き続けられる……等という、綺麗事などではない。

遺伝子のように、その意思を受け継ぐこと、それこそが生き残った者の……使命なのだから。

 

そして、意思を、生きざまを無にしない為に。

あの行動が、明日の為だとあいつが誇れるように。

 

二年前、セドリックが殺された時から決意していた思いを、何度も胸に刻み込む。

それは使命という名の、呪いかもしれない。

異能と同じ、俺の運命を縛り続ける物と変わらない。

 

それならそれで良いだろう、幾らでも、何時までも呪われていて構わない。

忘れたくないなら、寧ろ好都合だ。

この後悔も、怒りも、全てを叩き付けてやる。

 

ヴォルデモート、俺はお前などには従わない。

そして、お前を決して許しはしない。

俺は今、正に、静かに燃えていたのだった。

 

 

*

 

 

葬儀が終わり、ただでさえ静かだった空気が、凍るように冷える中、俺達はホグワーツ城へ戻っていた。

正確に言えば戻る、と言えるのはダンブルドアだけであり、春休みの真っ只中、俺が此処に来るのは本来ありえない。

 

普段は大勢の生徒で、暖かい騒がしさが満ち溢れている此処も、人が居なくなった途端、先程の葬儀会場とさほど変わらない程静まり返っている。

 

そのせい…に加え、全く会話も無いせいか、廊下を歩く俺とダンブルドアの足音は、静かさに反し、煩いほど良く響いていた。

 

会話が無いのは別に、話題が無いからではない。

寧ろ、話さなければならない事がある。

それは俺達が此処に居る理由であり、いずれ…やらなくてはならなかった事だ。

それでも中々切り出せないのは、俺にとってもダンブルドアにとっても、ある種の気まずさがあるからなのだろう。

 

「……何故此処に呼んだか、分かっておるの?」

「…………」

 

当然知っている、先日理由は告げられている。

また聞き直すのは、俺の意思を再度確認する為。

無言、それが肯定になる。

 

「ヴォルデモート側へ潜り込んでいるスネイプ先生から、連絡があった。

先日の神秘部での闘い、あれはハリーの予言を狙ったもの」

 

予言……予言か、それがあいつに取って、どれだけ重要なものだったのか。

内容を知らない俺には全く分からないことだが、それが闘いの発端だと思うと……八つ当たりでしかないが、予言すら疎ましく思ってしまう。

 

「結果、ハリーの予言はヴォルデモートに奪われる事になった……と、儂等は考えておった。

しかしそれは違った、あやつは"ハリー"の予言を手に入れてはおらぬ。

果たして何時入れ換わったのか……手にしたのは"おぬし"の予言じゃったのじゃ」

 

入れ換わったのは恐らく、俺が予言棚を崩した時だろう。

そしてその予言とは、ロッチナが言っていた……

 

「詳細は掴めておらん、分かっているのはその予言が、おぬしの過去を語っているという事だけじゃ」

 

"ペールゼン・ファイルズ"

何故そんな物があんな所に置いてあったのかは分からない、だが、アレがヴォルデモートの手に渡ったという事は、俺の過去がヤツに知られた事に他ならない。

 

今後、ヤツはその過去を有効活用してくるだろう。

異能を、レッドショルダーを、フィアナを。

どうすれば、それに対抗できるのか。

 

「……こうなれば、綺麗事など言わぬ。

儂はおぬしの不死性を利用するつもりでいる、戦力として、場合によっては……ハリーの盾としても」

「…………」

「じゃが、然るべき時に利用する為にも、できる限りおぬしを守らねばならぬ。

そうでなければ、ヴォルデモートの打倒は叶わぬじゃろう。

ヴォルデモート打倒は、おぬしの望みでもある筈じゃ」

 

校長室の扉を開けながら、綺麗事も建前も誤魔化しも無く、利益だけを語るその姿勢は、今の俺には聴きやすい話だった。

 

「ヴォルデモートを倒す、おぬしを利用する為に守る。

故に、過去を知ったあやつに対抗するには……儂等も過去を知らねばならぬ」

 

できるなら、できるなら……キニスに、伝えたかった。

知って貰いたかった、それはもう叶わない。

やはり、簡単には割り切れないか。

それでも尚割り切る様に顔を上げ、校長室の中央にある、銀色の御盆の様な物に目を向ける。

 

「どうか、教えて貰いたい。

おぬしの過去を、おぬしがどのような人間なのか」

「……事前に伝えた通りだ」

「……そうか、感謝する」

 

"憂いの篩"

記憶を保全し、それを人に見せる魔法具。

 

「……これは儂の直感じゃが、恐らく、過去を全て語るのはおぬしにとって……辛い事なのかもしれぬ。

じゃから"これ"を使おう、これならば語らずとも、知る事ができる」

 

正直な所、直接語ろうが間接的だろうが関係無い。

生まれて生きて、死んでいくまで。

それを全て見られて、気持ちのいい人間が居るものか。

どっちだろうと、不快な事に何ら変わりはない。

……それでも、見せなくてはならないのだから。

 

「……では、いくぞ」

 

ダンブルドアが俺の側頭部に杖を押し当て、小声で呪文を唱える。

そして尖端が光だし、引っ張られ、糸の様な軌跡が振るわれる。

 

これが俺の記憶、俺の生きた全て。

するすると引き出されるそれは、その熾烈さとは対照的に、美しくもあった。

 

「これがおぬしの記憶じゃ、これを憂いの篩に入れ、顔を浸けることで、その記憶を覗く事ができる」

 

篩の中に入れられると、まるで水に溶かした血の様に溶けて行き、鈍く赤い、中身を表しているかのような赤色へと姿を変える。

覗いていると、混ざって行く様相に合わせる様に俺の視界も唐突に歪んで行った。

 

「…………?」

「大丈夫かの? まあ、一生の記憶を全て写し取ったのじゃ、その分大きな負担になったのじゃろう。

……休んでおきなさい」

 

確かに、ヤツが記憶を見終わるまでやることはない。

加えて、わざわざ過酷な過去を見返そうとも思わない。

俺はダンブルドアの言葉に甘え、近くのソファに倒れ込む。

 

……記憶を一気に移されただけではない、今日一日色々あって疲れたのだろう。

強烈な眠気に誘われるまま、俺はあっという間に、夢も見ない、深い眠りへと誘われていく。

 

寝ている筈なのに、起きている様な感覚。

起きたいと思うのに、寝ている様な感覚。

曖昧な一線の上を漂いながら、俺は小さな炎を見つめていた。

それは、そう、異能の炎だ。

どれだけ死のうと考えても、心のどこかで、生きたいと願う、小さな種火だ。

なら俺は生きよう、少なくとも、仇を取るその日までは。

この種火を、燃やさなければならないのだから。




全ては、リドの闇の中から始まった。
人は生まれ、人は死ぬ。
天に軌道があれば、人には歴史がある。
炎に生まれ、血脈に導かれ、暴かれる果ては何処。
だが、この命、求めるべきは何。
目指すべきは何。
打つべきは何。
そして、我は何。
次回「運命」。
目を疑う真実の中を、キリコが走る。



書いててキツイ。
…いや、オリキャラに葬式回まで用意するのはどうかとは思ったんですよ…けど、
①あんだけ盛大に死んどいて葬式が無いのは不自然。
②もう登場しないというキリとしてちょうどいい
③パート6ヤルコトネエンダヨシャクガアマル
という事情により、やることにしました。

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