【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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私用の為、パート5完結を持ちまして暫く投稿を休載させて頂きます。
再開は恐らく6月からになると思いますが、宜しくお願い致します。


第四十九話 「ファルウエル(Bパート)」

ヴォルデモートが杖を掲げる、幾千万の硝子が砕け散り、千剣が放たれる。

ダンブルドアが杖を振り上げる、突風が巻き起こり硝子片が砂塵へ還る。

 

砂塵は暴風の赴くまま、圧倒的質量を持って押し潰そうとする。

しかし杖から吐かれる様に放たれた、紅炎のごとき悪霊の炎が溶かし気化させていく。

 

三匹のバジリスクを型どり、大気を震わせながら襲い掛かる。

それに対しダンブルドアは、噴水の水を止めどなく溢れさせ、暴れだす津波が炎を呑み込んでいく。

 

ならば、と互いが杖を構え、同時に呪文を撃ち合う。

死の呪いでも何か特別な呪文でもない、ただの失神呪文。

にも関わらず、激しく拮抗し弾けた閃光は大理石を抉る

ぶつけ合っただけなのに、衝撃波が走り、周囲の全てを吹き飛ばす。

 

杖を一回振れば、数十発の閃光が同時に飛来する。

呪文をぶつけ合う度に竜が暴れた様な地鳴りが起き、魔法省そのものが揺さぶられる。

 

援護に向かう者は一人として居ないが、逃げ出す者も居ない。

いや、逃げる余裕すらないのだ、迂闊に動けば巻き込まれると分かっているのだ。

世界最強の魔法使いと、世界最凶の魔法使い。

その戦いは正に、次元が違っていた。

 

「むぅ! これ程までとはの…!」

「やはり簡単にはいかないか…まあ、これで死んでしまってはむしろ悲しくなるが」

 

しかし当の二人は汗混じりとはいえ会話をする余裕がまだある、これでもまだ全力ではないのだ。

その底知れない強さに、キリコですら内心驚愕している。

 

「しかし貴様には弱点がある」

「ほう? 一体それは何じゃ?」

「善性を捨てられない所だ」

 

瞬間ハリーの眼前に、緑色の閃光、死の呪いの、絶望の光が見えた。

速すぎるからか、ダンブルドアが居る事に安堵していたからか、戦いに慣れていないからか。

逃げる事を意識するのすら間に合わない、ダンブルドアが庇おうとするが、何故か途中で止めてしまう。

そして、光が弾けた。

 

「───え」

 

しかし弾けたのは僅かに手前、呪いは目前の小石に当たり霧散していた。

小石の飛んできた方向を見たハリーは絶句した、余りに非常識な光景に、何度も瞬きをする。

 

「何で…呪いが…当たって」

 

信じていいのか、あの光景を。

あれもヴォルデモートの罠なのではないか、その方がまだ現実味がある。

そんなハリーの葛藤は、彼の叫びによって払われる。

 

「ハリーに手は出させんぞ、ヴォルデモート!」

「…グリム擬きが…!」

「───シリウス!」

「な、何故だ! 何故お前が生きている!」

 

死の呪いは当たったのではないのか、ベラトリックスは混乱しながら叫ぶ。

形こそ違えど誰もが驚愕する中、キリコだけはベラトリックスの混乱に隙を見出だし、アーマーマグナムを素早く撃ち込む。

 

「残念だが、こいつは貴重な人材なのでな」

「!」

 

しかしヴォルデモートが狙撃銃を上回る速度で呪文を放ち、弾丸を叩き落としてしまう。

瓦礫に潰され、全身ボロボロのベラトリックスは顔を赤らめながら彼を見上げる、彼女は助けて貰った事に喜びを感じているのだ、だが…

 

「失せろベラトリックス、貴様はキリコ捕縛の任に失敗した…」

「あ、ああ、申し訳ありません…お許しを…」

 

ほんの僅かに怒りを表すヴォルデモートに、ベラトリックスは海よりも顔を青ざめさせる。

 

「今殺さないのは、まだ人手が足りなすぎるからに過ぎない

…さあ失せろ!」

 

杖を振るい彼女を暖炉の中へ叩き込み、ベラトリックスはそのまま煙突飛行の炎に包まれ消えていった。

 

「ヴォルデモートよ、お主は儂の弱点が善性を捨てられない所だと言ったな。

じゃが、儂もお主の弱点を知っておるぞ」

「ほう? それは何だ?」

「信じられる友が、居ないという所じゃ」

 

その時不死鳥の騎士団がこの場に現れ、一気にヴォルデモートを取り囲む。

更に丁度地獄化した神秘部から脱出した闇祓いが、捕縛した死喰い人を引き連れ現れる。

 

「!? あ、あ、あ、あれはまさか…!? じゃあ…騎士団は本当に…!? しかし予言は…!?」

 

ヴォルデモートの姿を目の当たりにし、やっと騎士団の来た理由を思い知るファッジ。

既に殆どの死喰い人は殺されるか逃げたかの状況、つまりヴォルデモートの部下はもう居ないのである。

 

「…チェックメイトじゃ、トム、炎が寄らぬ様周囲には結界も張っておる。

…既にお主の逃げ場はないぞ」

 

幾ら闇の帝王といえど、何人もの騎士団と何人もの闇祓い、そして最強の魔法使いに囲まれれば手の打ちようがない。

 

「…ククク…ハハハ…それがどうした?」

「───!」

 

不意に笑い出すヴォルデモートに、ハリーもキリコも、DAも騎士団も誰もが寒気を感じ取る。

其れほどに露骨な悪意が場を侵食し、支配する。

 

「既に目的は達成されているのだよ…この予言が、俺様の未来を照らしてくれるだろう」

「それは!」

 

トレローニーが予言した、ハリーとヴォルデモートの運命。

あの時落としてしまった予言が、如何なる方法か彼の手元の収まっていたのだ。

 

「健気にもルシウスが、これを守っていてくれたのだ…」

「わ、我が君…」

「よくやったぞルシウス、アズカバンから出た暁には相応の褒美をやろう」

 

実は最初に闇祓いが現れた時、ルシウスはこっそり戦線離脱をしヴォルデモートに予言を渡しに行っていたのだ。

予言を奪われた事に、ダンブルドアは苦い顔を隠せない。

 

「じゃがどうする? 逃げる手立てはあるのかの?」

「ああある、キリコ・キュービィー、貴様には感謝するよ」

「…何?」

 

脱出方法の話が、何故キリコへの感謝に繋がるのか。

その理由は、ヴォルデモートの恐るべき頭脳にあった。

 

「俺様は死の呪いに頼りがちだったが、成る程こういった小細工を交えるとより効果的な殺しが可能になる」

「…………」

「この呪文を創ってくれた事に感謝し、今回は見逃してやろう、エクスルゲーレ(爆弾作動)!」

「───なっ!?」

 

キリコが作り上げた呪文を、教わっていないにも関わらず完全に物としていたのだ。

そして柱が、床が、暖炉が、エントランスが、硝子が、魔法省という建物を形成する全ての要素が次々と爆発する。

 

「魔法省が!」

「大臣! 危ない!」

「上に気を付け───!?」

 

エントランスの一階下は、悪霊の炎渦巻く神秘部。

崩落した床に居た闇祓いが、地獄の業火に悲鳴も残せず焼かれていく。

 

「───ハハハ! ではまた会おうかダンブルドア! その時は俺様が英国の全てを支配しているだろう!」

「ぬぅ…!」

 

ヴォルデモートを追えるが、追えば大切な生徒達が犠牲になってしまう。

それは、それだけはあっては成らない!

ダンブルドアは帝王の追跡を止め、直ちに救助活動へと動きを変えた。

 

「皆逃げるんだ! 魔法省が崩壊するぞ!」

「悪霊の炎がここまで来た! 急げ!」

「暖炉は…」

「駄目! あいつに破壊されてるわ!」

「子供達を優先させろ!」

「だがどう逃げる!?」

 

魔法省で姿眩ましは使えない、エレベーターは既に炎に呑まれた、頼りの暖炉は爆破済み。

あっという間に、悪霊の炎はエントランスを、いや魔法省全体を包み込み、崩落を加速させる。

 

「そうだ! セストラルを呼ぶんだ! 天井が壊れた今なら呼べるよ!」

「リヴォービア君、呼べるのかの?」

「あ、はい! ハグリッド先生から習いました!」

「頼むぞ、儂は崩壊を食い止める、お主達もやるのじゃ!」

「了解! …闇祓い達もだ!」

 

ダンブルドアを筆頭に大人達が力強く杖を掲げると、まるで時間が止まったかの様に炎と崩落が停止する。

そしてキニスが口笛を刻むと、崩落した遥か上空の天井からセストラルが舞い降りる。

 

「掴まれ!」

 

まともに乗る姿勢など整える間もなく、DAメンバーがセストラルにしがみつく。

 

「子供達は乗れたか!?」

「僕らは全員乗ったよ! だから先生達も早く!」

 

残りの面々もセストラルに乗り込んだのを確認したキニスが合図の口笛を吹き、死の天馬が飛翔する。

同時に杖を下ろした為、再び崩壊が始まる。

 

「しっかり掴まるのじゃ! けして振り落とされるでないぞ!」

 

飛翔した瞬間エントランスの床が全て崩れ落ち、正に地獄の大釜と化した元神秘部が剥き出しになる。

セストラルは自分の身を守ろうと、降り注ぐ瓦礫や炎をいなすように動く。

 

「行け! 行けえええ!」

 

誰かが叫び、それに答える様にセストラルは加速する。

肌を焼く様な空気が、上の大穴から流れる冷たさに押し流される。

そして、光が───

 

「───え」

 

キリコの後ろで、光が弾けた。

雷鳴の様な音がし、彼は、誰もが振り向いた。

 

「───キ…」

 

彼は、セストラルに掴まっていなかった。

何かが起こり、手を離してしまったのだ。

 

「うわあああぁぁぁ!」

「───アクシオッ(来い)!」

 

咄嗟の呼び寄せ呪文が、キニスを捉える。

炎の中に落ちるすんでの所で、彼は引き寄せられ始める。

 

「───ッ!?」

 

しかし、運悪く落ちてきた瓦礫がキニスにぶつかり、彼は再び落下を始める。

それを見たキリコが、彼に向かって飛ぶ。

 

アグアメンティ(水よ)!」

 

落下速度はお互い同じ、その間を埋める為に水圧ジェットで加速する。

だが炎は目前、助けられてもキニスは全身を焼かれるだろう。

 

「はぁっ!」

 

しかし、助けに向かうキリコに気付いたダンブルドアが、悪霊の炎を一時的に吹き飛ばす。

剥き出しになる神秘部の床、これだけの距離があれば間に合う。

にも関わらず、キリコの焦燥は更に加速した。

 

「アーチじゃと!?」

 

そう、キニスの落下地点に、丁度横向きに倒れたアーチがあったのだ。

潜ればあの世行き確定のそれが、彼の真下にある。

 

「───!」

 

もう呼び寄せ呪文に切り替える間すら無い。

限界まで、全ての魔力を使いきる勢いで加速して行く。

あと数センチ、キリコの伸ばした手を、キニスが掴む。

───しかし。

 

「───なっ…」

 

二人の運命を別つ様に、炎が上昇気流となり、キリコを数センチ吹き飛ばした。

その熱波が、キニスの手を引き剥がす。

ダンブルドアが、音速に迫る引き寄せ呪文を放つが、既に離れすぎている。

もはや間に合わない、どうやっても間に合わない。

 

「───諦めるかぁっ!」

 

だがキニスは、ある物を取り出した。

逆転時計、それを見たキリコが、彼の狙いを理解する。

 

過去に飛ぶ気だと、どの程度前かは分からないが、しかしそれなら確実に助かると。

───しかし、しかし、やはり、この世に神など居なかったのだ。

 

「───あ」

 

火の粉が手を擽り、逆転時計が火の海に落ちた。

そして、キニスが、アーチを潜った。

 

「────」

 

再び巻き上がる炎と、崩れ出す瓦礫。

キリコの視界を、炎が遮る直前。

誰にも聴こえない様に呟いた聞小さな声、それが、キニス・リヴォービアという少年の───

 

「───ごめんね」

 

───最後の言葉だった。

 

 

*

 

 

…長い魔法界の歴史において、これ程凄まじい惨事は数える程しかないだろう。

焼かれ、崩れ、瓦礫の山となった魔法省の前に彼等は佇んでいた。

 

「…コーネリウス、教えてくれんかの」

「…………」

 

嘗ての魔法大臣、その面影は何処にもない。

彼の今回の暴走は余りにも酷かった、その結果がこの魔法省崩壊を招いたと言える。

 

「…お主の性格は知っておる、押しに弱く、少しお人好しで、性根は優しい男じゃ」

「…………」

「…じゃからこそ、間者が横行し、権力闘争が支配するここでは、疑心暗鬼に成らざるを得なかったのじゃろう」

 

慰めに近いダンブルドアの言葉を、ファッジは自嘲気味に切り捨てる。

 

「…私は、そんな人間ではない、誰かに非難されたり、足を掬われるのが怖くて、日より見に逃げただけの臆病者だ」

「完璧な人間などおらぬ、過ちを悔い、繰り返さぬ様に努力する事が重要なのじゃ。

…あの様な暴挙、何かしら理由があるのじゃろ?」

 

そう諭された彼は、少し顔を俯けながら、罪を告白するかの様に話し始めた。

 

「予言が出ていたんだ、一週間程前に…」

「…………」

「″不死鳥の騎士団が神秘部に現れる、そこに居る者達によって、魔法省は崩壊する″と、いう予言だった。

私は、騎士団が魔法省を乗っ取りに来るのだと考えた…」

「…………」

「私は極秘裏に職員を退避させ、迎撃体制を整えた。

結果は見ての通り…騎士団が現れ、私が暴走し…文字通り崩壊した。

予言を実行したのは、他ならぬ私だったのだ」

「予言は所詮予言、そこに如何にして至るかは儂等次第なのじゃよ」

「…全くだ」

 

ファッジが振り向けば魔法省の役人が、真面目な表情で佇んでいる。

彼等の会話が一区切り着くのを待っていたのだ。

 

「コーネリウス・ファッジ、今回の事件において聴きたい事があります、御同行願えますね?」

「ああ、勿論だとも」

 

事情聴取など名ばかり、これから彼はこの惨事の責任全てを取らねばならないのだ。

最早アズカバン行きは確定と言える彼に、ダンブルドアが最後の言葉を掛ける。

 

「コーネリウス、話してくれた事感謝するぞ。

…お主に最も酷い目に逢わされた儂が弁護すれば、お主の判決も少しは軽くなるじゃろう」

「…ありがとう」

 

連行されるファッジを見送るダンブルドアに、一人の男が近付く。

 

「あの様な男気にする事もないでしょうに、奴のせいで我輩達が何れ程出遅れたか」

「セブルス、そうではない、彼もまたヴォルデモートに踊らされていただけなのじゃ」

 

だがスネイプの目線は誰でもなく、魔法省を修復する人達に向いていた。

その横の丁重に並べられた、大量の肉塊にも。

…あの地獄から逃げきれなかった、闇払いや死喰い人のなれの果てである。

いや、悪霊の炎に焼かれて遺体が残っているだけマシなのか。

 

「…奴は、生きているのでしょうか」

 

闇の陣営との二重スパイという重要な役目を負っている彼は、ダンブルドアからキリコの不死性を教えられていた。

それを疑ってはいないが…しかし、この惨劇の中で生き残っているとは信じにくい。

 

「…あやつの力は…解明しきれていない以上断言できぬが、生き残る可能性が微かでもあれば、それを拾い上げる…という力なのじゃろう」

「…悪霊の炎が蠢く瓦礫の中…それも最も深い階層に生き埋め、生き残る確率は零と断言できます」

「…生きていて欲しい、とは思うのじゃが」

「それは不死性の為ですか、それとも…」

「無論、一人の生徒としてじゃよ」

 

(…じゃが、決して生き残れないような状況で生きていたとしたら?

零を一へ引き上げる、それは因果率への干渉…神の御技に等しい)

 

ダンブルドアの頬を、一筋の汗が流れる。

いや、無い、形有る物は必ず滅ぶ。

それは自分が嘗て最悪の代償を払って漸く思い知った、この世の不変律。

それが歪むなど、あっては───

 

「…! 校長、奴です!」

「…なんと…」

 

瓦礫の中から引き摺り出されたのは、全身に酷い火傷を負った少年の死骸。

形が止まっているだけでも奇跡、一目で分かる、どう考えても助からないと。

 

「…やはり、駄目じゃったか」

「奴が死んだという事は、リヴォービアも…」

 

ダンブルドアは不死の力を恐れつつ、密かに期待もしていたのだ。

同じく瓦礫に呑まれたキニスが、キリコの力の恩恵を受け生存しているのではないかと。

 

「…二人とも…すまぬ…」

 

己の力不足を悔やむが、嘆く暇は無い。

自分の存在が割れた以上、ヴォルデモートは今まで以上に活発な動きを見せるだろう。

急がねばならない、幸いあやつの不死の一つは、既に見当が───

 

「…! 誰か! 誰か治療師を呼んでくれ!」

 

キリコの死体を運んでいた者が叫ぶが、周りの人は一体誰を治療するのだと訝しむ。

しかし、ダンブルドアだけが″まさか″と思った。

そして彼は、心の底から戦慄する。

 

「───この子はまだ生きているんだ!」

 

全身を悪霊の炎で焼かれ、数十ヶ所以上の複雑骨折に粉砕骨折。

更に内臓損傷まで負って尚、彼は生きていた。

そしてその怪我全てが僅か一週間で完治したと知る事となるのである。

 

 

*

 

 

聖マンゴに緊急入院した俺は、集中治療を受け、今は療養期間を過ごしている。

療者曰く、信じられない回復力との事だ。

 

…しかし、それと反比例する様に、俺の心は沈んでいた。

未だにそれを認めようとしない自分がいる、それが現実だと冷静に捉えている自分がいる。

考えるだけ無駄だと寝ようとした時、病室の扉が叩かれ幾つかの人影が入ってきた。

 

「キリコ、お見舞いに来たよ」

「あれ、もう怪我治ったンだ」

 

そう言いながらベッドの隣に菓子やら何やらが積み上がっていく、ヤツ等はそれからも、今の学校の状況や世論等を伝えてくれた。

…それだけだ、それくらいしかヤツ等は語らない。

 

ダンブルドアから既に聞いているのだろう、それが本当かどうか知るためにここに来たが、聞く勇気が出ないのだろう。

 

重い空気が部屋を満たしていき、息が詰まるような錯覚を覚える。

口を開こうにも、息苦しさがそれを邪魔する。

…何れ程経ったのか分からないが、次に音が響いたのは相当後だった。

 

「キリコ…聞いてもいいかな」

 

ハリーが声を弦の様に震わせながら絞り出し、目を現実から背ける様に泳がせながらも、言い切った。

 

「キニスは、…どうなったの?」

「…………」

 

何も答えない、それこれが、全てを示していた。

ダンブルドアから聞いて確信してしまった、アーチを潜った先はあの世だと。

 

「…う…う…うう…」

 

静かな嗚咽と慟哭が、淡々と流れる。

…誰のせいなのか、迂闊に罠に掛かったハリーのせいか、罠を仕掛けたヴォルデモートのせいか、自分から突っ込んで行ったあいつの自業自得か、止めきれなかった俺のせいか。

 

分からない、何れだけ考えようと答えは出ない。

死ぬ事はおろか、静かに過ごす事も許されない人生。

戦いの中でしか生きられないのではない、戦いの中しかない俺の運命を俺は呪った。

それに誰も彼もを巻き込む、その運命にも…

 

───キニスは、死んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───何だ、この予言は」

「アストラギウス銀河? バララントギルガメス? 百年戦争? アーマードトルーパー?」

「これが、こんな事が有り得るのか?」

「───答えろ! ジャン・ポール・ロッチナ!」

「正直に話したとて、そんな話、貴方は信じたでしょうか?」

「…なら今話せ、これは真実か」

「全て嘘偽り無く真実、確かに存在する世界です」

「…異能者、賢者、異能生存体」

「成る程、奴の…あの年に合わぬ度胸、それなら納得できる」

「…予言を取り間違えた罪は重い、が…この予言の価値は高い。

奴の処罰は…アズカバンから出てきてから考えるとしよう」

「今はそれよりも、やるべき事がある」

「遺伝確率250億分の1、ならば、俺様の仮説は───」

「───しかし、どう確かめる? 確信はあるが確証はない」

「───いや、それでも殺らねばならない、永遠を生きるのは俺様だけなのだから」

「───掴んだぞキリコ・キュービィー、貴様の殺し方を!」




安らかな日々が終わる。
前を向けば近付いてくる賽の河原。
友よさらば。
薄れ行く意識の底に、這い出流数々の幽鬼。
耳に残る叫喚、目に焼き付く炎。
次の旅が始まる。
旅と呼ぶにはあまりに厳しく、あまりに悲しい、深淵に向かってのオデュッセイ。
次回、『暗転』。
キリコは、次の巡礼地に向かう。

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