【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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クソ忙しくて感想返す暇も無い…(´・ω・`)


第四十八話 「アンノーン(Bパート)」

「キリコ! 何でここに…!?」

「話は後だと言っている」

 

キリコの奇襲によって危機を脱した一行は、その足で予言の間を後にする。

だが山の様に降り重なった予言から、圧死しなかった死喰い人が這いずり出ようとしている。

しかし、キリコはとうに気付いていた。

 

 「エクスブレイト(爆破弾頭)

 

爆破弾が水晶の山に激突するが…爆発しない。

その高い貫通力により、爆発する前に内部へ入り込んでいるのだ。

当然水晶の中は極めて高密度な密集空間、その中で爆発が起これば、反射によりその威力は───

 

「ヌギャアアアッ!!」

 

───想像を絶するものとなる。

この段階で脱出できていなかった連中は、今ので殆ど爆死したであろう。

しかし死体を一々確認している暇も無い、一行は急いで駆け出す。

 

「ちょっと待って! 僕の予言を拾わないと…!」

「行かせるかよぉっ!」

 

黒煙を纏いながら現れたのは人狼、フェンリール・グレイバック。

その類い希なる身体能力によって、最初の雪崩から脱出していたのだ。

 

「ククク…お仲間を抱えながらで何処まで闘えるかな?」

「そこをどけ」

「聞くと思うか! 痛む、痛むぜ…てめえにやられた肋と首が!」

 

散々ボロクソにやられた事もあり、キリコを怨みに怨んでいるグレイバック。

しかし彼との戦いも三回目、その目に油断は無く、凄まじい速度で何かを引き抜くのを見逃さなかった。

 

「不意打ちは無駄だっ! プロテゴ(盾よ)! エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

 

盾と武装解除の同時詠唱、攻撃と防御を同時に行い不意打ちを潰しにかかる。

キリコは咄嗟に武装解除を回避するが、盾が張ってある以上何を唱えても無駄。

 

「……は?」

 

では今のは何だ?

何故、グレイバックの腹に風穴が空いている?

人狼としての嗅覚か嗅ぎ付けたのは、火薬と鉄が焼ける様な臭い。

 

「……な、何だそれは!?」

 

キリコの手元に握られていたのは、拳銃だった。

まさか、まさか? 銃の純粋な威力のみで、盾を力押しで破ったのか?

拳銃にしては巨大過ぎるそれを睨みながら叫んだ彼に対し、キリコが答えた。

 

「バハウザーM571 アーマーマグナムだ。

……複製品だがな」

 

盾の呪文すらぶち抜く、アストラギウスが生んだ怪物拳銃が、火を吹いた。

 

「がっ!? ……な、舐めるなよ……! こんな怪我ぐらいで人狼が死ぬか……!」

 

彼は変身していないとはいえ人狼、耐久力も尋常ではなく、それこそ心臓を撃ち抜かねばまず死なない。

しかし、ここに来てまだグレイバックは甘いと言わざるを得ないだろう、既に三回目の交戦となるのはキリコも同じ、対策を立てない理由が無い。

 

「……!? あ、熱い! 何だこれは! か、体が崩れ……て……ま……さ……か……!」

 

この中で唯一マグルの文化にも精通しているハーマイオニーが、この光景を見て、その原因に気付いた。

 

 「まさか……銀の弾頭(シルバーブレッド)……?」

 

人狼の弱点は銀、それを二発も体内に受けてたグレイバックは瞬く間に崩れていく。

 

「…こ…ん…な…所……で…俺………は…ま……だ……」

 

途切れ途切れの断末魔を残し、グレイバックは砂に返った。

 

「…まさか、死んだのか…!?」

「な、何も殺すことは…」

 

ロンとネビルが震えながら呟く、この場で人の死を見た事があるのは数人居るが、殺し慣れているのはキリコしか居ない。

始めて見る明確な死の光景に、彼等は死喰い人ではなくキリコに震え上がった。

 

「…というか何故貴方そんな物持ってるの!? 銃刀法違反よ!?」

「話は後だ、増援が来る」

「え、あ、う」

「早く逃げよう! 急げ!」

 

多少は人の死を見慣れているハリーが彼等を鼓舞するが、彼等は既に囲まれている。

 

「逃がすか!」

「予言は壊すな! つまり───」

「壊さなきゃ殺して良いんだな!」

「だ、駄目だ、囲まれてる!」

 

囲まれた状況で仲間を守りながら逃亡、どう考えても無茶な状況にも関わらず、キリコは冷静そのもの。

それもその筈、彼が来たのは死喰い人やハリーの更に後、事前準備の時間は十分あった。

そう、既に次の手が打たれているのだ。

 

「!?」

「あ、あれはまさか!」

 

予言の間をぶち破りながら現れた巨大な影、あの日マルフォイ邸に居た死喰い人には覚えていた。

呪文を尽くかわし、館を破壊し回った悪夢の様な石人形。

ATの左手に取り付けられた巨大なクローが、包囲網を引き裂く。

 

「これって…!」

「乗れ」

 

無言の呼び出し呪文によって呼び出されたATにキリコが乗り込み、ハリー達が装甲にしがみ付き、神秘部の床をターンピックが抉っていく。

 

機体名″ラビドリーイミテイトtype-S″

室内戦に適応する為、ラビドリードッグの武装を参考にしたAT。

格闘用クローにサブマシンガン(スコーピオン)グレネードランチャー(M79)の二丁流。

グレネード投下パックも装備し、全方位に攻撃可能である。

 

ATは兵器にしては遅いと言うが、あくまで兵器としての話。

人がまともに追い付ける速度ではなく、一気に死喰い人を引き離す。

 

「キリコ! 来たよ!」

「…………!」

 

ルーナの叫びに上体を回転させると、黒煙を纏いながら死喰い人が高速で迫っているのが見える。

ヴォルデモートが開発した飛行呪文、その早さはアクセル全開の車に匹敵する。

 

だが果たして完璧に乗りこなせているのだろうか? 否、それをできるのはごく一部のみ。

では、精密さに欠けたその動きで、跳弾も入り交じった弾幕をかわしきれるだろうか。

 

「ひぇぇぇ…」

 

サブマシンガンの一斉射によって羽虫の如く撃ち落とされる死喰い人を見て、腰を抜かすロン。

別に彼だけが怯えている訳ではなく、全員この光景に恐れを成している。

 

「うわっ!?」

「どうしたの?」

 

突然急ブレーキをかけて立ち止まったので、全員不思議に思った。

 

「…出口は何処だ」

 

まさかの迷子である、緊迫した空気の反動か、こいつでも迷子になるのか、と少しの親近感を彼等は感じた。

だが迷子になったのには理由があった、それにハーマイオニーが気付く。

 

「違うわ! 道が変化してるのよ!

ほら見て! 行くときにつけた印が、全然違う場所についてる!」

「本当だ…!」

(これで侵入者を惑わすわけか…)

 

思わぬ事態に足を止めてしまう、だが遥か後方からは死喰い人が今にも押し寄せんとしている。

 

「どうする!? このままじゃ不味いぞ!」

「手分けして出口を探すか!?」

「…いや、合流できる保証が無い」

 

数秒間思案した後、キリコは現状成しうる最適な行動を選択した。

 

「お前達はここから早く脱出しろ、だが決して一人になるな」

「でもあいつらが!」

「俺が全員仕留める」

 

全員息を飲み、キリコの正気を疑った。

馬鹿なのか? 一体死喰い人は何人居ると思っている!?

しかし食い止められるかを別に考えれば、間違った方法ではない。

 

別れ道になっているのはここからであり、予言の間からここまでは一直線。

つまりキリコがここで食い止めれば、ハリー達はじっくり出口を探せる。

尤も更に増援が来なければの話だが、それは想定しても無駄である。

 

「無茶だ! そりゃキリコは強いけど、あんな数を一人でなんて───」

「…分かった、直ぐに見つける!」

「ハリー!?」

 

誰もがキリコを止めにかかる中、ハリーだけが彼の提案に乗った。

 

「正気か!?」

「…キリコなら、大丈夫だ、むしろ僕たちが居たら足手まといになる」

 

クィレルの時、バジリスクの時、三大魔法学校対抗試合にヴォルデモートの復活。

キリコの闘いを見続け、その実力を最も知っているからこそハリーは彼を信じた。

 

「…行け、もう奴等が来る」

「うん、頼んだ!」

 

奥の扉にハリーが入って行くのを確認すると、キリコは素早く防衛戦の準備に取り掛かる。

一旦ATから降り、バックサックから取り出したのは 指向性対人地雷(M18クレイモア)、これをたった一つしか無い扉に設置する。

更に素早く装填する為にマガジンを手元に置き、一先ずの準備は完了した。

 

(…来た!)

 

扉の向こう側から放たれる、重さすら感じる殺意をキリコは敏感に感じとる。

次の瞬間、扉が勢い良く放たれた、つまり。

 

「!? あああっ!?」

 

クレイモアから放たれた大量のベアリング球によって死喰い人の全身はゴルフボールの様に変貌する。

立て続けにM79を一発ぶちこみ、更なる地獄を招く。

だが彼等が肉盾になったお陰で、後方の敵は健在。

 

 「ボンバーダ・マキシマ(完全粉砕せよ)!」

 

次々と放たれる爆破呪文、この密室においては巨体であるATでかわすのは不可能。

ATの弱点である爆破呪文が何度も直撃する。

 

 「エクスパルゾ(爆破せよ)! クソッ! 何度撃ち込みゃいいんだ!?」

 

だがいくら撃ってもATが壊れる気配は無い、それは当然の事だ。

何故なら装甲起兵は通常のゴーレムと違い、大量の部品が複雑に組合わさり構成されている。

つまり破壊できるのは一つの呪文につき一部位のみ、しかもこれを見越して装甲も強化済み。

そして、そんなに手間取っていてはサブマシンガンの良い的になってしまう。

 

 「コンフリン(爆発せ)───っがぁ!」

「クソッ、化け物め!」

 

密室での戦闘が不利なのは向こうも同じ、次々と撃ち落とされる。

この化け物と遣り合うは不利と判断し、何人かの死喰い人がハリー達が逃げたであろう扉へ向かって行く。

 

「…行かせはしない」

 

だがその黒煙を、左手のアイアンクローが引き裂いた。

狭い室内故に、手を伸ばすだけでも死喰い人に届いたのだ。

結果煙の跡にあったのは、上半身と下半身が分離した屍だった。

 

「今だっ!」

「!」

 

味方の死を隙と捉え、他の死喰い人も扉へ動き出す。

死喰い人はATの真後ろ、これでは攻撃できない…と憐れにも彼等はこの期に及んでまだ油断していたのだ。

 

背中の投下パックから、数発の手榴弾が投下される。

しかしこれだけでは起爆できない、そこでキリコはATのコックピットを開け放った。

これなら後方確認も容易い、死喰い人がキリコの目線に気付く頃には、アーマーマグナムの凶弾が既に手榴弾を撃ち抜いていた。

 

「なっ───あああっ!」

 

一つの手榴弾が爆発し、他のも連鎖爆発、扉の先へ向かおうとしていた死喰い人はこれで全滅である。

 

「きゃあああっ!」

「ッ!?」

 

その扉の遥か奥から聴こえてきたルーナの悲鳴、やはり死喰い人が回り込んでいたのか!?

念のためクレイモアを複数個仕掛け、ローラーダッシュを走らせる。

 

入り乱れる道に惑わされない様に、彼等の痕跡を辿っていく。

それらを突破し辿り着いたのは、真っ暗な一室だった。

その中央にはポウと蒼白く光る水槽が置いてあり、水族館にも似た雰囲気を感じる。

 

しかしその水槽は倒れており、中には何も入っていない。

その時、ルーナの声が再び聞こえた。

 

「…こんなヤツまで居るのか」

 

部屋の隅に居た彼女を襲っていたのは、腐臭を放ちながら触手を伸ばす異形の脳だった。

 

「キリコ!」

「伏せろ、フリペーダブレイト(貫通弾頭)

 

キリコの存在に気付いた彼女が身を屈めた瞬間、貫通弾が怪物の脳、そのど真中を貫く。

 

「大丈夫か」

「うン、皆と逃げてたら急にこれに襲われて、私が時間を稼いでたンだ」

 

どうやら大きな負傷は無いらしい、と一息吐く間も無い。

 

「───ッ!?」

 

確かにど真中を貫いたにも関わらず、脳の化物は再び動き出す。

どうやら簡単には死なないらしい、なら死ぬまで攻撃すれば良い。

 

レラシオ(離せ)

 

近くの瓦礫を怪物にぶつけ、怯んだ隙にATに乗り込むキリコ、彼はアイアンクローを振りかぶる。

だが化物は小さく、素早い、これでは引き裂く事は難しい。

…ならば、向こうから来て貰えば良い。

 

アクシオ(来い)

 

先程撃ち込んだ瓦礫に、引き寄せ呪文。

怪物は瓦礫に引き摺られる形で、キリコ、もといATの真正面に引っ張られる。

相手は空中、回避は不可能。

 

ターンピックで軸を固定し、片足だけローラーダッシュを起動。

その場で回転し、加速の勢いを乗せたクローが怪物に直撃した。

 

「──────!!!」

 

発声機関が無いので聞こえないが、怪物は確かな断末魔を上げた。

怪物は今ので死んだ、だがキリコに更なる事態が襲い掛かる。

 

「なっ!?」

 

今のターンピックが原因か、突如地面が崩落してしまったのだ。

 

「キリコ!?」

「問題ない、行け!」

 

AT諸とも高所落下してしまう、しかし驚きこそしたが問題は無い。

落下の衝撃は降着姿勢によって、難なく緩和された。

 

(…ここは、何だ?)

 

棚の山、それだけ見れば予言の間に近いが、置いてあるものは大量の懐中時計。

それらは金色の装飾を受け、ただならぬ雰囲気を放っている。

 

(そうか、ここは逆転時計の保管庫か)

 

また変なのが出たらどうしたものかと思ったが、そんな事は無さそうである。

さあ、早く出てハリー達と合流しなければ…

 

(…物音!?)

 

サブマシンガンを油断無く構えるキリコ、ここで戦闘になり逆転時計が起動したら恐ろしい事になる。

部屋の隅から隅まで観察すると、そこには飛んでもないヤツが潜んでいた。

 

「…キュウ」

「キニス!?」

 

そう、今頃ホグワーツに転がっている筈のキニスが居たのだ!

彼は先程のAT降下に吹っ飛ばされていたのだが、そんな事はどうでもいい。

胸ぐらを掴み取り、凄まじい剣幕を放つキリコ。

 

「何故お前がここに居る!?」

「え? あ、おはようございま…痛い痛い! は、話しますから! 取り合えず離して!」

「…どうやって来た、暖炉は封鎖した筈だ」

 

するとキニスはローブから小さな金色の懐中時計を取り出す、そう、逆転時計である。

 

「いやー…暖炉塞がってたから、これで塞がれる前に飛んだんだよね…アハハ」

 

何故こいつが逆転時計を持っているんだ?

実はキリコは一年間アンブリッジに付いていたせいで、キニスの現状を全く知らなかったのだ。

こんな事になるなら全身縛っておけば良かったと後悔するも、こうなった以上仕方無いとATを走らせる。

 

「乗れ、それと手短でいい、お前が何をしにここへ来たのか言え」

「あ、うん、えーと、あのルスケって人が、六年前の今日神秘部にダンブルドア先生が居るって言ってたよね?

それで前ルーナから、神秘部には年単位で飛べる逆転時計があるって聞いた事があったんだ」

「…まさか」

 

六年前のここにダンブルドアが居る、そしてここには逆転時計がある。

この二つを繋げば、彼のやろうとしている事は明らか。

 

「…僕が六年前に飛んで、今日の事を過去のダンブルドア先生に伝えれば、先生は確実にここに来れる」

「…寂しい思いとは、そういう事か」

 

逆転時計のルール、それは自分を知る者に姿を見られてはならないという点。

仮にキニスが飛べば、飛ぶまでの六年間彼は誰とも会えなくなる。

 

「…なら、さっき持ってたのは」

「うん、神秘部の、年単位で飛べる逆転時計だよ」

 

…沈黙が流れた。

ハリーがスネイプに話しているので、何もしなくても騎士団は来る。

だが来るまでに彼等が死なないとは限らない、もしキニスが飛べば、その可能性も無くせる。

ダンブルドアに話す事でタイムパラドックスが起こる可能性はあるが、ヤツなら起こさないように行動できるだろう。

 

「…どうしても」

「え?」

「もし誰かが死にそうになったら、その作戦をやれ」

「…いいの?」

「…良くは無い、だが、死んでしまっては元も子も無い。

それに俺は逆転時計の使い方を知らない以上、お前に任せるしかない」

「分かった、僕だって六年間もボッチは嫌だからね…」

 

だが、その決断は直ぐに迫られる事になる。

人の気配が最も強い所へ走り続け、辿り着いた場所は巨大な空間。

そこの中央、巨大なアーチがある台座に、ルシウスに杖を突きつけられているハリーが居た。

 

「何でここに! キリコが足止めしてたんじゃ!?」

「神秘部には多くの隠し通路があるのだよ…」

(一歩遅かったか…!)

 

ハリーだけではない、他の面々も死喰い人に杖を突き付けられ、拘束されている。

流石にこの数を同時に狙撃するのは無理、更にサブマシンガンにしろグレネードランチャーにしろ、味方まで巻き込みかねない。

 

「ど、どうしよう…」

「…下がっていろ」

 

キニスを後ろへ後退させ、何とか隙を伺おうとする。

しかし彼等もこの場に居ないキリコを警戒しているのか、中々隙を見せない。

下手に攻撃すればそれこそ人質を殺されてしまう、極めて厳しい状況に彼らは追い込まれていた。

 

(…ルシウスの目的はハリーの持っている予言だ、あれがある以上人質は無事だろう、だが…)

 

自分の頬を滴る汗に、キリコは気付かない。

考えど思いつかない打開策に、焦燥が募っていく。

 

「ハリーだめ! それを渡したら!」

「…でも、こうしないと皆が!」

「そうだそれで良い、またあの小僧に来られても面倒だからな、さあ予言を!」

「ハリー駄目だ! 絶対に渡しちゃ駄目だ! 僕はどうなっても良いから!」

「ネビル!」

「へぇ随分言うじゃないかい? じゃああんたもママやパパと同じになってみるかい?」

 

痩せこけた頬と、狂気を宿した目を併せ持つベラトリックス・レストレンジがネビルの喉にナイフを走らせる。

 

「いや? やっぱり一人づつ殺した方が小僧も思い知るか?」

「な…やめろ! だったら僕から無理矢理奪えばいいだろ!」

「ポッター、我が君は貴様をご自身の手で殺したいのだ…実に運が良い」

「…キリコは、無事かな」

 

ふと呟いたルーナの言葉がキリコの胸を抉り、無力感を傷口に滲ませる。

 

「ハハハ! 安心しな? あの小僧は私が必ず八つ裂きにすると決めているんだ、…必ず、必ずねぇ!」

「やめろ! ルーナに何をするんだ!」

「じゃあお前から死ぬかい? そうだ、それが良い!」

「クソッ! キリコは何してるんだ!」

 

ネビルに向かって振りかぶるベラトリックス、キリコはその動きが、死の呪いの動きだと気付いた!

 

「キリコ…ゴメン!」

「───!」

 

そしてキニスも逆転時計に手を掛けた、逆転時計の時間改変は″改変含めて時間軸成立″。

つまりキニスがネビルの死を目撃してしまえば、それはもう絶対に変えられなくなる。

 

「やめろおおおお!」

(行くしかない…!)

 

もはや選択肢は残されていない、一か八かの可能性に掛け照準を合わせる。

もしネビルに当たったら…そんな余計な事は考えない。

…そして、トリガーと、時計の針が同時に動こうとする───だがその瞬間!

 

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

「っ!?」

 

突如飛来した武装解除呪文を、ベラトリックスは紙一重でかわした。

誰が来た、トリガーと逆転時計を動かそうとしていた二人も含め、暗闇の中を見つめる。

その乱入者達を見た時、ベラトリックスの顔が一気に歪んだ。

 

「貴様…! よくも!」

「悪いが彼を殺らせる訳にはいかない、何せハリーの親友なんだからな!」

「シリウス!」

 

シリウス・ブラックに続き、神々しい光を放ちながら現れる不死鳥の騎士団。

 

「や、やった! 間に合った!」

「…ブラック」

 

逆転時計を使う理由が無くなったキニスは、未だ危険であるにも関わらず喜びの声を隠そうともしない。

対してキリコは、今が好機と騎士団に怯んだ死喰い人にランチャーを叩き込む。

 

「キリコ! 君も居るのか!」

「助かった」

 

騎士団と石人形みたいな化物の乱入にパニックに陥る死喰い人達。

騎士団の面々は攻勢へ転じ、内何人かを子供達の保護に当たらせる。

 

「いや、遅れて済まなかった大丈夫だったかい?」

「ルーピン先生!」

「グレンジャー、先生は止してくれ…私は今無職なんだ」

 

死の淵から解放され、やっと一息吐くDAの面々。

だがその中で、キリコだけが警戒心を剥き出しにしていた。

 

「…どうしたキリコ?」

「嫌な、予感がする」

 

長年戦場で生き残ってきたキリコの直感が告げていた、今すぐ逃げろと、手遅れになると。

…逃げる訳にはいかない、全員無事でなければならない。

杖を構えた時、それは来た。

 

「闇祓い! 来てくれたのか!」

 

奥の通路から現れた闇祓い、これで死喰い人を残滅できる。

…しかし、その希望は信じられない方向へ転がって行った。

 

「騎士団だと…やはり…まさか…」

「ファッジ? 何故彼も…」

「───伏せろ!」

 

独特な髪色の女性を押し倒した瞬間、頭上を失神呪文が掠めていく。

撃ったのは…闇祓いだ。

 

「な、何なの!?」

「予言の通りだ…このままでは魔法省が…私が…」

 

ブツブツと呟き顔を上げるファッジ、その目はどう見ても正気には見えなかった。

 

「全員、全員捕らえろ! 殺してもかまわない!」

「───何だと!?」

「予言の成就を食い止めろ! 騎士団は…敵だ!」

 

味方だと思われた闇祓いから、次々と放たれる閃光。

誰が仕組んだのかは分からないが、どうやら俺達は、想像以上の泥沼に引きずり込まれたらしい。

混乱と混沌が、全てを呑み込んでいく。

誰も彼もが叫び、倒れる。

もはやここは神秘とやらの居場所ではない、地獄の最前線だ…!




消える、消える、消える
轟音の中に、獄炎の中に全てが消える
そして残された物は、ささやかな希望か、過去からの神託か
答えはこの手の中にある
全銀河のきらめきを、その予言の意味を、畢竟、集約すれば、この法と律といたいけなる混沌と同じ
次回、『ファルウエル』
答えなどいらぬ、今はただこのカオスを走り抜けるのみ



さあ皆さんやってまいりました、ボトムズ恒例三つ巴の大乱闘!
生き残るのは死喰い人か! 闇祓いか! 騎士団か!
ヒント 「異能生存体が生き残る」

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