【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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ボチボチゴブレット編も終わりが近付いてきました。
さて、迷路は無事でいられるのか…


第四十二話 「不死の末裔」

どこまでも続く暗黒、天を貫く様な生垣。

あても分からずその中を歩く。

しかし俺自身が歩いている訳では無い、ATの方だ。

 

機体名″スコープドッグⅡ″

特に特徴も無い、極めて平凡な機体である。

逆に言えば適応能力が最も高く、何が出てくるか分からないこの状況には最良だ。

尚、何故″Ⅱ″なのかと言うと、生成時周囲の草を巻き込んでしまい、全身緑色になったからである。

 

立ち込める霧が、潜むモノの気配を隠す。

聞こえるのはATが軋む音だけ。

 

しばらく進むと、道が二手に別れた。

…どちらに行くか。

少し悩んだ後左に進む事にした、右にはトラウマがある。

 

結果表れたのは、頭がどこかも分からず、外殻を取っ払った様な見た目を持つ、そして尻尾らしき部位をしきりに爆発させる生物。

 

…尻尾爆発スクリュートか。

ハグリッドが色々放っているのは知っていたが、生徒に育てさせた物を出すとは…

3メートル程の体格を眺めると、背中に″K″と書かれているのに気付く。

 

…確かキニスが「僕のスクリュート、一目で分かる様に背中に″K″って書いといたんだ!」と言っていたな。

あいつの育てた個体か、よくもこんな大きさまで育ててくれたな。

 

しかし躊躇は無い。

迫るスクリュートから距離をとりながら、ソリッドシューターを叩き込む。

だがスクリュートは尻尾を振り、弾丸を叩き落とした。

意外と強いな…

 

とはいえ、さほど時間は掛からない。

 

アクシオ(来い)

 

呼び出し呪文を撃った後の弾丸に叩き込み、俺に引き寄せる。

そして間に居たスクリュートの後頭部(頭か分からないが)に全弾命中、あえなく気絶したのであった。

 

さて、倒したはいいが…

仮にも親友が大切に育てた生物、他の選手に殺されるのもどうかと思う。

…そうだ、こうしよう。

 

スクリュートの問題を解決し、迷路の奥へと進んでいく。

二手に別れた道を左へ、時に右へ。

障害も無く、順調に進んでるかに見える。

 

…何かがおかしい。

似たような光景とはいえ、余りにも変化が無い。

障害も無さ過ぎる、違和感を確かめるべきだろう。

 

フィニート・インカンターテム(呪文よ、終われ)

 

次の瞬間空間が捻れ、立ち込めた霧が霧散し別の景色に変わった。

下にはATの足跡がびっしりと張り付いている、どうやら同じ場所をずっと歩いていたようだ。

 

周囲を確認しようと、後ろを振り向く。

―――そこには、猛烈な速度で迫る棍棒があった。

 

「―――!」

 

ターンピックを突き刺し反対のローラーを回転させ、ATを180度回転、棍棒をいなす!

 

そこに居たのは鼻息を荒げる、4m級のトロールだった。

ATの装甲は薄い、喰らえば即死だろう。

 

だがそれだけだ、こちらの方が早い。

攻撃を外した事にやっと気づいたトロールにアームパンチを叩き込み、怯ませる。

 

その隙にバイザーを上げ、身を乗り出し杖先を鼻にねじ込み呪文を撃つ。

 

エクスパルゾ(爆破せよ)

 

爆散する頭部、バイザーを戻し肉片を防ぐ。

浴びても害は無いが、あの異臭を直接嗅ぎたくは無い。

 

交戦経験があったのが役に立ったな、トロールを排除した俺は更に足を進める。

 

そこからも罠は絶え間なく続いた。

落とし穴、絡まる蔦、巨大な大蜘蛛、錯乱させる魔法具、エルンペント、ペールゼン…もといボガート。

それらを悉く叩きのめした俺は、通路の脇に影を見つけた。

武器を構えながらその正体を確かめる。

 

…クラムか。

ヤツは地面に倒れていた、何かにやられたのか?

近くにそれらしき物は無い、逃げたのだろう。

 

目立った外傷も無い、競技の続行はできそうだな。

そう考え蘇生呪文を使おうとした、その瞬間。

 

「―――インセンディオ(燃えよ)!」

「!?」

 

突如クラムが炎を撃ち込んできた!

ATの装甲で炎を防ぎ後退する。

不意打ちだと、だがクラムはそんな卑怯な事をするのか?

 

インカーセラス(縛れ)!」

「―――な!?」

 

後ろから縄が飛び、拘束される!

横目で後ろを確認するとそこに居たのはデクラールだった、ヤツらは組んでいたのか!?

 

…いや、違う。

証拠は無いが、俺は察した。

服従の呪文だと、大会に潜む黒幕が彼等を刺客に変えたのだ。

 

付き合いこそ短いが、彼等はそんな事はしないと信じている。

この信頼が俺に確信を齎していた。

―――ならば!

 

ローラーダッシュをそれぞれ逆回転、スピンターンを起こし縄を力ずくで千切る。

拘束を破ったキリコは、そのままATを走らせた。

二人は迷宮の中へ消えたATを追いかける。

 

コンフリンゴ(爆発せよ)!」

フリペンド(撃て)!」

 

呪文を連射する二人に対し、キリコは一切の反撃をせず逃げ惑うばかり。

だがいつまでも逃げれる筈も無く、行き止まりに追い込まれる。

 

インセンディオ(燃えよ)

 

キリコが放った炎は、二人では無く周囲の生垣を焼き払う。

炎上によって立ち込める煙によって、二人の視界は潰された。

 

何をするつもりだ?

いや問題無い、この通路なら確実に当たる。

通路の幅は石人形一体分、回避はできない。

 

この素早い判断こそが服従の呪文の強み。

服従の呪文は絶対的な安心を与える、それは全ての悩みを無くす事。

例え敵を見失おうと、煙に巻かれようと、友が死のうと。

悩む事なく、迷う事なく、動揺する事なく、目的に向けて猛進し続ける。

 

コンフリンゴ(爆発せよ)

 

爆破呪文をかわす事もできず砕けるAT。

同時に煙幕も吹き飛ばされ、キリコの姿が露になる。

 

エクスペリアームス(武器よ去れ)

 

動揺した様子のキリコに向かって、武装解除呪文を撃ち込むデクラール。

突然の事態に、いとも容易く杖を奪われてしまった。

 

杖を奪った、もうキリコは無力。

後は御主人様の命令通り、確実に抹殺するだけ。

無様に床を這いずるキリコに向けて、殺意を剥き出しながら二人が迫る。

 

―――しかし、悩まない事が本当に良い事なのだろうか。

戦場で最もやってはならぬ事、それは思考を止める事。

一つ一つの攻撃、行動、それにどんな意味があるのか考え続けねばならない。

 

だが服従の呪文はその悩みさえも消し去ってしまうのだ、それは紛れもない弱点。

彼等は気付くべきだった、ドラゴンを蹂躙し、ダウン・バーストから脱出する様な男が、こんな簡単にやられた事に。

 

「―――な!?」

 

上にずれるクラムの視界!

何が起こったのか?

答えは単純、ワイヤーに引っ掛かり転んだのだ。

 

あの煙幕は時間稼ぎ、キリコはその間に呪文のワイヤーを仕掛け、目眩まし術を掛けていた。

行き止まりに居たのも、確実に引っ掻ける為!

 

それがどうした?

ヤツに杖は無い、転んでいても呪文は撃てる!

動揺する事なく杖を振る。

 

彼等はまたしてもミスを犯した、この男が″転ばす為″だけに罠を張る筈が無い、と。

 

「「ステューピファ(失神せ)―――!?」」

 

突如、衝撃が彼等に降り注いだ!

キリコしか見ていなかったのもミスの一つ、上を向いた彼らが見たのは大量の…落石!

 

あれは只の罠では無かった、引っ掛かる事で上に仕掛けた岩石が落下し出すワイヤートラップだった!

 

呪文を撃とうとするが既に時遅し、落石を脳天に食らい二人の意識は暗闇に消えた。

 

キリコはヴォルデモートのレポートを読んでいた為、服従の呪文の弱点を知っていた。

だからこの作戦を組めたのだ、もし彼等が呪文に掛かっていなければ苦戦は免れなかった。

 

(…息はある、外傷だけだ)

 

二人の状態を確認し、治癒呪文を掛ける。

 

ペリキュラム(花火よ上がれ)

 

救助用花火を打ち上げた俺は思考する、誰がこいつらに呪文を掛けたのか。

試合前は正気だった、なら掛かったのは試合が始まった後。

選手以外で会場に入れるのは、救助要員だけ。

 

…今なら、決定的な証拠を得られる筈だ。

そして俺は、その場に倒れた。

 

息を潜め倒れる。

しばらく経った後、何かが降り立つ音が聞こえた。

それはゆっくりと歩き、こちらへ迫る。

そして―――

 

「…アバダケダブ―――」

ステューブレイト(失神弾頭)!」

「!?」

 

死の呪文が放たれる前に失神弾頭を撃つが、それを紙一重でかわす!

驚いた顔をした後、こちらを睨む。

その目には、かつてない程の憎悪が籠っていた。

 

「…いつから? いつから気付いていた?」

「…最初からだ、お前の殺意がそれを教えてくれた」

「殺意? …まさかあの時か? あの一瞬で気付いたのか?」

 

顔を歪め、不気味に笑う。

殺意を隠す気はもう無いらしい。

だが今捕らえれば、人に死の呪いを使った事を証明できる。

―――その時、光が降り注いだ。

 

ステューピファイ(失神せよ)!」

「何!?」

 

光から飛び出した呪文が、ムーディを失神させる。

そこに居たのは、ワールドカップの時に居たのと同じ奴等、…闇祓い。

 

「大丈夫か!?」

「…はい」

「そんな…ま、まさかお師匠様が…」

 

その中の一人、ショートカットの女性は愕然としながらヤツを見つめている。

そして別の男が語りだした。

 

「アラスター・ムーディ、とうとう尻尾を出したな。

貴様はその為に、泳がされていたのだよ」

 

…という事は、ボロを出させる為にこいつを警備に回していたのか?

あの男、選手の安全が最優先ではなかったのか…

怒るを通り越し、俺は呆れていた。

 

「…ククク、まさかね…」

『!?』

 

倒れていたムーディが口を開く、もう意識を取り戻したのか…!?

 

「でも…既に遅い、任務の片方はもうじき達成される…」

 

任務だと? こいつは誰かの指示で動いていたのか?

そいつは誰だ?

 

「敵の血は届き、帝王は復活する…」

 

…そうかそういう事か。

ヤツの裏に居たのは…

ゆらりと立ち上がるムーディは、それを嬉しそうに語る。

 

「その為にゴブレットに名前を入れ、彼が勝ち進む様に手を貸し、そして移動鍵(ポートキー)になった優勝杯を掴む…筈だったんだ!

お前が! お前さえいなければ!」

 

…どういう事だ、俺が参加するのは計画内の事ではなかったのか。

 

「帝王の閃きにより、計画に支障は出なかった。

だが僕は帝王を失望させてしまった! 分かるかい!? お前のせいで計画は頓挫しかけたんだ!」

 

顔を激しく歪ませ、激昂するムーディ。

…違う、本当に歪んでいる!?

 

「しかし、我が君は仰ってくれた、「ヤツを殺せ」と!

第二の課題では失敗したが、もうそうはいかない!」

「!? だ、誰!? お師匠様じゃ無い!?」

 

魔法の目を引きちぎった瞬間、その姿は別の者へと変化した。

まさかポリジュース薬か、ならこいつは…!?

 

「殺してやるぞ!! キィリィコォ・キュゥゥビィィィッ!!!」

『!? ぐわあああ!』

 

場を満たす閃光!

それが晴れた時、闇祓い達は地に伏していた。

あの一瞬で何をした?

まさか、あの光全てが無言呪文なのか!?

 

「死ねえええぇぇぇっ!」

「―――ッ!」

 

溢れ出す殺意と閃光。

声が伴う事は無い、全て無言呪文で唱えている様だ。

何とか反撃を試みるが…

 

「ハハハハハッ! そんなものかいキリコ・キュービィー!」

 

強い…これまで戦った誰よりも強い!

反対呪文を撃つ間も無い、かわすのが精一杯。

 

「…第二の課題も、お前の仕業か」

 

気を引く為にそう問い掛けると、ヤツは突然攻撃を止め呟きだした。

 

「いけない、冷静にならないと…」

「…………」

「その通りだ、君を殺す為に、移動鍵(ポートキー)で大量の水魔が転移する様にしたんだ、無論ポッターを襲わない様服従させてね」

 

服従の呪文は長くて三日しか持たない、直前に出張したのはそれが理由か。

 

「俺が転移時刻に来ると思っていたのか?」

「その為に大イカを用意したんだ、速すぎた場合は足止めをする様に…」

「…あの程度で足止めか」

 

挑発の一言、だがヤツは何故かより冷静になってしまった。

 

「そうだ、…白状するよ、僕は君を見くびっていたんだ」

「…………」

「認めなくなかったんだ、君ごときが僕を出し抜ける筈が無いと。

嫉妬していたんだ、″悍ましき血″にも関わらず、帝王から認められている事を。

…だから自分でも気付かない内に、あんな手抜きをしてしまったんだ」

 

垂れた頭を上げるとその瞳に憎しみは既に無く、代わりに冷たさを感じる狂気が宿っていた。

 

「もう油断はしない、確実に君を殺そう…

じゃあ決闘だ、僕の名は″バーテミウス・クラウチ・ジュニア″…次は君の番だ」

 

優雅に一礼するムーディー、…いや、クラウチ・ジュニア。

まさか、あの男の息子だというのか。

行方不明になったクラウチはこいつに…?

 

いや、それは後で考えれば良い。

思考を打ち切り、御辞儀を返す。

―――杖を隠し持ちながら。

 

「じゃあ死ね! アバダケダブラ!」

アーマード・ロコモーター(装甲起兵)!」

 

御辞儀の間に生成しきったATが出現、死の閃光が直撃するがATは無機物、効果は発揮されない。

 

反撃にソリッドシューターを連射するが、その全てを砕かれる、無言の爆破呪文か!

 

エクスルゲーレ(爆弾作動)!」

 

事前に爆弾化された弾丸を爆破、更に細かくなったそれは散弾となって襲いかかる。

 

「利くものか…!」

 

出現した盾が弾を防ぐ、だがそれで終わりではなかった。

軟化呪文(スポンジファイ)によって弾力を得た盾が、散弾を撃ち返した!

 

「!?」

 

細かい破片がATの隙間を通りキリコを襲う。

攻撃を逆利用されたのだ。

 

正面からでは敵わない、なら…

最大の速度で逃げ始めるキリコを追うジュニア。

無論只逃げているのではない、隙を作る為の逃走だ。

 

ターンピックを使い一瞬で角を曲がる、それを追い飛び出すジュニア。

かかった…!

そこを曲がったと分かっていても、敵が居るかどうか確認してしまうものだ。

 

ルーモス(光よ)!」

 

キリコは飛び出してきたジュニアに、強力な閃光を浴びせようとする!

―――しかし。

 

「馬鹿め! ノックス(闇よ)!」

 

破裂しかけた閃光が、反対呪文に打ち消される!

作戦は読まれていた、寧ろカウンターを受けたのはキリコだ。

閃光に備え目を閉じていたのが仇となる。

 

「ぐッ!?」

「甘いぞキリコ! 油断大敵!」

 

碎けるバイザー、その破片をモロに食らい全身から血を流す。

しかしキリコは怯まない、即座に反撃する。

 

ルーモス(光よ)!」

「なっ!?」

 

二回も連続するとは思わなかったジュニアは、今度こそ閃光を喰らう。

来るか、何を仕掛ける!

だが攻撃は来ない、何を目論んでいる…?

 

(…………)

 

目が眩んでいる隙に逃げたキリコは、ジュニアのいる通路から生垣を2、3個挟んだ場所にいた。

彼はターゲットが見えない中で、長距離狙撃を狙っていたのだ。

頼れるモノは気配だけと無謀、しかしそれまでの経験が自信を与える。

 

(…そこだ!)

 

無言の貫通弾頭を放つ。

かつて無い危機に呼応した集中力が、無言呪文を可能にした!

 

「…そこか!? プロテゴ(盾よ)! フリペンド(撃て)!」

「―――何!?」

 

キリコにできてジュニアにできない理由は無い、気配を感じての反撃、キリコは首元を抉られてしまう!

 

「チョコマカと…いつまで逃げれるかな!?」

 

…どうする、このままでは確実に負ける。

だが今負ければ、ハリーが危ない。

打てる手は無いか、競技中なので銃は使えない…!

 

思考しながら全身に治癒呪文を掛け、ローブの中を治療しようとした時、杖が何かにぶつかった。

 

(…こ、これなら…!)

 

 

 

 

一方ジュニアは迷路製作に関わっていた事を利用し、最短距離でキリコに迫っていた。

 

だがその前に小さな影が立ち塞がる、ATではない只の石人形である。

時間稼ぎのつもりか? 小賢しい!

 

敵にもならず片っ端から破壊される石人形、その次に来たのは煙幕、事前に張っていたのだろう。

邪魔だ!

杖を振り煙を吹き飛ばした瞬間、ATが殴りかかってきた!

 

が、これも予見済み。

激烈な連激に脚を砕かれ、ATが転倒する。

その時ジュニアは気付いた、コックピットにキリコが居ない事に。

 

エクスパルゾ(爆破せよ)

 

先程の特攻は囮、爆発したATの破片がジュニアを仕留めるだろう。

キリコのその予想は容易く覆された。

 

「―――!?」

 

ATが消えた!? 何処に行った!?

その時キリコに影が重なる、上を見ればATが空を飛んでいる!

何があったか、ジュニアはATを浮遊させる事で呪文をかわしていたのだ。

 

更に急上昇していたATは突如、弾かれたかの様にキリコへ落下して来た!

 

「!?」

 

自分の機体に潰されかけるも、後ろに飛び回避する。

実は競技場の上空には飛行手段を取られない様、浮遊防止の呪文が掛けてあるのだ。

関係者故にその事を知っていたジュニアは、それを利用した!

 

「追い詰めたぞ、キリコ・キュービィー」

 

着地を失敗したせいで片足を挫き、全身や首からの出血、満身創痍のキリコ。

迫るジュニアは、尚も油断しない。

 

「時間稼ぎで仕掛けたのはこれかい? ふざけているな」

 

ジュニアの足元でクラムに対して仕掛けたのと同じワイヤーが凍る、これでもう作動できない。

 

「フフフ…これで任務は達成される、僕は最高の名誉を持って迎えられるだろう!」

 

高笑いを上げ、大袈裟に、だが油断無く杖を振るう!

 

「終わりだ! アバダケタブ―――」

エクスルゲーレ(爆弾作動)!」

 

瞬間爆発したのは生垣、…の根本。

ドミノの様に倒れ込む、6メートルに及ぶ生垣。

それがジュニアに覆い被さる瞬間!

 

ボンバーダ・マキシマ(完全粉砕せよ)!」

 

警戒していた為、即座に生垣を爆破。

その時煙の中に影が一つ、尻尾爆破スクリュートの姿があった。

何故こいつが? そうか、埋め込んでいたのか、僕に襲いかかる様に。

 

あの時、キリコはスクリュートに縮小呪文と睡眠呪文を掛け、懐に仕舞っていたのだ。

そしてジュニアが石人形と戦ってる間にスクリュートを埋め、生垣の根本を爆弾にしていた。

 

なるほど無策ではない、しかし所詮一匹!

―――次の瞬間、彼はすぐ逃げなかった事を後悔した。

煙幕が晴れた時、彼は愕然とした。

 

「がっ………!?」

 

上、左右、前後。

その全てをスクリュートが包囲していた!

 

確かに埋めてはいたが、一匹では無い。

双子の呪いで増やしてから、埋めていたのだ。

生垣が爆破された時、目が覚める様に、元の大きさに戻るように、ジュニアを覆い尽くすように!

 

何だこれは!?

どうする!?

盾の呪文は…駄目だ一方向しか防げない!

爆破…いや誘爆で僕も死ぬ!

姿晦まし、不正防止の結界が!

終了呪文? それだ! これは呪いで増やした物だろう!

 

彼は呪文を撃とうとした、目の前の失神弾頭の光を見なければ。

 

「こ、こんな…僕が…!」

 

失神弾頭を防げばスクリュートの爆発が。

スクリュートを消せば失神弾頭が。

警戒していても無駄な状況。

そう、チェックメイト。

それがジュニアの運命だった。

 

「て、帝王様あああぁぁぁっ!!」

 

最後の絶叫。

それは恐怖からか、帝王に対する申し訳なさだったのか。

答えは、爆発の中へ儚く消えていった…

 

 

 

 

…恐るべき強敵だった。

しかしまだだ、急いでハリーの所へ行かなければ…!

応急処置をし、俺は走り出す。

 

そして見えてきた眩しい光。

その中心には優勝杯、移動鍵(ポートキー)か!

広場へ飛び込んだと同時に、ハリーとセドリックが現れた。

まずい、優勝杯に触れさせてはならない!

 

普段なら俺が先に取れただろう。

だが全身の傷はそれを許さず、鈍くなる動き。

優勝杯に触れる事ができたのは、二人が同時に触れた時だった―――

 

 

 

 

腹を引っ張られる感覚の後、地面に叩き付けられる強烈な痛みを感じる。

目の前に広がるのは大小様々な石に、人の名前が刻まれている場所、ここは墓場なのか?

 

「…ここはどこだろう?」

「優勝杯が移動鍵(ポートキー)になっていたのか? 二人は何か知ってる?」

「杖を構えろ」

「「え?」」

「早くしろ、死ぬぞ…!」

 

一歩遅かった、ジュニアの言っていた事が本当ならこの近くにヤツが潜んでいる筈。

急いで移動鍵(ポートキー)の元に戻らなくては、優勝杯はかなり離れた場所に落ちていた。

呼び出し呪文を使おうとした、その一瞬の間だった。

 

インカーセラス(縛れ)!』

 

縄掛け呪文の声が聞こえ、光が飛来する!

思考は既に、どう回避するかに切り替る。

 

「―――!?」

 

だがそれは甘かった、呪文は360度全ての方向から飛んでいた。

キリコは気付く。

かわしようが無い、ここに来た時点で手遅れだったのか。

 

「く…!」

 

後ろの墓石に縛りつけられ、きつい締め付けに呻きが漏れる。

表れたのは黒いローブと銀色の仮面を被った、十人近くの死喰い人。

ハリーとセドリックも捕まってしまったが、最悪の状況を悲観する間も無い。

 

『余計な奴は殺せ!』

 

墓地の奥、暗闇から寒気がする声が響く。

俺は直ぐに理解した、この声の持ち主はヤツだと。

 

殺せ? 誰の事だ?

ハリーは違う、ジュニア曰く復活に必要だからだ。

俺は問題ない、むしろ死ねるものなら死にたい。

なら、残るは…!?

 

「アバダケダブラ!」

 

奴等の一人が杖を突きだし、死の呪いが放たれる!

それは彼目掛けて、真っ直ぐに飛ぶ。

 

―――止めようと手を伸ばす、だがロープに縛られ、指一本動かせない。

 

やがて光が弾け、衝撃で千切れたロープから彼がずり落ちる。

 

「…あ、あ、ああ…」

 

何もできなかった、助けに行く事さえも。

彼が地面に落ちたとき、ハリーは絶叫した。

 

「セドリックゥゥゥ!!」

 

―――セドリックが、死んだ。

 

 

 

 

墓石に縛られながら俺は呆然としていた。

だから目の前で起きている事を、ただ見つめる事しかできなかった。

 

「父親の骨、知らぬ間に与えられん! 父親は息子を蘇らせん!」

 

不気味な液体に何かの骨を投げ入れる小太りの男、ピーター・ペティグリュー。

あれは恐らく、ヤツを復活させる儀式だろう。

 

(しもべ)の肉…よ、喜んで…差し出されん…(しもべ)は…ご主人様を…蘇らせん!」

 

…どうして、どうしていつもこうなるんだ。

俺と親しいヤツは、何故いつも死んでしまうんだ。

セドリックの死は異能によるものではないだろう、あの状況に俺の命は掛かっていなかったからだ。

 

腕を切り、それを鍋に落としたペティグリューは、過呼吸を起こしながらハリーに近づく。

 

「うわああああ!!」

 

ハリーの腕を短刀で切りつけ、流れた血を小瓶に入れる。

 

…しかし、異能によるものだった方がまだ良かった。

そうだったら、俺は自分を責めれたからだ。

この感情を自分にぶつけられた、後悔もできた。

 

「敵の血…力ずくで奪われん…汝は…敵を蘇らせん!」

 

小瓶を入れると、鍋は一層不気味に光出す。

そしてペティグリューは、その場に崩れる。

 

…だがセドリックが死んだのは偶然だ、偶々移動鍵(ポートキー)に触れてしまったのが、この死を招いた。

余りにも呆気ない最後、それはまるで戦場にそっくりだった。

 

誰のせいでも無い、異能のせいでも無い。

気付いたら死んでいて、そして最後に俺一人が立っている。

この光景は俺が最も嫌う、かつての戦場そのもの。

 

「ローブを着せろ」

 

湯気をたたせる大釜から、一つの影が現れる。

這いながらも、それにローブを被せるペティグリュー。

 

「会いたかったぞ、ハリー・ポッター、そして…キリコ・キュービィー」

 

蛇の様な顔。

紅く光る眼。

ヴォルデモートが復活した。

 

だが俺は、その事に何も感じなかった。

孤独と悲しさが胸を締め付ける中、俺はひたすら祈る。

もう…これ以上、俺を独りにしないでくれ…




ねじれて絡まる二重螺旋のように、精妙にして巧緻、残虐にして細心
練りに練られた謀略が御業の如く野望を結実する
いよいよクライマックス、いよいよ大詰め
舞台を作った全ての者がツケを払う時が来た
万雷の拍手にも似た閃光と共に、眩しすぎるカーテンコールが照らすのは何だ?
次回、『リドル』
真実はいつも残酷だ



ボコられた後のジュニア
失神&縄&完全石化。
更に地面に埋められ、上にスクリュートの重し付也。
以上VSジュニアでした、次回最終話です。

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