【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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第四十一話 「最終局面」

ダウン・バーストから生き抜いた翌日、俺達は大広間に集められていた。

それだけでなくカメラやメモ帳を持ったマスコミも居る。

昨日の大事件により結果発表ができなかった為、朝食の時に発表する事になったからだ。

 

勿論怪我は治りきっていない、文字通り肺や全身を焼かれた重症、魔法界で無かったら死んでた様な怪我が簡単に治る訳もなくマダム・ポンフリーは猛反対していたが、ダンブルドアの説得により発表だけ聞く事に落ち着いた。

 

「全員揃っておるの」

 

静かな大広間にダンブルドアの声が響くが、いつもの明るい口調ではない。

ヤツは重々しい低いトーンで語り始めた。

 

「結果発表の前に話さねばならぬ事がある、昨日行われた第二の課題、そこで起こったトラブルについてじゃ」

 

生徒が騒ぐ事は無い、あの時観客席もダウン・バーストの直撃を喰らっていたのだから知っていて当然だ。

 

「課題中、ホグワーツ周辺に局所的な大寒波が直撃し、その結果ホグワーツ湖全面が凍結し選手達が閉じ込められた」

 

ここまでは全員知っている事だが、次の話は俺にとっても予想外だった。

 

「更に試合中に隔離していた筈の大イカが乱入し、加えて水中内に大量の水魔が突然現れ、選手達を襲撃したのじゃ」

 

あのイカと水魔の大群は予定外の事だったのか。

だが、冷静に考えればあんな大量に放つ訳が無い。

 

「この結果氷塊に阻まれ脱出できず、更に水魔に補食されかけるという状態に彼等は追い込まれた。

この大会は時に命の危険に晒される事はあり得る、じゃが今回我々の想定を遥かに上回る危険に襲われる事になってしまった」

 

そこまで言い終えた所で一息つき、より重く真摯な口調になる。

 

「これは我々の想定不足と、対策が十分で無かった事により起こされた事態である。

故に選手達とその大切な者達、家族、また関係者諸君には深く謝罪したい。

…大変申し訳無い」

 

深々と頭を下げるダンブルドアと審査員達、眩しいカメラの光がその印象を深くする。

謝ったからといって俺達の怪我が直る訳でも無いが、こういうのは謝る事そのものが重要なのだ。

 

「…では、結果発表に移ろうと思う」

 

張り詰めた空気が少しだけ緩むのを感じながら、結果に耳を傾ける。

 

「氷塊と大量の水魔によって、本来水中内で選手の行動を見ている筈だった水中人も避難するのが精一杯じゃった。

よって今回、選手一人一人に話を聞き、それを合わせ採点する事となった」

 

その聞き取りを受けていた時聞いた話だが、水中人はかなり水底に逃げていた為、爆発に巻き込まれずには済んだらしい。

大イカも氷に守られ無事だ、…やや人間不振になったらしいが。

 

「彼等は湖の中に閉じ込められ、100体をゆうに越える水魔に襲われた。

じゃが自らの命さえ助かるか分からない状況の中で、彼等は協力しあい、誰一人欠ける事無く生還を果たした」

 

徐々に熱を帯びる大広間の空気。

それを感じたヤツは、明るく高らかに叫んだ。

 

「これは最早採点などできるものでは無い。

よってその勇気、力、機転、それら全てを讃え…

50点を全員に与える!」

 

緊張感に押さえ付けられていたからか、ダムが決壊したかの様な歓声が吹き出した。

まあ妥当な判断だろう。

その勢いのまま宴…と思った矢先に、マダム・ポンフリーが現れ医務室に引き摺られて行ったのであった。

 

 

*

 

 

あれから数日、どうにか火傷も治り授業に顔を出せる様になった頃に、第三の課題が説明された。

その内容は六月二十四日に行われるという点と、その一ヶ月前に詳細を発表する、という事前告知だった。

 

よって一ヶ月前になるまで内容は分からず、対策のできない日々が続いている。

だがやらねばならない事は大量にある、その為必要の部屋に籠ろうとした時の事である。

 

「何か飲むかね?」

「…大丈夫です」

 

俺は何故か校長室に居た。

数刻前、自室にダンブルドアからの呼び出しが飛んできたからだ。

一体何の用なのだろうか。

 

「そうかの? まあ取りあえずそこに座りたまえ」

 

促され、近くのソファに腰を掛ける。

その向かいに座ると、ヤツは話し始めた。

 

「儂は君に言わねばらなぬ事がある」

 

重々しい口調、一体何を言うというのだ。

と思うと、ヤツは急に頭を下げた。

 

「今回の課題で、君等を無用な危機に晒してしまった、その事を謝罪したい」

「…………」

 

何かと思えばそんな事か、確かに酷い目にあったが、最終的に誰も死なず生還できた。

それだけで十分、俺は既に気にしてはいない。

 

「…気にしていません」

「…そう言ってもらうと儂も助かる、今回は済まなかった、皆そう言ってくれた、…優しい子ばかりじゃ」

 

この呼び出しは個別謝罪だった訳か、確かにそれをするのは道理だろう。

これで終わりか…と思ったが、本題はここからだった。

 

「…ただ話はもう一つある、これは君にしか聞かない事じゃ」

 

まだあるのか、そう感じながらヤツと目が合う。

その目は先程の様な申し訳なさでは無く、強い意志の様なものが感じられる。

 

「…君は誰じゃと思う、この事件の犯人を」

「…………!」

 

俺は少しだけ驚き、疑惑を抱く。

こいつは俺が、既に見当をつけている事を知っているのか?

 

「…何故俺に?」

「…君が選手として選ばれた時、儂等はひたすら混乱していた。

しかし君はただ一人、誰よりも冷静じゃった、故に儂は君がおおよその見当をつけていたのでは、だから混乱しなかったのではないか…と考えたのじゃ」

 

…それだけで考えたというのか?

それに冷静だった理由も違う、あれは単純に面倒事に慣れていたからだ。

もしかしたらだが、俺に聞いたのは当てずっぽうなのかもしれない。

何も掴めていないからこそ、藁にも縋るつもりで聞いたのだろうか。

 

「…無論知らないならそれで良い、じゃがもし、もしかしたら…でも良いのじゃ」

「…………」

 

言うべきか?

だが言えば、俺自身が更に警戒されてしまう。

説明したら理由を言わなくてはならない、その理由が「殺気を感じたから」と言えば確実に怪しまれる、一体何処に殺気を感じ取れる十四歳がいるんだ。

 

…しかし、言わなければならないだろう。

危機に晒されているのは俺だけでは無い、ハリーやセドリック、選手全員が危ないのだ。

なら秘密に拘っている場合では無いのだろう。

 

「…アラスター・ムーディ」

「なんじゃと?」

「恐らくヤツです」

 

信じられないといった顔のダンブルドア、当然だ、ヤツは闇祓い中の闇祓いだ、死喰い人だったとは考えにくい。

 

「…彼は伝説の闇祓いじゃ、むしろ最も信頼のおける人物じゃぞ?」

「これまでの事件は関係者以外できません」

 

選手の名前を入れるのは城に居た人間しか、水魔を放つのは会場の下準備をした人間しかできない。

そのどちらにもヤツは矛盾していない。

 

「…確かにそうじゃが、何故彼が怪しいと考えた?」

「…殺意です」

「…殺意、じゃと」

「俺が選ばれた時、ヤツは明らかな殺意を向けて来ました」

 

黙り込むダンブルドアは顎に手をやりながら考え、ようやく口を開いた。

 

「その言い方じゃと、君は人の殺意を感じ取れるという事になるが?」

「…そうです」

 

断言してしまったが仕方無い、当然ヤツは疑惑の目線をぶつけてくる。

 

「…お主は…いやよそう、今やるべきなのは、選手達を守る事じゃ」

 

俺にではなく、自分に言い聞かせる様な口振りで呟く。

何とかこれ以上疑われずに済んだらしい、もっとも今だけだが…

 

「話を戻そう、君が感じた殺意は勘違いではないかね? アラスターが大広間に犯人が居ると考え、殺意を発したのではなかろうか」

「いや、あれは俺に向かっていました、不特定多数に向けた意識ではありません」

「そうか…」

 

また顎髭を擦り出すダンブルドア、あいつが怪しいのが余程信じられないらしい。

それは俺も同じだ、だが犯罪者を憎む余り同じ場所に身を落とすというのはよく聞く話でもある。

ヤツもそうなってしまった可能性は十分ある。

 

「信じがたい…じゃがそれしか手懸かりが無いのが現状じゃ、彼を重点的に警戒する事にしよう」

「…………」

「キュービィー、協力感謝するぞ、最後の課題は安心して頑張っておくれ」

「…はい、では失礼します」

 

そうは言っているものの、俺は余り期待していなかった。

一年や二年の時しかり、あの男は受け身の戦略が苦手に見える。

何もしない事は無いだろうが、こちらでも準備するべきだろう。

 

 

 

 

「…あの子は…一体…」

 

 

*

 

 

ダウン・バーストと共に寒波も吹き飛んだのだろうか、暑すぎず寒すぎず、穏やかな春風が心地よい季節。

しかしノクターン横丁にそんな風が吹く事は無い、相変わらず湿った空気が路地に立ち込めている。

 

そして俺は武器商人の店で、趣味の悪い服を着た女と向かい合っていた。

その女は本心を隠す気も無いのか、しきりに足を揺らしている。

 

「あー、やだやだ、何でこんな所に…」

 

と文句を垂れ続けるリータ・スキーター。

今日は武器を調達しに来たのでは無く、約束していた情報を買取りに来たのである。

 

「…情報は?」

「無理だったざんす」

「…そうか」

「防衛呪文のせいで部屋には入れない、後をつけようにも魔法の目がある、正直お手上げざんす」

 

だが依頼を達成できなかった事に、俺はあまりショックを受けなかった。

元々情報が取れれば、運が良いくらいの気持ちで頼んだのだ。

それにあいつは常に周囲を警戒している、それを掻い潜れないのも仕方が無いだろう。

 

「…でも成果はあるざんす、取り合えずこれを見るざんす」

 

肩をすくめる俺にヤツが突き出してきたのは、新聞の切れ端だった。

良く見ればそれは日刊予言者新聞ではなく、外国語で書かれた新聞だ。

 

「…日本語」

「翻訳は追加料金ざんす」

 

と言われたので6シックルを差し出したら、何故か目を丸くされたが快く翻訳してくれた。

 

「まさか払うとは…じゃあ読むざんすよ。

『魔法生物保護地区から河童等が大量消滅! 密猟者の仕業か?』ざんす」

 

様は日本魔法界の失態が書かれていただけだ、これが何なんだと言うのだ?

 

「それで日付を見るざんす」

「…………!」

 

そこには2月24日と書かれていた、それは第二の課題があった当日に他ならない。

 

「更にこれを見るざんす」

 

差し出された一枚のメモ、それは出張記録の写しだった。

名前の欄には、荒々しく″アラスター・ムーディー″と記載されている。

日付は2月22から23まで、試合日の直前だ。

 

「あの河童以外にも、水魔の消滅事件が起こっていたざんすよ、…試合当日に」

 

恐らく…いや、間違いない、あの大量の水魔はホグワーツ湖に住んでいたモノでは無い。

何らかの方法で湖に呼び出したのだ、その前日にはヤツの出張、これを偶然と捉えるのは難しい。

 

「あのブ男の出張先はロンドンだったざんす、…最も目撃証言はあちこちであったざんすが、例えば…日本とか」

「…………!」

 

この情報に俺は驚嘆していた、この女危険だと思っていたが、味方(一応)になればここまで頼もしいとは。

 

「さあ約束の報酬払うざんす」

「分かった」

 

催促されながらガリオン金貨を差し出す、ヤツはそれを勘定していたが突然こちらに向き直した。

 

「…何か多いざんすよ?」

「上乗せした、それだけの価値がある」

 

相応の情報には相応の報酬を、取引とはそういうものだ。

お陰でまた財布が燃え始めたが…仕方無い。

 

「…弱味さえ握ってなきゃ良いビジネスパートナーになれたざんすね」

「そうか」

 

これで取引は終わった、お互い席に席を立ち帰り支度を始める。

 

「これでお互いの弱味は忘れる、それでもう全部終わり、で良かったざんすね」

「ああ」

「はぁ、酷い目にあったざんす…」

 

こいつが約束を守るかは分からないが、破ったならその分きっちりやり返せば良い。

…尚、ヤツが安心して暮らせるのは数週間と持たなかった事を知るのは、まだ先の事だ。

 

ともかくこれで確証は得た、何故なのかは分からないが、この事件の仕掛人はヤツだ。

ならどうする? 知った以上放っておくのは危険だ。

しかし今すぐ襲撃する訳にもいかない、確証はあれど証拠は無い。

そんな事をすれば俺が捕まる、なら仕掛けるタイミングは…

 

 

*

 

 

最後の試練、それを発表する日が来た。

俺達が集められたクィディッチ会場は、随分おかしな事になっている。

草、草、草、広々としていた筈の会場はひたすら生い茂る生垣に蹂躙されていたのだ。

 

「…何これ?」

「さあ…? これが課題?」

 

首を傾げるハリーとセドリック、それは他の二人も俺も同じ。

生垣の要塞を前に佇んでいると、学校の方からパグマンが走ってきた。

 

「い、いやすまない! 少し遅れた!」

「どうしたーんでーすか? そんなーに慌てて」

「へ!? いやいやいや何にもない!」

 

デクラールの疑問に対し、異常なまでの反応をするパグマン。

何かあったのは間違いないが、早口で捲し立てそれ以上の質問を拒む。

 

「さあそんな事より課題について説明だ! 課題の会場は察しているだろうがここ、クィディッチスタジアムだ!

この生垣は課題の頃には6メートルに成長しているだろう!」

 

そんなに生垣を育てて何をしようというのか。

そう思い観察していると、生垣の間に隙間があるのが分かった。

その隙間はどの生垣の間でも均一になっている。

 

「…迷路?」

「おっ! その通り! クラム君の言った通りこれは巨大迷路に成長する!

その迷路の中心に置かれた優勝杯を最初に取った者が優勝だ!」

 

やはりそうか、しかし最後にしては随分シンプルに纏めたな。

だがこの課題は、シンプルどころかこの大会において最も混沌(カオス)な試練だったのだ。

 

「無論ただの迷路ではない、道中にはありとあらゆる呪いな魔法具やハグリッド厳選の魔法生物が仕掛けられている」

 

ハグリッドこそが、混沌(カオス)の化身だったのだ。

ヤツの趣味趣向を思い出せば、何が繰り出されるかは十分予想できる。

 

「スタートの順番は君達の持つ、得点が高い者からだ。

と言っても第二の課題は全員同じだから、第一の課題が直接反映される事になる」

 

だとすれば順番は俺、ハリー、クラム、デクラール、セドリックか。

 

「説明は以上だ! 質問は無いね!? では!」

 

大慌てで走り去るパグマン、あれで何でもないと信じられるヤツが居るのか。

 

「…何だったんだろ? キリコは何か知ってるかい?」

「…いや」

 

話も終わり各自の学校へ戻っていると、途中でセドリックが何か思い出した様に声を掛けてきた。

 

「そういえばキリコ」

「何だ」

「あの課題の時から、…ずっとタメ語だね」

「…あ」

 

しまった、極限状態のせいで敬語どころでは無かったのをずっと引きずっていた。

 

「…すみませんでした」

「いや全然良いよ、むしろその方が僕も話しやすいし」

「そうか、ならそうさせてもらう」

「…早い」

 

敬語は無しで良いと言ったのに、何故笑顔が少しひきつっているのだろうか。

疑問に思っていると、遠くから赤い髪をした男性が走って来ているのが見えた。

 

「…あ、パーシーさん!」

「え? ああ、ハリー! こんにちは」

 

パーシー、確かロンの兄の一人だったか。

クィディッチ・ワールドカップで見た覚えがある。

 

「こんにちはパーシーさん、…何をそんなに急いでいるんですか?」

「セドリック君に、キリコ君か、こんにちは、で急いでるだっけ? ははは全然そんな事無いよ本当だよ」

「…………」

 

パグマンといいこいつといい、魔法スポーツ部には隠し事のできないヤツが多いのだろうか。

そんな言い訳に騙される筈も無く、ハリーが詰め寄っていく。

 

「…何かあったんでしょう? パグマンさんも似たような事を言ってましたし」

「え!? パグマンさん口を滑らせ―――ヴェフン!」

「……………………」

 

滑らせたのはどっちだ、パーシーはその白い目に堪えきれなくなったのか、脂汗を流しながら口を割った。

 

「…ぜ、絶対言っちゃ駄目だよ?」

「はい、勿論です」

「実は…少し前から、クラウチさんが行方不明何だ」

「クラウチさんって、あの…」

「シィーーーッ!」

 

言われてみれば最近姿を見ていない、あのダンブルドアの謝罪会見の時も居なかった筈。

 

「だからその穴埋めで皆忙しいんだ、いいか、絶対言っちゃ駄目だよ!」

 

と言い残し全力疾走で去っていくパーシーを、俺達は呆然と見つめていた。

 

「クラウチさんが…あの時何がしたかったんだろ…」

「…あの時とは何だ?」

 

ハリーはクラウチの行方について何か知っているのか? まるでそんな言い方だが…

 

「いや、少し前クラウチさんが廊下に倒れてて…ダンブルドア先生を呼んで欲しいって言ってたんだ」

「ダンブルドア先生を? マダム・ポンフリーじゃなくて?」

「うん、それで呼びに行って、戻ってきたら居なくなっていたんだ」

 

クラウチが行方不明…ダンブルドアを呼びに行ったというのに、そのまま失踪…

ヤツは何を伝えたかったのか、その間に何が起こったのか、…既に死んでいるのか。

 

「…気を付けろ、第三の課題中、確実に何かが起こる」

「…うん、分かってるよ」

 

クラウチは真実にたどり着いてしまったのか? だからヤツに殺されたのか?

キナ臭さい臭いが、俺の警戒心を擽っていた。

 

 

*

 

 

いよいよ到来した最後の課題当日、俺は必要の部屋、その内″物を隠す部屋″で最後の準備をしていた。

 

目の前に措かれているのは″AK-47″が二丁、″RPG-7″、″グレネード″が三つに″ブラックホーク″。

それらを一つ一つ、念入りに整備していく。

 

それらを終えると、検知不可能拡大呪文を掛けたバックサックに武器を放り込んでいく。

 

「レデュシオ ―縮め」

 

バックサックに縮小呪文を掛け、さらに″対酸呪文″等を掛けていく。

最後に俺はそれを…

 

…飲み込んだ。

 

何故こんな事をするのか、それは不足の事態に備える為だ。

課題中、もしくはその前後に何かが起こるのは明白。

その為俺は何が起こっても対処できるように、この銃火器を持ち込もうとしていた。

 

しかしこれを課題中に使うことはできない、規定違反になる。

でなければわざわざ飲み込む必要は無い、規定を突破する為にこんな方法を取っているのだ。

本当に万が一の、最後の手段になるだろう。

 

実の所最後の手段はもう一つある、異能を研究する過程で開発した新しい呪文。

上手く使えば窮地を切り抜けられるかもしれない、…余り使いたくないが。

 

最後に大会用のユニフォームに着替え、必要の部屋から出ていく。

試合直前に召集が掛かっているのだ、内容は教えられていないが。

 

 

 

 

大広間脇の小部屋で俺は溜め息をついていた、この状況をどうしろと。

周りを見渡せば、選手が色々な奴等と抱き合ったり励まして貰っている。

招集の内容は、招待された家族への挨拶をする為だったのだ。

 

唯一の肉親が魔法使い嫌いで有名なハリーの所には、ウィーズリー一家が勢揃いし、ヤツを応援している。

 

その中で俺は只一人佇んでいた、理由は言う価値も無い。

…この世界に俺の家族は、既に居ないのだから。

 

思えば前の世界でもこの世界でも実の両親を知らない、もしくは記憶を炎に焼かれ、忘れてしまっている。

俺の産みの親はどんな人だったのだろうか、少し悲観的な気持ちになっていると、誰かが肩を叩いてきた。

 

「キリコ、久し振りだな」

「…ブラック?」

 

そこに居たのは去年俺が助けた男、シリウス・ブラックだった。

 

「…何故ここに?」

「ハリーの応援さ、ほら後見人だから…」

 

そういえばそうだったか、いわく今は大量の賠償金を散財し、14年間の鬱憤を晴らしているらしい。

 

「…改めてだがありがとう、君が居なければ私はこうして、ハリーを応援する事もできなかっただろう」

 

ヤツを助けたのは感謝を欲したからではないが、それを言われて俺は少しの嬉しさを感じていた。

 

「…所で君は気付いて居るのか?」

 

和やかな空気を引っ込めながら真面目な問い掛けをするブラック、俺やハリーの意図せぬ参加を何故知って…ハリーから聞いたのか。

 

「…大体はな」

「そうか、なら言う事は無い。

だが気を付けろ、相手は闇の輩だ、どんな手段を使っても不思議じゃない」

「…ああ」

 

本当に追い詰められた時に備え武器も持った、最後のかくし球もある、やれる事はやってある。

 

「…まさか懐に鉄製のアレを仕込んでないよな?」

「…………」

 

何故バレた、だが答える訳にもいかずしらを切る。

それを見たヤツは、苦笑いしながら溜め息をつく。

 

「もう良いかこの際…では頑張ってくれ、ハリーにと同じ様に、君も応援しているぞ!」

「…そうか」

 

所詮応援、俺を直接助けてくれる訳ではない。

だが少し寂しさを感じていた心にとって、それは間違いの無い温かさだった。

 

「おーい、僕も忘れないでよー」

「おはようキリコ」

「…キニスとラブグッド?」

 

何故こいつらが? 入っていいのは家族だけだった筈。

 

「あ、やっぱり不思議そうな顔してる」

「校長先生から聞いたんだよ、家族と挨拶するのに、キリコだけ一人ぼっちだって、で僕らが来たって訳」

 

ダンブルドアが気を利かせてくれたのか、あいつは何故か信用ならないが今回は素直に感謝しておこう。

 

「まあアレだよ、えー、あー、…何言おう」

「迷路だっけ? 凄い楽しそう」

 

ハグリッドが魔法生物を放たなければな、という思いは呑み込んでおく。

 

「とにかく頑張ってきてね!」

「迷路の感想、後で聞かせてね」

「…ああ」

 

余りに迷走した激励、応援された気はしなかった。

それでも俺の気持ちは大分明るくなった。

そして彼等の声に俺はただ、静かに感謝していた。

 

「…時間だ、全員覚悟はできてるな? では行くぞ!」

 

パグマンの言葉が小部屋に鳴り響き、クィディッチ会場へ足を進める。

 

少しだけ温かくなった心で俺は向かう。

そこにどんな邪悪な罠が潜んでいようとも、今更降りる事はできない。

重い杖を、揺らがぬ意思で握りしめる。

何が来ようとも、やるべき事は単純なのだから。

そして俺達は最早地獄かどうかすら分からぬ程の、最後の暗黒へ歩きだした。




腕もいい、用心深くもある、時に畜生以下に堕ちた
生きながらの死と誹られた事もある
畜生の肩を借りるような真似もした、策も練った
だがそれだけか
それ為だけに生き残り続けたというのか?
違う
成功確率250億分の1、鮮血の一族、悍ましき血
それが俺様の望みなのだ
次回、『不死の末裔』
この男は死なない



期待させて悪いんですが、今章で銃火器を使う事はありません。
でももうじき解禁するので、もうちょっと待ってて下さい。

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