【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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いよいよ書くことが無くなってきたな…
何かネタでも投下していくか?


第三十話 「臨界(Aパート)」

俺がブラックと協力関係になってからも、シリウス・ブラックの恐怖は学校中を覆っていた、だが時は偉大だ、イースター休暇を越える程の時間と共にそれは風に吹かれ消えていった。

今学校を包み込む空気はシリウス・ブラックへの恐怖ではなく、じりじりと確実に迫り来る学年末試験への恐怖であった。

 

しかし何人かはそれに集中している場合ではないようだ、何故ならとうとう、ヒッポグリフの処刑が決定してしまったからである。

それを止めようとハリー達は躍起になって過去の判例を漁っているらしい、そしてここにもヒッポグリフを助けようとするヤツが一人。

 

「署名をお願いしまーす!」

 

授業の終わった放課後、ここ数週間キニスは試験勉強には目もくれずに広場でビラを配り続けているらしい。

 

「あ、キリコ! キリコも署名してくれる?」

「………」

 

正直な所、俺もヒッポグリフが処刑されることに良い感情は抱いていない。

それに書いたとして何か減るわけでもないので羊皮紙に名前を掻き連ねる、紙を見てみると既に中々の数が集まっているようだ。

 

「何の罪もないヒッポグリフが殺されようとしています!

そんな横暴を許さないためにも!

貴重な生き物を守るためにも皆さんの署名が必要です!」

 

喉が張り裂んばかりの大声で、一人叫び続けるキニス。

だが流石に数週間もたつと粗方署名しつくしてしまい、道行く人々は無視か、中には嘲笑を向ける者もいる。

 

「…すまないな」

「ん? ああ気にしないでいいよ、僕がやりたくてやってるだけなんだから」

 

一人でなく複数人いればもう少し違ったのかもしれないが、ハリー達は少々厄介な事になっており判例調査で精一杯。

俺もヤツとの作戦会議のせいで手を空けようにも空けられない。

それでも諦めずに叫び続けるキニスの姿に、俺は尊敬の念と、手伝おうにも手伝えないという状況のもどかしさに少しの後悔を抱いていたのだった。

 

 

 

 

周囲に人の気配がないか慎重に探り、誰もいない事を確認してから柳の麓のこぶを押さえる。

すると今にも暴れだしそうだった柳は嘘のように大人しくなった、ヤツから聞いたこの通路の正しい通り方だ。

 

暗い通路を進んでいき屋敷の中へ入る、そしてあちこちに仕掛けた罠を踏まないよう確実に足を進める。

最後の扉を開くと、そこの部屋には黒い大型犬が尻尾を振って待機していた。

 

「わふっ!」

「………」

 

持ってきた袋の中を取り出す、そこには食堂から直接買った干し肉などの保存食が入ってる。

それを一切れ渡すと、犬は一目見て分かる程に目を輝かせ肉に食らいついていった。

 

一方で俺はここに常設しているコーヒー器具たち(2セット目)を使い、温かく鋭い苦さを持ったコーヒーを二つあるカップに注いでいく。

 

それを飲みながら一息ついていると、もう一つのカップがすでに空になっていることに気がついた。

 

「それでどうだ? スキャバーズ…ペティグリューは見つかったか」

 

人間の姿へと戻ったシリウス・ブラックが窓に腰掛けると、憎しみを隠そうともしないように口を開く。

 

「………」

「そうか…クソ、一体何処へ隠れたんだ?」

 

顔を落としながら首を横に振ると、ブラックもまた肩を落とし落胆する。

そう、本来ロンの所に居るはずのペティグリューは数週間前から居なくなっていたのだ。

 

元々俺達は、俺がスキャバーズを捕まえこの館まで連れていき、そこで変身を解除する予定でいたのだがヤツが居なくなってしまったので計画の修正を余儀なくされていた。

 

「…ロンは、ハーマイオニーの猫、クルックシャンクスに補食されたと言っているが」

「いやそれはないだろう、あいつは確かに臆病の卑怯者の裏切り者だが、実力は十分あるし機転も利く、猫に喰われるほど間抜けでは無い筈だ。

…だからこそ俺はアズカバンにぶちこまれたわけだがな」

 

コーヒーを飲みきり、忌々しげにカップを机代わりのピアノに叩きつけるブラック。

厄介事とはまさにこのことだったのだ。

 

クルックシャンクスとは、ハーマイオニーが今年になって飼い始めた猫なのだが、何故かスキャバーズを親の敵のように追いかけ回していた。

そのためロンはスキャバーズがクルックシャンクスに食べられてしまったと思い込んでおり、大喧嘩になってしまったのである。

 

しかも証拠代わりに、スキャバーズに切り傷をつけた前科あり。

その結果ハリー達はロン無しの、人手が足りない状況での判例探しを。

キニスは一人で署名活動をする羽目になったのであった。

 

「それにクルックシャンクスには捕まえてくれるよう頼んであるからな、食われることは無いさ」

 

…こいつは今何と言った?

クルックシャンクスに頼んでいた? ではクルックシャンクスがスキャバーズを遅い続けていたのは偶然ではなく、こいつの命令を聞いていたから…

ということはロンとハーマイオニーの仲が険悪になってしまったのはこの男のせいなのか。

 

あまりに意外な黒幕の登場に対し、俺は呆れ返る以外の術を持たない。

…まさか、嫌な予感と共に脳裏をよぎった疑問を訪ねる。

 

「ファイアボルトを送ったのはまさか…」

「私だが…それがどうした?」

「………」

 

開いた口が塞がらない、とはまさにこのこのか。

 

「いや、箒が壊れてしまって落ち込んでるハリーを見たらついね

…あ、送るのもクルックシャンクスに頼んだから私だとは分から無い筈だよ」

「………」

 

クルックシャンクスを差し向けた挙げ句ハリー達の仲を険悪にしたこと。

自分の存在が発覚するかもしれないのにファイアボルトを送った迂闊さ。

こいつは本当にペティグリューを捕まえる気があるのだろうか…

俺は一抹の…いや、かなりの不安に駆られていた。

 

「まあそんなことより、ペティグリューをどう見つけるかだ」

 

そんなこと…深い溜め息をつきそうになるが何とか飲み込んでおく。

確かに優先すべきはそちらだろう、だが…

 

「…何か良い手段はあるか?」

「…無理だな」

「やはりそうなるか…」

 

俺に代わって深い溜め息をつくブラック、その気持ちが分からないわけではない。

しかしどうようもないのも事実だ、ホグワーツだろうと何処だろうと鼠など幾らでもいる。

その中から一匹だけ見つけ出せという方が無理難題である。

 

「…あっ! アレがあった!」

 

椅子から勢いよく立ち上がったブラックが、何か思い付いたのか強く叫んだ。

 

「″忍びの地図″だ!」

「…忍びの地図?」

「ああ、私達…ハリーの父親と私、それとリーマス、…ペティグリューが学生の頃に作った地図だ」

 

それはホグワーツ敷地内の詳しい詳細が書かれた地図らしく、隠し通路どころか、校内に居るなら人間の位置も分かるらしい。

これを使えばペティグリューの居場所も見つけることができる…と、ブラックはやたら熱く語ってきた。

 

「アレがあればペティグリューが何処へ隠れようとも無駄だ!」

「…それはどこにあるんだ?」

「あー…確か…用務員室のどっかだと思うぞ、まだ残っていればだが」

 

何でも卒業間近にフィルチに取り上げられた…もとい後輩のために取っておいたらしい、こいつら何て危険物を残してるんだ。

 

「…分かった、探してみよう」

「助かる、それで…罠は?」

 

ブラックの問いに呼応しローブから″罠″を取り出す。

何故罠が必要なのかというと、ペティグリューが万一にも逃げられないようにするためである。

 

「これを館のあちこちに仕掛ければいいんだな?」

「間取りはこれだ、…使い方は分かるか?」

「説明書を見ればな」

 

扱いを間違えないか不安ではあったものの、それをブラックに渡す。

これを買った結果バイト代が全て風に散ってしまったがやむを得まい。

 

そう、ブラックに渡したのは″クレイモア″。

それだけではなく催涙手榴弾(鼠用ワイヤートラップ)、地雷(改造型)等の爆発物、その他ホームショップで購入した鼠取り用の罠を用意してきたのだ。

一応店主に頼んで致命傷は負わないレベルにしてもらっている、問題は無い。

 

そう、叫びの館は炎と硝煙が漂う地獄に変わりつつあったのだ。

 

 

*

 

 

暗闇の中、光すらつけずに影が蠢く。

誰も居ない廊下に鳴り響く音は自分自身の足跡だけ、闇に目を慣らしながら俺は夜の廊下を歩いていた。

それはまるで俺の生き方のようであったが、ハッキリとした目的を持ちながら歩いていた。

 

用務員室に忍の地図はあるのか、それは分からなかったが行かないことにはどうしようもないだろう。

だがフィルチの所につく前に、地図は向こうからやった来た。

 

(光…? あれはハリーか?)

 

廊下の角から発する光を警戒していると、そこからハリーが現れた。

無論″目くらまし術″は使っているので見つかりはしないが。

しかしヤツは鬼気迫る様子でしきりに回りを見渡している、何か探しているのだろうか。

 

よく見ると手元には古そうな紙が握られている…まさか。

気付かれないように手元を覗いてみると、そこにはハリーや俺の名前が記載されている地図があった。

…参ったな、どうやったのか忍の地図はすでにハリーが手に入れていたらしい。

奪う…訳にもいかないが…貸してもらうか?

 

だが見付かっても面倒だ、いまだに周りを見渡すハリーから離れようとする。

だがその時俺はそれを見た、地図の端をピーター・ペティグリューの文字が走り去っていくのを。

 

「ルーモス・ソレム!」

 

暗闇に紛れ既に場所は分からない、だが先程の地図が大まかな位置を示していた!

そこを強烈な閃光で照らす!

 

「うわあああ!?」

「なんだ今の光は! ポッター貴様か!?」

「スネイプ先生!? 違います! いきなり光が―――

ってキリコ!?」

 

暗闇を引き裂いた光が、何も無い廊下に唯一動く影を映し出す。

それに狙いを定め一撃を放つ!

 

「ステューブレイト ―失神弾頭」

 

目にも止まらぬ早さで放たれた弾丸、しかしヤツは間一髪、ダクトの中へ滑り込み弾丸は壁を貫き何処かへ飛んでいってしまった。

 

(逃がしたか…)

 

ようやく見つけることができたペティグリューを逃がしてしまったことに悔しさを滲ませていると、背後から俺に似た声が聞こえてきた。

 

「一体何があったんだね?」

「おやこれはルーピン教授、何、校則違反をした挙げ句馬鹿騒ぎをしていた生徒を見付けただけですよ」

 

現れたルーピンに対し、嫌悪感むき出しの口調で対応するスネイプ。

二人の間に緊迫した空気が走る

 

「…では我輩はこやつらに罰則を与えなくてはならんので失礼する」

「分かった、しかし二人の罰則を一人で見るのは大変でしょう?

ハリーの方は私が罰則を与えましょう」

 

…どうやら俺はハリーを助けるための生け贄にされたらしい、ますます顔を険しくするスネイプだったが静かに溜め息をついた。

 

「さようですか…ではしっかりとお願いします」

「ああ、勿論。

…さあついてきたまえ」

「…キュービィー、貴様はこっちだ」

 

黒いマントを翻し引き返すスネイプの後についていく。

只でさえ暗い廊下のさらに奥、地下室は輪を掛けて暗く湿気が俺の肌を冷たく刺激する。

そこの一室、魔法薬学の教室にある教員室に辿り着いた。

 

「…座りたまえ」

「…失礼します」

 

古ぼけたソファーは反発せず、少し軋んだ音を出すそれに俺は座った。

スネイプはその対面の同じソファーに腰掛け、深い溜め息を一回ついた。

 

「まさか貴様がこういったことをするとは思わなかったぞ」

 

ヤツの機嫌の悪さが収まる気配は一向に無い、俺が手間を掛けたのが面倒なのか、はたまたハリーを取り逃がしたのが悔しいのか…

 

「それで…何故夜間に出歩いていたか教えてもらおうか」

「…ブラックを捕まえるために夜の校舎を彷徨いていると聞きました。

止めたのですが効果が無かったので、いざという時のために彼を見張っていたのです。」

 

俺は嘘でこの場を誤魔化すことにした、流石に「ピーター・ペティグリューを追い回していました」とは言えまい。

 

「…成る程、やはりポッターか」

 

どうやらヤツは騙されてくれたようだ、ハリーには悪いことをした、これで被害を被っていたら謝っておこう。

 

「やはり父親に似てどこまでも傲慢なヤツだな…まあブラックを憎むのは分かるが」

 

ブラックを知っているのか? いや、ブラックがハリーの親を裏切ったということは教員なら知っているか。

 

「ブラックめ…もし見付けられたら…

…ああ、そうだ罰則だったな」

 

ブラックの名を出すヤツの目には、凄まじいほどの憎悪が映し出されている。

そして吐き出すように何かを良いかけたが、それは罰則の話へと変わってしまった。

 

「…では罰則は教科書の書き取りだ」

 

思ったより軽い罰則に思わず拍子抜けしてしまった、スネイプがこの程度で済ませるとは珍しい。

 

「…それだけで良いのですか?」

「初犯に正当な理由もある、それとも最も重い罰則が望みか?」

「いえ、ありがとうございます」

 

やらなければならないことがある、罰則が軽いならそれに文句を言う理由は無い。

 

「では失礼します、申し訳ありませんでした」

「以後気を付けるように」

 

謝罪の後一礼をし、部屋から出て寮へと戻…らずルーピンの教員室へ直行した。

流石に罪悪感が沸いてくるが、ペティグリュー捕縛のためだ、やむを得まい。

 

闇の魔術の防衛術の教室まで来ると、ちょうどハリーと入れ違いになった。

それと同時に教室を覗くと、ルーピンが教員室に入って行くのが見えたのでその隙に教室に入り込む。

教室の中を探すと先ほどまでルーピンが居た机に忍びの地図が置いてあるのを発見した。

 

「ジェミニオ -そっくり」

 

双子の呪いを使い地図のダミーを作り、本物の代わりに置いておく。

本物の効果まではコピーできないのでその内偽物とはばれるだろう、だが盗んだのが俺とばれなければ問題にはならないのだ。

地図をローブの中に仕込み、教室から脱出し素早く寮へと戻って行った。

 

…しかし地図とは別に、俺の心にはスネイプの目が焼き付いていた。

あの目は確かに憎悪に燃えていたが、それだけでは無い様にも見えていたのだ。

憎しみの炎の中で僅かに揺らぐ瞳。

そこには憎しみよりも、悲しさと後悔が酷く寂しそうな影が差し込んでいるようだった。

 




叫びの館「あれ? もしかしてヤバイのって俺じゃ…」
それにしても必要の部屋に無断外出、このSSのキリコはだいぶ悪餓鬼ですね。

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