【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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ホグズミード回もといギャグ回です、
アズカバンの囚人もターニングポイントを越えました。
まあ、シリウスの無事でも祈っててください。


第二十九話 「襲来(Bパート)」

ホグズミードとは、世界で唯一魔法使いだけが暮らす村である。

だからだろうか、家も人の服装も、挙句の果てに空の様子まで違うらしい、それもダイアゴン横丁以上にだ。

週末そこに訪れる生徒達は皆思い思いの楽しみ方をし、今だ厳しい冬の寒さなど感じていないのだろう。

 

しかし俺はそこに行くことができない、ホグズミードに行くには親族の許可が必要なのだが俺にはすでに親戚は居ない。

よってどう足掻いても許可は出ることは無かった。

 

「ねえキリコ」

 

話しかけるキニスの表情はいつもと違い、何か言いたげである。

 

「許可、出なかったんだよね?」

「そうだが」

「許可が無いとホグズミードに来れないことは知ってるよね?」

 

一体何故こいつは当然のことをそんな顔で言っているのだろうか。

そしてヤツは叫んだ。

 

「じゃあ何でここにいるのさあああ!!」

 

絶叫するキニス、俺はホグズミードの広場でヤツとバッタリ鉢合わせていたのだ。

何故ここに居るのか、その理由は俺が熱い視線を向けるあの店にあった。

 

″珈琲豆店 ウド(ホグズミード支店)″

 

キニスが呆れ返った顔をこちらに向けてくるが知った事では無い、俺がこの店の存在を知ってからどれ程ここに来たかったことか。

何せホグワーツでコーヒーを飲もうにも、保存状態の関係上インスタントコーヒーが精一杯だった、今俺はその絶望から解放されるのだ。

尚正規のルートでは来れないので″叫びの館″を利用させてもらった。

 

「…もういいや、まあでも、まず″三本の箒″で温かいのを飲もうよ」

「断る」

 

いやまずはコーヒー豆だ、それしかない。

だが俺の腕はキニスに掴まれ、あえなく三本の箒まで引きずり込まれていくのであった。

仕方が無い、豆は後で買おう。

 

 

 

 

「酒をよこせ!」

「駄目です、未成年は飲酒できません」

「俺は酒を飲むんだ!」

「駄目なものは駄目です!」

「Noだ! Noだ!」

「子供は大人の命令を聞いていればいいんだ!」

「Noだ! Noだ! Noだ! Noだぁぁぁぁ!」

「ぐああああ!!」

 

店員の断末魔が響き渡っているが、俺の精神のため無視しておこう。

店の中には大人や子供など、多くの人々で賑わっていた、ここには多様なメニューがあるからだろう。

まあとりあえず何か頼むとするか…ホット蜂蜜酒、バタービール、ポリマーリンゲル溶液(コチャック製)、ギリーウォーター…

色々あるが、まあとりあえずコレだろう。

 

「バタービール! 二本下さい!」

 

どうやら俺の意図を察してくれたようだ、しばらく待っていると模様が書かれたジョッキに泡立ったビールのような飲み物が運ばれてきた。

震える体を温めるようにそれを流し込む…

 

冷え切った体にじんわりと伝わっていくのは、暖かさと滑らかな甘さだった。

それもお菓子のような自己主張の激しい甘味では無い、むしろ乳と卵がバランス良く配合され舌の上で溶けるような舌触りだ。

味も良い、とろみがついたバタービールの優しい味、それでいてくどいと感じさせないほんのりとした後味はまさに魔法。

その優しい味とボリュームの組み合わせは、冷え切った胃を満たすのに最高の成果を上げている。

 

…だが、やはり甘い、少しならともかくここまで量があると飽きてくるのは、もはや個人の問題だろう。

…よし、俺はバタービールに新たな力を与えるため水筒の中身を割と大目に入れる事にした。

 

「あらキニス、…ちょっと何でキリコが居るの!?」

「僕はそこにいるハリーの方が気になるんだけど」

 

新たな客はハリー達三人だった、ハリーは許可が出ていない筈だが…まあ些細なことだ。

俺達と同じくバタービールを頼み同じ席に座りキニスと話し始めていた。

それを他所に俺は新型バタービールに手を付けようとした…その時、外からマクゴナガルの声が聞こえてこなければ。

 

「! ハリー! マクゴナガル先生よ!」

「どうしたんだハーマイオニー、そんなに慌てて」

「忘れたのロン!? ハリーは許可を取ってないのよ!? あとキリコも! もし見つかったら…」

「と、透明マント!」

 

透明マントを取り出しそれに隠れるハリー、俺もそれに便乗させてもらったところで間一髪、マクゴナガルの目をかわすことができた。

…だが、その目が無くなったころ、ハリー達は明るさを失っていた。

 

「ハリー! ちょっとまってよ!」

 

マクゴナガル達の会話、それはシリウス・ブラックがハリーの名付け親であること、そしてハリーの両親を裏切り死へ追いやった張本人だという衝撃的、かつ残酷な真実だった。

その衝撃と怒りのまま飛び出して行くハリーと、それを追う二人。

 

「…酷い話だね」

 

キニスもまた悲痛そうな表情でヤツらの背中を見送っていた。

俺もまたいい気持ちはしていなかった、親を裏切った張本人、それが牢獄を脱出し近くに潜んでいるというのだ、その怒りは俺でも想像しえなかった。

 

だがそれと同時に不安も抱えている、その怒りに任せてまたハリーが無茶をするのではないかという不安が俺を蝕んでいたのだ。

しかしあの怒りを鎮める事は俺には出来ないだろう…そんな諦めを飲み干すように残りのバタービールを流し込む。

 

「………?」

「ん? どうしたの」

「…これはロンのだ」

「えっ」

 

先ほど出て行った時間違えたのだろうか、だとすれば非常にまずい、あのバタービールには水筒に入れていたコーヒーが結構な量入って―――

 

「ぶぅっつふぁああぁ!!?!?」

 

遠くから聞こえたロンのむせる声が教えるのは、既に手遅れだということ、そして少し入れ過ぎたという計算ミスであった…

 

 

 

 

腹も気持ちも満足したので学校へ戻ることにした、ただし列車は使えないので行き同様叫びの館経由である。

重く錆びついた入口を開け、軋む階段を登っていきたどり着いた部屋はあちこちが痛んでおり、積もった雪の冷たさが上から降り注いでいた。

学校へ戻る前に、無許可立ち入りが発覚しないよう体についた雪を払い買った物をポーチの中へねじ込む。

 

証拠隠滅を済ませ校舎に戻ろうと扉に手を掛けた…時であった、下の階から軋む音が聞こえて来たのは。

 

「………!」

 

反発的にローブから杖を取り出し構える、そして扉からすり足で慎重に離れ別の部屋に隠れようとする。

何者だ、突如として現れた来訪者、それはおそらくシリウス・ブラックだろう、そうでなくともまともなヤツがここに来る筈が無い。

 

ギシ…

 

(しまった…!)

 

だがどれ程警戒しようともこの老化した屋敷は簡単に悲鳴を上げてしまう、その軋みに反応するように下からの…いや、既に扉の前まで迫っていた足音はピタリと止んだ。

こうなれば止むを得ない、息を飲みこみ目を開き襲来を覚悟する、すると向こう側から少しやつれているような声が叫びを放つ。

 

「そこに誰かいるのか!?」

 

その声には聞き覚えがあった、日刊予言者新聞に載っていた写真、それに写っていたシリウス・ブラックの声と完璧に一致する。

やはりシリウス・ブラックだったようだ…しかしこのまま黙っていては必ず突入されてしまうだろう、とにかく何か返さなくては。

 

「…シリウス・ブラックか?」

 

分かり切っている質問の答えを投げかける、その間に逃走しようとしたが…返って来た言葉は思いもよらないものだった。

 

「…! その声、まさかリーマスか!?」

 

俺は思わず目を丸くした、何故ここでルーピンが出てくるのだ?

確かに俺とルーピンは良く『声がそっくり』と言われているが…いやそんなことはどうでもいい。

とにかくヤツは俺をルーピンと勘違いをしている、ヤツとルーピンの仲が良いのかどうかも分からないが話を合わせるべきだろう。

 

「…ああ、…そうだよ」

「やはり…! だが何故今日ここに居るんだ? 今日は満月ではない筈だが」

 

一体何のことを言っているのか分からず混乱へと陥りかける、まずい、今下手な答えをいう訳にはいかない、すぐさま質問の意図を探り始める…

満月…満月の日に何か特別なことがあるのだろうか。

その時スネイプの授業、その時の内容が満月と結びついた、そう″人狼″だ。

思えばあの日は満月だった筈、だとすればルーピンは人狼だったのか? そう考えればあの日休んだ理由の説明がつく。

 

その瞬間この屋敷の存在する理由を直感で理解した、ルーピンが人狼だったこと、そしてシリウス・ブラックの質問をつなぎ合わせる。

この屋敷は人狼になった時の為の隠れ家だったのだろう、他の誰かを襲わない様に、だからここまであちこちに爪痕がついていたのだ。

それが合っているかは分からなかったが今すぐ答えないと怪しまれる、その推測を元に答えをでっち上げる。

 

「…少しくらい修繕しておこうと思ってね」

「なるほどそういうことか」

 

何とか納得してくれたようだ、扉からさらに距離を取りつつ少し胸を撫で下ろす…だが、次の質問を答えることはどうやってもできなかった。

 

「本当に…また会えて嬉しいぞ()()()()! きっとお前は私の無実を信じていると信じていた!」

 

()()()()? まずい、これは恐らくあだ名だろう、ならば俺もあだ名で返さなくてはならない、しかしそんなことを知る訳が無い。

だがこの一瞬、少しの戸惑いが間違いだった。

 

「ムーニー? …誰だお前は!?」

「………!」

 

数秒間の沈黙がヤツに再び疑いを与えてしまった。

ばれたか…! ヤツは扉を勢いよく突き破り部屋に突入してきた!

こうなれば仕方が無い!

 

ステュービファイ(失神せよ)!」

「うおっ!」

 

先手を打ち失神魔法を放つ! だがヤツは驚いてこそいたが冷静に素早く身を翻す!

その隙に扉を開け別の部屋へと逃走するがそれを見逃す筈も無い。

しかしそれでいい、扉越しなら確実に命中する!

 

この杖は強力だが効率が悪い、よって長期戦にはとことん弱くなる。

だがその欠点をいつまでも放置しておく理由も無いのだ。

それは出力を全て″速さ″に回すことで貫通力を上げ、燃費を良くした呪文、よって遮蔽物に当たっても貫通することが出来る!

 

「エクスブレイト -爆破弾頭」

 

扉に向かって杖を振り、その軌道に乗って閃光が発射される!

閃光は回転し収束し、扉の向こうのシリウス・ブラックを貫いた!

 

ドゴオオオン!

 

「ぐあああっ!?」

 

奇襲! そして悲鳴と轟音!

扉が軽く吹き飛び、その中から肩の一部が抉れたシリウス・ブラックが絶叫を上げる。

致命傷にはいたらなかったか、この呪文は代償として威力が少し下がるのが欠点なのだ。

しかしヤツはまだ、倒れず部屋へ入ろうとする。

…だが作戦はまだあったのだ!

 

カッ!

 

「ぐあっ!? 目、目が!?」

 

部屋中を照らす光、部屋の境目のワイヤートラップが閃光手榴弾を起爆させたのだ。

これでヤツの目はしばらく使えないだろう、その隙に再び別の部屋へ隠れる。

 

俺を見失ったシリウス・ブラックを壁に空いた穴から見つめ、トドメを刺そうと杖を構える、が…

 

(!? 消えた!?)

 

瞬きの一瞬、シリウス・ブラックはその姿を消し去ってしまった。

壁から離れ全方位を警戒する。

姿くらましか? それとも目くらまし術か? いや杖が無い以上それは考えられない。

ならば…その瞬間衝撃は上から襲来した。

 

「ガアアアアア!」

「!?」

 

それは黒く巨大な犬だった、想定外の事態に対応が一歩遅れた!

そうか!動物もどきか! それに変身し暗闇に紛れ、臭いで俺を見つけたのか!

鋭い爪で腕を裂かれ、杖を奪われながら壁へ激突する!

 

「う…!」

 

その衝撃によって崩れ落ちるキリコ・キュービィー。

人間の姿へと戻ったシリウス・ブラックは奪った杖を構えながら倒れるキリコへ近づいてゆく。

 

(どうする…? 見た所ホグワーツの生徒のようだが。

死んではいないようだが…殺すのはマズイ、ここは忘却呪文で記憶を消す方が良いだろう)

 

忘却呪文を確実に掛けるため、気絶しているキリコの目の前まで接近し杖を向けた、だがその時!

 

カチャッ

 

「な!?」

「………」

 

青髪の少年が構えている物、シリウス・ブラックはそれを知っていた!

気絶していたとばかり思っていたこいつは! 自分の眉間に″銃″を突き付けたのだ!

 

「何故お前のような子供が銃を持っている!?」

「…さあどうする、俺を殺すか?」

 

シリウスの質問に答える事も無く、キリコは淡々と言葉を迫らせる!

思考するシリウス、今こいつを殺せば、自分は必ず捕まってしまう!

だが見逃しても捕まってしまうだろう…

まさに詰み、シリウスは既に敗北していた。

…ならばせめてマシな選択をしよう、そして杖を離す。

だがそれを見たキリコもまた銃を離したのだった。

 

「な…私を殺さないのか?」

「…エピスキー(癒えよ)

 

少年は疑問に答える様子も無く、むしろ私の肩の出血を止めてくれた、一体何者なのだこの少年は…

そう考えていると、何と少年はそのまま帰ろうとしていた。

 

「わ、私を捕まえないのか…?」

「…犯人では無いのだろう?」

 

目を見開くシリウス・ブラック、彼の口から出た言葉はそれ程に衝撃的な物だった。

 

「!! そうだ! 私は違う! …だが何故そう思った?」

「『あいつはホグワーツに居る』…ハリーが入学したのは三年前だ」

 

俺が前々から疑問に思っていたことがこれだ、ハリーの入学は当時相当話題になり、三日間は新聞の一面を独占していた。

なのに今更『あいつがホグワーツに居る』…気づくのがあまりにも遅すぎる、だとすればこれは今年になって初めて″何か″に気づいたと考えるのが妥当だった。

だがヤツを信じたのはそれだけでは無い。

 

「そ、それだけで私を信じたというのか…!?」

「俺を殺さなかったからだ」

 

そう、ヤツは今でも俺を殺すことができる、それに先ほど死んだふりをしているときもヤツは殺そうとしなかった、その気になればそれこそ死の呪いでも撃てたというのに。

ならばこいつは世間で言われているような凶悪犯では無い、俺は先ほどのやり取りでそれを確信していたのだ。

 

…ならば、真犯人、もしくはその手掛かりがホグワーツにあるということか?

だとすれば無視することは危険すぎるな…

 

「…真犯人は誰だ?」

「っ! ピーター! ピーター・ペティグリューだ! ヤツが真の犯人だ! あいつは鼠の動物もどきで(アニメーガス)で下水管に逃げていたんだ! 小指を一本だけ切り落としてな!」

 

確かにそれなら筋が通るな、…まて、鼠?

小指を切り落とした…小指だけ無い鼠…まさか…

 

「…スキャバーズ?」

「知っているのか!?」

 

そうだ、確かにロンの飼っている鼠は小指が無かった、だからこいつはグリフィンドール寮に侵入しようとし、ハリーには目もくれずロンに襲い掛かっていたのか。

…ハリーの両親を裏切り、そして自身の為なら手段を問わない男。

無視しておくにはあまりに危険な存在だろう、何より…

 

「…協力する」

「何?」

「ペティグリューの捕縛を手伝う、と言っているんだ」

「良いのか!?」

「ああ」

 

既に乗り掛かった舟だ、降りるわけにもいかないだろう。

 

冤罪により孤独を、地獄を味わってきただろうシリウス・ブラック。

俺はヤツに対し親近感を抱いていた。

神、その手足によって地獄へ叩き落とされた苦しみが癒えることは無い、あのリドの暗闇に落とされたからこそ、炎を見つける事ができたとしてもだ。

吹雪によって叫ぶ館の中、俺は古く色褪せた懐かしさを感じていた。

 




誰を狙うのか、何処へ潜むのか
憎む物が憎み、逃げる物が逃げる
ためられたエネルギーが出口を求めて沸騰する
復讐と執念、恐怖と弁疏、過去と悲劇
舞台が整い役者が揃えば、暴走が始まる
そして、先頭を走るのは、いつもあいつ
ハリー・ポッターとラストレッドショルダー、第三十話『臨界』
メルトダウン、始まる


同 盟 結 成
スキャバーズ「あ、これ死んだわ」 
ちなみにバタービールですが筆者はUSJのを飲んだことがあります。
味は…言うほど不味くないかと。

新魔法 ○○ブレイト -○○弾頭
呪文の貫通力と速度を徹底的に上げた呪文、様々な呪文に適応可
ただし威力と範囲が低下する…が、キリコの場合元から威力が高い。
よって低下しても威力だけは平均値のままである。
あと良コスパ

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