完結してる作品信じらんない程少ないな…
まあ、完結できるようコツコツ頑張っていきます。
教室の雰囲気は今までになかったものだ、一昨年は大蒜、去年はけばけばしいピンク一色だったが今目の前に広がるのは無駄な装飾も臭いも無く、最低限の品物だけが整理され置かれている。
これだけを見れば今年の″闇の魔術に対する防衛術″はまともと思えるかもしれない、だがそうと言い切れる訳では無い、その期待と不安によって生徒達は騒めいていた。
「ルーピン先生かあ、今年の先生は頼りになりそうだね」
「…どうだかな」
リーマス・ルーピン、以前医務室で話した時感じた印象からすると、前任者ほど酷い授業にはならないだろうがそれでも油断は禁物だ。
俺は今までの授業のせいで疑心暗鬼に陥っているのだった。
「いや、あの先生は絶対頼りになるよ、この前キリコが吸魂鬼に襲われた時も白い光であいつを追い払ったんだもん」
そうか、あの時意識を失う中で見た光は″守護霊″だったのか。
だが守護霊の呪文はかなり高難度だと聞く、それを扱えるという事実を知った事で俺はようやく期待を膨らませることができた。
そして騒めく教室の中にそいつが現れた。
「やあみんな、今年からこの教科を受け持つことになったリーマス・ルーピンだ。
準備してくれた所悪いんだけど、今日は教科書を使わないのでしまって、杖だけ持っててくれ」
そして教科書をしまい、机をどかすように指示を出す。
広いスペースを確保したところでヤツは奥の教員室から古ぼけた箪笥を持ってきた。
無論ただの箪笥の筈は無い、ガタガタと激しく揺れているそれは何かの存在を強く主張していた。
「この中には″ボガート″が入っている、君達にはこれからこいつと戦ってもらう」
その一言で途端にどよめき始める、どんな物とはいえ初めて相対するときは一定の恐怖を伴う、ましてや妖怪どころか戦闘経験も無い生徒達が脅えるのも当然の事だろう。
ルーピンはそんな不安を和らげるような声で再度話し始めた。
「さて、ボガートがどんな妖怪か分かる人はいるかな?」
「形態模写妖怪です!」
「その通りだキニス君、ちなみにこの性質そのまま過ぎる名前は今だしょっちゅう議論の的になっているけど、この授業でやるのはそこじゃない。
ではキニス君が答えてくれたが、一体何に化けるのか分かるかい?」
キニスに続き、別のハッフルパフ生が手を上げ答えた。
「その人にとって一番怖い物です」
「正解だ、それも怖い物なら、生き物、物、音にまで化けることができる。
だがそれゆえに誰かと一緒にいればその脅威は激減する、何故かわかるかい?」
「誰に化ければ良いか分からなくなるからです!」
「素晴らしい、キニス君は良く勉強しているようだ、ハッフルパフに5点!」
連続回答で得た得点に思わずガッツポーズをするキニス、そして話は続く。
「そしてボガート最大の弱点は恐怖の反対、″笑い″だ、これには強い精神力が居る。
君たちは見ていて滑稽だと思わせる姿をボガートに取らせる必要がある。
呪文は簡単だ、『リディクラス -ばかばかしい』、では一緒にやってみよう、さん、はい!」
「リディクラス! -ばかばかしい!」
「よし、だがこれだけでは完璧とは言えない、実際にやってみないと分からないこともあるだろう。
じゃあキニス君、こっちに来てくれるかい?」
見本として呼ばれたのはキニスだった、どうも先日のヒッポグリフの時と言い、こいつは動物とか妖怪とかその類に強い興味を持っているらしい。
「キニス君、君の一番怖いものは何かな?」
「えーと…、…バジリスク?」
騒めく教室からはフレッチリーの悲鳴が聞こえた、無理も無い、倒されたとはいえ怪物の恐怖はいまだ深い爪痕を残しているのだ。
特に直接襲われた二人はトラウマになっていてもおかしくないだろう。
「そうか、じゃあ思い浮かべるんだ、どうすればバジリスクが面白い見た目になるのかを。
皆もしっかり考えておいてくれ。
…浮かんだかい? じゃあ行くよ、3、2、1…!」
ゆっくりと、不気味に開かれた箪笥、だがいつまで経ってもバジリスクは出てこなかった。
代わりに出て来た物、それはベッドだった。
「あ…ああ…!」
凶荒状態に陥るキニス、やつれた目を限界まで見開き驚愕するルーピン、騒めく、いやパニックになりかけた生徒達。
当然の反応だろう、心臓に穴が空いた俺が出て来たのだから。
「こっちだ!
緊急事態と捉えたのかボガートの前にルーピンが割り込んできた、するとボガートは小さい銀色の球体へと変化、したと思ったらゴキブリへと姿を変え女子生徒の元へ迫って行った。
「!? キャアアアア!!
絶叫と共に放たれた呪文により、ゴキブリボガートは床を盛大に滑ってひっくり返ってしまった。
その光景を見たことで生徒達は笑い出し、一先ずパニックから脱することは出来た。
「大丈夫かいキニス君、一先ず奥の教員室で休んでいてくれ」
「は、はい…」
ふらつく体を支えてもらいながらキニスは奥の部屋へ去って行った。
その光景に俺は複雑な感情を抱いていた。
当然疲弊していたキニスを心配していたが、それと同時にバジリスクに襲われたことよりも俺が死にかけた時の方がトラウマになっていること、それが意味する自分より俺のことを心配してくれたということに、ある種の嬉しさを覚えていたからだ。
だが逆に言えば、キニスは自分よりも俺のことを優先していることになる。
その行き過ぎたお人好しさを素直に喜ぶことは出来ない、だからこそ俺は複雑な思いを抱え込んでいたのだ。
「いや、すまなかった、キニス君は大丈夫だから安心してくれ」
戻って来たルーピンはそう言って授業を再開させた。
最初の内はキニスの反応を見てしまったことで恐る恐るやっていたが、次々と酷い醜態を晒すボガートを見てる内に順調になり始め、そしてついに俺の番となった。
…一体何になるのか想像もつかない、いや、恐い物が無いという意味では無いのだ。
むしろトラウマはうんざりするほどある、それ故にどれが出てくるのかサッパリ分からないのだ。
何が出てもいいように覚悟を決め箪笥の前に立つ、ボガートは少し停止した後何故か炎に包まれた。
…そして炎の中から出て来た物は。
炎の中からまず聞こえて来たのは軽快なマーチであった、だがその曲を聴いても心が軽くなる筈は無かった。
そして次に現れたのは壮年の男であった。
黒いサングラスの奥に見える眼光は鋭く、白髪が生え、皺が刻まれた体は老いていたがかつての過酷な訓練の成果を残している。
…ヨラン・ペールゼン。
周囲はキニスとは違った意味で騒めき始める、知らないおっさんが出てくれば当然の反応だ。
確かにこいつが出てくるのも納得だ、焼かれた過去、レッド・ショルダーの悪夢、俺の悪夢はほとんどこいつか″神″が発端となっているのだから。
だがいつまでもこいつを見るのは堪える、今更死んだ過去になど未練は無い。
「リディクラス -ばかばかしい」
呪文を唱えた瞬間、耳触りなレッド・ショルダーマーチは音程を激しく外し始め、ペールゼンは足が鳥みたいに細くなり、首から腰まで真ん丸に、そしてジグザグの髭が生えて来た。
全体的に言うと卵のような体形に早変わりしてしまった。
そのどっかのゲームで見たような姿に教室は笑いに包まれる、卵化したペールゼンは頭から蒸気を出し、まさにゆで卵その物になっていた。
「大丈夫か?」
「何とかね…」
全ての授業が終わり、寮へと戻るキニスの声はだいぶ疲弊しているようだった。
「………」
「………」
そして気まずい空気が流れだす、当然だ、自分の死体が現れてそれを笑い飛ばすことなど出来るはずが無い、授業自体は楽しい物であったが既に俺達にとっては苦いものに変わってしまっている。
「あー…なんかごめんね、あんなのを出しちゃって…」
「いや、お前が謝る必要は無い」
「そ、そう?」
「………」
またもや気まずい沈黙が空気を支配する、会話が続かないことは何時ものことだが、ここまで気まずい空気は久しぶりである。
まああの時のように、取り返しの付かないような空気と言う訳でもないので大丈夫だろうが…それでも俺の心は落ち着かなかった。
「そういえば…バックビークどうなっちゃうんだろうね」
この気まずい空気に堪えがたくなったのかキニスは話題を変えて来た、俺も辛くなっていたのでその話を繋げ出す。
「さあな、…だが簡単には終わらないだろう」
「まさか殺されちゃうなんてことないよね…」
「…ありえなくはないな、マルフォイの父親は未だに大きな権力を持っている」
普通に考えれば処分を受けるのはハグリッドの方だろう、しかしそうならない可能性がある。
ダンブルドアがハグリッドを弁護する可能性だ、もしもヤツが弁護をした場合ハグリッドの罪は軽くなり、恐らくしばらくの謹慎処分ぐらいにとどまるだろう。
だが軽くなった罪の埋め合わせは誰がする? マルフォイはあり得ない、ヒッポグリフが残りの罪を負うことになるだろう。
なら動物の罪の取り方は何がある? 殺処分、それ以外取りようも無い。
「何とかならないかな…」
「無理だな」
「ええ…そんな無情な」
無情と言われても本当にどうしようもない、一昨年去年と違い今回は犯罪では無く法による正当な手続きを得て行うものだ。
そうである以上ルシウス・マルフォイの介入があろうと、それを妨害することはできない。
ましてや子供ではどれ程騒いでも無駄だろう。
「…俺は用があるから、先に帰っていてくれ」
「あ、そう? 分かった …じゃあ後で!」
そうこうしてる内に寮への分かれ道へ着いた、だが俺は寮に戻らずキニスと別れ8階への階段を昇って行った。
ばれる危険性を考慮し、使わないと決めた筈の部屋、俺は再びそこに立っていた。
何故ここに居るのか、それは物を隠す為では無い。
必要の部屋、それは本人が必要とする物が置いてある部屋だ、だからこそ物を隠したかった時は、あの大量の箱が出て来たのだ。
…そこで俺は思いついたのだ、俺が必要としているのは箱では無い、ましてや銃でもない。
俺が最も欲するもの、それは俺を殺せる魔法だ。
だがそれは恐らく相当高位の闇の魔術になる、だからこそこの数年間、何度も閲覧禁止の棚にこっそりと侵入していたのだ。
…だがそこまでだった、魂や死に関わる禁書は粗方読みつくしてしまい、結局有効そうな呪文は見つからなかった。
しかしこの部屋の存在は光明だったといえる、もしかしたら…だが、ここになら閲覧禁止の棚以上の闇の本があるかもしれない。
そう考えた俺は今再びここにやって来たのだ。
あの時のように石像の前に立ち、周囲の気配を探ってから壁の前を歩き始める。
(闇の魔術を知れる部屋、闇の魔術を知れる部屋、闇の魔術を知れる部屋…)
三往復したところで目を開く、するとそこにはあの時と同じ扉が出現していた。
存在していればいいが…
僅かな不安を抱きながら部屋へと入って行く、するとそこの景色は以前と変わっていた。
しかし現れたのは以前のような部屋では無く、色々な物が無造作に置かれその間に狭い通路が続く。
その通路を辿った先には想像していた本棚などではなく、幾つかの本が置かれた小さな机が椅子と共に置かれているだけだった。
…上手くいかなかったのだろうか、しかし扉が出現した以上俺にとって必要な場所の筈、机にある本を読もうとする。
が、掴んだそれをうっかり落としてしまった―――
「!?」
落下したことで開かれた本はその中から緑の閃光…死の呪いを発射した。
だが下向きに開いたため呪いは地面を少し抉るだけ、不発に終わった。
…罠、というにはあまりに危険すぎる、予想外の地雷を踏み抜いたことにしばし呆然としていたが、少したち落ち着きを取り戻すと本を拾い直し、パラパラと下に向けながらめくることで安全確認を済ませる。
そして本の内容を見ると、そこには闇の魔術についての研究や考察が驚くほど詳細に書かれていた。
死の呪い、服従の呪文、磔の呪文、悪霊の炎・・・
許されざる呪文はおろか、それ以外の闇の魔術もこれでもかと詰め込まれ、これを書いた者の情熱が伝わってくるのを感じた、いや、ロクな情熱ではないだろうが。
だが、何故こんな危険な罠が仕掛けられているのだろうか、本の表紙を見直してみる。
「…なるほどな」
納得だ、こいつの持ち物だったならここまで過剰な罠があってもおかしくない、この本以外の本もかなり危険な罠が仕掛けられているだろう。
だがこの手の罠は不意打ちだからこそ最大の効果を発揮する、罠があると知ってしまえば対策は容易だ。
大方昔ホグワーツに在籍していたころの研究室代わりだったのだろう、忘れていたのか不要になったのかは分からないがありがたく使わせてもらおう。
その本の端には『トム・M・リドル』即ちヴォルデモートの本名が記載されていた…
キニスの方がとんでもないの出てきてんじゃねーか!
はい、真面目に考えた結果アレでしたとさ。
そしてキリコも何てもん見つけてんだか、
一体どうなることやら…