【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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感想欄にキリコを心配してる人が一人も居ない事に怒りを覚えていました。
まあ当然か!
では第二章の最終話です、お疲れ様でした。


第二十六話 「奇跡」

回りの光景は白、白、白。

清潔に保たれてる医務室のベッド、その上で僕は目を覚ました。

 

…何でこんな所にいるんだろう。

 

石の様に重い頭をフル回転させる。

確か、ハーマイオニーと図書館にいて、怪物の正体を突き止めて…

 

そうだ! バジリスクに鉢合わせて階段から落っこちたんだ!

それでどうなったんだ!?

何とか覚えているのは水粒に写った黄色い眼球だけ、ってことは石にされていたと考えるべきなんだろうか。

 

「あがっ!?」

 

起き上がろうとしたら全身に激痛が走った、そういえば落下死を逃れるために石になったんだっけ。

だとしたら石になった後地面に大激突したのか。

 

運良く早めに完成したマンドレイク薬が彼に処方されてから一時間も経っていない、加えて石化していたとはいえ激突の衝撃は強く、全身打撲は免れなかったのだ。

 

「…おお、目を覚ましたのかの」

 

カーテンを開け現れたのはダンブルドア校長だった。

お見舞いだろうか? それにしては何だか元気が無い気がする。

 

「あのー、僕が石になった後バジリスクはどうなったんですかね」

 

「…バジリスクと、それを操っておった継承者もハリー達が倒してくれた」

 

ダンブルドア校長は静かに、淡々とそう答えた。

そっか、ハーマイオニーは逃げきってくれたんだ、そしてキリコ達がそれを元にバジリスクを倒してくれたんだ…

 

「そうですか、…良かった、事件が解決してくれて」

 

「………」

 

「…皆にお礼を言わなきゃな、あ、すいません、そういえば今日って何時なんですか?」

 

「………」

 

「…校長先生?」

 

何故かダンブルドア校長は顔をうつ向けたまま答えようとしない、一体どうしたのだろうか。

そしてダンブルドア校長は重く口を開いた。

 

「キニスや、…君が今から見る物はとても辛いものじゃ」

 

一体何の事か分からなかったけど、ダンブルドア校長の目付きは真剣そのものだった。

それに呼応し、僕は恐ろしい予感を感じていた。

 

「それは認めづらい事じゃろう、…じゃが君は独りではない、…じゃからどうか、覚悟を持って受け止めてほしい」

 

校長先生が僕の肩を支え、ベッドから降りる、そしてカーテンを開いた先には…

 

「キ、キリコ…?」

 

一つのベッド、その回りにはハリー達が居た。

ハリーは顔を歪ませ、ロンはベッドの上を必死で揺さぶっている、ハーマイオニーとジニーは顔を覆いながら涙を流している。

そしてベッドの上にはキリコが横たわっていた、…胸に大きな穴を開けて。

 

それがどういう事かくらい、すぐに分かった。

僕は力無くその場に崩れ落ちる。

キリコが…死んだ…

 

 

 

 

ハリーは自身の無力さを痛感していた、自分がもっと強ければこんな事には…と。

 

………

 

ロンは悔やんでいた、あの時引き返さねば結末は違ったのではないか…と。

 

………

 

ハーマイオニーばいまだに認められなかった、これは夢だ、ただの悪夢の筈だ…と。

 

…ク…

 

ジニーは後悔していた、自分がおかしくなっていた事を伝えていれば、罪に問われる事を恐れていなければ…と。

 

…クン…

 

そしてダンブルドアはその全てを感じていた。

結局何一つ出来なかった。

継承者に対しても、バジリスクに対しても何一つ出来ずに学校を追放されただけ。

そしてついには、生徒一人の命を守る事すら出来なかった。

何が世界最高の魔法使いだ、何が偉大な校長だ。

あの時から何も変わってはいない、愚かで傲慢な愚者のままだ…

 

…ドクン…

 

全身が痛むのも感じない、ベッドにしがみつきながら嗚咽するしかない。

どうしてこうなった? 何が悪かった?

何一つ分からず僕は泣いた、泣き続けた。

 

…ドクン…ドクン…

 

どれほど叫んでもキリコは反応しない、それを認めたくないからこそ叫び続ける。

 

…ドッド…ドッド…

 

すがるようにキリコの手を握る、その手は冷たく、動くことは無い………

その時僕は気づく、握った指に脈動が伝わっているのを。

 

…ドッド…ドッド…ドッド…

 

「!? キリコ!?」

 

叫ぶ、願いのままに。

それに気づいた皆もキリコを見つめる。

そして、その時。

 

 

 

「………………」

 

 

 

キリコが目覚めた。

 

「………!」

 

「…キ、キリコ………!?」

 

「………奇跡だ………!」

 

 

 

 

「聖マンゴの医者いわく…信じがたい事ですが、牙は僅かに心臓を掠めただけでした。

また毒らしきものは一切見当たらなかったようです」

 

「………」

 

「そして傷は不死鳥の涙で治癒した…だからこそ生き残れたのでしょう」

 

「………」

 

「ですが一つだけ説明がつきません。

バジリスクの毒は極めて強力…たとえ心臓を掠めただけであっても数秒で死ぬはずです」

 

「…いや、一つだけ可能性がある、グリフィンドールの剣じゃ。

グリフィンドールの剣の力は知っておるな?」

 

「ええ、グリフィンドールの剣に使われている小鬼の銀はより強きものを吸収する―――まさか」

 

「キリコの首元には切り傷があった、そしてハリーはキリコを掠めたと言っておった。

…そう、グリフィンドールの剣はキリコの体内の毒を吸いとったのじゃ」

 

「そんな事が…」

 

「君が信じられぬのも無理はない、儂もまだ信じられぬのじゃから。

…しかし、それ以外考えられないのもまた事実」

 

「…校長、やはりあやつは」

 

「落ち着くのじゃ、セブルス」

 

「しかし…」

 

「分かっておる、去年は死の呪いをうけて生き残り、今年はバジリスクの毒を心臓にくらっても生き残った…

もはや偶然と捉える事はできぬ、確信していいじゃろう…彼が予言の″異能者″じゃと」

 

「では…どうなさるおつもりで?」

 

「いや、どうもせんよセブルス。

あの子が何か邪悪な思惑をしたり、目論んだ事があったかね? むしろ行っているのは善行ではないかね?

疑いだけで罰を与えようとするのは最も愚かな行為の一つじゃ。

…それに儂らは″異能者″が何を意味するのかは知らぬ、ただあの子の異常さから推測しただけじゃ」

 

「………」

 

「今儂らに出来る事は、あの子を見守る事だけじゃ…それが良い方向か悪い方向に行くのかは分からんがの…」

 

 

 

 

俺が目を覚ましてから数週間、色々な事があった。

まず、日記を仕込んだ黒幕であるルシウス・マルフォイが理事を追放させられた。

ことの発端はこうだ。

まずハリーが一計を案じ、ヤツの屋敷しもべ妖精であるドビー、そうあのクィディッチの時ハリーを殺しかけていたヤツが、ルシウスから解放された。

そして忠誠の必要が無くなったドビーは全てを洗いざらい話した。

ルシウスに命令され、日記の見た目を変えた事、それをホグワーツに持ち込んだ事。

その結果理事を追放されたのだ、最もこれだけやって追放だけで済んでる事には驚いたが。

 

また継承者の正体が明らかになった事で、ハグリッドはアズカバンから帰ってくる事ができ、ダンブルドアも校長へ復職した。

そして50年前の冤罪も晴れ、名誉を取り戻すことができたのだ。

 

この結果ハリー、ロン、ハーマイオニー、俺は200点づつ獲得しグリフィンドールが今年の寮対抗杯を獲得した。

それらを記念し、また石化していた生徒の事も考慮し学年末試験は中止、盛大なパーティが夜通し開かれたという。

 

あ、あと生徒に忘却術を掛けようとした事から今までのペテンが全て露見し、ロックハートはアズカバン送りになった、どうでも良い事だが。

 

だが俺の心は穏やかでは無かった、そこにはダンブルドアに対する凄まじい怒りが渦巻いていたのだ。

よくも俺の居ない時にパーティを…!

そう、俺はあの後精密検査という事で聖マンゴ魔法疾患障害病院に入院する羽目になったのだ、別に異常は無かったので明日には退院らしいが…

一体どれ程美味い物が出ていたのだろうか、そう考えると夜も眠れない、ここで出るのは消化にいい不味い白湯だけだ。

俺は温くなった白湯を胃に流し込みながら、恨みつらみの言葉をつづっていたのだった…

 

 

 

 

それから瞬く間に時は過ぎ、夏の湿った風の中、俺達はホグワーツ特急に乗り込んでいた。

目の前には一年前と変わらない、生徒達が夏休みの予定を話し課題に対する不満を吐き出す、無難で平和な光景が広がっていた。

 

「今年も終わったねー…」

 

そして隣には、どことなく凛々しくなった顔をしたキニスが座っていた。

 

「いやはや、それにしても怪物が水道管を壊してくれて本当に良かったよ、でなきゃ死んでたね。

パパやママに自慢…したら卒倒しそうだから辞めとこ」

 

キニスは軽く笑いながらそう言った。

そうだ、この平穏な光景を取り戻した要因の一つは間違いなくこいつだ、こいつが居なければ怪物の正体は分からなかっただろうし、犠牲者も更に増えたかもしれない。

 

「………」

 

「………」

 

そして沈黙が流れる、だがそれは暗く淀んだ水では無い。

綺麗に澄んだ、心地の良い物が俺達の間を抜けていく。

 

「…キリコ」

 

「…何だ」

 

「…死なないでね」

 

「…何故そんな事を聞く?」

 

「いや、今年も見事に死にかけてたから…また心配になって」

 

一年前は死の呪いを喰らい死にかけ、今年も似たような事で死にかけた。

こいつは今年になっても何も変わっていないな、自分も死にかけたのに俺を心配しているのだから。

 

「…それはお前もだろう」

 

「それを言われると痛いです」

 

キニスは笑っているが俺からすれば全く笑えない、俺からしてもキニスが死ぬ事等あってはならないからだ。

 

「お前もだ、…少しは注意しろ」

 

「あははは、まあ今年みたいな事はもう起こんないでしょ」

 

「………」

 

「ちょっと、怖い、無言怖い」

 

果たして来年は無事に来るのだろうか…言いようの無い不安が俺を襲った。

 

また一年が終わった。

継承者の脅威は去り、学校は平和を取り戻した。

だが、俺の心の中にはキニスの言葉が何度も巡っていた。

…しかしその願いを聞き入れる事は出来ない、俺は死ぬためにここに居るのだから。

この二年で基礎は固まった、そろそろ本腰を入れても良いかもしれない。

俺を殺す魔法は果たしてあるのか…それを知るものは何処にも居ないだろう。

だが、それまで、その時までは…

俺は生きよう、力の限り、それを悲しんでくれる友が居るならば…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

コツ…コツ…コツ…

 

「………」

 

「クィリナス・クィレル、…出ろ」

 

「…フフフ、とうとう吸魂鬼(ディメンター)接吻(キス)の時間が来たんですか?」

 

「チッそうしたい所だったが、そうもいかなくなった。

お前は一体何者なんだ?…出ろ、お前の無罪が明らかになった」

 

「…何?」

 

「魔法大臣秘書が証言したんだ、「クィリナス・クィレルは死喰い人残党に″服従の呪文″を掛けられていた」…とな」

 

「魔法大臣秘書だと…?」

 

「そうだ、よってお前は無罪放免、晴れて出所だ」

 

「………」

 

「あっそうだった、そいつから伝言だ、「死喰い人の疑いが掛かっていたら仕事に困るだろう、雇ってやる」だとよ、全く仕事まで斡旋してくれるとは随分気に居られてるらしいな?」

 

(一体…何が…?)

 

 

―クィリナス・クィレル 出所―

 

 




幸福は質量の無い砂糖菓子、もろくも崩れて再びの地獄
懐かしやこの匂い、この痛み
我はまだ生きてあり
鼠に欺かれて、鬼に喰われ、獣の本能に身を任せ、ここで堕ちるが宿命であれば、せめて救いは揺らめく怨磋
ハリー・ポッターとラストレッドショルダー、第二十七話『回帰』
幽なる獄の門が開く



デレレレレレン!(ドン引き) デッテッテッテ デッテッテッテ………
という訳で秘密の部屋篇完結です!
すがすがしい程の予定調和でしたね。
ってか完全に野望のルーツの再現でしたとさ。

またしばらく空くと思いますが、次章もよろしくお願いします。

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