【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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第二十二話 「触発」

「…ど、どうしたの、それ」

 

「…図鑑が高いところにあって、取ろうとしたら本が崩れて来たのよ」

 

本に埋もれてもがくハーマイオニーがそこには居た、継承者の襲撃じゃなかった事に胸を撫で下ろしながら、散らばった本とハーマイオニーの荷物を片付けていく。

…ん? 何だこれ。

荷物の中にはちょっと雑にテープで補強されている折れた杖があった。

 

「どうしたのこれ? 杖折っちゃったの?」

 

「違うわよ、それはロンの杖、修理を頼まれたのだけど…」

 

修理の腕前は…酷いなこれ、テープはベタベタして手に引っ付くし、芯みたいな物が脇からアホ毛みたいに飛び出てる。

 

「…僕がやっておこうか? 本を見るのは一人で十分だろうし、こういうのは得意なんだ」

 

「え、いいの? じゃあお願い、私はその間に本を調べておくわ」

 

 

………

 

 

「出来た!」

 

「わー… キニスって案外手先が器用なのね」

 

何かさりげなく失礼な事を言っていた気が…まあいいや、とりあえず芯を整えて、テープを綺麗に巻き直し違和感の無いよう色をつけた、パッと見壊れているようには見えないだろう。

早速適当に呪文を使ってみる。

 

「ルーモス! ―光よ!」

 

うん、問題なく立派な光を放っているな、杖の尻からだけどね! おい!

 

「………」

 

「…で! 怪物は分かったの!?」

 

話を無理矢理変え、恥ずかしさをどうにか誤魔化す。

これは杖を変えなきゃダメそうだ…

 

「ええ! きっとこれよ!」

 

そのページに書かれていたもの、そこには巨大な蛇の姿が描かれていた。

名前は…毒蛇の王バジリスク

 

「バジリスクの眼を見ると死んでしまう、けど間接的に見るだけなら石化だけですむわ。

今までの場所は全て水浸しだった、だから石になっていたのよ」

 

「でもどうやって見つからずに…」

 

「ホグワーツには迷路みたいにパイプが走っているの、それを辿れば見つからないわ!」

 

そうか、そうだったのか!

確かに怪物がバジリスクだとすれば、全てのつじまじが合う!

バラバラだったパズルが、今完成した!

 

「早く先生の所に行こう! このことを知らせなきゃ!」

 

まだクィディッチの試合は終わってないはず、だったら先生はグラウンドだ!

怪物の正体が分かれば犠牲者は減る! いや、先生達が倒してくれるかもしれない!

大急ぎで図書館を飛び出す、勢いを緩めず曲がり角を走り抜け―――!?

 

「止まれぇ―――!!」

 

曲がり角の前でブレーキをかけ、その反動で後ろへ倒れ込む。

その結果ハーマイオニーまで巻き込んで転んでしまった。

 

「ちょっと、一体何を―――」

 

僕が止まった理由、曲がり角にあったソレを見てハーマイオニーは息を飲んだ。

レイブンクローの監督生、ペネロピー・クリアウォーターがまるで、石のように固まって倒れていた。

 

その意味はもう分かっていた、通路に鳴り響く何かの声、そこに居るのが何か察した僕達は曲がり角から急いで離れる。

 

「ま、まさか…!? こ、この音って…!?」

 

「…バジリスクだ…!!」

 

何てこった、こんな最悪のタイミングで出なくても良いじゃないか!

信じられない運命を呪いつつ、頭をフル回転させようとする。

 

「ま、回り道をして行きましょう!」

 

「ダメだ! バジリスクが居るのは後ろかもしれない!」

 

クリアウォータ先輩が図書館を出ていったのはだいぶ前だ、その後すぐ石になったとしたら、バジリスクはあの角にはもう居ないかもしれない。

でもこの通路は一本道、ここから出ようとすれば、前か後ろか、どちらかの曲がり角を行く必要がある。

 

どうする!? バジリスクはどっちに居る!? 戦うか? いや勝てるわけがない!

パニックに陥っていく思考、そこに一つの言葉が割り込んできた。

 

―客観的に見る事―

 

…そうだ、こんな時だからこそ冷静にならなくちゃいけない!

目的は何だ?

バジリスクの事を先生に伝える事だ、それが出来れば僕らの勝ちだ!

脱出ルートは前後の二つ、

ここに居るのも二人、

どっちかにバジリスクが居る、

どちらか一人が脱出出来ればいい!

 

「ハーマイオニー、よく聞いてくれ…!」

 

「な、何!? この状況で!」

 

「前と後ろの曲がり角、そのどっちかにバジリスクは居る。

だからそれぞれの角に、これを投げるんだ」

 

「これって…ほ、本?」

 

「そう、もし投げた方にバジリスクがいれば、何らかの反応があるはずだ。

そしたら、バジリスクを引き当てちゃった方がヤツの気を引く、その間にもう一人は全力で逃げるんだ」

 

「………」

 

「今一番大事な事は、怪物の正体を伝えること、どっちかが無事ならそれでいい!」

 

ハーマイオニーは少し戸惑ったような顔をしていたけど、すぐに目付きを鋭くし小さく頷いた。

 

「…じゃあこれを渡しておくわ」

 

「手鏡…! 分かった、ありがとう!」

 

 

 

 

バジリスクの声が響き渡る廊下の中、僕達はそれぞれの角につき、カウントダウンを始める。

 

3、2、1………!

 

同時に本を投げ飛ばす、すると僕の視界の端に緑色の鱗に覆われた鼻先が現れた! バジリスクが居たのはこっちの方だ!

 

「逃げろハーマイオニー!」

 

呼応してハーマイオニーが逃げ出す!

僕もすぐに目を閉じて廊下の壁沿いを走り出した。

 

「こっちだ化け物!」

 

「―――――――!」

 

一気に荒くなった鼻息を感じながら、バジリスクの脇を走り抜ける。

何も見えない中、自分の記憶だけを頼りにひたすら走る!

後ろから蛇の這いずる音が怒濤の勢いで迫って来た! は、早い!

 

想像以上の早さに一瞬恐怖してしまった、その恐怖心が足に絡み付き派手にスッ転んでしまう。

痛い! 息が止まるような感覚がする!

けれどそれを無理矢理押さえ込みまた走り出す。

 

その時、異常な圧迫感を感じた! その感覚を信じて前に飛び込んだ。

次の瞬間! 

 

ドゴオオオオ!!!

 

「うわあああ!」

 

思わず絶叫した! 鳴り響く轟音、むせかえる土の臭い、全身に降り注ぐ瓦礫、多分バジリスクが食らいついて来たんだ…!

立ち上がった所で最悪の事に気づいてしまった、手鏡が無い! さっきので無くしてしまったんだ!

 

つまり目を開けたが最後、バジリスクの目を直視して死んでしまう!

瞬間体が固まった、死ぬという恐怖がのし掛かり、指一本動かせなくなる。

 

…ダメだ! 止まるわけにはいかないんだ!

舌を思いっきり噛むと口の中に鉄の味が広がっていく、それと同時に起こった激痛で身体が覚醒した。

 

走れ、走れ、走れ!

 

無我夢中で走り抜ける、再度訪れる圧迫感!

再び飛ぶ! そして鳴り響く轟音!

 

だけど、その時気がついた、自分が何処で飛んでしまったのか。

全身が上に置いていかれるような感覚、風圧を全身に感じる。

階段だ、階段の奈落に向かって飛んでしまったんだ!

 

どうする!? このままじゃ落下死だ、どうすればいいんだ!?

身体中の感覚が絶望を教えてくる、風圧、殺意、激痛、

聞いたことも無いような甲高い音、

雨、…雨?

 

何で雨が? パイプが壊れたのか?

…! そうだ水だ! もしかしたら助かるかもしれない!

僕は空中で、一か八かの賭けに出た。

 

瞳をしっかりと開くと、視界は僕の血で真っ赤に染まっていた。

目の前には大量の雨粒が降り注いでいる、どこだ、どこにあるんだ!?

目的の光景を求めて水滴の中をひたすら探すと、下の方の水滴に黄色い瞳が写り込んでいた。

そう、死をもたらすバジリスクの瞳だ。

 

意識が一気に遠退いていく

指もまぶたすら動かなくなっていく

でも賭けには勝った

石になってれば地面に当たっても大丈夫のはずだ

…ハーマイオニーは逃げ切れたかな…

 

「キリコ…」

 

何でキリコの名前を呼んだのだろうか、助けを呼んだのか、後の事を託そうと思ったのか。

消える意識の中で理由を考えることは出来なかった。

 

そこで意識は途切れた

 

 

 

 

 

 

 

 

学校は継承者の恐怖に完全に飲み込まれていた、生徒達はパニックになり中には授業に出ようとしない物達まで居る。

とうとう出てしまった新たな犠牲者、レイブンクローの監督生 ペネロピー・クリアウォーター、そして…キニス・リヴォービア。

 

「………」

 

医務室のベッドに横たわるキニスは、驚くほど穏やかな表情をしていた、バジリスクに襲われたとは信じられない程に。

しかしその身体は冷たく死体のように動く事はなかった。

死んだわけではない、幸い石にされただけ、絶望する理由などない筈だった。

だが俺の心もまた石の様に固くなり何も感じる事はなかった、キニスが襲われたという事実を受け入れる事はそれほど困難だったのだ。

 

「じゃが…石になって良かったかもしれんの」

 

見舞いに来ていたダンブルドアの言葉、普通に聞けば無神経極まった一言だが、俺はその理由を知っていた。

 

現場からの推測ではあるが、キニスは階段の奈落に落下してる時に石化したのだろう。

もしも石になっていなかったら怪物に殺されるまでも無く死んでいた筈だ。

だから良いとは思わないが―――

 

「…本当に良かった」

 

そうは言っているが、ダンブルドアの青い瞳は微かに震えていた、それだけで十分理解できる、ヤツも俺と同じく無力さにうちひしがれているのだ。

その形容出来ない感情は、石よりも重い鉄塊となり足と心を縛り付け、前へ進む事を許さない。

 

しばらくの沈黙、それはここには似合わない、鋭い羽音が切り裂いた。

ダンブルドアの手元に一匹の梟が降り立つ、それは一枚の手紙を持っている

ヤツ宛の梟便の様だが…しかし中身を開く事は無く、全てを分かっているような顔でそれをローブの中にしまいこんだ。

 

「…では、儂はそろそろ失敬しようかの」

 

そう言い残し医務室を出ていくヤツの背中には、シワがつきやつれたローブと深い影が夕日と共に落ちていた。

 

隣のベッドにはハーマイオニーも横たわっていた、ただ彼女は石になったわけではなく気絶しているだけらしい。

あと数日で目を覚ますらしい、その無事を確認し俺も医務室から出ていった。

 

何故こうなったのだろうか?

怪物の正体を探ったからだろうか、だとしたらキニスをああしたのは俺自身なのか。

そんなはずは無い、あの時俺が助言しなくてもヤツは走り出したはずだ、それに少しでも危険の少ない方向へ導けたはずだ、それに…

 

いや、それは全て言い訳に過ぎない、理由が、過程が、そして結果が何であれキニスが襲われたのは俺のせいなのだ。

あの時止めるべきだったのだ、たとえ無駄だったとしても…

 

ふと放った一言、それは巡り希釈され、今猛毒の針となり俺の胸に突き刺さっていた。

既に手遅れだ、どれ程言い訳の言葉を重ね、傷口を誤魔化そうとしても毒は。

そう、後悔の毒は全身に回り、茨のように俺を縛り付け続けている。

 

誰も居ない廊下に、夕日に晒され孤影が揺らめく。

失意の後悔の泥沼の中を泳ぐ俺の前に現れた二つの影、見覚えのある二人は何を思ったか走る足をふと止めた。

 

「だ、大丈夫…?」

 

ハリーは俺を心配したのかそう言った、どうやらこの失意は全身から溢れ出ているらしい。

 

「…彼女の見舞いか?」

 

「うん、石にはなってないけど、やっぱり心配だからね」

 

そう言ってハリーは年相応の笑顔を作り、俺に向けてきた。

しかしその瞳は水面の様に揺れ、不安の風が心に波をうつ。

それは当然なのだろう、大切な人に何か起こった時完全に冷静で居られる人間がどれ程居るのか。

 

「キニスのお見舞いに行ってたの?」

 

「…ああ」

 

それは俺も同じだ、そう、あの日あの時からヤツは手のかかる子供ではなく、掛け替えのない親友になっていたのだ。

 

「…大丈夫だよ! 石になっただけだしマンドレイクももうすぐ収穫できるんだってさ!

だから、えーっと、元気だしなよ!」

 

「………」

 

「…いや、だから、その」

 

「…ありがとう」

 

「え?」

 

上手く言えてはいなかったが、俺を励ましたいのは十分分かる。

それがその場しのぎに過ぎないただの蝋燭の灯だったとしても、罪の意識に震える心を温めるには十分だった。

そしてロンに一言礼を言ったが、やはり驚かれてしまった。

 

「…やっぱり僕、ハグリッドに聞いてくるよ」

 

「え? どうしたのハリー、今まであんな嫌がってたのに」

 

「でもキニスも犠牲になった、ハーマイオニーも死ぬかもしれなかった! これ以上継承者の好きにさせるわけにはいかない!」

 

「そうだ」

 

「「え?」」

 

またもや二人に驚かれてしまった。

ほんの少し震えが収まった俺の心には、再び火がともり、今にも燃え上がろうとしている。

そうだ、今やるべき事は後悔でも、ましてや神に対する懺悔でもない。

 

「今お前達が知っている事を教えて欲しい」

 

「まさか、キリコ…!」

 

「ああ、俺も手伝おう」

 

継承者、そして怪物を滅ぼす事だ、これ以上犠牲を増やさないために、そしてキニスの仇を取るために。

俺の親友、その運命を弄ぶヤツを許すわけにはいかない。

それが怪物だろうと継承者だろうと、例え神だろうと許さない。

かつて神を滅ぼした時以来、数十年ぶりに燃え上がった復讐の炎。

俺の心は今再びその覚悟を決めたのだ、やつの運命(さだめ)を炎で焼き尽くすと…!

 




地底のスリザリンが、意志をはなつ。
それぞれの理想、それぞれの運命。
せめぎ合う策謀と、絡み合う縁。
視線をくぐり抜けたとき、突然現れた一匹の化け物。
沈みゆく夕陽に、二つの影が重なる。
だが、少女は、そのとき消えてゆく。
次回「失踪」。
地下の闇が怪物を隠す。



トム「ははっやってやったZE☆」
キリコ「………」
やってしまったのはトムさんのようですね、逃げて!
キニス君去年に引き続き酷い目にあってますが仕方ありません。
「地獄まで付き合う」なんて言ったのが運のツキです、ご愁傷様。

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