【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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一体何話引っ張ったんだ!
お待たせしました、
ようやくキリコがクィディッチを地獄に変えてくれます!


第二十一話 「奮闘」

 

天候は曇り、春先とはいえ風は強く、感じる空気は冷たく鋭い。

だが観客席から吹き荒れる熱狂は冷たい空気を容易く吹き飛ばしている、魔法界には娯楽が少ないからこそここまで人々を夢中にさせるのだ。

熱狂、緊張、絶叫…無我夢中に、時に死人さえ出るという、この爆発しそうな空気はある意味で、戦場に似ているようだった。

 

だが、あくまで似ているだけ、プロ同士の試合ならともかく学生同士の戦い、それは遊びにしか見えなかった。

では手を抜くのか? そんな事は無い俺の取柄はたった一つ、くそ真面目だという一点だけ、これが遊びだろうと全力で戦おう、箒を握る俺の手はじっとりとした汗で湿っていた。

 

「さあいよいよクィディッチシーズンも大詰め、グリフィンドール対ハッフルパフが始まろうとしています!

今年に入って驚きの成績を残しつつあるハッフルパフに対して、現在全戦全勝のグリフィンドール。

しかし点差によってはどう逆転されるか分かりません、一体この試合どうなるのでしょうか!?」

 

シーズン終わりが近づいて来たからか、ジョーダンの実況もさらに熱が入っていた、その実況に煽られ観客席の熱風はさらに強烈になる。

それと共に選手たちの緊張感は否応なしに高まっていた。

 

「皆、俺達ハッフルパフは今まで最下位かその近くしか居なかった。

だけど今年は違う、数年ぶりに、あと少しで優勝杯に手が届く」

 

キャプテンであるディゴリーが選手たちに呼びかける、負け続きだったハッフルパフが数年ぶりにクィディッチに優勝できる可能性が出て来たのだ、当然緊張もあったがそれ以上に選手達は希望と覚悟を目に映し出している。

 

「俺達が優勝するためにはグリフィンドールに一点も与えちゃいけない、圧倒的な得点差をつける必要がある。

だが問題は無い、グリフィンドールにハリー・ポッターが居るように、ハッフルパフにはキリコ・キュービィーが居る。

俺達がするべき事はキリコがスニッチを手にするのを信じて、ゴールを全力で守り抜く事だ」

 

随分と期待されたものだ。

だがグリフィンドールはハリーを抜いても強い、ニンバス2001を全員分用意したスリザリンがほぼ反則なプレーをしてようやく互角という事実がそれを証明している。

俺がスニッチを取るのに時間が掛かったが最後、試合に勝ったとしてもグリフィンドールの優勝は揺るぎないものになってしまう。

俺の背中にはハッフルパフの優勝が、メンバー全員分の重みとなって伸し掛かっていた。

 

「大丈夫だ、俺達は勝てる!

誰よりも負け続けて来たからこそ、その悔しさを誰よりも力に出来る!

優勝争いにすら参加出来ず泣くことも出来ないのは今日で最後だ、絶対に勝つぞ!」

 

指揮官にとって最も大事な事は指揮能力でも本人の技量でもない、如何にして部下を鼓舞するかだ。

どれ程そいつが有能であってもそれが無ければ、個々の力を生かすことは出来ない。

しかしこいつは問題無いようだ、目に映っていた炎はディゴリーの激励によりさらに燃え上がり、箒を天に掲げ力の限り叫ぶ戦士の姿がそこにはあった。

 

強風により巻き起こる砂嵐の中、選手たちが各々のポジションにつく。

そしていつもの年相応な顔では無く、戦士の顔となったハリー・ポッターと空中で相対する。

思えばハリーと戦うのは、どんな形であれこれが始めてか。

ハリー・ポッター、パッと見た限り何処にでもいそうな少年だが、その実必要とあらば危険を顧みずどんな事でもするヤツだ、決して油断していい相手では無い、全力で戦わなければ勝てない相手だろう。

 

 

 

 

その一方、ハリーは相当な緊張に駆られていた。

キリコ・キュービィー、トロールを爆殺し、ヴォルデモートの在り台だったクィレルを撃退し、スネイプと渡り合う事も出来る何から何まで規格外の存在。

正直言って怖かった、「ハッフルパフの特攻野郎」、「生体ブラッジャー」等、彼がクィディッチを始めてからついたあだ名は何れも物騒な名前ばかりだ。

 

あの時、クィレルに襲われそうになった時彼は助けてくれた。

だけどそれと同時に恐怖も覚えていた、彼は本当に僕と同じ年齢なのだろうか? 一体どうして彼はここまで強いのだろうか?

良く言って大人びた、悪く言って子供らしさを欠片も感じる事の出来ないその異質さに恐怖するのはごく自然の事だった。

 

だがそのぼんやりとした恐怖に負けるわけにはいかない、ここは空中だ、僕が唯一得意と胸を張って宣言できる場所がここなのだ。

勝てない訳じゃ無い、いや勝てる。

キリコがどれ程無茶苦茶でも、箒の勝負だけは負けやしない!

ハリーの目にもまた、燃え上がる覚悟と情熱が宿っていたのだ。

 

 

 

 

交わす言葉は無かった、ただ見つめ合うだけで十分その闘志は伝わっていたからだ。

静まりかえる観客席、むせかえりそうな突風の中で響き渡る試合開始のホイッスル。

途端キリコが全速力で動き出した!

スニッチを見つけたのか!? いや幾ら何でも早すぎる、あれはウロンスキー・フェイントだ!

 

ウロンスキー・フェイントとは、スニッチを見つけたフリをして地面に急降下、激突寸前で上昇し相手選手を自爆へ誘い込む戦術である。

だがハリーの予測は外れてしまっていた、確かにフェイントでは無かったが、別の意図があったのだ。

 

キリコは地面スレスレの壁際で停止し、それっきり動かなかった。

そしてあろうことか目を閉じてしまったのだ。

 

一体何をしているのかハリーにはさっぱり分からなかった、目を開けるのは精々ブラッジャーをかわす時くらい、スニッチを探す素振りも無い。

だがそんな事を気にしている暇はない、もしキリコが先にスニッチを獲得してしまってはグリフィンドールが優勝杯を手にすることは出来なくなってしまう。

 

ハリーは迫りくるブラッジャーを紙一重でよけつつ、フィールドを風の様に飛び回りスニッチを探す。

どこだ…一体何処に居る!

しかし吹き荒れる砂嵐は視界を阻む、この状態でスニッチを見つけるのは至難の業だ。

さらに強風がハリーを襲う! 勿論その程度で体制を崩すような事はしない。

 

一旦風に身を任せ回転する事で姿勢を立て直す、180度、ちょうど下を向いたとき地表で未だ動かないキリコが見えた。

 

「………!?」

 

その時ハリーに悪寒が走った!

次の瞬間その正体、キリコの目的に気づいたのだ!

砂嵐は彼に向かって吹いていた、即ち風下!

常識外れのスピードで動き出したキリコ、今度はフェイントでは無い、彼の視界の先を見ると、一瞬だが金色の影が見えた。

 

「―――!」

 

少し遅れて動き出すハリー、しかしこの差は致命的だった。

この砂嵐の中スニッチを視界で捉えるのは困難、だからこそキリコは音に頼ることにした。

そう、キリコは風下で意識を集中させ、砂嵐がスニッチの羽音を運ぶのを待っていたのだ!

 

スニッチを追いかけ急上昇する二人、キリコが掴むまであと数cm…の所でスニッチは急降下を掛けた。

それを見たハリーは瞬時に止まり、一気に急降下。

 

箒について研究し尽くしているハリーは当然知っていた、インファーミス1024は確かに早いがそれ以上に旋回性能が死んでいるという事を。

今の動きはハリーにとって有利な物だった…はずだった!

 

「え…?」

 

視界にはあり得ない光景が映り込んでいた、キリコが箒から飛び降りていたのだ!

今度は一体何を!?

次の瞬間彼は驚きの行動に出た。

未だ上昇を続ける箒を右手だけで掴み飛び降りる、そして箒の先端に残された右手を全力で振り下す。

すると何と! 箒がその速度を保ったまま方向転換したのだ!

何という事だろうか、彼は自分の落下する勢いと、腕力だけで箒の方向を無理やり変えたのだ! 無論ミスすれば落下し命の保証は無い、彼はそれを当然の如く行ったのだ!

 

(無茶苦茶だ…!)

 

唖然とするハリーと眉一つ動かさないキリコが並走する、数秒後嵐の中にぼんやりと地面が映り込む。

激突する瞬間、急転換するスニッチ、ハリーもそれに続きこなれた様子で急カーブをかけ追走する。

対してキリコは後ろ脚を振り上げ…蹴った!

箒の尾を蹴り飛ばし、またもや無理やり方向を変えたのだ!

 

が、その隙を見逃さなかった者達が居た、フレッドとジョージ、ウィーズリーの双子が同時にブラッジャーを殴り、ドップルビーター防衛をキリコに食らわせた!

ブラッジャーの一撃を肩に食らったキリコ、しかし怯む様子の欠片も無い。

顔色一つ変えず、一瞬でハリーに追いついた!

 

(化け物か!?)

 

ハリーがそう思うのも無理は無いだろう、肩の骨が砕けたのにコンディションに全く影響が無いのだから。

すると目の前にはグリフィンドールチェイサーのアンジェリーナ・ジョンソンが!

彼女の近くをすり抜けていくスニッチ、ハリーは最小限の動きで彼女を回避した。

しかしキリコは回避する様子が無い、それどころか減速する様子も無い。

 

だが彼女もまたよけようとはしなかった、このまま激突すればキリコは失格に、回避しようとすればインファーミスは止まるかやり過ぎた方向転換の他無く、減速を余儀なくされるからだ。

空前絶後の速度で迫りくるキリコ、シーカーが反則で退場すれば自動的にグリフィンドールの勝ちになる、彼は必ず回避する!

5m! 一切減速なし!

4m! やはり減速なし!

3m! 減速する様子は無い!

2m! ジョンソンがキリコを避けた!

その汗一つ書かない彼の恐るべき精神力に彼女は怯んだ、精神的に負けたのだ!

これが彼が「生体ブラッジャー」と呼ばれる所以である!

 

あまりに無茶苦茶、あまりに危険なその飛行に魅せられた観客たちは悲鳴とも賞賛ともつかない歓声を上げていた。

スニッチに手を伸ばすハリー、ほんの数cm遅れて飛行するキリコ!

速度差を考えれば辿り着くタイミングは同時! 可能性は五分五分!

手を伸ばすキリコ、お互い身の安全等考えずに突撃を慣行した!

そして黄金の球体を手にしたのは…!

 

ピ―――ッ!!

 

試合中断のホイッスルが、突如砂嵐を貫いた。

 

一体何が?

ブレーキをかけ、ハリーが、少し遅れてキリコが降りて来た。

タイムアウト…な筈は無い、では一体何が起こったのだろうか。

顔を青くしたマクゴナガルがこちらに走って来た、彼女が放った重い一言、それは戦いの興奮を一瞬で吹き飛ばした。

 

「キニス・リヴォービアが継承者に襲われました」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か分かった?」

 

「分かんないという事なら」

 

基本的に図書館は試験前でもない限りほとんど人は居ない、けど今日は全く居なかった、司書のピンズ先生もだ。

まあその分調査に集中出来るから、僕達にとっては都合が良いんだけど。

 

「それにしても珍しいわね、あなたが調査をクィディッチより優先するなんて」

 

「言わないで! 忘れようとしてるんだよ!」

 

そもそもこんなに人が居ないのは、グリフィンドールとハッフルパフの試合があるのが原因だ。

あろうことか司書のピンズ先生まで、仕事をほっぽりだして観戦に向かってしまった。

 

「で! あのモジャモジャが何か分かったの?」

 

「ええ、多分ハリーが見たのはアクロマンチュラよ、人の言葉を理解出来る賢い蜘蛛。

でも人を石にする力何て無かったわ」

 

「じゃあもしかして…」

 

「調査は振りだしね」

 

「ノー!!」

 

思わず頭を抱える、何てこった、これまでの苦労が全部パアだ。

 

「本当に怪物の正体は何なのかしら…」

 

ハーマイオニーの言う通りだ、ここで調査は完全に行き詰まってしまった。

やっぱりもう一つヒントが無いとダメかもしれない。

 

「もう一度今までの状況を思い出してみようよ、このまま唸っててもどうしようもない」

 

「それもそうね…」

 

あまり性能の良くない頭をフル回転させて、今までの記憶を思い出す。

…被害者は石になってた、場所は水浸し、起こった日は決闘クラブの後と、クィディッチの試合後と、ハロウィンパーティーの…

ハロウィン? ちょっと待て、何か、あの日何かあったような…

 

「ハリーよ!」

 

勢いよく椅子から立ち、ハーマイオニーがそう叫んだ、その声で僕もハロウィンの日にあった事を思い出した。

 

「ハロウィンの日、ハリーが何か音を聞いたって言っていたわ!

きっとあれは怪物の声だったのよ!」

 

そうだ、あの日絶命日パーティーから抜け出した時ハリーが音を聞いた。

その音の元を辿ると、ミセス・ノリスが石になっていたんだ。

 

「…でも、私達には聞こえなかったのよね、けれど聞き間違いとも考えにくいし…」

 

確かに僕達には聞こえなかった、何でハリーだけ聞こえたのだろう。

…いや、まさか!

 

「違う、聞こえなかったんじゃなくて、分からなかったんだ、あの音がハリーにだけ分かる音だとしたら…!」

 

僕らに分からなくて、ハリーにだけ分かる言葉、それはたった一つしかない…!

 

「「…パーセルマウス!」」

 

「そうだよ! だとしたら怪物は…」

 

「蛇! 蛇の図鑑を取ってくるわ!」

 

今までバラバラだったパズルのピース、そこに加わった最後の一つが、全ての答えを教えてくれた。

 

「キャアアアア!」

 

!? 突然ハーマイオニーの悲鳴が響いた。

一体何が、まさか継承者に襲われたのか!?

大急ぎでハーマイオニーの所へ走り出す、そこにあった物、それは…

 




大いなる意志が全ての始まり。
芽生えた意識は行動を、行動は情熱を生み、情熱は秘密を求める。
秘密はやがて、闇に行き着く。
闇はすべてに呵責なく干渉し、破滅の嵐を育む。
そして、放たれた雷が信管を打つ。
次回「触発」。
必然たりえない偶然はない。

何か変な所で止まっていますが、
文字数の関係です、
お許しください!

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