【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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そろそろ日常回も終わりが近いですよ、
心残りのないように、
平穏さを堪能しておいてください。


第十九話 「思惑」

決闘クラブの翌日、また新たな犠牲者が現れた。

石になったのはジャスティン・フレッチリー、そう昨日ハリーが蛇をけしかけた…と一方的に思い込んでいた少年だ。

加えて言うとグリフィンドールのゴースト首無しニックも犠牲になったのだが、幽霊は人数に含まないらしい。

しかしゴーストすら石化させる恐るべき存在という事実は、教員たちの警戒をさらに引き上げていた。

 

そしてパーセルマウスと発覚し、昨日フレッチリーを激怒させてしまった直後、まるで打ち合わせたかのように彼が石にされた事で、継承者はハリー・ポッターであると生徒の間で噂が広まっている。

その結果グリフィンドール生も含んだ生徒達は、ハリーが通ると蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、スリザリン生は後継者がグリフィンドール生だという事を認めず憎悪の視線を送っていた。

 

「………」

 

「元気だしなよハリー…」

 

今やハリーとまともに話すのはいつもの二人組とキニスくらいとなっている、また話すわけではないが、ほとんどの教員達もハリーが無実だと信じてるようだ。

キニス達が励ましてはいるが、ハリーは延々と溜息を吐き出している、去年の大幅減点に続き本当に不憫なヤツだ。

 

「一体何なのよ! 蛇と話せるくらいで後継者扱いなんて!」

 

「でもハーマイオニー、パーセルマウスはサラザール・スリザリンの血を引いてる人しか持って無いんだ」

 

「でも僕、そんな事知らなかったよ。

てっきり魔法使いなら皆話せるんだと…」

 

「それにしたってねえ…普通に考えたらあり得ないのに…」

 

「集団心理だな、恐怖のあまり冷静さを失っているんだ」

 

集団心理とは恐ろしいものだ、冷静さを失い、あり得ない可能性を信じ込む事の恐怖は身を持って味わっている。

…今思えば、あの時俺が″異能″を口にしなければあいつらは生き残れたのだろうか。

 

「キリコは、何でハリーが後継者じゃないって信じてるの?」

 

「簡単な事だ、ハリーが本当に継承者なら、そうとばれる様な事をするはずが無い」

 

実際の所、ハリーが継承者というのはあり得ない。

今まで姿を現さず怪物の正体も知られぬまま三人と一匹を石にした狡猾なヤツだ、それが今更、自分が継承者だと疑われるような真似はしないだろう。

真の継承者は今も尚、何処かに潜み次の獲物を狙っているはずだ。

 

「そうだわ、アレがようやく完成したのよ」

 

アレとは、間違いなくポリジュース薬の事だろう、あの日以降ずっと何処かに隠れながら調合し続けていたらしい。

 

「やっと出来たんだ、で、誰に変身する?」

 

「マルフォイから聞き出すんだから、取り巻きのグラップとゴイルでいいんじゃないか。

ハーマイオニーはどうするの?」

 

「私はもう大丈夫よ、髪の毛は手にいれたわ」

 

ポリジュース薬は、変身したい対象の髪の毛を用いることでそいつに変身する。

こいつらは一連の計画をクリスマスに実行するらしい。

 

「…僕らにも何か出来ないかなあ」

 

ハリー達と別れた後、キニスはそんな事を言ってきた。

マルフォイは継承者では無いと思ってはいるのでポリジュース薬の計画に協力してはいないが、自分だけ何もしていないのを少し気にしているのだろうか。

 

「下手に首を突っ込むのは危険だ」

 

去年キニスは俺を庇って緑の閃光…死の呪いをくらいかけた、その事もありこういった事に関わってほしくないのが俺の本心だ。

…当初はハリー達にも関わるなと説得しようと思ったが、去年の事から考えて言っても無駄なので止めておいた。

 

「でもなあ、またハリー達だけが危険な目に会うのも…」

 

だがこいつがそれくらいで引き下がる男ではないのもよく知っている。

そんなお人好しに対し、一つ提案をした。

 

「…怪物の正体を探ってみたらどうだ」

 

「えっ?」

 

「犠牲者は三人にも増えている、逆に言えばそれだけ手掛かりもあるという事だ」

 

この提案をしたのは理由がある、継承者を直接探しだそうとすれば怪物の標的にされかねない。

しかしこれならば継承者に気付かれる可能性はかなり低くなる。

 

「それがあった! ありがとう早速調べてみる!」

 

そう言うとキニスは図書館に向かって走り出してしまった。

…本当にお人好しなヤツだ、まあ俺もお人好しな奴らに何度も救われているのだから文句は言えないが。

 

外の景色は変わりつつある、木は緑を落とし大地を銀色に染めていっている。

もうすぐクリスマス休暇になる、去年はプレゼントを送る事が出来なかったからな、今年は送らなくてはならない。

 

雪に埋もれ、雪の底に少しずつ沈んでいく、数多の悪夢。

だが、時が来れば溶けだし、再び地獄が牙を剥く。

銀に塗りたぐられてはいるが、この下は緑の地獄。

春風が悪夢を蘇らせるのは、もうすぐの事である。

 

 

 

 

既に外は銀一色の冬景色、クリスマス休暇となっていた。

しかし学校に残っている生徒は去年より圧倒的に少ない、継承者の襲撃を皆恐れているのだ。

 

ハリー達は今日計画を実行すると言っていた、今頃はスリザリン寮の中に侵入したころだろうか。

 

グシャアッ!!

 

「………失敗か」

 

俺はと言うと、禁じられた森の中に侵入していた、ただし森の奥ではなく少し開けた湖がある安全な場所だ。

無惨に崩れ去った瓦礫を見つめながらため息をつく。

 

そもそも何故こんな所に居るのか、それは広いスペースと材料が必要だからである。

つい先日、開発していた呪文の設計図がようやく完成したので、さっそく実験に取り掛かっているのだ。

その実験場として、十分なスペースと、材料の石がいくらでもあるここを選んだのである。

 

また別の理由として、あまり見られない方が良いというのもある。

決闘クラブの時、開発した呪文を見た時のスネイプは明らかに警戒していた。

これ以上下手な事をして警戒されないようにする為、普通は人が来ない立ち入り禁止の場所にしたのだ。

 

しかし呪文は失敗、一瞬出来上がったように見えるが、すぐに崩れさってしまった。

おそらく原因は設計ミスだ、事前に書き、頭に叩き込んだ構造が間違っており、そのため自重で崩壊したのだろう。

 

近くの雪が積もっていない場所に座り込み休憩する。

ここに来て、大きな弱点が分かった。

まず、作るのに時間が掛かること。

これは俺の技量の問題だろうが、先ほど崩壊したヤツは、作るのに3分も掛かってしまった。

さらに一機作るだけで体力をほとんど使いきってしまう。

 

これらの弱点を何とかしなければ実践では何の役にも立たない。

建造時間に関しては、俺が慣れれば何とかなるだろうが…

だが、呪文が完成していない時点で心配をしてもどうしようもないだろう、俺は設計を見直した後、再び実験を行った。

 

グシャアッ!!

 

………もう一度だ。

 

 

 

 

持てる体力全てを使い果たし、倒れるように床につく。

目が覚めると既に次の日の朝、ベッドの元には綺麗にラッピングされた箱が何個か置いてあった。

 

そう、今日はクリスマス当日だ。

丁寧にラッピングを剥ぎながら中身を確認していく。

キニスからは″箒の手入れセット″、ハーマイオニーからは″箒の手入れセット″…だぶっているな。

ハリーとロンからもプレゼントが届いている、あいつらにもプレゼントを送っておいて正解だったようだ。

 

去年の失態を踏まえ、俺と交友関係にある奴らには全て送っておいた。

…贈り物など今まで一度もしていないので、気に入ってもらえるかは全く分からないが…おそらく大丈夫だろう、その筈だ。

 

 

 

 

クリスマスパーティーまでは時間がある、俺は今日もまた禁じられた森へ向かっていた。

あそこは呪文の特訓に適しているが、そもそも立ち入り禁止の場所なのだ、だからこそ人のほとんど居ないこの時期に通いつめている。

しかしクリスマス休暇が終わったらどうする、今度の休暇はイースターまで待たなくてはならない。

だがそんなペースではいつまで経っても完成出来ない。

 

考え事をしながら、暴れ柳の近くを通り森へ向かう。

暴れ柳か…あの時はひどい目に遭った、そもそも何故こんな危険植物を校内に植えているのだろうか、ここの設計は本当によく分からない。

 

…? 何だあの窪みは。

そんな事を考え、柳を見つめていると俺は違和感を感じた。

良く目を凝らして見ると、柳の根本に不自然な窪みがある。

隠されてる…というわけではなく、単に雪が積もって見えなくなっているようだが。

 

感じた違和感、その正体を確かめる為に柳に近づくと、柳は当然暴れ始めた。

 

「アレクト・モメンタム ―動きよ、止まれ」

 

また重症を負うのは御免だ、柳の動きを止め窪みに杖を突き刺す。

すると積もっていた雪が崩れ、地下へ続く穴が現れた。

穴の底が明るいのを見ると、何処かへ繋がっているのだろうか。

俺は足を滑らせぬよう、慎重に潜っていった。

 

 

 

 

穴の出口へたどり着く、そこは何かの建物の中だった、しかし建物は見るからに古く風で軋んでいる。

上へと向かう階段を登り、ヒビが入っている窓を見ると遠くの方にホグワーツが見えた、反対側のは…あれがホグズミードだろうか。

 

その後建物の中を調べてみたが、人は一人もおらず、動物すら居なかった。

誰かが住んでいたのだろうか、いや、猛獣でも捕らえていたのだろうか? 壁や床にはおびただしい数の爪痕がつけられていた。

 

…しかし、これは使えそうだ。

ホグワーツもホグズミードも遥か遠く、周りは禁じられた森に唯一の通路…らしき場所は暴れ柳に守られている。

おそらく何かを監禁していたのは間違いないが、もう何年も使用していないようだし、危険な生物も居なかった。

 

ここなら、余程派手な魔法を使わない限り誰かに見つかる事は無いだろう。

呪文の練習や研究には最適だ、いやそれだけではない。

以前ノクターン横丁に行った時に見つけた店、あの時はまず使えないし、置き場も無いので入らなかったが、ここに隠しておけば問題無い。

 

暴れ柳のせいで酷い目にあったが、その柳のおかげでこんな良い場所を見付けられるとはな…

一体何に使われていたのか分からないが、ありがたく使わせてもらおう。

 

 

 

 

休暇が終わって新学期が始まってから、僕は今までの人生で最も長い、と自負出来るほど図書館に籠りきりだった。

 

休み明けに皆から聞いたけどマルフォイは継承者じゃなかったらしい、結局薬を作る手間が掛かっただけで成果は0…むしろ調合に失敗したのでマイナスみたいだ。

 

では僕の成果は? さっぱりナシ、手掛かりの欠片も掴めていなかった。

…そもそも人を石にする生き物が多すぎる、この中から一匹に絞るのは至難の技だ。

 

「あらキニス一人なんて珍しいわね、何調べてるの?」

 

「スリザリンの怪物…成果はまだ無いけどね…」

 

「あらキニスも? 私も調べてたのよ。

…まだ分かってないけど」

 

ハーマイオニーなら何か知ってるんじゃないかって期待したけど駄目らしい。

 

「一応、手がかりっぽいのはあったんだけど」

 

「手がかり? どんなの?」

 

「いや、石にされた人が居た場所を探したり、近くに居た人に話を聞いたんだよ。

そしたらそこは全部水浸しだったみたいなんだ」

 

「…という事は、怪物は人を石にして、かつ水辺に住む生き物…かしら」

 

「どうかなあ…近くに水も何も無いのに来れる? このお城かなり大きいし、たどり着く前にカピカピになりそうだけど」

 

水浸しだったのはあくまで事件があった時だけ、近くの水道管が怪物のせいで壊れていたからだ。

じゃあ水道管を辿って来たのか? でも水道管は細いし、そんなの通れるサイズは限られている。

 

「うーん、一応その方向で調べてみるわ」

 

「…あれ? 一緒に調べるの?」

 

「え? だって個別に調べるより、二人で調べた方が効率いいでしょ?」

 

「それもそうだね、よろしくハーマイオニー」

 

「ええ、…あら、あの子ロンの妹かしら?」

 

図書館の奥に立っていたのはジニーだった、なんだか顔色が悪いし、フラフラしている、大丈夫かな?

 

「何だか調子悪そうだけど…ジニー?」

 

声を掛けてみるとオバケでも見たような顔で振り向いて来た、そんなに驚かなくてもいいのに…

 

「顔色悪いけど、大丈夫?」

 

「へ、平気です…」

 

「平気には見えないわよ、マダム・ポンフリーの所に連れて行きましょう」

 

「い、いいです、じ、自分で行けるので…」

 

どう見ても辛そうだけど、自分で行けるって言ってるなら大丈夫かな。

それにあまり女の子の体調不良を聞いちゃいけないってママも言ってたし、いざとなればハーマイオニーが連れてってくれるか。

 

「そう? 本当に辛かったらいつでも言ってね」

 

「…あ! 聞きたいことがあったんだよ!」

 

聞き込み調査をしてる内に分かったんだけど、事件があった時、あそこの近くには赤毛の女の子がいたらしい。

勿論全部じゃないけど、三回の内二回は目撃情報があった、それにこの学校で赤毛の女の子と言ったらジニーくらいしかいない。

 

「ねえ、ジニーって皆が石にされた時、近くに居た?」

 

「え? …は、はい、近くには居ました」

 

「やっぱり! じゃあその時変な音を聞いたりとか、何でもいいからその時の事を教えて欲しいんだけど」

 

「…ごめんなさい、音も聞こえなかったし、人も見てません」

 

「ちょっとキニス急にどうしたのよ、ジニーが可哀想じゃない」

 

「あっごめん、事件当時近くに赤毛の女の子が居たっていう話があったから…調子悪いのに呼び止めてごめんね」

 

「い、いえ…じゃあ、私はこれで…」

 

むう、何か知ってると思ったんだけど…残念外れだったみたい。

まあそんなあっさり見つかるならこんな苦労はしてないか。

 

「何も知らなかったかあ…」

 

「まあしょうがないわよ、さっ調査を再開するわよ、私は水辺の生物を調べるから、キニスは相手を石にする生物を調べてちょうだい」

 

「はーい」

 

 

 

 

頭がボーっとする、意識がハッキリしない。

何で、あの時、私はあそこに居たんだろう。

でも、本当に何も聞こえなかったし居なかった。

…そうだ、もしかしたら。

 

リドルさんなら何か知っているかもしれない。

 




さだめ、絆、縁。
人間的な、余りにも人間的な、そんな響きはそぐわない。
冥府の臭いに導かれ、地獄の炎に照らされて、
ミルキーウエイ銀河の星屑の一つで出会った、
60億年目のアダムとメシア。
これは、単なる偶然か。
次回「キニス」。
衝撃のあの日からをトレスする。



トム「ほーん、こいつら怪物の正体追っとんのか!」
はい、バジリスク襲撃フラグが立ちました。
そしてキリコ、なんつうもん見つけてんだ。

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