【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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次回「ロックハート死す!」
決闘スタンバイ!


第十八話 「決闘」

秘密の部屋事件の影響だろうか、会場は例年以上の盛り上がりを見せている。

グリフィンドール対スリザリン、今年初のクィディッチが始まろうとしていた。

 

「さあ今年もこのシーズンがやって来ました、去年は惜しくも優勝を逃したグリフィンドール、しかしその一年で期待のシーカー、ハリー・ポッターの練度は凄まじい成長を見せました。

対するスリザリンはメンバー全員分のニンバス2001を使い、シーカーの座を買収したドラコ・マルフォイが注目の―――」

 

「ジョーダン!」

 

グリフィンドール贔屓の解説もいつも通りである。

盛り上がる観客席だが、俺はそこに居ない。

少し離れた選手用の席に座り、選手達の様子を注意深く観察していた、何故なら今後の試合の為にチーム全員で相手の動きを調べる為である。

一体どちらが勝つのか、箒で買収したとはいえ一定の実力が無ければシーカーになることは出来ない、マルフォイの力が分からない今、結果を予想することは誰にも出来ない。

 

しかし、試合が始まってもマルフォイの実力を図ることは出来なかった。

真の実力は、互角、またはそれ以上の相手と闘う事で発揮される。

だが、その敵であるハリーがまともに動けていなかったのだ。

 

「一体どうなってるんだ…?」

 

ディゴリーも気付いたようだ、いやあんなに露骨なら気付かないヤツの方が少ないだろう。

クィディッチにはブラッジャーという鉄球が二つあり、これは近くの選手を攻撃してくる特性を持つ、そしてそれから選手を守り相手に打ち返すのがビーターの役目だ。

 

一体どういう事か、ブラッジャーの内一つがハリーを集中的に狙っているのだ。

結果ハリーを守る為にビーターの二人が付きっきりになってしまっている。

去年の呪いといい、つくづく面倒事に縁のあるヤツだ。

 

シーカーもビーター二人もまともに動けない影響か、試合の流れは100対0とスリザリンに傾き始めていた。

と、ここでグリフィンドールのキャプテンのキャプテンウッドがタイムアウトを要求し、試合は一時中断となった。

 

しばらく経ち試合が再開する、未だブラッジャーはハリーを狙っているがビーターが護衛につく様子は無い。

このままでは勝てないと判断したのだろう、ハリーはブラッジャーをスレスレで回避しながら飛び回っている。

 

その時俺は会場のすみ、スリザリンの応援席の影にそれを見つけた。

人では無い、蝙蝠のような耳に大きく飛び出している眼球を持つ小さな生物がそこにいた。

その生き物が指を動かすとそれに呼応してブラッジャーがハリーを攻撃しだす。

 

どうやら異常の原因はあの生物、″屋敷しもべ妖精″のようだ、屋敷しもべ妖精とは魔法使いに使える事を本能、そして誇りとする生物、ならばヤツは誰かの命令で動いてるはず。

しかしその顔に誇りは無く、苦しそうに歪んでいる。

どう見ても喜んでやっているようには見えない、命令で仕方なく従っているのだろうか。

 

ならばハリーの為にもヤツの為にも穏便に済ませるのが理想だ、しかしここはスリザリンの応援席からは反対側の位置、どうするか…

手元にあった硬貨を取りだし「目眩まし術」を掛ける、そして応援席の後方に回り込み、誰にも見つからないようにコインを上へ弾く。

 

「レラシオ ―放せ」

 

放たれたコインは、空気を切り裂きながら弾丸のようにヤツに迫る。

 

が、着弾の直前それに気付いたヤツは一瞬で姿を消してしまった。

姿晦ましだろうか? しかし学校の敷地内では使えない…いや、確か屋敷しもべ妖精の使う呪文は俺達のとは違う原理のはず、だから発動できるのか。

杖も無く詠唱も無く呪文を使えるとは…俺も習得出来ないだろうか。

まあ無理だろう、人間と屋敷しもべ妖精は体の構造自体が違うのだから。

 

会場に戻るとマルフォイが悲鳴を挙げていた、先ほどまでハリーを追いかけていたブラッジャーは正気を取り戻し、目の前のマルフォイに突っ込んで行ったのだ。

それに加えハリーまでマルフォイに突撃を掛けている、これは…

ブラッジャーの直撃を貰いながらもヤツの頭上をすれすれで飛行し、手を掲げるとそこには黄金の球体が握られていた。

つまりスニッチはヤツの頭上をのんきに飛んでいたという訳か、マルフォイはこの世の終わりの様な顔で空を漂っている、まああんな致命的凡ミスをすればああもなるか。

 

試合結果は120対160でグリフィンドールの勝利となり三寮から歓声が上がる、その一方マルフォイはキャプテンに怒鳴られていた。

その後、対グリフィンドールとスリザリンの対策会議をして終わった、あった事とすれば右腕を折ったハリーがロックハートに骨抜きにされたくらいである、文字通り。

 

 

 

 

しかし、翌日にはこの余韻は消え去っていた、継承者により新たな犠牲者が出てしまったのである。

石にされたのはグリフィンドール生の一年生コリン・クリービー、初めての人間の犠牲者、そしてマグル生まれである。

今飼育されているマンドレイクが成長すれば石化は解ける、だからといって安心できるはずもなく、マグル生まれの生徒たちは恐怖に包まれる事となった。

 

 

 

 

だがそれ以降継承者の襲撃は無く、あっという間にクリスマス一週間前になった。

時間と言うのは偉大だ、あれ程の恐怖の空気が包み込んでいたのに、今や生徒達はクリスマスプレゼントについて話し合っている。

 

早朝、いつもなら温かな談話室で豊かなコーヒータイムを楽しむはずだったが、今日は駄目らしい、談話室の掲示板に人が屯しているからだ。

 

「おはよ、キリコ。

…何で皆あつまってるの?」

 

「決闘クラブが開かれるらしい」

 

掲示板に張られていた紙には決闘クラブ開催の第一回が、午後八時から大広間で開かれると書かれていた。

恐らく、生徒の自衛意識を高める為に開催したのだろう、ならば俺も行って損は無いはずだ。

 

「決闘クラブ…キリコは行く?」

 

「ああ、行って損は無いからな」

 

「そっか、じゃあ僕も行こうかな…秘密の部屋も怖いし。

…そういえば、誰が講師になるんだろう?」

 

講師…誰かは掲示板にも書いていなかった、まあ、これについてはアレを心配する事も無い、決闘という少なからず危険な事をするのだ、スネイプか、それとも決闘チャンピオンと呼ばれたフリットウィックのどちらかだろう。

 

 

 

 

全てにおいて最悪とはこのことだろう、確かにスネイプは居た、居たには居たがヤツを後ろに控えさせ、煩わしいスマイルでロックハートが入って来たのだ。

 

「静粛に」

 

最悪の事態を前にして、ごくごく一部から黄色い声援が上がり、他大多数は灰色の溜息を付いていた。

 

「………」

 

「…今からでも帰れるけど」

 

「………」

 

「返事くらいしてよぉ! 怖い!」

 

「皆さん私の声は聞こえますか? 姿は見えますね? 勿論見えているでしょう!

この度ダンブルドア校長から私が許可を頂き、この決闘クラブを開く事が出来ました。

私自身が、数えきれないほど経験してきたように、自らを守る必要が生じた時に備えてしっかりと鍛え上げる為です、詳しくは私の著書を読んでくださいね。

では私の助手、スネイプ先生をご紹介しましょう!」

 

壇上にスネイプが重い足取りで登って行く、アレはとても眩しすぎる微笑みをさらに強烈にしてまたもや喋り始めた。

 

「スネイプ先生がおっしゃるには、決闘についてごくごく僅かにご存じらしい。

訓練を始めるにあたって短い模範演技をしようと話した所、勇敢なことに手伝って下さるとご了承下さったのです。

大丈夫ですよ皆さん、ご心配はおかけしません…私と彼が手合せした後でも、魔法薬の先生はちゃんと存在します、ご心配めされるな!」

 

スネイプを馬鹿にしたような紹介の後、小馬鹿にしたような笑顔を振りまくロックハート。

対してスネイプの表情は変わら…いやパッと見分からないがだいぶ変わっている、何というか、地獄の悪鬼も逃げ出しそうだ。

昔、あんな顔を見たような…そうだ、あのクズを谷底に叩き落とした時の、親友の顔によく似ていた。

それに気付かないアレも大概だが。

 

「…さすがに殺さないよね」

 

キニスは、いや大体の生徒はスネイプが発する殺気に脅えていた、が、それと同時に一方的に叩きのめすのを望んでいるのも事実である。

 

「ご覧の様に、私達は伝統に従って杖を構えています」

 

向き合って礼をする二人、無駄に優雅な立ち振る舞いをするアレに対し、スネイプは軽く会釈をしただけだ。

 

「3っつ数えたら最初の術を掛けます。

勿論、どちらも相手を殺すような呪文は使いません」

 

いやどうだろう、スネイプの目はどう見ても本気の臨戦態勢である、生徒の前でなければ殺しているかもしれない。

方やまだ生徒に笑顔を振りまき、方や全身に殺意を纏っている、ここまで見る価値の無い戦いも珍しい。

 

「では! 1、2、3、………!」

 

「エクスペリアームス! ―武器よ去れ!」

 

ロックハートが振り上げるよりも圧倒的に早く、杖を振り上げるスネイプ。

武装解除呪文の赤い閃光が放たれ、ロックハートを壁まで吹き飛ばした。

 

途端にスリザリン生、いやアレのファンを除いて全員が拍手を送っている、普段は嫌われているスネイプだが、この時ばかりは凄い人気だった。

床を這いずりながら、尚負け惜しみを吐いていたがスネイプに睨まれた途端、蛇に睨まれた蛙のように大人しくなった。

 

「模範演技はこれで十分! これから皆さんの所へ降りて行って二人ずつ組んでもらいます。

スネイプ先生、お手伝いをお願いします」

 

そう言うと二人は生徒の中に入って行き、二人ずつ組ませていった、どうやら勝手に相手を決める事は出来ないらしい。

次々と組み合わせは決まって行った、キニスはネビルと、ロンは別のグリフィンドールの生徒、ハーマイオニーはスリザリンの生徒と組まされた。

 

…しかしいつまで経っても俺の相手が決まらない、というよりも俺以外は全員決まっているようだ。

…どうしたものか。

 

「おや? キリコ君は相手が居ないと…よし! ではこの私が…」

 

「それには及びませんな、助手である我輩が相手をしよう」

 

アレの勧誘を遮るようにスネイプが相手を申し出てきた。

スネイプか…戦った事など当然一度も無いが、恐らくかなり歴戦の戦士だろう。

今の俺の力でどこまで戦えるか…

対人戦は滅多に無い貴重な機会だ、ありがたく戦わせてもらおう。

 

二年生対教員という異質な組み合わせは、必然的に周りの注目を引き付ける、それに気付いたロックハートが何か閃いたのか、また余計な事を言い始めた。

 

「皆さん注目! ハッフルパフ二学年最優秀生徒とスネイプ先生の決闘です、せっかくなので舞台の方でやってもらいましょう!」

 

またもや顔をしかめるスネイプ、俺も同じ気分だったが仕方なく壇上へ上がっていく。

決闘をしていたヤツらもこちらに注目し始めた、が、そんな事は気にせず杖を構え向き合い一礼をする。

…やはり、こいつは只者では無い、一度や二度では無い、相当な修羅場を生き抜いた戦士の雰囲気をスネイプは放っていた。

 

 

…やはり、こいつは只者では無い、放たれる威圧感は二年生の物とは到底思えん、これ程のプレッシャーは単なる強さだけでは出すことは出来ない、それこそ数えきれない程の戦いを経験した歴戦の魔法使いしか出せないだろう。

キリコ・キュービィー、ヤツは一体何者なのだ…

こんな茶番に手を貸したのは正解だった、一年生にも関わらずトロールを容易く殺し、死喰い人さえ倒すヤツの力は未知数、ここで戦う事で実力を測ることが出来れば、今後色々と対処しやすくなるはずだ。

 

 

舞台から放たれる異様な、先ほどまでの茶番劇とは違う圧倒的な戦いの空気に生徒達は息を飲む。

一瞬の沈黙の後、先に仕掛けたのはスネイプだった。

 

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

 

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

 

放たれた赤い閃光、一瞬遅れて同じ呪文で相殺する。

 

エクスパルソ(爆破)!」

 

間をおかずに爆破呪文をスネイプの足元に打ち込む、

瓦礫に怯むヤツに、武装解除呪文を再度発射する。

 

アビフォース(鳥になれ)! オパグノ(襲え)!」

 

()()()()()()()()鳥に変身させ、武装解除呪文を防ぎつつ残りの鳥を突撃させる。

それに対し、ルーモスの光を最大出力で発生させる。

鳥の目は潰れ墜落したが、スネイプは盾の魔法で光を防いだ。

 

………

 

光りが晴れ、()()()()()()の中、スネイプは呪いを放つ、

それを盾の魔法で防ぎ、反撃の呪文を打ち込む。

一進一退の攻防、しかし経験の差か、俺は徐々に追い込まれていた。

一旦体制を整える為に後ろへ後退する、だがその隙を見逃さずスネイプが一気に距離を詰めて来た。

…そうだ、そのまま来い…!

 

「! レラシオ(放せ)

 

「! プロテゴ(護れ)

 

後ろに跳躍し、距離を大きく離した後、スネイプは足元にあった瓦礫をこちらに撃ち込む、

咄嗟にそれを防ぐと瓦礫は突如爆発を起こした。

 

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

 

罠を読まれた事に怯んだ瞬間発射された閃光、それは俺の杖を弾き飛ばした。

…俺の負けという事だ。

 

一体何が起こったのか、凄まじい戦いに生徒はしばらく静まり返っていたが、少し経つと全員から拍手が上がり始めた。

奪いとった杖を返しにスネイプがこちらに寄って来る。

 

「…今のは何だ?」

 

「気付かれるとは思いませんでした」

 

「あの光で怯ませた時に仕込んだのだろう? 新しく瓦礫を作ってな…最もそれが何かは分からんがな。

…それで、先ほどの呪文は何なのだ?」

 

エクスインテラ(爆弾と成れ)…呪文を掛けた物を、俺の合図で爆破する魔法です」

 

「!? 作ったというのか…新たな呪文を」

 

「既存の魔法を改造しただけです」

 

「………」

 

スネイプは唖然としたまま固まっている、何度か閲覧禁止の棚に侵入して研究したかいはあったようだが、これは…少しやってしまったかもしれない。

 

その後、俺達と同じく舞台に上がったハリーとマルフォイ、だがその決闘は思わぬ結末を迎えた。

マルフォイが呼び出した蛇がハッフルパフのジャスティン・フレッチリーに襲い掛かった時、ハリーが異様な言葉を喋り蛇を静止させたのだ。

しかし、フレッチリーはハリーが蛇をけしかけたと誤解し出て行ってしまった。

そう、ハリーが話したのは蛇語、すなわちサラザール・スリザリンの直系のみが持つパーセルマウス…スリザリンの後継者だという決定的な証拠だった。

 




再来のための平穏。
復讐のための秘密。
歴史の果てから、延々と続くこの愚かな思想。
ある者は悩み、ある者は傷つき、ある者は自らに絶望する。
だが、血筋は絶えることなく続き、また誰かが呟く。
たまには誰かを使うのも悪くない。
次回「思惑」。
神も、ピリオドを打たない。


「キラー○イーンは既に瓦礫に触っている…!」
新呪文登場です、要するに↑のような魔法ですね。
追記 次回予告修正しました。

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