【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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賢者の石編、いよいよクライマックスです。
果たしてどちらが勝つのか、ハリーに出番はあるのか!
クィレル教授の命やいかに!


第十一話 「強襲」

ケルベロスの部屋や悪魔の罠と違い、今度はかなり、特に上に向かって広い部屋だった。目の前に扉こそあるが、鍵が掛かっており開ける事は出来ない。だがこの部屋の中に鍵はあるはずだ。

部屋を見渡すと、上の方に異様な光景を見つけた。どうやら大量の鳥が飛んでいるらしい、…いや、鍵だ、鍵に羽が生えて飛んでいるのか。つまりあの大量の鍵のどれか一つが扉の鍵なのだろう。

しかし、どうするか。鍵を取ろうにも相手は遥か彼方、箒でも持っていれば良かったのだが今更戻ることは出来ない、何より元々箒は持っていないのだ、呪文で撃ち落とすにもあの数は時間が掛かりすぎる。

羽を持つ鍵…か、一つ方法が浮かんだ俺はそれを試すことにした。魔法の羽にも通じれば良いのだが。

反動に備え地面に横たわり、杖を両手で構え上に向け全力で呪文を唱えた。

 

「アグアメンティ ―水よ」

 

杖の先端から発射された津波のような濁流、そして水圧に耐えながら上空一体をなぎ払っていく。その威力によって飛行していた鍵達は次々と天井に叩きつけられ、羽虫のように墜落していった。

どうやら大丈夫だったようだ。羽を濡らされた鍵は、その質量に抗えず地面でのたうち回っている。降り注ぐ水と銀の鍵の中、異様に古く、周りの鍵と浮いているヤツを拾い鍵穴に差し込む。鍵はすんなりと穴にはまってくれた、これが正解のようだな。

 

 

 

 

視界に広がるのは巨大なチェスの盤面、しかしそこに駒は殆どおらず、その多くは残骸となって打ち捨てられている。二体のキング、その内片方だけが剣を落としている。これは降伏の意味、つまり誰かがここで戦っていたということだ。盤面を見ると赤毛の少年が倒れていた。

ロン・ウィーズリーだ、こいつがここに居るということは俺の予想通りハリー達もここに居るのだろう。当たってほしくなかった予感にうんざりとした気分になったが、ロンの状態を確認する。

出血は少ない、心臓も脈もある。気絶しているだけのようだ。

向こうの扉が開いてるのを見るとハリー達は先に行ったらしい。念の為ロンに応急処置をしていると、砕けていたチェスの駒が元の形に戻り始めている。まさか―――

扉を見ると徐々に閉じ始めていた、まずい、ここで扉が閉じれば俺はチェスに挑む事になる。そうすれば大幅に遅れることになるだろう、応急処置を終えると扉に向かい全力で走り出した。

 

 

 

 

すんでのところで部屋に飛び込んだ場所に居たのは緑色の巨体に鼻を突く異臭、そうトロールだ。それもハロウィンの時のヤツよりも大きい、恐らく7mにはなるだろう。

幸い誰かが倒したのか気絶しており動く様子は無い、これを相手にする事になったら相当面倒だっ―――

 

…丁度目覚めたようだ、ならば仕方ないだろう。

 

「エクスパルソ ―爆破」

 

一先ず棍棒を爆破し攻撃手段の排除をする、そして突然の出来事に理解が追い付かないトロールに次の呪文を放つ。

 

「ウィンガーディアム・レビオーサ ―浮遊せよ」

 

浮遊魔法を使いトロールを天井ギリギリまで浮遊させ、呪文を解除する。トロールはもがくが既に手遅れだ、自分自身の巨体が仇となりその質量を全身に喰らうこととなったヤツはその場に崩れ落ちる。

 

「エクスパルソ ―爆破」

 

十分届く位置になったので、あの日のように口内へ直接爆破魔法を撃ち込む、無論トロールは顔から血を吹き出しながら絶命した。

トロールにトドメを刺した後次の部屋に進もうとした時、人の気配を感じた俺は死体の影に隠れる。

次の部屋への扉を開き、走ってきたのはハーマイオニーだった。一瞬だけトロールの死体に驚いていた様だが直ぐに再び走り去っていった。

一体何を急いでいるのだろうか。ここまで見たのはロンとハーマイオニーだ、ならこの先に居るのはハリーなのだろう。先ほどの彼女の行動、あれが助けを呼びに行った物だとしたら…

…急がなくてはならない。俺は危機感に煽られるように次の部屋へ走り出した。

 

 

 

 

これまた今までと違い、薄暗く小さめの部屋だ。中央には大小様々な薬品が置かれたテーブルがある、罠のような物は無いようだ。

警戒を続けながら部屋に入るとその瞬間今通った扉は紫色の炎に、次の部屋への入り口は黒い炎に包まれた。

テーブルには何かが記された巻き紙が置いてある。

…つまり、この瓶の内3つは毒薬、2つはイラクサ酒、そして1つが紫の炎を、もう1つが黒い炎を無力化する薬らしい。

だが、机の上にある瓶は五本しかなかった。さっき部屋を出ていったのだから一つはハーマイオニーが、ここに居ないのだからもう一つもハリーが飲んでしまったのだろう。

つまり、俺はこの部屋を出ることも進むことも出来ないらしい。ここに来て手詰まりになるとは、何か他に方法があればいいが…

 

「殺せ!」

 

突如先の部屋から聞こえてきた声、クィレルでは無い甲高い男の声だ。

もはや一刻の猶予も無い、俺はローブを脱ぎ、それを構えながら黒い炎の中へ突き進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、本当にクィレルだったなんて。それに何で僕の手の中に石があるんだ、何で同じ鏡を見てもクィレルは手に入れられなかったんだ。僕じゃないと石は手に入らなかったのか、だとしたら何もかもキリコの言っていた事が正しかった事になる。

悔しさと情けなさが込み上げてくる。僕がキリコの言う通りここへ来なければクィレルは石を絶対手に入れられなかったのに。

でも、それでも石を渡すわけにはいかない。ヴォルデモートを蘇らせるのだけはダメだ! もしこいつが蘇れば全てが壊される、ホグワーツ、ロン、ハーマイオニー、友達に先生たち、僕が皆を守らなくてはいけない!

石を奪い取ろうと襲いかかるクィレル、とにかく石を守ろうと必死で逃げようとする。でも体が上手く動かない、恐怖で足が震えるばかりだ。あれだけ大口を叩いておいてこれか!? 動け! 動け!

―――ダメだ! 奪われる!

 

だが、クィレルの手は僕に届かなかった。

突然飛んできた黒く燃えるローブ、それがクィレルを吹き飛ばし爆発したのだ。

 

「ああああ!?」

 

全く予想できない状況に混乱するクィレル、それは僕も同じだ。一体何が起きたんだ!?

ローブが飛んできた方を見る、暗闇の中からゆっくりと歩いてきたのは…

 

「キ、キリコ…!?」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間一髪間に合ったようだ、黒い炎に包まれたローブを爆破魔法で吹き飛ばした俺は体に燃え移った炎を払いながらヤツに近づいていく。

やはり、クィレルだったか。ハリーに目立った外傷は見当たらないようだ。

 

「な、…何故お前が、キリコ・キュービ―――」

 

「エクスパルソ ―爆破」

 

「! プロテゴ ―護れ!」

 

不意打ちとして爆破魔法を撃ち込む、ヤツと話す理由など無い。それは盾の魔法で防がれた、だが隙を与えはしない。

 

「エクスペリアームズ ―武器よ去れ」

 

「エクスペリアームス ―武器よ去れ!」

 

武装解除魔法に対し、同じ魔法で打ち消すクィレル。しかし最初の不意打ちのお陰か戦いの流れはこちらにあった。

 

「アバダ・ケダブラ!」

 

ヤツの杖から放たれた緑色の閃光、それを盾の魔法で防ご―――

 

「!? ウィンガーディアム・レビオーサ ―浮遊せよ」

 

その光に凄まじい悪寒を覚えた俺は咄嗟に瓦礫を浮遊させ閃光を防いだ、砕け散った破片で数ヵ所に傷を受ける。

あの閃光、ただの呪文ではない。分からないがあれだけは食らってならないと今まで生き残ってきた俺の本能は警告していた。

 

「アバダ・ケダブラ!」

 

再び飛来する閃光を横に跳躍することで回避する、だが上手く着地できず姿勢を崩してしまった。

俺の杖は、確かに強力だ。だが代わりに体力を大幅に消耗するという弱点も持っている。罠を越える為色々な呪文を使っていた俺はここに来るまでで既に体力をかなり消耗していたのだ。

息を切らしながら立ち上がる。そろそろ決めなければならないだろう。

 

「アグアメンティ ―水よ」

 

「インセンディオ ―燃えよ」

 

俺が放った水に対し、対抗呪文を放つクィレル。衝突した水と炎は部屋を大量の蒸気で埋め尽くした。

狙い通りだ、煙によってヤツは俺を見失っている。すぐさま後ろに回り込み至近距離から爆破魔法を―――

 

…居ない、ヤツの姿は何処にも無かった。では一体何処に―――

 

…! 頭の後ろに杖を突きつけられる。そうか「目くらまし術」だ、これで自分の位置を分からなくしていたのか。

後ろ目で確認するとヤツはほくそ笑んでいた、そして勝ち誇った顔であの呪文を放つ。

 

 

「アバダ・ケダブラ!」

 

 

それこそ、俺の狙いだったのだ。

 

「!?」

 

至近距離から放たれた、確実に当たるはずのそれは俺をギリギリ掠めず、あらぬ方向へ消え去って行った。

瞬時に振り返りヤツに杖を向ける。

信じられない事態に驚いたクィレルは俺から距離を取りながら再び閃光を放とうとする。

 

「アバダ・ケダブ―――!?」

 

クィレルは自分を支えられなくなり姿勢を崩した、いや、支える足そのものが無くなっていたのだ。

見るとヤツの足元にはハリーが驚いた顔で足…だった物に食らいついている。

こいつがやったのか? 一体どうやって? ハリー自身もそれを分かっていない様だがこれは絶好のチャンスだ。一切の出し惜しみをせず、トドメの一発を撃ち込む。

 

「エクスパルソ ―爆破」

 

「あああああああ!!」

 

部屋が吹き飛んだかと思うほどの閃光と轟音の中、クィレルの下半身は大爆発を起こし、後ろの石柱を砕きながら壁にめり込んでいき、そして崩れ落ちた。

それと同時に俺も膝をつく、だが勝てたようだな。

爆発の衝撃に巻き込まれたのかハリーも倒れている。様子を見てみると、単に気絶しているだけのようだ。

もうじき誰かしら助けが来る。これで一先ず大丈夫だろう、そう思い一息着いた時であった。

 

 

 

「アバダ・ケダブラ!」

 

 

 

!! 突如クィレルの背後から這いずり出てきた黒い靄、それはクィレルの杖を奪い緑色の閃光を放った。

どうすれば避けられる、跳躍するか、浮遊魔法を使うか。

しかしどの方法も俺の体はしようとしなかった。

…これを受ければ死ねるのか?

先ほどまでは単なる危険な攻撃だったそれは、まるで祝福の光のように見えた。

本能に反し、俺の体は動こうとしない。もし、これで死ねるのなら―――

 

 

 

 

「キリコーーー!」

 

 

 

 

閃光を遮るように現れた人影、それは紛れもなくキニスそのものだった。

!! 死にたいという願望を強烈な意志で体から叩き出し、咄嗟に盾の魔法を唱える。

 

「プロテゴ ―護れ!」

 

しかし無情にも盾は砕け散った。そして拡散した緑の閃光は俺とキニスを貫き吹き飛ばしていった。

 

まさか、駄目だったのか? 

結局キニスを殺すことになってしまったのか? 

俺がどうしようとこれが運命なのか?

 

 

 

 

途切れ行く意識の中、俺は絶望していた。

自分の意思ではどうしようもない、全てを飲み込んで燃やし尽くしてでも生き残ろうとする俺自身に。

文字通り何もかも焼き払ってゆく「炎のさだめ」に―――

 




ホグワーツと賢者の石、異能、キリコ、少年、ヴォルデモート。
縺れた糸を縫って、神の手になる運命のセストラルが飛び交う。
イギリス魔法界に織りなされる、神の企んだ紋様は何。
巨大なマトリクスに描かれた壮大なるドラマ。
その時、キニスは叫んだ。
キリコ!と。
次回「絆」。
いよいよキャスティング完了。


キリコ、ミスターお辞儀に気づかなかったん?
と思うかもしれません、しかし本編を読めばわかりますが
戦闘中キリコとクィレルはずっと相対し合っています。
よって一度も後頭部を見ていないからです。
唯一後ろに回り込んだ時は目くらまし術使ってましたし。

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