【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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そろそろバトルを始めたいです、
いい加減ホグワーツを火の海にしたくなってきた。
どうやって滅ぼすか…

「大戦争を! 一心不乱の大戦争を!」


第九話 「喪失」

学期末試験四日前、生徒達は大量の課題と膨大な試験範囲に追い込まれ夜も眠らずに勉強を、教員達は大量の課題の添削と試験作成の仕上げに追われ食事を摂る隙もない。

そんな状況の中、俺はまたもや夜の学校に潜んでいた。目的は無論「閲覧禁止の棚」、そう今まで狙っていたのはこの時期なのだ。本来夜の校舎は巡回の教員がいるはずだが試験数日前ということもあり、大幅にその数を減らしている、加えて巡回している教員も試験作成の疲れか監視に穴がある。故にこの時期こそが「棚」への侵入に最適だったのだ。

「目眩まし術」を自身に掛けながら、巡回にもゴーストにも見つからずに図書館の禁書棚へたどり着いた。

 

「ルーモス ―光よ」

 

出力を限界まで絞り混み本棚を照らす。通常の出力で使うと俺の杖の場合、先端から閃光手榴弾並みの光が発生するためである。そんな事になれば巡回がやってくるのは確実、この計画は水の泡になる。

………!?

杖の光を消し身を潜める、誰かが禁書棚に居たのだ。暗闇のせいでよく分からないがそいつは顔から足の先まで闇に溶け込むような漆黒のローブで包んでいた。そいつは隠れるようにしながら禁書棚の本をいじっている、あの怪しい風体にこそこそとした行動、巡回の教員ではないだろう。俺と同じ目的でここに居るのだろうか。

その後動き出したヤツは、何も持たずに図書館を出ていってしまった。折角侵入したにも関わらず何も持たないとは、いよいよ何がしたいのか分からない。まあそれを考えるのは後でもいいだろう、それよりヤツのせいで少し時間をロスした、急がねばなるまい。

再び杖に光を灯し、以前確認した場所を確認する。そこには目的の内の一冊が置いてあった、タイトルを確認するとそこには「石人形全構成解体禁書」と書かれている。間違いないこいつだ、その本を懐にしまい次の本を探す。

次の本もすんなり見つけた後、最後の本も探す。だがこれは時間が掛かった、以前確認した場所とは別の場所へ移動していたからだ。不味いな、あと数分で巡回がやってくる、急がなければ。

「禁じられた魔術」…違う。

「ニワトコの軌跡」…これも違う。

「魂と肉体のあり方」…こいつだ!

最後の本を懐にしまい急ぎ足で図書館を後にする、最初の曲がり角を曲がったところでちょうどフィルチの姿が見えた。かなりギリギリだったようだが、何とかなったな。そして俺は行き同様に、巡回に見付からぬよう自室に戻っていったのだ。

…この本こそが、俺を再び地獄のドン底に叩き落とすモノだとも知らずに…

 

 

 

 

熟睡しているキニスを起こさぬようゆっくりとドアを開ける。机のランプを灯し、手にいれた本が間違っていないか確認をする。盗めたとはいえ長期間持っていてはバレるリスクも高まる、なるべく早く読みきらなければならないだろう。羊皮紙を取りだし、羽ペンを構え、本を開いた。

その時、それは起きた。

 

 

 

 

「こ、これは…!?」

 

突如目の前が真っ暗になり、気が付いた時俺は使われていない教室にいた。この教室はまさか、あの鏡はまさか。そこに居たのはフィアナだった。彼女はあの時と全く同じように鏡の中から微笑み、俺に寄り添っている。

何故だ!? 何故俺はここに居る!? 一体何が起―――

 

 

 

 

その次の瞬間写り込んだのは燃え盛る炎であった。今度はどこへ移動したんだ、ここは一体―――

そして俺は絶句した、何故ならそこに居たのは、炎に包まれている人間だったからだ、そうだ、俺の、母親だ。

次の瞬間、俺は外にいた。いや違う、連れ出されたのだ。後ろを振り替えるとそこには全身を黒く焼かれながらも、俺を助け出してくれた、そして今息絶えようとする父親の姿があった。一体、一体何が起こっているのだ…

 

 

 

 

視界には天井が写っている、何故か上手く動かない体を動かし、横を見る。そこには俺を産み、そして力尽きた母親が倒れていた。

………まさか。

 

 

 

 

目まぐるしく、まるで映画のフィルムのように回る、戦場、鉄の騎兵が群を成し森を、砂漠を、街を駆け、その全てを踏み潰していく。

そしてたどり着いたのは砂漠だった。そこにあったのは黒い稲妻と神の眷属達の成れの果て、そして緑色の血を流しながら横たわる彼女。

 

石と権威で覆われた聖地。最後の言葉さえ聞けずに燃え尽きてしまった、俺のささやかな望み。

 

意図せず作られた束の間の安息、それを打ち破る過去に向かってのオデッセイ。

 

何も知らぬまま、人ですら無かった俺が出会い、そして全てが始まった闇の中。

 

不死と信じ、不死に弄ばれ、俺一人だけ生き残った爆発の中。

 

俺達によって赤く染まった星。そこで思い出す忌まわしき過去。

 

俺を、家族を、思い出を、そして星をも焼き尽くす赤い肩の悪魔達。

 

巡る、巡る、巡礼の記憶は何度も巡る。

そう、何度も、何度も、何度も、何度も…

 

 

 

 

「……………………!!」

 

今のは、俺の記憶だ、それも思い出すのも考えるのも忌まわしい記憶。それを突如、現実かと思うほど鮮明に、その全てを呼び起こされた俺の精神はたった数秒、一瞬の事にも関わらず崩壊寸前まで追い詰められた。

記憶の底に閉じ込めていたトラウマは、一度吹き出せば簡単には止まらない。それは今も精神を徹底的に削り続けていた。

頭の中にはかつて、戦艦の中に閉じ込められた時のように何度もある一曲が流れ続ける。

視界に写る幻影には途方もない数の戦場と途方もない数の残骸が広がり、かつての仲間達が一瞬の断末魔を繰り返し叫び続けている。

それが止む気配は全く無い、何故だ、何故今になってこの記憶が蘇った。その原因について考えようとするが心の中で繰り返される地獄と断末魔はそんな余裕さえくれなかった。

 

「キ、キリコどうしたの? 凄い顔色悪いけど…」

 

知らない内に悲鳴でもあげたのだろうか、いつの間にか起きていたキニスは俺を心配して語り掛けてきた。

しかしその瞬間、思い起こされたのはかつての仲間、戦友、家族、そこまで呼べなくとも何らかの仲間意識は持っていたヤツら。そいつらが皆、尽く死んでいく記憶、未練など無い。だが俺只一人を生き残らせる為に星もろとも基地もろとも死んでしまった事実は未だに俺を苦しめる。

そして脳裏をよぎる最悪の未来、散り行く仲間の影とそいつの姿が重なる時、物言わぬ屍となったキニスがそこには居た。まさか、いやあり得ない話ではない。俺に関わるという事はすなわち地獄まで付き合うということ、そして望む望まないに関わらず盾となって死んでいくのが運命なのだ。俺に関わることで、キニスは死ぬ。

 

「………やめろ」

 

「何言ってるのキリコ? 大丈夫ってレベルの顔色じゃないよ、それにそんなに汗も掻いて…マ、マダム・ポンフリーの所に行った方が良いんじゃない? 無理だったら僕が先生を呼んでく―――」

 

「やめろ!! ………これ以上関わるな…!」

 

急に声を荒げたせいだろう、キニスは驚愕の表情を隠せていない。だがこれで良い、いやこうでなくてはならない。今までこいつを傷つけるのは良心が痛むから辞めておいたがもうそうは言っていられない、何としてもこいつを俺から引きはがさなくては。でなければ死ぬ、理由などない、死ぬ経緯も状況も分からない。だがこのまま行けば必ず何時か死ぬ時が来てしまう、そうなる確信が今の俺には出来た。

 

「…わ、分かった、でも辛かったら言ってね。」

 

キニスは再び布団の中に潜りこんでいった。…これで良い、こうでなくてはならない。もう俺のせいで親しいヤツが死ぬのはもう沢山だ。未だ頭の中で踏み鳴らすことを止めぬマーチを引きずりながら俺は部屋を後にした。そして俺は談話室で朝まで過ごし、マーチと幻影が収まったのはその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ、キリコ、…おはよう、あの後大丈夫だった?」

 

「………」

 

声をかけるキニスを無視し、疲弊した精神を表に出さぬよう大広間へ向かう。俺の意図を感じ取ってくれたのかキニスが話しかけてくることはそれ以降無かった。この状態を維持し、今までの関係を完全に無くすことが今の俺の目標だ、そうすればこいつが地獄に巻き込まれることは無い。俺のせいで死ぬことは無くなるだろう、…あいつは気にするだろうが、それがあいつにとって最も良い事なのだ。何、あいつの性格なら俺以外の友人は幾らでも手に入れることが出来るだろう、心配は要らない。

 

あの後強烈な頭痛に苦しみながら考えたが、あれは一種の呪いだったのかもしれない。以前本で見たことがある、飲んだものにトラウマを蘇らせる黒い水があるらしい。恐らくあの本に掛けられていたのはその水と似たような効果をもたらす呪いだと推測した、それを掛けたのはあの黒いローブの何かだろう。

だが、ヤツの正体は全く分からない。現状一番怪しいのはクィレルだろうがする意味が分からない、スネイプに脅されていた時俺に気づいた様子は無く、気づいていたと仮定しても万が一俺が死んでいたら校内の警備はさらに強化される。そうなれば目的である賢者の石の奪取は相当難しくなるはずだ。第一あの呪いを仕掛けたのがローブの人間だという確証も無い、何せ本来教員の許可を得てその監視の基にのみ閲覧を許された本だ、元々呪いが掛かっていても不思議ではない。唯一助かったのは、あの呪いは最初の一回で解除される点だろう、読むたびにあれでは本当に死んでしまう、これで俺の研究はだいぶ進むはずだ。…こんな状態で進むかどうかは分からないが。

 

 

 

 

今朝の食事は、いつもと変わらないイングリッシュブレックファストだ。だが試験の応援のためかいつもより少しだけ豪華なものとなっている。食欲はしなかったが空腹で倒れるわけにはいかない、俺は少しだけ皿に取った。

まず初めにトーストをかじった、脳の働きに炭水化物は必要だからだ。食べると口内の水がパンに吸われ口の中が気持ち悪くなった、味も心なしかサクサク感よりも焦げた味の方が目立つ気がした。

タンパク質としてソーセージを食べる、ドイツ産のでも取り寄せたのかいつもより肉の量が多そうである。しかし感じられるのはひたすら垂れ流される動物性油であり、軽い吐き気と胸焼けがした。

体を整えるためサラダを食べる。濃口のドレッシングはむしろ食欲を減退させ、草の苦みがそれを助長していた。

…心の中で、乾いた笑いすらこみ上げてくる。あの一瞬でここまで酷く追い詰められていたとは、いつの間にかあいつはそれだけ大事な人になっていた訳か。だが誰かと別れるのは慣れている、じきに俺もキニスも慣れていくだろう。

そういえば自分から誰かと完全に決別するのは初めてだ、今まではほとんど死に別れだったからな。まあ、何も死別する訳ではないのだからそこまで悲しむ必要はないだろう。そうだ、その筈だ。

 

 

 

 

一冊の本に綴られた炎の記憶。それが教えたのは死という真実。

悲鳴を上げているのは知っていた。

無論そんな事望んでいないのも知っていた。

だが、覚えたのは安堵と感謝。

こうすれば、死ななくて済む。

ズタズタに引き裂かれた俺は、ヤツの無事を祈りながら次の地獄へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…以上が今の彼の状況です」

 

「…一体、何故そうなってしまったのじゃ?」

 

「見ていると、仲たがいをした。…という雰囲気でもなく、どちらかと言えばキリコの方が彼を避けている。故に彼も何を話していいか分からない。…のだと、吾輩には見えました」

 

「そうか、…やはり、あの時鏡で見た物が原因なのかもしれんのう。儂らに何か出来ればいいのじゃが…」

 

「今それは不可能でしょう、例の作戦のこともあります。それに吾輩もクィレルが何時動き出すのかを常に警戒しなければならないのですから」

 

「無論それは分かっておるよ。あやつがヴォルデモートと繋がっておるのは確かじゃ、そして賢者の石を用いて復活せんとしておることは…。キリコのことも心配じゃが、ヴォルデモートの復活を許す事だけはあってはならんのじゃ

…色々無理を言って悪かったのう、改めて礼を言うぞセブルス」

 

「…いえ、吾輩の方でも出来る限り気に掛けてはみます」

 

「珍しいの、おぬしがそこまで気に掛けるとは」

 

「…分かりませんが、何故か彼を見ていると、まるで自分自身を見ているような気になるのです」

 

「自分自身、とな?」

 

「はい、…では失礼します」

 

あの子が抱えているであろう孤独は、キニスとの関わりで和らいだように見えた。しかし何故かそれは崩れてしまい、以前よりも深くなったように見える。

そして儂はそれに対し、何もすることができない。ヴォルデモート復活を防ぐのが優先だから? そんなものは言い訳にもならない。

…何と無力なのだろう、何が最高の大魔法使いだ、何が偉大な校長だ。孤独に震える生徒一人救えないような愚かな男でしかないのに、今も彼に対して何もできないではないか。

だが、だからといってどうすればいいのだろう。あの子の孤独は儂が考えていたよりも遥かに深く、暗い。その闇を照らす方法は未だ分からない。

…だが、諦める事だけはしてはいけない。それだけはあってはならない。

彼の闇を払う鍵、それを握っているのは間違いなくあの少年だ

なら、儂のやるべきことは―――

 




敵の血潮で濡れた肩。
触れえざる者と人の言う。
ホグワーツに、百年戦争の亡霊が蘇る。
アレギウムの神殿、ヌルゲラントの地底に、
不死と謳われたメルキア装甲特殊部隊。
情無用、命無用の一兵士。
この命、30億ギルダン也。
最も危険なワンマンアーミー。
次回「レッドショルダー」。
キリコ、危険に向かうが本能か。


「回歴の呪い」★オリジナル設定
ダンブルドア校長が飲んだ黒い水の効果と同様の効果を持つ呪い。
相違点として水を飲み切った時と同じ効果を一瞬で与えるため、長時間苦しむことは無いが精神崩壊のリスクは比では無い。尚後遺症は6時間は続く。

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