英雄伝説 閃の軌跡II〜黒き狼の軌跡〜   作:絶零

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双龍橋

しばらく待っていると、リィン達が心なしか暗い表情でやってきたのが見えた。どうやら予想以上に心配させてしまったようだが作戦は予定通り変わらず実行。

 

「ケルディックを探してもいなかった。もし何かに巻き込まれていたら……。」

 

「……心配しなくてもナギトなら大丈夫だ。今はエリオットやフィーと合流する方が先決だ。」

 

目の前を通り過ぎる一瞬だけ足音を消し、あとは自然に馴染ませていく。よく耳を澄ませば足音が増えている事に気がつくだろうが、ここまで来てしまえばバレても問題ない。

 

「まあそこまで心配すんな。話を聞いた限り今まで一人で動き回って来たんだろ?簡単には捕まらんだろう。」

 

「そうそう、俺がそう簡単にミスするかっての。」

 

双龍橋で見つかってしまった事は海に投げ捨てて発言する。あれは俺のミスではない。ステルス薬の効果時間は間違いなく続いているはずだったのだ。

 

「ああ、ナギトが簡単に捕まるはずがない。そのうちまた会えるさ。」

 

「気にすんなって!」

 

マキアスに肩に手を置いて宥めるような仕草をする。これで気が付かれなかったら俺は神の領域に片足を突っ込んだ状態だろう。そう思うと、気が付いてくれと願わずにはいられない。存在感の薄さが神レベルって嬉しくもないし、哀しみしかない。

 

「大体君がいなくなるのがいけないんだ。挨拶くらいしっかり行うのが筋だろう!」

 

「悪いって、どうしても確かめたい事があったんだ。」

 

絶対という訳でもなかったが結果的に黒コートの存在を発見できたのは収穫だ。ゲーマーじゃなくても当然のように怪しいと思う存在はかなり色々悪事を働くといつも感じている。ちなみに今までの協力者が裏切った場合大抵敵の大物だ。

 

「三人はしゃいでいるところ悪いがそろそろDポイントだぞ。」

 

トヴァルが嗜めるように言うと俺を含め三人とも口の端がニヤける。

久しぶりの知人に会うような高揚感を味わい、生きている、楽しんでいると言う実感が湧いて来る。

特に苦労もなく合流ポイントに辿り着くとエリオットが先に到着していた。

 

「リィン!リィンだよね!本当に間違いないんだよね!?」

 

「ああ、間違いないさ!無事で良かった、エリオット。」

 

「良かった!また会えて!」

 

エリオットがリィンに駆け寄り手を包み込むように握る。本気で心配していたらしいエリオットが確認するように声を震わせ呼びかけ、リィンは全てに返事をする。

 

「心配かけて悪かったな。」

 

「そんな事ないよ、リィンなら絶対どこかで無事でいてくれるって信じていたからね。」

 

「ありがとう、エリオット。」

 

「フフ、お帰り、リィン。」

 

お互いに名残惜しむように強く握りしめ合うと一歩離れる。さすがにあれ以上は気持ち悪くなりそうだったから正直助かった。

 

「フィーはどうしたんだ?」

 

「ーーお待たせ。」

 

リィンの疑問の声に、タイミングを合わせたかのように声が聞こえた。全員が声の方向、上を見ると銀髪で寒そうな格好をした少女が飛び降りて来たところだった。リィンが慌てて落下地点で受け身を取ると、押し倒すような形で降り立つ。

 

「フィー、いくらなんでも危ないだろう。怪我でもしたらどうするんだ。」

 

「おいリィン。問題はそこじゃないんだよ。」

 

俺を除いた全員が飛び降りた事に呆れているようだが、俺からしてみれば押し倒されている状況の方が危ない。

 

「本当にリィンだ。」

 

「当然だろ?」

 

「お帰り。」

 

「ああ、ただいま。」

 

「これでようやく揃った……と言いたいところなんだが……。」

 

リィン、マキアス、トヴァルの表情にはまだ足りないんだ、みたいな感じが滲み出ている。猫の表情までは察する事は出来ないが。

リィンが重々しく、ナギトがいなくなったと告げた。

一瞬世界が固まったような錯覚に陥った。俺のナチュラル合流作戦は上手くいきすぎて会話が成立しても気が付かれない極致に至ったらしい。

 

「ん、ナギトならいるよ。」

 

フィーがさも当然のように俺を指差し、フィーとエリオット以外のメンバーが初めて気が付いたとばかりのオーバーリアクションで振り返った。

 

「ナギト、いつから……。」

 

「俺会話成立してた気はするんだけど。リィンともマキアスとも話してたし、トヴァルさんだって俺の事認識してたはずですよね。」

 

「全然わからなかったわね。」

 

つまり俺は気が付かれないレベルで影が薄いを超え、会話が成立しても気が付かれないという一種の才能に目覚めたわけだ。ここまで無駄な才能も珍しいと思う。

 

「まあ何はともあれケルディック方面の仲間とは全員合流出来たみたいだな。これからはどうするんだ?」

 

「ヴァリマールのところに戻るのも一つの選択肢だと思う。だけど俺はこのままガレリア要塞を目指したい。」

 

「リィン、ガレリア要塞に行くって事は双龍橋を抜けるって事だぞ?」

 

心の中で、俺のせいで警戒が濃くなったという一言を付け加えてリィンに聞く。悪いとは思うがまあ仕方がなかったと思う。イレギュラーには迅速な対応が求められるからな。

 

「わかってる。だけどクレイグ中将やナイトハルト教官と会う事で今後VII組としてどう行動すれば良いかを見極めたいんだ。それにエリオットの無事を知らせてあげたいしな。」

 

「リィン……。」

 

「もちろん僕達も異存はない。」

 

「じゃあ俺も遊撃士として最後までサポートするぜ。」

 

「でもあそこも駄目みたい。どうする?」

 

「あそこって?」

 

「線路からの侵入。なんか凄く警戒されてて。」

 

何度目かの冷や汗が俺を襲って来た。原因は間違いなく俺なんだが、まさかここに影響が来るとは思わなかった。祝初ダクト!〜ドッキリもあるよ〜みたいな覚悟はしていたが没シュートされたようだ。

しかし線路を使えないとなるとどうやって突破するのだろうか。ここはステルス薬の出番かもしれない。

 

「よし、ある程度人数もいるしあれをやろう。」

 

「えっと、リィン?あれってなんだ?」

 

リィンの言葉に不穏な響きが混じっている事に気が付き恐る恐る訪ねてみる。慎重なリィン達がと思う自分もいたが、よく考えればトリスタ解放やら公爵家を捕まえるやら色々とやっているという記憶も蘇った。

わかってないのは俺だけらしく、慰めるように、そして気合を入れるようにみんなが肩に手を置いた。最後にリィンが正面から両肩に手を置く。

 

「決まってるだろ。正面突破だ!」

 

「マジかよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正面突破と決まった途端全員が行動開始。一度ケルディックに戻り全身を隠すローブを購入。奇しくも俺が怪しんでいた黒ローブの色違いになってしまった。

念入りにアイテムを買い、各自取り出しやすいような工夫をしている。特に煙玉を多く買っており、本当にただ通り抜ける為の装備である事が安心できた唯一のポイントだ。

 

準備を整え、双龍橋へ。黒ローブを追って来た時よりも警戒されており、通り抜けるのは難しそうだ。人の目がない影で全員がローブを着用、見張りの兵士の元へ。トヴァルの遊撃士としての手腕が発揮され、注意がトヴァルに集中したところをリィンとフィーで背後から後頭部を強打。昏倒させる。意識が戻らない事を確認し全力で橋を駆ける。

 

「みんな、中に入ってからが本番だ。注意してくれ。」

 

リィンの言葉に全員が了承の意を込めた返答をし、双龍橋の中へと侵入する。既に異変に気が付いていたのか待ち伏せされていたが、全員で同時に煙玉を使用。散開すると同時に煙玉をさらにばら撒く。短時間とは言え視界が大きく悪くなり、俺たち全員を見失ったようだ。

運悪く見つかった兵士には剣を抜かず鞘に納刀したまま一撃を加え気絶させる。リィン達ほど上手くは出来ずに鼻血で顔が血塗れなのは許して欲しい。

 

「あと私達だけ、行こう。」

 

「了解!」

 

ガレリア要塞方面へと続く入り口には既に他の面々が揃っており、俺とフィーが最後だ。おまけとばかりに煙玉を投擲して再び橋を駆ける。

 

半分程まで行った時混乱から回復した兵士数名と機甲兵が正面から迫って来る。さすがに不味い状況だろう。

しかし装甲車と違って機動力がある代わりに装甲が弱い事が特徴らしい。ならば特に薄いであろう関節部分を狙えば自慢の機動力くらい奪えるのではないだろうか。

 

「くっ、来い!灰の騎神、ヴァリ……ッ!」

 

「待ってくれリィン!膝の裏を集中攻撃だ!」

 

リィンが意図を見抜き、全員が即座に連携。トヴァルを中心にマキアス、エリオットが兵士を足止め。フィーが機甲兵の正面で攻撃を引き付け、その隙にリィンと二人で背後に回り込む。攻撃後の姿勢が下がった状態を狙い、リィンと同時に踏み切る。寸分違わず膝の裏を深く斬り裂き、バランス取る事が出来なくなった機甲兵が倒れ込む。唖然とする兵士を置き去りにして双龍橋を突破。

 

「追っ手が来るぞ!」

 

「線路の下を通ればガレリア間道だ。急げ!」

 

一息着く間もなく走り続ける。機甲兵を何機も同時に相手するには戦力不足だという事は全員が承知しているからこそ必要以上に余裕を持って逃げ切ろうとしている。

 

「思ったよりも距離が離れていないか、俺が足止めする。すぐに追い付くからリィン達は先に行っててくれ。」

 

「なっ!それは出来ない!」

 

俺が原因だから適当に時間稼いで全力で走ろうと決意しリィンに伝えたのだが、完全否定された。

おまけにフィーやマキアスからも一人じゃ無謀だの仲間じゃないかなどと言葉を投げられる。

 

「そういうのは遊撃士たる俺の役目だろ?」

 

「いやでも……。」

 

スタンロッドを構えながら行けというトヴァルに俺の後片付けだからなどとは言えなかった。

やっぱり全員でという話にまとまりかけた時不意に双龍橋内部から轟音が鳴り響いた。追いかけて来ていた兵士が泡を食った様子で引き返す。

 

「なんだか知らないが助かった!今の内に進むぞ!」

 

リィン達の後ろに着いて行きながら俺は双龍橋を振り返る。爆発音は最初の一度きりで聞こえないが、あのタイミングでの爆発は明らかに逃がすためだろう。

本来なら線路に降りるためのダクトへと導いてくれる人物、教官の一人しか思い当たらない。

心の中で感謝をしつつ、ガレリア要塞への道へと歩き出した。




黒の騎神の件ですが、設定を無理やり弄る事や書き直す事も考えたのですが『騎神に似た別の何か』という方向で進めたいと考えました。それに伴って小説タイトルも変更しました。ご了承下さい。

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