英雄伝説 閃の軌跡II〜黒き狼の軌跡〜   作:絶零

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再開のVII組

エルミスヘカテの元へ戻ると、光の歪みが出来ていた。精霊の道だったか?

エルミスヘカテは既に霊力回復に努めているらしく反応がない。一言ありがとうと呟き、光の渦の中へと身を投じる。

上下左右景色がなく淡白な光に包まれていると歩いているのかも怪しくなってきたが、足を踏み外さないように細心の注意を払いつつ微かに見える出口に向かって歩を進める。

とうとう出口に辿り着き飛び出ると、一面森の中に居た。途中で戻って来たか?と一瞬錯覚するが、すぐ側に灰の騎神ヴァリマールが黙している事に気がつく。

 

「て事はここはルナリア自然公園か。あんまりここは好きじゃないんだよな。」

 

理由は単純に薄暗いし虫が多そうだからだ。虫が嫌いな俺からしたら今後出現する虫型の魔獣とは出来れば戦いたくないというのが本音ではあるが。

 

「まあ取り敢えずちゃっちゃか抜けますかねー。」

 

ここの魔獣自体は大して強くない。道も殆どがゲームと同じであり簡単に進める。邪魔な魔獣は背後からの一撃で簡単に消滅させる。

宝箱も一応覗いてみたもののどうやら開けられた後みたいだ。軽くアイテムが補充出来れば嬉しかったのだがそう簡単にはいかないらしい。

 

「というか魔獣はいるし森になってるしで明らかに公園じゃないだろ、名前考えた奴出てこいよ。」

 

自然公園だから別にこれでも良いのか?などと考えていると出口、いや入り口が見えてくる。森から出ると南京錠が取り付けられた柵があり出る事は出来ないが、そこは高ステータスにお任せ。力を溜めて一気に飛び越える。

 

「西ケルディック街道だったか。久しぶりに見たな。」

 

ゲームでも序盤以外あまりお世話にならない場所で若干マップが怪しい。ゲームと同じように農家があるようだ。リィン達が来て居ないか聞いてみる事にしよう。

 

「失礼します。この場所を旅の格好をした二人組の男性が通りませんでしたか?」

 

「ああ、あの行商人ならついさっきまでここに居たよ。多分ケルディックに向かったと思う。」

 

「ありがとうございます。」

 

ついさっきならば今はトリスタの状況を見に行っただろう。検問されているはずだからすぐにケルディックに向かうはずだから心配はない。今合流しても良いが先にマキアス達に合流してしまおう。ケルディックを抜けてすぐの風車小屋に向かう。

街道に魔獣がうろついていて一般人には危険だろうからと倒しながら進むとケルディックが見えてくる。

活気溢れる喧騒が妙に耳に心地よい。確か大市というものがあるはずだ。交易町ケルディックというくらいだから様々な特産品を売買しているのかもしれない。だがどこか盛り上がりきれていない感じがする。まあ貴族軍の連中が好き放題やってるようだから仕方がないだろう。

 

「大市か、少し寄って行っても……いやいや、マキアスが先だ。」

 

未練を残しつつ町を横断。反対側の街道に出る。ケルディックを出てすぐに風車小屋は見えた。問題を解いて鍵が必要だったような気がするが声をかければ気が付いてくれるのではないだろうか。

ケルディックを出てすぐに風車小屋の前に到着する事が出来た。人の気配はあるが物音は聞こえない。

 

「気配を潜めているか、寝てるかだな。おい!マキアス開けてくれ!」

 

ガンガンと扉を叩きながら呼び掛ける。反応はなし。名前を名乗っても反応はない。

実は設定の不具合で俺はVII組の一員ではないのか?と疑ってしまった程だ。それでも諦めずに叩き続けると、ゆっくりと扉が開き眼鏡の顔が……なんて事はなかった。

さすがに少し頭に来た。

 

「マキアス、扉の側から離れてろよ。」

 

右腕を腰の後ろまで引き、力を蓄える。イメージとしては大気が震える程集中させる感じだ。限界だと思うまで全力で溜め込み、力強く一歩踏み込む。裂帛の気合とともに扉に握り拳を叩きつける。手にかなりの衝撃が返ってきたが予想以上の結果になった。

金具が外れる音に遅れて扉が凹みながら放物線を描いてぶっ飛び、中から現れたマキアスの顔横を高速で通り抜ける。

冷や汗を吹き出しながらマキアスは金魚のように口をパクパクさせている。自業自得だ。

 

「き……君は!なんて事を!」

 

「開錠(物理)だ。言っておくけど開けなかったのが悪いからな。」

 

「こんな開け方認められるか!」

 

高いSTRがあったから出来たダイナミック入室に激しく狼狽するマキアスに片手を挙げて挨拶をする。

 

「ナギト……本当に君なのか?」

 

「よっす、は……いや、久しぶりだな。」

 

つい初めましてと口が開きかけ慌てて直す。名前を知っているという事は面識があるのだと思いたい。

扉を壊した時とはまた違う動揺っぷりはなんとも見ていて面白い。

 

「そんな事よりもどうしてくれるんだ!ここは隠れ家だぞ!?だいたい君はいつもーーっ!」

 

「悪かったって。それよりさっきリィンを見たって噂があったぞ。」

 

「そう、か。では彼がここを訪れるまで僕は待つよ。君はどうするんだ?」

 

「俺も待ってても良いが……他にも仲間がいるんだろ?」

 

「ああ、エリオットとフィーも近くにいるよ。」

 

「じゃあ俺は……。」

 

その時、背後で驚く声が聞こえた。

マキアスと共にまさかという気持ちで振り返るとそこには黒髪の青年、リィン・シュバルツァーが立っていた。

 

「信じていた、君なら必ずここに辿り着くとね。久しぶりだね、リィン。」

 

「マキアス!」

 

感極まったのかリィンはマキアスに近付き抱き着く。マキアスも驚いているようだが、同じく抱き返す。男の友情って言うのも悪くはないが正直そっち系の趣味にしか見えない。

 

「湿っぽいのはその辺りにして置いたら?」

 

黒猫の介入により危険な展開は打ち切りとなった。セリーヌ!とオーバーな反応を示すマキアス。どうやら冷静そうに見えてリィンの事しか見えていなかったようだ。

 

「それと貴方は遊撃士の……。」

 

「ああ、改めて自己紹介しておくか。遊撃士協会所属、トヴァル・ランドナーだ。早速情報交換と言いたいところなんだが……その前に手に入れた鍵の意味を教えて貰っても良いか?」

 

「俺も気になっていたんだ。扉も無いのに鍵なんて必要なのか?」

 

「回りくどく遠回しにしただけなの?」

 

「……つい先程までは必要だったんだ。」

 

「どう言う事だ?」

 

どうやら俺には気が付いていないらしい。距離を取っているとはいえマキアスの隣にいたんだから少なくともリィンは俺を見ている筈なのだがどうやらマキアス以外全く目に入っていなかったようだ。そういう展開は一部の人しか喜ばないぞ?

 

「原因はそこにいる。」

 

マキアスの呆れが入った声とともに振り返る二人と一匹。別に気配を消していたつもりはなかったから驚かれると悲しくなる。この世界に来る前から目の前で気が付かれない事が多かったが影が薄くなる特殊能力をデフォルトで持っていたんだろうか。

 

「まさか……ナギトか!?」

 

「久しぶり、で良いんだよな?リィン。」

 

ゲームでしか知らない相手に知人のように話しかける違和感を押しのけ自然に振る舞えたと思う。トヴァルは俺の事を知らないようで、マキアスやセリーヌが補足説明をしているらしい。実際俺はどういう扱いでどうやってVII組に入ったのか知るために一緒にトヴァルと聞きたかった。

 

「ナギトが原因ってどういう事なんだ?」

 

「ケチな眼鏡が融通効かないから俺流の開錠をしただけだよ。」

 

俺の説明にリィンはハテナマークが浮かんでいるようだが、セリーヌとトヴァルは眼ざとく凹んだ扉を視界に収めたらしく、白い目を向けている。

 

「ほら、マキアス。情報交換だとよ。俺も知らないから教えてくれ。」

 

俺が内心焦りつつマキアスに促すと、一度小さくため息を吐き気持ちを切り替えると語り出した。話の内容を整理すると、紅き飛行巡洋艦《カレイジャス》号に助けられたという事だ。カレイジャスは行方不明で、仲間は三つに分かれて逃げ出した。大体記憶通りと言ったところ。リィンも目覚めてからの事を俺やマキアスに伝えると、話はマキアスに戻った。

 

「それでマキアスはケルディックに辿り着いたんだな。」

 

「ああ、おかげさまでね。そしてこの場所でエリオットとフィーとも落ち合うことが出来た。」

 

「二人もここにいるのか!?」

 

「まあそういう事だろうな。みんなリィンを探すために頑張ってたんだろ。」

 

「君も妹や皇女殿下の件で大変だったろう。僕も彼女達を取り戻す為に協力させてくれ。」

 

「勿論俺も手伝うから、断っても無駄だからそのつもりでよろしくな。」

 

「断る事なんてしない。ありがとう、マキアス、ナギト。」

 

目の前で起こっているこれがVII組の絆かと思うと本当に会話できている事が夢のようだ。今更だがこれは夢ではないのではないかと思い始めた。よく考えればこんなにリアルな痛みを伴う夢はそうそうないからだ。扉を開けた時の痛みがまだ余韻を残している。

現実ならば帰る方法も見つけたいところだがそれはそれとして全力でこの世界を楽しむ事が最優先であることに違いない。

 

「エリオットとフィーにも早く連絡を入れてやりたいな。きっと喜ぶはずだ。」

 

「二人は出かけているのね?」

 

「ああ、東の国境、《ガレリア要塞》方面に抜けられないかを探りにね。」

 

「酒場の女将さんの話だと正規軍が張っているって話だったか。」

 

「ええ、要塞近くの演習場に《第四機甲師団》が陣を張っているようです。」

 

「《第四機甲師団》ってたしかエリオットの父さんのいるところだったよな?」

 

「そして帝国正規軍最強の師団だ。」

 

俺の曖昧な知識をトヴァルが親切に補足してくれた。エリオットの父さん、グレイグ中将がいる師団でストーリーにもかなり関わってくる存在のはずだ。

 

「マキアス達は彼らとコンタクトを取るつもりなのか?」

 

「ああ、現状を打開するヒントを得られればと思ってね。僕はバックアップをしていたんだ。もうすぐ二人から定時連絡が入るはずだ。」

 

「じゃあ定時連絡の時に合流する方法を確認するとして、まだ時間があるんだろ?どうするんだ?」

 

「それじゃあ一旦町に戻って見たらどうだ?情報を集めておくのも良いんじゃないか?」

 

「トヴァルさんの言うようにケルディックに戻るのが良いかもしれません。二人もそれでいいか?」

 

「僕は構わないよ。」

 

「俺もそれでいい。ケルディックをもう少し見てみたかったしな。」

 

エリオットとフィーの定時連絡を待つ間情報収集のためにケルディックに戻る事が決まった。知っている事がほとんどだろうが一応聞いて回るとしよう。俺がこの世界に介入した事で変化が起こった可能性も十分あり得る訳だし。

風車小屋から出た俺たち四人はケルディックへ向けて街道を歩き始めた。


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