英雄伝説 閃の軌跡II〜黒き狼の軌跡〜   作:絶零

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黒の出会い

森の悪路を物ともせずに全力で走り続けると巨体が姿を現わす。魔獣ではなく幻獣と呼ばれる類のものだろう。幻獣の視線の先には人影が見える。どうやら単身で幻獣と遭遇してしまったようだ。

幻獣の口が大きく開き、今にも人影を捕食しそうな勢いだ。

 

「ちょっと待った!」

 

走り込んだ勢いを全く殺さずに横っ腹に斬りかかる。途中で幻獣に埋まったまま止まってしまったが、すぐ様次の攻撃をしようと頭を高速回転。

 

「『不滅たれデュランダル』!」

 

起句を唱えた途端、デュランダルに鼓動が走り抜けたと同時に傷口から凍り始めた。デュランダルを中心に凍り始めてさすがに危機感を感じたのか、幻獣が敵と認識したようだ。

身体を振り回し、引き剥がされると幻獣が一度大きく咆哮した。幻獣には確か駆動無しでアーツを使える個体がいた気がするという思いから横に飛び込むように逃げる。

一瞬後、地面から棘の様に突き出してきた岩を見て冷や汗が喉を伝う。

ステータス的に一撃で死ぬことはないだろうが即死攻撃などもあるだろう。レジストに失敗したらあの世行き、もしくは夢から覚める事になったら冗談じゃない。

 

「あの巨体でこの地形なら素早くは動けないだろうな、よし!」

 

ヒットアンドアウェイを心掛け、斬って氷漬けにしつつすぐに後退。幻獣が咆哮した場合は余裕を持って大きく回避運動。

迷わずSクラフトを使いたいところではあるが威力が規格外過ぎて躊躇われる。ゲームならば問題になっていないが変に現実的なここでは地形が大きく変化する危険性がある。

 

「取り敢えずクラフト連発してみるか。クリスタルフェニクス!」

 

剣の先から放出された氷が炎の様に揺らめき、形を幽幻な鳥に変え幻獣に襲い掛かる。高速で体当たりした部分が凍り、その前の俺の攻撃を合わせれば身体の半分以上が動かないはずだ。

それでも尚動こうとする幻獣に素早く近付くともう一発クリスタルフェニクスを放ち、足止め。トドメにインフィニティプリズンを使う。指定した範囲を中心に地面ごと凍り始め、範囲内の草木に至るまで全てが氷の世界の一部となった。

幻獣も完全に凍ってしまい、動けない様だ。生きているかどうかの判断は不可能だが、一応安全であると言えるだろう。

 

襲われていた人影を探し、視線を彷徨わせるとすぐに見つける事が出来た。どうやら逃げるでも隠れるでもなく戦闘を見ていたらしい。

 

「おい、大丈夫か?」

 

声をかけると此方を見上げる瞳とバッチリ目が合う。そして全体的に黒く、そして薄着で兎型の耳のあるフードを被っている銀髪の少女には見覚えがあった。

 

「はい、大丈夫です。」

 

「あ、ああ。無事なら良いんだ。」

 

《黒兎》、そうブラックラビットのコードネームを持つ少女、アルティナ・オライオンだ。

 

「何故動揺しているのですか?」

 

「い、いやいや。動揺とか冗談よせって。ただ戦闘の余韻で興奮が収まってないだけだよ。多分な。」

 

「多分?」

 

「いや確実にだ。」

 

別に会ったら殺される訳ではないが貴族連合の協力者として裏で色々やっていたみたいだし簡単に心を許すわけにはいかない。

だが実際に目の前で見るとやっぱり可愛いな。ゲームやアニメ特有の髪型や背格好が普通な世界からするとどうなのか分からないが日本基準で考えると物珍しさも相まって普通以上に見える。

 

「……別に構いませんが。」

 

「えっと、名前を聞いてもいいか?」

 

知ってるけど、という言葉は心の奥にグッと押し込み聞いてみる。

誰かれ答えて良いのかは知らないがいつ俺がボロを出して名前を呼んでしまうか分からないからな。怪しまれて貴族連合に暗殺されるとか勘弁してほしい。

 

「名前、ですか。アルティナ。アルティナ・オライオン。」

 

「俺はナギト。ナギト・エセルバートだ。よろしくな、アルティナ。」

 

「はい。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

アルティナの名乗りを若干意識してみたのだが特に何も反応はなく、会話が続かない。感情の起伏があまりないキャラだけど案外無口な面もあったようだ。かと言っても話す事もない。だがこのままでは居心地が悪過ぎる。

 

「えーと、今日は良い天気だな!」

 

「はぁ……?空が見えませんが。」

 

いきなりやらかしてしまったようだ。随分とテンプレ質問な上に初歩的なミスで怪しまれた可能性がある。とそこで逆転の発想が浮かんだ。怪しまれるより怪しんでいる風を装えば良いんじゃね?と。

 

「アルティナはどうしてこんなところにいるんだ?こんな何もない場所にアルティナみたいな子が一人で来るのはおかしいだろ。」

 

「何か怪しい気配があるようなので調査に来ました。ナギトさんこそどうしてここに?」

 

「俺か?俺はまあ……迷子かな。」

 

「こんな場所でですか。」

 

何と誤魔化すべきかと悩んだが、その必要はなくなった。

突如背後で軋む音が聞こえると思った途端、完全に凍り付いていた幻獣が氷を突き破り出て来た。

 

「しまった!甘かったか!アルティナ、逃げろ!」

 

「……いえ、私も手伝います。《クラウ=ソラス》。」

 

アルティナの背後に黒い傀儡が現れる。確か戦術殻とかいうものだったはずだ。正直欲しくはある。

今アルティナが協力してくれるのはありがたい。

 

「頼んだ、行くぞ!」

 

「制圧を開始します。」

 

幻獣が氷を完全に振り払ったタイミングで懐に滑り込み全体重を込めた一撃を放つ。

どうやら起句は既に解除されていたらしく凍り付く事はなかったがステータス補正か大きなダメージが入ったようだ。

反撃を恐れ離れたところをアルティナが走り込み《クラウ=ソラス》による追撃を放つ。戦術リンクはしていないが似たような事になったらしい。

 

「やるなアルティナ。」

 

「一応それなりには。」

 

幻獣の攻撃を避けるとバックステップで距離を取り《クラウ=ソラス》に命令を下すように腕を振り下ろす。

 

「ブリューナク、照射。」

 

《クラウ=ソラス》から熱線が迸り幻獣へと突き刺さる。生命力の高い幻獣といえども耐えられるダメージの許容を超えたらしく大きくバランスを崩す。

チャンスを無駄にしないように接近。時間が許す限り連続攻撃を続ける。アルティナも攻撃に加わり一気に大きなダメージ。

幻獣の咆哮によるアーツの発動と共に起き上がる。アルティナはどうやらアーツに巻き込まれたようで後方に吹き飛んでいる。少々薄情ではあるが横目で無事を確認し先程と同様にヒットアンドアウェイ戦法を取る。

アルティナも立て直し攻撃をするが、幻獣も駆動無しアーツや巨体を使った攻撃で着実にダメージを受ける。俺も何度か攻撃を貰い、木や岩に叩き付けられた。

 

「くそ、しぶといな!」

 

「ナギトさん、足止めして下さい。」

 

「分かった!」

 

Sクラフトでも使うのだろう、集中を始めた。クラフトもあまり頻繁には使っていなかった事もあり、クラフトやSクラフトはゲームのようにポンポンとぶっ放すことは出来なさそうだ。

 

「覚悟しろ、インフィニティプリズン!」

 

指定した範囲を氷が覆い、幻獣の足元だけを正確にからめ取る。全身を狙うとどうしても強度が落ちるらしく、凍る段階で振り払われたのだ。

狙い通り四本の足を地面に縫い付け小さくない隙を作る。その瞬間を待っていたとばかりにアルティナが一歩前に出る。

 

「ターミネートモード、起動します。」

 

《クラウ=ソラス》が呼応するように剣へと姿を変え突撃。一度的を攻撃した後にアルティナが剣の上へ乗り、上空へ舞い上がる。

 

「これで終わりです。ラグナブリンガー。」

 

アルティナが幻獣に向かい蹴り出すように剣を射出。地面にヒビが入る程深く刺し貫く。幻獣は力尽き、粒子を散らすようの消滅していく。ゲームの時ほど派手ではないが幻想的な雰囲気を作り出す程度には美しい光景だ。

《クラウ=ソラス》がアルティナの傍らに戻ると溶けるように消えた。

 

「助かったよ、サンキューなアルティナ。」

 

「いえ、では私はこれで。」

 

「待てよ、どこに行くんだ?」

 

「任務があるのでこれ以上は無駄と判断します。」

 

何の任務かは分からないがこれ以上は藪蛇だろう。正直ここに居ても困るから黙って送り出すのが正解か。

 

「じゃあまたな、アルティナ。」

 

「はい。」

 

《クラウ=ソラス》の腕に乗ると上手く木々の間を抜けてすぐに見えなくなった。

やっぱり便利だよな、戦術殻。

そろそろ準備も出来ただろうと思い、戦闘痕が激しいこの場を離れる。




予め言ったように口調やキャラが異なる可能性がありますがご了承ください

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