英雄伝説 閃の軌跡II〜黒き狼の軌跡〜   作:絶零

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黒の起動者

俺は今、走っている。部活で鍛えて来た身体を酷使し、一歩一歩突き進む。

何故なら今日は閃の軌跡に大型アップデートなるものが来ると言う噂があるからだ。

 

「急げ、家に何としても!」

 

困っている友人を無視し、泣いている子どもを……別の友人に押し付け、ヨボヨボと階段を頼りなく登る老人を……少し乱暴に抱き上げ階段の上に降ろしトラックに轢かれそうな子猫を無視……出来るか!

 

「あっぶねぇ!!」

 

危機一髪だったが、飛び込む事で何とか子猫を捕まえてトラックに当たらない場所へ。流石に気が付いたのか、運転手が降りて来るのを視界に捉える。被害者、いや被害猫にここで待つように声を掛け、すぐに全力疾走。

 

「ただいま!」

 

「おかえり、どうしたの?随分慌てて……。」

 

「夜飯まで俺は部屋に籠る!」

 

放課後に携帯に送られて来た情報通りにゲームを起動すると自動でアップデートが完了していた。内容を確認する前に始めた。

 

「おお!これは!」

 

あからさまに怪しい別の話で始めるという項目が追加されている。一瞬の逡巡も無くボタンを押す。

後戻りの出来ない物語が始まりますがよろしいですか?という問いにはいを選択。しつこく迫る質問を肯定し続けると、設定画面が出て来た。

 

「名前やレベルに装備やアイテムまでか?」

 

細かく、主人公の設定まで決めさせられるようだ。この画面を見ると、閃の軌跡の主人公であるリィンとは別の視点だとはっきりと予想が付く。

名前の欄にはナギトと記入するが、苗字は必要だと考え、ナギト・エセルバートと書き直す。所属設定は《貴族連合側》や《身食らう蛇》など他にもあるが、安定択で《VII組》の一員で決定だろう。

装備は……武器しか決められない。選択肢がいくつかあるが不壊剣

"デュランダル"が名前的に琴線に触れたから決定だ。本編では知らない武器だからこれもアップデートの一つなのだろう。

人間関係、マスタークオーツや特殊能力の有無があるが、便利なランダムで決定する。

レベルは一度上げた努力があるから200で良いだろう。

アイテムの持ち込みは一つまで可能らしい。見た事がないアイテムが候補に挙がっているが効果までは見る事が出来ない。ランダムを迷わず選択する。

 

「よし、大体オーケーだな。早速始めるか!」

 

スタートボタンを押し、画面が暗転。中々ロード画面が終わらず次第に瞼が重くなって来た。気分転換に一度リセットでもしようかと立ち上がった瞬間に力が大きく抜けた。

昨日は夜更かししてないのに、と口の中で呟き、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『目覚メヨ、起動者ヨ。』

 

頭の中に直接響く声に意識を覚醒させられるが、あまりの気怠さに起き上がる事が出来ない。どうせ起きられないなら寝てても良いんじゃないかと思い直し、再び眠りの世界へ。

 

『目覚メヨ!』

 

「は、はい!」

 

怒気を孕んだ一喝に反射的に起き上がる。決してビビったとかではなく、起きて返事をしなければならない、そんな気がしたからだ。嘘じゃない。

 

『我ハ黒ノ騎神、エルミスヘカテ。起動者ヨ、心配サセルナ。』

 

「は?黒の騎神?起動者?俺がか?」

 

『他ニ誰ガイル?』

 

「待て待て、状況を整理させろ。」

 

俺は閃の軌跡IIのアップデート後の追加内容を遊ぶ予定で、待ち時間が長くて寝た。起きたらここ。

寝てから起きるまでの間が知りたい!寝る前と起きた後でここまで違うってどうよ?てか騎神とか起動者って単語には聞き覚えがあるな。というか閃の軌跡そのままか。

 

「成る程、夢オチか!まさかオリジナル設定を作る楽しさに夢にまで見るなんてな。高校生にもなって恥ずかしい限りだ。」

 

「起動者ヨ、夢デハナイ。」

 

「はいはい、夢の住人はみんなそう言うよ。」

 

メニューと頭で念じると装備やアイテム、ステータスが表示された。レベルは200。武器は不壊剣"デュランダル"で装備やアクセサリーは無し。服は着ているから関連性はないだろう。

ARCUSにはマスタークオーツにフェニックスという聞き馴染みのないものが。効果が、ターン開始時に体力を十パーセント回復と、クリティカル率上昇。それからターン開始時に全状態異状を回復するという効果だ。

クオーツはかなり極端だ。一つしかセット出来ずに、おまけに効果が凄い。

EPとATSが0になる代わりに他の能力が強化され、HPが50000、STRが4500、DEFとADFが4000。SPDが200でDEXとAGLが70。

MOVが文字化けしていてRNGが1。

そして装備品やアクセサリーを着けてもステータスが変わらない。

近接型ならば最高の能力なのではないだろうか。特にHPは二倍近くになっている。

そして特殊能力だ。本来無いはずの項目を見ると、クラフトポイント、CPが無限化していた。Sクラフトを連発する事は出来ない様だが毎回クラフトを使い放題ならばかなり強い。

 

「俺滅茶苦茶強いな。流石夢、チート万歳。ただ一人で無双出来る程のステータスではないかな。」

 

アーツは全く使えないから飛ばすとして、クラフトを見る。

まず目に付くのはSクラフトのメテオ・ストライクだ。説明が隕石を落とすという説明であり、効果範囲が自分以外。威力は7Sだ。

二つ目はアポカリプティックサウンド。七回目の音が聞こえた時、滅びが訪れる。威力はご察し、不明だ。

メテオ・ストライクが奥の手でアポカリプティックサウンドは封印確定だ。確か世界の終わりを意味する言葉だった気がする。折角の夢を壊されては堪らない。

 

「クラフトも見るのが怖いな……。」

 

強すぎるのは勘弁!と念じながら見ると、一目で封印確定のものはなかった。

四つ程ある。一つは、クリスタルフェニクス。氷のフェニックスを直線上に飛ばす技だ。

二つ目は範囲が円で氷の牢獄を作る、インフィニティプリズン。

三つ目は強化技で、精霊解放。3ターン攻撃に炎属性が付き、STRとSPDが上昇し、クラフトやアーツが強化される。リィンの神気合一の下位互換的な感じだろうか。十分過ぎるが。

四つ目は騎神召喚だ。言うことは特にない。

CPは消費無しで使えるから見ておく必要は無いだろう。

 

「強い……のか?一応MOV下げたり駆動解除も出来るけど。そもそも3ターンって時間にしてどれくらいだよって問題が発生してるんだが。」

 

もう一回り目を通していると、デュランダルに起句と呼ばれる項目があった。『不滅たれデュランダル』で氷の力が剣に宿る。そして、『永遠たれデュランダル』で毎ターン自動回復が付くらしい。後者はMクオーツと被っている感じがするがまあ十分過ぎるくらい強いから良いだろう。

アイテム欄にはステルス薬というアイテムが無限の記号を示していた。効果はどれくらいか後で確認するとして……これはとても良い薬だ。何に使うのかは考えるまでも無いだろう。

 

『起動者ヨ、暫ク霊力ノ回復ヲスル。何カアルカ。』

 

「ん?ああ、俺をリィン達がいる場所に移動出来るか?」

 

『仲間ノ場所ハ無理ダ。シカシ、灰ノ騎神ノ元へナラバ可能ダ。』

 

「それでいい、頼む。」

 

『良カロウ、少シ待テ。』

 

灰の騎神、ヴァリマールの場所次第でどれくらいの時間かが分かる。仲間を探している途中か、トーラス士官学院の解放の為に飛び回っているかは分からないが、精々楽しむとしよう。夢が覚めるまで!

 

そんな決意を固めている時、薄暗い森に獣の雄叫びが木霊した。まるで勝利を確信しているとばかりの音に向かって、咄嗟に駆け出した。

右手には装備したばかりのデュランダルを握り込んで。




不慣れな部分も多いですが頑張りたいと思います。説明不足な点もありますがよろしくお願いします。

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