「━━━はっ!グレイ様の危機の予感!!」
「起きてたんですか!?というか急にどうしたんですか!?」
マルク達が特訓をしていた頃、突然ジュビアが家から出たと同時にそのようなことを言い始めた。
突然の事で特訓をしていた3人は驚いたが、しかしジュビアのグレイに関してのセンサーは何故かとてつもなく優秀なため、おそらく何かがあったのだろうと考えた。
「待っててください今行きますからぁ!!」
「……特訓はここまでやな。」
「あ……ありがとうございます。」
「ありがとうございました!」
マルクとウェンディは、大急ぎで駆けていったジュビアを追うためにフリーゾに軽く礼を言ってからそのまま追いかける。
その背中を見守りながら、フリーゾはため息をついていた。
「いやはや…あの娘っ子の回復力凄まじいんやな。」
『凍らせたんだろ?病原菌を。だったら、おかしくないんじゃないのか?治ってもよ。』
「考えてみいや、回復魔法ですら全然回復せんかった娘がただ病原菌を凍らせただけで回復すると思ってんのか?」
『……そう言われてみれば。』
「元々、ストレスによる部分が大きかったんやろうな。だから、病原菌を凍らせた以上のことが、それよりも前にあったんやろう。
ウチがやったのは仕上げに近い。」
『仕上げ、ねぇ……』
「ま、人間のことはよぅわからんけど……愛の力ってのはすごいんやな。あの二人見ててもそう思うわ。」
『お前、ラミアにいる天空の
「実際、友愛か恋愛かは知らんが……いい関係やと思ってるで。」
2人を見送りながら、クォーリとフリーゾはお互いに会話しながらジュビアやウェンディ達のことを話しているのであった。
「グレイさんはこっちです!!」
「ありがとうウェンディ!!」
ウェンディの道案内の元、ジュビアとマルクは移動していく。途中にあった馬を借りて、颯爽と駆け抜けていく。
「それにしても、ナツさん達は上手くいったのかな!?」
「分からん!けど、ナツさんなら何とかしてくれてるだろ!?きっとまた仲良く喧嘩してるんだろうぜ!!」
2人のことを考えて、自然と笑みがこぼれる3人、しかし、その3人を諌めるようにシャルルが注意する。
「気をつけなさいよ!この辺、ゼレフの信仰者が多いって場所の近くなんだから!!」
「なんだっけ!?
「そうよ!闇ギルドみたいな無秩序じゃなくて、秩序あるゼレフ信仰者達の集まりよ!ルールがある分、余計にタチが悪い!!」
「けれど、このまま言ったら街の近くですよ!?そんなところにまで現れるとは……」
馬を走らせて、風の音が大きいせいか大声で話し合うジュビア達。しばらくすると、向こうの方に大きな土煙が見える。
それの異常さを確認したため、一同は一旦そこに馬を止める。
「あの土煙は……?」
「……何人いるんでしょう。ここからでも大量の人の匂いがします。」
「少なくとも、100じゃ当たり前に利かない数だ。」
流石に、無策でそんな大軍の中に押入るのは少し無謀である。しかし、ジュビアは何かを感じとったのか、途端に視線を巡らせる。
「ジュビアさん?」
「……感じます!あの中にグレイ様がいます!!」
「ということは、もしかしたらナツさん達も……」
「可能性はあるだろうな……よし、ならさっさと突入しよう。数だけとはいえ、俺達の力だけでも簡単に突破できる。」
「じゃあ、どうするの?」
「簡単だ………あの大群に、『穴』を開ければ入れるだろ!!」
マルクの体に、呪力が満ちていく。先程まで、悪魔の力を行使し続けていたので、自分の魔力はいまだ回復しきっていないのだ。
そして、その体は再び形を変えていく。
「暴食、憤怒、傲慢、色欲、怠惰、嫉妬、強欲……それら7つが俺の力となってるわけで……!さて、俺が先行するんで……三人はあとから来てくれ……!」
マルクに翼が生えて、その場から一気に飛び立つ。馬を走らせるよりも、シャルルやハッピーが誰かを抱えて全速力で飛ぶよりも、圧倒的に早い速度で、迫っていく。
「モード悪魔龍!
羽をはやし、小型の肉食恐竜のような体の形になったマルク。そのまま彼はその大軍の中に突っ込んでいった。
「うわっ!?何だこの化け物!?」
「こいつも邪魔する気か!?とりあえず潰すぞ!!我らがゼレフの為に!!」
マルクは、大軍の中に入り周りの魔導士を一瞥していく。それぞれの使う魔法は、どうやら統一されているようで、全員が杖を持って魔法を放っていくようだった。属性は、どうやらバラバラらしいが。
「統一されてると結構やりづらいな……ま、いいか。」
「ひっ!?こいつ喋れるのか!!」
「構わんそのまま仕留めちまえばいい!この数相手に生き残れるとでも━━━」
「あー、もう……
瞬間、マルクの両手と口、そして生えてきている尻尾からそれぞれ
「ぎゃあああ!?」
「な、なんで俺たちの魔法を!?」
「強欲欲しがり、強欲の力は相手の魔法を瞬時に無条件でコピーできる。ま、使うのに魔力を消費するからあまり変わらないんだけどな……」
マルクはそのまま、周辺の敵と一直線上にいる敵を全て薙ぎ払っていく。さすがにそれで魔力を消費しすぎたのか、一旦悪魔龍を解除してその場に立つ。
「魔力に変換されてるとはいえ、元はと言えば呪力だ。これは回復するのに時間がかかってしまうんだよな…」
「に、人間!?あいつ人間のガキだったのか!!」
「大方
「魔力の使いすぎ、ねぇ……なら、その魔力を回復させていくとしますか。」
マルクは元の姿に戻ってから、大軍の中へと飛び込んでいく。当然、魔法が大量に放たれてしまうが、マルクにとって杖から放たれる魔法なんていうのは、格好の餌でしかないのだ。
「いただきまーす……はぐっ、あぐっ……!」
「なっ!?」
「ま、魔法が食べられたァ!!」
「へへ、ご馳走様っと……魔龍の咆哮!!」
魔力を一旦回復させてから、マルクはブレスで周りを吹き飛ばしていく。このまま悪魔龍を続けても問題なかったかもしれないが、悪魔龍は基本的に周りを巻き込む可能性のある力である。そして、呪力も暴食の力以外では中々回復させることができない。
故に、元の姿に戻って戦うことも時には必要なのだ。
「へへっ……」
「こ、こいつ見たことあんぞ!そうだ、大魔闘演武の時にいた
「へー、黒魔術教団なんて名乗ってるから知られていないと思ってたよ。案外有名人かな、俺は。」
拳に魔力を纏わせて、マルクは拳を大きく振り抜いた。それは、爆発するかのように魔力を破裂させ、周りにいた敵の魔力をごっそり削り、自分はその分の魔力を回復させていく。
「んー……しかしこうも多いと、倒しきらないと合流出来なさそうだなぁ……」
向かってくる敵をなぎ倒していきながら、マルクは少し考える。『遠距離がダメなら近接で』と考える敵がいたのか、杖を持ちながら殴りかかってくる敵が増えてきていた。理屈としてはわかるが、しかしそう簡単に上手くいくと思っていたのだろうか。
「……ま、しばらく殴り続けていたらそのうち誰かと会うだろ。幹部なり、ナツさんとかウェンディ達と。」
「うおおおおお!」
「おっと……!?」
後ろから殴りかかってくる敵がいたので、マルクは一旦回避してその回避した人物を、殴り返そうとする。だが、パッと見た時のその外見が他と明らかに違うのを見て確信した。『只者ではない』と。
「おぉ!地方幹部のザークオさんだ!!」
「ふしゅう……ガキが、あまり調子に乗ってるんじゃあないぞ。」
「筋力強化の魔法か?随分とパワー型なんだな。その手に持っている杖と羽織ってるローブは飾りかなにかか?」
杖を叩きつけたところを、改めて把握し直すマルク。地面が、一気にひび割れておりどんな超人でも、魔法無しにはなし得なさそうな攻撃力だった。
「ふん……確かに筋力強化も使っている。だが、俺の魔法は杖を叩きつけた相手の防御力を下げること……一撃でもヒットすれば、どんなガードも関係なしに━━━」
「長い。」
マルクは、耐えかねてザークオと言われていた男を殴り飛ばす。体がかなり大きい人物であったため、少しジャンプしないと届かなかった。
「ぐぅ……!?だがこれしき!我が魔法の力の前には━━━」
「滅竜奥義!濃魔一閃!」
殴った手に即座に魔力を溜め込み、マルクはそのままザークオを殴り飛ばす。
殴られたザークオは、即座にマルクの魔力が体中に伝染していき、その時点で既に勝敗は決してしまっていた。
「うわああああ!?ザークオさんがやられ━━━」
「どけどけぇ!!」
マルクは叫びながら、周りの兵士達を一網打尽にしていきながら進んでいく。
近接戦闘型が一定数いれば、また話は違っていたのかもしれないが、わざわざ杖から発射するというオーソドックスなものを使用しているあたり、形から入るタイプなのだろうか……などとマルクは微妙に見当違いなことを考えていた。
と、そうやって戦っている最中に見覚えのある紅の髪が近づいていた。
「━━━ふ、見ない間に随分と成長したんだな。」
「あれ!?エルザさん!?何でこんな所に!?」
「なんだ、知らずに来たのか?この戦いは、元々私とグレイ…そしてナツとルーシィで起こしたものだぞ?」
「えっ!?」
突然のことで驚きを隠せないマルク。戦いながらやっていたが、まさかエルザも関わっていたとは驚きだったのだ。
「私とグレイは一応今は評議員でな……その時に、この黒魔術教団に当たったという訳さ。」
「じゃあこの戦いも、評議員絡みって事ですか?」
「厳密には、極秘として扱われている事件だったからな…手をこまねいていたの事実だが……!」
エルザは敵を斬り、マルクは敵を殴り飛ばす。それを続けていきながら戦い続けていた。
「だが、この黒魔術教団が浄化作戦というのを行うと聞いてな。それで、強制的に潰そうとしたらこの状況というわけだ!!」
「要するに、こいつらがとんでもなく悪いことしようとしてるから無理やり止めようって話ですね!?」
「要約するとそういう事だ!!」
「なら、このまま全員倒せばいいですね!!」
マルクが不敵な笑みを浮かべるが、エルザは今だ真剣な顔をしている。何か、思うところでもあるらしい。
「だが、黒魔術教団にはそれぞれ幹部が存在する。そして、トップが未だ倒されていない……」
「……でも、幹部はもう既に全滅してそうですけどね。」
「まぁ、私も1人倒してきた所なのだが……もしかして、ウェンディやジュビアも来ているのか?」
「そうですよ、それが?」
「……なら、勝ったも同然だな。このまま全員捕まえるぞ!!」
「はい!!」
黒魔術教団は、とんでもない人数を従えている者達である。その人数だけが、彼らの強みと言えるだろう。
黒魔術教団を壊滅させ、全員を捕縛するという新たな目的のために……妖精の尻尾は戦い続けるのであった。