FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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ジョーカー

「……それで、なんでお前は俺の力を測ろうとしてたんだよ。」

 

「……」

 

「……おい、なんとか言ったらどうなんだよ。」

 

クォーリとの戦いを終えて、再びマルク達はジュビア達の居る家屋へと戻っていた。そして、クォーリから話を聞こうと一旦中に入っていたのだが、どうにもクォーリの様子がおかしいのだ。先程から、ずっと黙り続けているのだ。

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「なんで急に口調変えて……」

 

「クォーリが言っとったやろ?自分の体の中には、育て親がいるって。」

 

「あんたが、その育て親ってわけね。」

 

マルクの頭の上に乗って、シャルルがそう言う。それに対してクォーリ…否、彼の育て親であるフリーゾは頷く。

いつのまに入れ替わったのか全く気づかなかったが、恐らく黙っているどこかで入れ替わったのだろう。

 

「でや、何であんたの力を測ろうとしたって話やねんけど…アクノロギアに対して、あんたが使えるかもしれんからや。」

 

「俺が、アクノロギアに……?」

 

「せや。アクノロギアはホンマに強い…竜の王でありながら、竜を狩ることだけを考えているとんでもない奴や。

あのイグニールでさえ勝たれへんかったんやからな……」

 

「……けれど、俺達は一年前の大魔闘演武じゃあドラゴンに勝つことは出来なかった。

それよりも強いアクノロギアに勝つなんて……難しいんじゃないのか?」

 

「なんや、まだ気づいてないんかいな。あんたは、ドラゴンに勝てるくらいの強さはあるんやで?」

 

「……は?」

 

マルクは絶句している。確かに、自分はあの時よりもかなり強くなったとマルクは感じている。新しい力もあるし、格段に戦闘能力に差はあるだろう。しかし、それでドラゴンに勝てるくらいの強さがあるとは、イマイチ理解ができていない。

 

「そもそも、あんたの力……悪魔のそれは、元々ドラゴンを屠れるレベルのもんや。実際、覚えがあるんちゃうか?」

 

「覚え……」

 

ふと思い出したのは、ドラゴン達と戦っている時に見た夢のようなもの。しかし、あれは恐らく現実に起きたことだったのだろう。フリーゾが言っているのは、おそらくその部分だ。

 

「……」

 

「あるみたいやな……多分、あんたには自信が無いんやろう。」

 

「自信って、なんの……」

 

「勝負事に関しての自信や。自分では、『○○に勝つ!』言うてるけど…実はそんなに勝負で勝ったことないやろう?」

 

「うぐっ……」

 

マルクは、自分の戦績を思い出しながら苦々しい表情になる。事実ではある。基本、マルクは重要であろう勝負事で勝ててないことが多い。

六魔将軍(オラシオンセイス)との戦いの時は、誰とも戦っておらず。エドラスではギリギリと言ったところで、悪魔の心臓(グリモアハート)との戦いの時は、アズマに負ける。大魔闘演武の時も、クォーリに自身の力で勝ったとも言いづらい。冥府の門(タルタロス)の時は、囚われていたので基本戦っておらず……

 

「……確かに、全く勝ててない…」

 

「まぁ、そういうことやな。あんたの場合、相手が悪かったのもあるが…自分の力で戦って勝った、って自信が無いんや。」

 

「いや単純に実力が足りてないだけで……」

 

「そういう所やで。相性の問題を加味して考えぇや、絶対相性が悪い戦いってあったはずや。

……まぁ、今はそんなこと考えんでいいな。」

 

フリーゾはため息を吐きながら、改めてマルクを見すえる。その目は、何かを覚悟を決めている目だった。

 

「あんたの力、今からできる限り仕上げんで。ウチもずっとクォーリの体乗っ取ってる訳には行かんし、クォーリにも私情があるからな。」

 

「……なんで、俺を?」

 

「まぁアクノロギア云々もあるけど……ヴァレルト…いや、イービラーの忘れ形見やしな……今じゃあ、魂だけとはいえドラゴンはウチだけや……できる限り、あんたらの力を仕上げておこうとも思ってる。」

 

「……ら?」

 

「グランディーネの娘、あんたもやで。」

 

「わ、私もですか?」

 

「せや、あんたもドラゴンフォースをもっと使いこなせるように今から特訓や。

幸い、ここら辺の空気はあんたに力を与えてくれるやろうし、魔力に関しても問題ないやろう。」

 

フリーゾはウェンディに視線を向けて宣言する。突然話を振られて驚いたウェンディだったが、直ぐにジュビアに視線を向け直す。

 

「あぁ、その娘に関してはウチが何とかしたるわ。氷作るだけが氷竜の力やないんやからな。」

 

「いや、氷作るから氷竜なんだろ?」

 

「まぁそれも、そうやねんけどな……ま、見とき。」

 

そう言って、フリーゾはジュビアのデコに手を当てて目を瞑る。数十秒ほど経った頃だろうか。突然目を見開いて、フリーゾはジュビアに自分の魔力を通す。

 

「……ほい、これでええで。」

 

「え、今何したんだ。」

 

「熱出してるんやろ?知恵熱とかじゃなくて、微妙な風邪気味やったみたいやし、病原菌を凍らせたんや。」

 

「……病原菌って…」

 

ハッキリいえば、とんでもない器用さである。病原菌だなんて、肉眼で見えない程の小さいものを凍らせる……そんなことをいとも簡単にやってのけているのだ。

 

「しばらくしたら、目を覚ますやろうな。病原菌を殺しただけやし、完全に回復するにはちよっと時間かかるやろう。

その間に、あんたらの力を仕上げんで。」

 

「は、はい!」

 

「一応、あんたが本当にジュビアを治したかどうか確認するために、ここに残って確認経過をしておくわ。」

 

「それでええよ、あんたらからしたら信じられへんやろうしな。」

 

そう言って、フリーゾは部屋から出ていく。ウェンディ達3人は顔を見合わせて、そのままシャルルを残して一旦部屋から出ていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら!もっと頑張りや!あんたらの力こんなもんやないやろ!!」

 

「め、滅茶苦茶スパルタじゃないかこいつ……」

 

「で、でも私達を強くしてくれようと、特訓してくれてるんだし……」

 

何十分か経過したころ、既にマルクとウェンディの膝が笑うほどに、2人は疲れきっていた。ずっと戦い通しだったのだ、いくらこの辺一帯の空気がよかったり、魔力が供給され続けているといっても疲労は溜まり続ける一方である。

 

「……マルク、あんたは自分の力をもっと研究してみ。あんたの中に取り込んだのは、仲間である6体の悪魔を食らった暴食の悪魔や。

ウェンディ、あんたには言うことは無い。ドラゴンフォースをもっと安定させるために魔力をもっと増やすんや。」

 

「「は、はいぃ!」」

 

指示を出しながら、フリーゾはひたすらに2人をいじめぬく。しかし、2人は一生懸命すぎてまだ気づいていないが、既に形は整っているのだ。あとはそれを自分の意思で気づけるかどうかが問題なのである。

 

「……」

 

マルクは、目を瞑って意識を集中させる。グラトニーは、一体どのような悪魔達を食べたのか。

その記憶を、グラトニーの記憶を辿りながら考えていく。

 

「すー……はー……」

 

そしてウェンディは、ひたすらに深呼吸を繰り返す。空気を体の中に取り込み、自身の魔力へと変換させるために。

 

「……5分や、5分経ったら成果を見せてもらうで。」

 

フリーゾはそう言って、地面に座る。まだ未熟とはいえ、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)2人を相手にするのは、中々骨が折れるからだ。

今できることを、精一杯行っている2人を見ながらふと生きていた頃を思い出した。クォーリに滅竜魔法を覚えさせている時のことを。

 

「……懐かしいなぁ…」

 

『教えていた時のことか?俺を。』

 

「せやで……いやぁ、あん時のあんたは泣き虫やからめっちゃ困ったわ。ま、その分覚えもめっちゃ早かったけどな。」

 

『当たり前だろ。天才だぞ俺は。』

 

「はいはい……昔はあんなけ可愛かったっちゅーに…今は自信過剰のカッコつけにまでなってるなんてなぁ……」

 

頭の中でクォーリと会話しながら、フリーゾは思い出に浸る。だが、ふと気づけばウェンディとマルクの2人に、変化が訪れていた。

 

『おい、あの二人…』

 

「ウェンディはドラゴンフォースを……完全に習得しかけてんな。マルクの方は……なんやあれ、クォーリを戦った時とは別の姿になりかけてんで。」

 

『多分、力の再現だろうな……食らった悪魔の力のな。いかにその力を最大限に活かせるか、ってコンセプトであいつは形を作り上げるらしい。』

 

「つまり……何かしらの力の顕現ってことかいな。」

 

『ま、お楽しみってことだ。発現してみるまでのな。』

 

ウェンディの髪の色が、青色から薄紫へと変貌していく。マルクはマルクで、段々と体の大きさそのものを変えていく。

 

「……暴食、か。」

 

『あんのか?思うところでもよ。』

 

「七つの大罪って知っとるか?」

 

『言葉だけなら。』

 

「それぞれには、それを司る悪魔がいるっちゅー話やけど……」

 

『おいおい、そいつらって言いたいのか?食らったのは。』

 

フリーゾは真面目な顔で首を横に振る。否定の首振りではなく、それの真偽が分からないために横に振っているのだ。

 

「ウチには、分からん。ヴァレルトが、悪魔を喰らおうとした時には既にその悪魔は6体の同種を食らった後、としか聞いてないからな。

ただ7体の悪魔に、その一体が暴食を名乗ってる……偶然じゃ片付かんやろ。」

 

『……だからって、それがどうとなるわけでもあるまい。マルク・スーリアってやつの評価は簡単には覆らんさ。』

 

「……あんた、案外信頼高いんやなぁ。」

 

『信頼というか……いや、そういうことにしとく。面倒臭い。』

 

クォーリと、フリーゾは目一杯話し込む。勿論、ウェンディとマルクを見ながらの作業となっているので、そこまで深くは話込めないが。

 

「さて……そろそろ来んで。交代するか?」

 

『やりたいようにやれよ、お前がな。教えることは、出来ねぇからな…俺にはよ。』

 

「自己分析がようできてるようやな!!」

 

「━━━もう一度、いいですか?」

 

まずは先に、ウェンディが目を開ける。発現したドラゴンフォースは、簡単に切れるような事がないとだけ、断言できた。

 

「ええで……と言いたいところやけど、マルクの準備が終わってからにするかな……」

 

「俺も、今終わりましたよ……」

 

「えらく、単純そうな見た目になったけど……それでええんか?」

 

「えぇ、それで構いません。」

 

フリーゾが目線をマルクに向けた瞬間に、どうやら彼の準備は終わったようだった。

その姿は、フリーゾからしてみればかなりシンプルな見た目であるが、マルクはそれでいいと感じていた。

 

「因みに……その姿は何の力や?」

 

「……暴食とは違うまた新たな姿……そうですね、これは…憤怒…憤怒怒り(フューリー・ラース)とでも名付けますよ。」

 

「憤怒……怒りの力。」

 

「どんな力があるのかは、今から戦って見ればわかると思いますよ……」

 

「なるほどな……にしても、あんたますますドラゴンからかけ離れていってないか?」

 

「元々イービラーでさえ、元々の力じゃなくて悪魔の力を行使してたんだ……けど、ヴァレルトの力がなくなったわけじゃない……筈です。」

 

マルクは、少しだけ言葉に詰まる。滅竜魔導士じゃない、と言われれば確かにその通りなのだ。だが、イービラーは自分がヴァレルトだった時代の時の技は覚えているのかよくわかっていない。

唯一名残のある紫電魔光壁でさえ、別の技として変わってしまっているのだから。

 

「けど、俺を育ててくれたのはヴァレルトじゃなくてイービラーだ……なるべく、こっちの方の力を使っていきますよ……」

 

「……なるほどな。ま、ええわ……あんたが戦ってくれるならな。んじゃ、行くで!!」

 

「「はいっ!!」」

 

再び、フリーゾの特訓がこの場所で始まる。その姿をシャルルとともに、少しづつ体調が良くなってきているジュビアが、覗いているのであった。


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