「真氷竜の、咆哮!」
「魔龍の咆哮!」
クォーリが、ブレスを放つ。それを打ち消そうと、マルクがブレスを放つ。2人の戦いは、熾烈を極めていた。
戦っている間に移動したのか、既に場所は雨が降っている村ではなく、その隣にある平原だった。
「ぐっ……!」
「どうしたァ!?鈍ってきているぞ動きがァ!!」
クォーリは叫びながら、両腕を振り回して氷を飛ばしてくる。魔力をものすごい速度で消費しているのもあるが、それ以上にクォーリと戦っているだけで体温が奪われていくのがわかるのだ。
クォーリが新たに手に入れた力、モード真氷竜。それは、その場に立っているだけで周りの木々が凍りついてくるほどに極寒の寒さを誇っていた。
「濃魔一閃!!」
「遅い!!」
飛んできた氷を新技で砕いていくが、それでは堂々巡りである。しかも、向こうは寒さで体力を奪われる心配がないため、堂々巡りしていてはジリ貧で確実に負ける。
「増やしてやるよ、もっと手数をな!!!!真氷竜の複腕!!」
「氷の、腕…?」
クォーリの背中から、まるでドラゴンの腕のような形の氷の造形が生えてくる。ただの氷の造形なら問題なんて皆無なのだが、クォーリはそれをわざとらしく動かしまくっていた。
「気持ち悪っ!!」
「へっ……暇があるのかァ!?んな事言ってるよォ!!」
「ちぃ……!」
さらに濃い魔力を捻出するマルク。新たな滅竜奥義である濃魔一閃のおかげか、その魔力はとんでもない速度で減っていく。もう魔力がすっからかんと言っても過言ではない。
何せ、この魔法は生物以外の魔力の伴うもの全てを、破壊することが出来る技なのだ。
だが、逆をいえば素手で戦うような相手には効き目は薄いのだが。
「あんまり調子乗っていると……痛い目に合わせんぞ……!」
「やれんのかァ!?お前がァ!!」
「大魔闘演武のこともう忘れたのかぁ!?」
大声を張り上げながら、マルクは虚勢を張る。このままでは、魔力を使い切る前に本当に寒さで倒されてしまう。
すでに皮膚の何割かは凍ってしまっている。まだ筋肉や、骨まで凍っていないのが不思議なくらいである。
「ギリギリの勝負ってかぁ……!」
「暇があんのかァ!?ブツブツ言ってるよォ!!」
魔力がゼロになるのが先か、凍りつくのが先か。皮膚の氷を弾き飛ばすように、凍っているところに魔力を集中させて、無理やり剥がす。剥がしたところから、血が出ていないのが不思議である。
だが、おかげでマルクの魔力は━━━
「うっ……!」
「……おいおい、魔力の使いすぎかよ。もう魔力がすっからかんになったのか?」
「あぁ……けど、これでいい。魔力がゼロになるのが俺の目的だったわけだ……」
「……あぁ、なるほど。だからか。」
何やら目線をマルクから外し、クォーリは1人で話していた。どうやら、彼の親であるフリーゾが何やらクォーリに言ったのだろう。元々、今この状況を作り出したのは他でもないフリーゾなのだ。
「いいぜ、待っててやるよ。見せてもらうには、十分だろうしな……お前の新しい力をよ。」
「後悔すんなよ…モード、悪魔龍…!」
マルクの無くなった魔力源に、呪力が変換されて注ぎ込まれていく。何も取り込んでいなかった胃袋に、液体が満たされていくような感覚。
そしてこれが、マルクの新たな力である。
「う、ぐ……!」
「体の形が変わっていく……悪魔、か。」
マルクの体に、黒い鎧のようなものが取り付けられていく。マルクの体に張り付くような形のその鎧は、見ているだけで直感的にやばいと思わせられるものだった。
「ぐ、が……ここ、から……!」
「……?おい、何して━━━」
だが、マルクはそこから無理矢理形を変え始める。彼からしてみれば、この鎧は……グラトニーを彷彿させるものだったからだ。
彼の力と、彼が同類を食らって手に入れた力。それらの力を発揮するためには、今の形は中途半端でもあるのだ。1個体である悪魔を自らに写すのは、力を狭める行為だ。故に、マルクはグラトニーの力を、自分の知っているグラトニーの姿とは別に、新たに作り出していく。
その結果、両腕は鎧ではなく、ドラゴンの頭のようなものが作られ、本来顔がある位置にも似たような頭が形成される。
そして、尻尾が生え、足は魔力で太い形に形成されていく。
「グルルルルル……」
「……おいおい、操れてんのか?これ。暴走しているようにしか見えねぇぞ、どう見ても。」
「……いや、ちゃんと意識もあるよ。ただそうだな……お前の知っている、俺の魔力を形にしたって言うべきか……」
「……魔力を食らう魔力、なるほどだから3つ首のドラゴン…」
クォーリは納得したように声を出す。だが、両腕が頭となり攻撃方法が少なくなっている時点で、クォーリは正直あまり強そうには見えていなかった。
「……舐めてると、腹に穴あくぞ?そんな気がする……からな!!」
「おっと……!?」
マルクは、片腕を振りかざす。すると魔力によって形成された頭だからなのか、首は伸びて真っ直ぐクォーリに向かってきていたのだ。
だが、そんな直線的な動きなら見切れるものであり、クォーリは簡単にそれを避けた。
だが、それが地面に落ちた瞬間……
「こ、こいつどこまで……」
「お前が喰らわれるまでさ。そいつは、なんでも食らう頭だ。何をどうされようとも、絶対に追いかけ続けるハンターだ。」
「なら、首なら切り落としてやる……!」
そう言って、クォーリは長く伸びた首を狙って、魔法を放つ。薄く鋭い刃のような氷の魔法を、首を切り落とすために使う。すると、呆気なく首は切り落とされる。
「へ…!お前、前より弱くなって……うぉっ!?」
「言っただろ?
クォーリの顔面横を、先程の頭が通り過ぎる。しかも、それは先程切り落としたばかりの頭だった。
「さ、さっき切り落としただろうが!!」
「例え切り落とされようとも、何か食らうものがある限り、それを動くエネルギーに変換し続け、追いかけ続ける。
ちなみに、その頭はそうやって動き続ける訳だが……魔力の塊なんだから、当然首も再生するぞ。」
そう言われて、クォーリは気づいた。いつの間にかドラゴンの頭の総数が一つ増えていたことに。
切り落とされた頭と、離れた首から再生した頭……もう1つの腕の方と、マルク自身の変化した頭を含めて合計4つになっていた。
「この形態は、意地でも何でも喰らう形態だ。そうだな……
「……まだ増やす気か?その言葉が出てくるってことはよ。」
「おう、俺の体の中にいた悪魔、グラトニーは自身の同類の悪魔を6体食った。力が欲しかったらしいからな。
だか、あいつはそれで自分の力が高まった、としか思っていなかった。んでもって……俺はその残り6つの力を使えるようにしなければならない。」
「へぇ……!」
頭からの攻撃を避けながら、クォーリはちゃんと返事を返す。クォーリは器用にも、頭の攻撃を避けながらマルクの隙を伺っていたのだ。
そして、マルクの話を聞きながら、必死に弱点を探し始める。
「言っておくが……初めの3つ首は、この魔力が形になったものだが……それは、俺の魔力の性質が形になったものの結果だ。『過程』の方をちゃんと見て考えねぇとジリ貧になるだけだぞ?」
「過程、だァ……?」
マルクのヒントを元に、クォーリは避けながら考える。表情はないはずだが、マルクのドラゴンの頭が全てニヤニヤ笑っているように見えてきたが、あえて無視をしていく。
まず、過程と言えば体の変化である。両腕と頭がドラゴンの首と頭に変換されて、体もドラゴンのようなものに変貌していった。
体の変化、が答えなわけが無い。あまりにもその間に行われたことが多すぎるからだ。
ならば、その過程の間の中にある『過程』が答えだろう。
「頭の変化……足の変化…体の変化……
クォーリはハッとした。そうだ、全てを食らう頭も切り落としたら増えたのだ。そして、体が変貌した時も『頭が増えた』のだ。
つまり、答えは頭が増える……ということだろう。つまり、半端な攻撃をしようものなら……あのドラゴンの頭は増えて、確かにジリ貧になるということである。
「なら、本体を……!」
「ヒントを与えたとはいえ……すぐに気づくもんなのかね、こういうのは……!」
クォーリは、動く2つの頭を無視してマルクに一直線に突っ込んでくる。そして、その体を凍らせるために巨大な冷気を再びマルクに向かって吐き出す。
「真氷竜の、咆哮!」
「それで凍るほど、俺ァ甘くねぇぞ!!」
余っているもう一本の腕を、伸ばしてぐちゃぐちゃにまとめて巨大な壁を作るマルク。魔力を食らう魔力の塊である。防ごうと思ったら、クォーリのブレスなんて簡単に防げてしまうのだ。だが、クォーリの目的は別にあった。
「おいおい……
「っ!?」
突如、マルクの体が動かなくなってくる。なんと、マルクの体が凍り始めていたのだ。無論、これはクォーリのブレスは直接的には一切関係ない。
クォーリのブレスによる超低温のせいで、空気中の水分が一気に氷結化、それをマルクはもろに影響を受けてしまっているのだ。
「こんなん喰らえば……!」
「一瞬でも止められたら勝ちなんだよ!!真氷竜の━━━」
クォーリは一瞬で間を詰める。最早伸ばしきらずとも腕が当たってしまうかのような距離。
だが、マルクも未だその一瞬で打開策を練って、即座に行った。
「この……!だったらもっと頭を増やしゃあいい!!」
「っとぉ!?」
クォーリの体スレスレで、頭が通り過ぎる。なんと、マルクの脇腹から頭が形成されたのだ。
文字通り、魔力やそれ以外のものを食らうための頭が、大量に生えてくる大食らいの形態なのだ。
「━━━けど、そんな頻発して作れねぇみてぇだなそれ!!」
「くそっ……!」
「改めて凍りつきな……!真氷竜の氷塊!!」
クォーリは、一気にマルクを凍らせる。しかし、マルクだけを凍らせるのではなく、どちらかと言えばマルクを巨大な氷塊の中に入れた、という方が正しいのだ。
それだけ巨大な氷塊の中に、マルクは閉じ込められてしまったのだから。なにせ、雲を通り越すほどの巨大な氷である。簡単には抜け出せそうにもない。
「……」
「見事にカチコチだなぁ……おっと、思うなよ?脱出しようなんてな。」
氷をノックするように叩きながら、クォーリは余裕綽々といった風で笑っていた。
反対に、マルクの方は表情こそ変えられないが、なんとか氷から脱出しようとしていた。だが、気づけばマルクの姿は元に戻っており、先程の形態のような力はもう発揮できない。
「ただ凍らすだけの氷じゃねぇんだよ、その氷はな。そいつは封じるんだよ、魔法を。魔法すらも凍らせる………それが、力なんだよ真氷竜のな。」
不敵な笑みを浮かべながら、クォーリは高笑いをし始める。大魔闘演武の時に、辛酸を飲まされたのがよほど堪えていたようだ。
「……さて、ま。このまま凍らせとくわけにもいかねぇし、しゃあねぇから溶かしてやるよ。」
そう言いながら、クォーリは氷を溶かし始める。今回のこの2人の勝負は、マルクではなく、クォーリの勝利だった。