「ウェンディ……ジュビアさんの容態はどうだ?」
窓越しから、マルクがウェンディに尋ねる。しかし、ウェンディはとてもつらそうに返事するだけだ。
「私の治癒魔法でも全然熱が引かない……」
「…今頃ナツ達はセイバーのギルドに到着したかしら。」
「着いてるといいけど……でも、それにしてもなんでセイバーのギルドにグレイさんのいる所が分かる、って思ったんだろうなナツさん。」
「……それは私にもわからないわ。」
「グレイさんの知り合いでもいるのかな…?」
「それはリオンさんくらいだと思うが……まぁ、どちらにしても俺達は待つしかないか。」
未だ振り続けている雨を眺めながら、マルクはナツ達の帰りを待つ。そうして待ち続けている内に、マルクは異変が起こり始めているに気付いた。
「……なんか、寒くないか?」
「雨で冷えたんじゃ……って思ったけど、確かに寒いわね。雨も心無しか━━━」
「……シャルル、家の中戻っとけ…誰か来た。」
マルクは立ち上がり、構えを取る。それだけで何か察したのか、無言で頷いてそのまま部屋に戻る。
「……この寒さ、まさかグレイさんの魔法……」
「違うね、魔法だよ……俺のな。」
「……その声…クォーリか。」
「あぁ俺だ。探してるんだってな?俺を。言ってたぜ、ナツ・ドラグニルがよ。」
姿を現すクォーリ。ナツが探していたから、自分の前に姿を現す……それだけで今の異常性がわかる。
そんな性格じゃないと、一言で断言出来る。
「だからって、お前はここに来るような性格じゃあないだろう。誰だお前。」
「……あー、なるよな…そんな反応に、そりゃあよ。」
頭を搔くクォーリ。どうやら、何か向こうにも事情があるようだ。自分じゃどうしようもできない何かがにあって、マルクを迎えに来たのだと。
「まぁ、言うぞ簡潔に。力を見せろ、お前の。」
「……俺の?なんでお前なんかに見せなきゃならん。」
「ちげぇよ、
クォーリの育ての親であるドラゴン。なぜ今そのドラゴンの話題になるのか。一年前、それぞれの
だが、クォーリの親は未だに生きているかのようなセリフを吐いた。それに、疑問を抱いてしまう。
「……よくわかんねぇな。お前だって俺達の親のドラゴンの真実は知っているはずだろう。
何故だ?」
「
「なっ……」
そして明かされる突然の真実。その事に、マルクは言葉を無くしてしまう。その反応を見て、散々説明し飽きたと言わんばかりにクォーリはため息を吐きながら頭を搔く。
事の顛末は、一年前の
「が、ぐ……!?」
その時、クォーリは運悪く別のクエストを行っている最中だった。スティングやローグ達のように、戦いの場に参戦出来なかったのだ。だが、大陸中に広がるフェイスを見る事は出来た。それに困惑している中、その時の滅竜魔導士達と同じく体の急な変化に苦しんでいた。
「はぁ、はぁ……なんだったんだ、今のは…?」
『相変わらず、そんなカッコつけた喋り方しか出来ひんのやなぁ…』
「っ!?誰だ!!」
『誰だ……って、実の親にそりゃあないんとちゃう?』
「っ……この声、そのなんか撫でるような癇に障る喋り方……フリーゾか!?」
『ほんで余裕なくなったら、普通の喋り方に戻る……せやで、フリーゾさんのお帰りや。』
突如、クォーリの頭の中に響いた声。それは、彼を育ててくれた親であるフリーゾの声だった。
突然のことに、クォーリは驚きを隠せなかった。
『色々あってなぁ……今、あんたに真実を話しておこうと思ったんや。』
「し、真実……!?いやいや、そんなことより周り1面の巨大な物体はなんだ!?こいつとアンタに何が関係してるんだ!?」
『……あー、周りのもんとこっちは関係ないんよ。せやけどな、滅竜魔導士の体ん中からドラゴン達が出ようと思ったみたいやわ。んでこっちも影響受けたみたい。』
「ド、滅竜魔導士の体の中から……ドラゴン!?」
次々と暴露されていく驚愕の事態。最早、驚き続きでクォーリの頭の中は困惑しきっていた。
だが、それでも言葉の端々に違和感を感じることくらいは出来た。そう、違和感とは
「……いや、いやいや。ちょっと待てよフリーゾ。仮に出てきたのが本当だとしても、だ。
ならなんでお前は俺の体から出てこない?」
『……その前に、なんで滅竜魔導士の体内からドラゴンが出てきたかの説明をしとかなな。』
「……」
道端で座り込みながら、クォーリはフリーゾの話を聞くことにした。喋り方はともかくとしても、その声音は真剣のそれそのものだったからだ。
『まずな…滅竜魔導士の体内におるドラゴン達は皆死んどる。アクノロギアの滅竜魔法によってな。』
「アクノロギア……」
『殆どのドラゴンは、魂だけとはいえ滅竜魔導士の体内に避難できた。それでな、滅竜魔導士にドラゴン化を防ぐ抗体を作るためやったんや。
そんで、いつかの時になったら全員体の中から出てきて真実を話そうて……そう決めとったんや。』
「……お前が出られないのは?」
『全員が、ほぼ同時にやられたわけやない。誰かが足止めして、アクノロギアから魂だけでも逃がす役割を果たさなあかんかったんや。
それが、ウチや。』
その言葉を聞いて、クォーリは自分が驚くかと思っていた。しかし、驚きよりも先に納得したような感情があった。
やはり、というかなんというか……すっとそれが受け入れることが出来た。
『っちゅーても、ギリギリお前さんの中に避難はできたわ。魂の大部分持っていかれて、ほんで何とか魔力も引っ張ってこれた。
抗体も出来た……けど、出た瞬間にウチは消える。』
「……それが怖ぇのか?」
『いや……怖いとか、そんなんやない。実態化するだけの力も残されてないんや。それが災いして、お前さんの1部みたいにくっついてしまってるんやウチは。』
「悪霊かなんかかよお前……」
苦笑しながら、クォーリはそう呟く。魂の力が小さすぎるが故に、いざ出ようと思っていた矢先、くっついて出られなくなった……間抜けだとクォーリは思った。だが、もう二度と会うことがないかもしれないとまで思っていた親が、こうして出てきて話してくれるのがまだ続くのだと考えたら、安心感があった。
『これから……あんたにはウチの指導にしたがって強なってもらうで。子供時代ん時みたいにな。』
「……つっても、滅竜奥義も滅竜魔法も教えることはなくなったんじゃねぇのか。」
『いや?さっきは災いして言うたけど……ウチが取り付いていることに対してのメリットが、一つだけあったんや。』
「メリット?」
『そう……それは、あんたがウチの魔法と魔力を再現出来る、っちゅう事や。』
「っ!?」
ドラゴンの魔力と、その魔法。強烈にも程がある。いくら戦っていなかったとはいえ、滅竜魔導士の魔法であっても倒せなかったドラゴン。その力を使えると考えれば、確かにメリットではあるのだ。
『…んでな、一つだけ試してほしいことがあるんや。』
「試してほしいこと?」
『アクノロギアが、元は人間って知っとるか?』
「……まぁ、その辺は。」
『元人間、つまりはあいつも元滅竜魔導士やったんや。今はドラゴンやけどな。
けどな、いくらあいつが強い言うても……もしかしたら、の可能性があるかもしれんのや。それを確認したいために、時が来たら━━━』
「……マルク・スーリア。戦うってことだよ、お前と。」
「なんでそうなる。」
「知るか、教えてくんねぇんだわこれ以上を。」
時は戻り、現代。睨み合うマルクとクォーリは、未だ戦闘態勢をとっていない。
「……けどま、時が来たら、ってことか……何だか知らねぇけど、戦えばいいってことだな?」
「あぁ……フリーゾ曰く、お前じゃないとダメだそうだ。死ぬ気でかかってこい。」
「……言われなくても、お前を殺す気でかかるよ。新しい力を試して見たいと思ってたところだ……用事が終わったらすぐ帰れ、マジで。」
「人を邪険に扱う才能だけはあるのかもなお前……」
体勢はそのままに、2人は話し合っていく。だが、表情は真剣そのものだった。
お互い、構えながら様子を見計らっていく。近くの家に、ウェンディ達がいることが分かっているが、どうにもクォーリが移動している暇はないと言いたげだったのだ。
「……一応聞いていいか?」
「後ろの家にいる奴らには、被害は出さねぇようにするよ。力見ながら離れりゃあいい。
どうせ雨が降ってんだから目立つ。」
「そうかよ……」
雨の音だけが響く。マルクは、ひとつだけ気になっていた。クォーリがここに来てからというもの、どうにも気温が下がった気がしてならないのだ。だが、仮に下がったのだとすれば……既に、そこにいるだけで周りの気温を下げるほどになっている、ということになる。
「……んじゃ……行くぞ!」
「っ!」
クォーリは、マルクに向かって真っ直ぐに突っ込んでいく。その際に、巨大な氷の塊を飛ばして、自分の体をマルクに見せないようにする。
「そんな目くらまし程度で━━!」
ブレスを放ち、後ろにいるであろうクォーリ諸共吹き飛ばす予定だった。
実際、当たればこの一撃だけでクォーリの魔力の殆どを持っていけるのだ。マルクはそう確信していた。
「━━━上だ。」
「なっ……ぐっ!?」
だが、既にクォーリはマルクの上空を捉えていた。氷の翼を生やし、さらにその両腕に、氷でできたまるで獣のような武装がなされていた。
「フリーゾがいることでできる、俺の新しい力……『モード真氷竜』今の俺は、小型化したドラゴンみたいなもんだ……戦闘力は恐ろしく高いと思え。」
マルクの頭を抑えながら、クォーリは一切表情を変えずにそう言葉を放つ。今手を出せば、まずマルクの頭を氷漬けになるだろう。
だが、今のマルクにそのような事は関係ない。
「そうか……なら、今の俺に魔力関係でまとった武装は効かないと思え……!」
マルクの腕に、即座に高濃度の魔力が集中する。クォーリは、それにいち早く気づき、マルクから離れる……が、クォーリは気づいていなかった。マルクの両足にも、同様のことが起きていたということを。
「逃がすか!!」
「早っ……!?」
「俺なりに編み出した滅竜奥義だ……!滅竜奥義!『濃魔一閃』!!」
振るわれる拳、クォーリは即座に氷をまとった両腕でガードするつもりだった。
それは氷とはいえ、スティングやローグを拘束できる氷よりも、はるかに硬いつもりだった。だが、どれだけ固くても意味をなさないのだ。
「ダラァ!!」
「氷が、消えっ━━━!?」
両腕の上から、マルクの拳がクォーリに入る。ガードしたとはいえ、それなりにクォーリの腕にダメージが入る。
「ぐっ……なんだ、今の……」
「言っただろ……俺なりの滅竜奥義だってな。俺は、自分の力をどれだけ効率よく動かせるか考えてたんだ。
で、考えた結果が……
「……非効率的に魔力を消費する、だあ……?とんだ大馬鹿だ…」
一旦氷を解除して、両腕を軽く動かしながら慣らして行くクォーリ。お互い、軽く手の内を見せ合いながらの戦い。それを、窓からシャルルがじっと見ているのであった。