FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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新たな虎の元へと

「見事にあそこだけ雨が降ってるわね。」

 

「怪しいですね……」

 

ナツ達は、今仲間を探している途中だった。ルーシィの情報網を頼りに、『アメフラシ村』と呼ばれる場所に向かうことになった。そこは、ずっと雨が降っている場所、ということらしい。

 

「けど……前までこれ治ってましたよね?」

 

「やっぱり気分の問題なのかしらね……今はそういう気分、ってことかも。」

 

「なんかあったのは間違いないみたいですけど……」

 

マルクとルーシィが話し合う。ずっと雨が降っているなんて、彼女達の中では一人しか思いつかないのだ。

が、真面目に話してるのはこの2人とウェンディとシャルルの2人だった。

 

「こっちが雨!こっちは晴れ!こっちが雨!!」

 

「ふはは、まだまだ甘いなハッピー。今の時代は半分雨!」

 

「半分雨かー!!」

 

「そんなに楽しいの?」

 

「いや、俺に聞かれても困るんだけど……」

 

一同は、村の中に入り中を突き進んでいく。しかし、家屋や小さな倉庫があるばかりでそれ以外の生物の姿は一切見ることがない。

 

「人の気配が全くしない……」

 

「誰も住んでないみたいですね……」

 

「いや、ジュビアの匂いがする……こっちだ。」

 

「ナツさんどんな嗅覚してるんですか……」

 

歩き続けていくと、この大雨の中で向こう側に人影が見える。この雨の中、当然こんなずっと雨を降らし続ける人物は1人しか思いつかない。

ジュビア・ロクサー、グレイに惚れ込んでいる彼女なら、グレイと共に住んでいるかもしれないと踏んだのだ。

 

「あ、あれジュビアさんじゃないですか?」

 

「お!おーい!ジュビアー!!」

 

お互いの顔が認識できる距離まで近づく。しかし、何やらジュビアはとても感動したかのような顔になっていた。

 

「グレイ様……」

 

「迎えに来たぜ、ジュビア。」

 

「……あれ、ジュビアさんなんか様子おかしいような……」

 

「やけに感動してるわね……」

 

ルーシィとマルクは、ジュビアのその様子に違和感を感じていたが、その答えは直後の彼女の行動で判明した。

 

「グレイ様!ジュビアはジュビアはー!!」

 

「落ち着け……よ!元気だったか?」

 

「相変わらずのテンションで安心したわ。」

 

「お久しぶりですジュビアさん!」

 

「どうも、ジュビアさん。」

 

どうやら、ナツをグレイと勘違いしていたらしく、一瞬は飛び込んできたが、改めて声をかけ直すと理解し直したのか驚いた表情になっていた。

 

「ナツさん…ルーシィに、ウェンディ……マルクも……」

 

「オイラたちもいるよ!」

 

「あんたこんなところに1人で住んでるの?」

 

シャルルがそう問うが、ジュビアは涙を流し始める。そしてさらに、そのまま安心しきったかのように、涙を流しながら倒れ込む。すんでの所で、ナツが抱えて事なきを得たが。

 

「オイ!どうした!?」

 

「ジュビア!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい熱です……」

 

「こんな雨の中にいたら具合も悪くなるわよ……ここってジュビアの家かしら?」

 

ジュビアが倒れた、ということで傍にあった家の中に入る一同。一旦ジュビアを薄着にさせてから、ベッドで寝かせて濡れて服は乾かしていた。

 

「うーん……少しグレイの匂いもするぞ。」

 

「グレイもいるの?」

 

「はぁ、はぁ……ジュビアは、グレイ様と……はぁ…ここに住んでました……」

 

「「えっ!?」」

 

息を切らせながら、ジュビアはあったことを語る。まだそういう話に免疫がないためか、ルーシィとウェンディは顔を真っ赤にしていた。

 

「2人で…!」

 

「すごいドヤ顔……」

 

「一緒に食事をして…一緒に修行をして…一緒に仕事をして……一緒にベッドで━━━」

 

「っ!!」

 

「言わなくていいから!!」

 

「━━━寝ようとして蹴飛ばされたり。」

 

こんな雨こそ降るような状況になってしまっているが、ジュビアは相変わらず変わりないと、ルーシィ達は妙な安心感があった。

だが、幸せそうに語るジュビアの顔が少しだけ曇った。

 

「幸せでした……ですがある日……グレイ様のからだに、黒い跡が出てきて…グレイ様は、心配するなと仰いましたが……その日以来1人で外出することが多くなって、帰ってこなくなったのが半年前です。」

 

「そんな……」

 

「ジュビアさんに黙って、ですか……」

 

グレイの行動に、それぞれの反応を見せる一同。その中で、ナツは少しだけ怒っていた。

 

「勝手に出ていくとかあの野郎……」

 

「あんたが言う?」

 

「俺は遺書を残しただろ。」

 

「ナツ…書き置きね。」

 

「それでも勝手に出て行ったのは同じ。残された方はね……残された方は……」

 

ルーシィが顔を伏せる。一年前の妖精の尻尾(フェアリーテイル)がなくなった時のことを言っているのだろう。あの時、マカロフの解散宣言よりも早くナツはいなくなっていた。

それが、同じチームであるルーシィには寂しさを覚えさせていたようだ。

 

「イチャイチャしないでください。」

 

「してないわよ!!」

 

「それで、グレイはどこにいるか分からないの?」

 

「分かっていたら、ここにはいないでしょ。」

 

「……ジュビアは、何日も探して歩きました。」

 

ジュビアは、グレイを探した時のことを思い出す。脇目も振らず、どこに消えたのかと探す日々。

だが、その結果は言うまでもないだろう。

 

「でも……グレイ様は見つからなくて…待つことにしたんです。ここはグレイ様とジュビアの…思い出が詰まっている家だから……きっといつか…グレイ様はここに帰ってくるって。」

 

涙を流すジュビア。彼との思い出に泣いているのではなく、彼の心配が形になった涙だろう。それほどまでに、ジュビアはグレイに惚れ込んでいた。

 

「……ごめんなさい、久しぶりにあったのに。」

 

「俺が見つけてやる。いや、必ず見つける……仲間を全員集めるんだ。妖精の尻尾を復活させるために。」

 

ナツのその言葉で安心したのか、ジュビアはそのまま幸せそうな顔で眠り始めた。余程疲れていたのだろう。

一同は、ジュビアをしばらく寝かせるためにその家から外に出て雨を眺めていた。

 

「ジュビアさん眠っちゃいました。」

 

「ま、元々かなり疲れてたみたいだしな……」

 

「見つけるって言ってもアテあるの?」

 

「あたしのメモでも足取りが掴めてないんだー…」

 

ナツは、黙っていた。その顔は少しだけ怖いものを感じさせる程のものだったが、しかし何か考えがあるようだ。

 

「どうしたのナツ、そんなに怖い顔しちゃって。」

 

「確かこの近くだったよな。」

 

「?」

 

剣咬の虎(セイバートゥース)に行くぞ。」

 

唐突な宣言、その宣言にナツ以外のこの場の全員があっけに取られていた。

 

「なんでセイバー?」

 

「……わりぃ、今はちょっと理由が話せねぇ。」

 

「セイバー……ナツさん、行くなら一つ確かめに行ってほしいことがあるんですが。」

 

「んぁ?あんまり面倒そうならやんねーぞ。」

 

「違いますよ……セイバーにいるもう氷の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)のこと覚えてますか?」

 

クォーリ。一時期はマルクは彼に目をつけられていたが、大魔闘演武以降全く彼の耳にはクォーリのことは入ってこなかった。そう、大魔闘演武以降である。

 

「あー、いたなそんなやつ。で、そいつがどうした?」

 

「……一年前の冥府の門(タルタロス)との戦いの時、あいつはいませんでした。そして、俺達の体内にいたであろう親のドラゴンでさえも、あの時の戦いに参加していないんです。

いれば、その理由を聞いてほしいんです。」

 

「……そういや、いなかったなあん時。」

 

「親のドラゴン……いなかったの?」

 

「あぁ、確かいなかったと思うが……というか、話題にすら上がらなかった。話す時間が無かった、という方が分かるんだが……」

 

顎に手を当てて、考えるマルク。しかし、その答えには簡単には辿り着けない。

 

「…うし、いたら聞いてきてやる。」

 

「お願いします。」

 

「出てこなかった…ってことはまだ体内にいるのかな?」

 

「フェイスをガン無視してか……?」

 

「イグニールだってずっとアクノロギアと戦ってたぞ?」

 

一年前、冥府の門との戦いの際に突如として現れたアクノロギア。それと戦い、ギルドの者達から目を離させたのがイグニールだった。

そして、他のドラゴン達は皆フェイスの破壊を行っていたのだ。故に、フェイスが完全に壊れきるのも恐ろしく早かった。

 

「うーん…とりあえずお願いします。」

 

「つーか一緒に来ねぇの?」

 

「いざと言う時に戦える奴がいた方がいいでしょ。ウェンディはジュビアさんの介抱でかかりっきりになるだろうし。」

 

「あぁたしかに……ウェンディがいないと、ジュビアの回復がかなり長引いちゃうもんね。」

 

納得したかのようにルーシィが声を出す。ウェンディの魔法で治せるかどうかはともかく、ジュビアの介抱は絶対の必須条件である。

しかし、それを男性陣がする訳には行かないのでマルクは外に出て監視である。

 

「でも必要あんのか?そんなのって。」

 

「確かにウェンディは1人でも戦えますけどね…けど、だからといって1人で放っておくわけにはいかないでしょう?」

 

「まぁ……私はナツ見とかなきゃいけないし、それ以上に道案内をしないとね……」

 

「おい、それじゃあ俺がまるで方向音痴みたいじゃねぇか。」

 

「ここから確かにセイバーは近いけれど、道わかるの?」

 

「うぐっ……」

 

ルーシィの言った言葉が、ナツを怯ませる。地図を持っていたとしても、ちゃんと見て移動出来るか、と言われているのだろう。

思い当たる節があるのか、反論がなかった。

 

「あんたとハッピーだけにしたら、心配なのよ。だから私もついて行くわよ。」

 

「しょうがねぇなぁ……んじゃ、ルーシィと俺とハッピーがセイバーに行って━━━」

 

「俺とウェンディ、シャルルがここに残るということで。」

 

「うしっ!んじゃあ行くか!」

 

「おー!」

 

声を上げて村を歩き始めるナツ達。それを見送ったあとで、マルクは傍にあったソファに腰をかける。

 

「……」

 

「その、クォーリさんが気になるの?」

 

「あぁ、あいつも滅竜魔導士のはずなんだけどな……って考えて。」

 

「……けど、考えても仕方ないことは仕方ないんじゃないかな?もしかしたら、その時クエストに行っていただけ…って可能性もあるし。」

 

ウェンディの言うことは最もである。しかし、マルクにはどうにも引っかかっているのだ。

あの後、結局セイバーの2人と話すことが出来なかったため、クォーリがいないことなんて気づけなかったのだ。

 

「……今考えてても仕方ないな。食料とかなんかあるかな……病人食でも作ってやらないと。」

 

「そうだね……って、マルク料理出来たっけ?」

 

「……まぁ、うん色々とな。」

 

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)から離れていた頃、住んでいた森で動物や食べれそうな木の実を見つけては、それを調理して食べていた……ということを思い出しながら、マルクはぼかして話す。

その辺の事をウェンディに話すのは、少しばかり気まずいような気がしたからだ。

 

「ナツさん達が戻ってくるまで、どのくらいかかるんだろ……」

 

「まぁ、1週間とか2週間とか…それくらいかかっても帰ってこないのなら…少しばかり様子見に行った方がいいのかもしれないなぁ。」

 

マルクがそう呟きながら、未だ雨が降る空を見上げる。グレイが戻ってくるか来ないか……それは、ナツ達次第なのであった。


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