「が、ァ!!」
「おらァ!」
攻防が繰り広げられていく。黒い魔力が爆発するかのように荒れ狂い、それでさえも燃やすかのような熱い炎が、燃え盛る。
黒い魔力は、放たれる度にその濃さを消していった。だが、濃さが消えていく度に、別のものへと変質していくように感じた。
熱い炎は、地面を焼いて土すらも溶かしていく。炎に込められた魔力を喰らい、さらなる糧としていく。
「
「似て非なるもの、ですかね……俺の中にあるもう1つの魔力源、と言えばまぁ似たようなものなんでしょうけど。」
「……けど、まだ全力じゃあねぇだろ!!」
「そりゃあお互い様!!」
黒い魔力……マルクは自分の中の別の魔力が体に馴染んでいくような感覚を覚えていた。
今までは、痛みを感じていた。ポーリュシカが言っていた『使う度に体が変質していく』というのは、自分の中の魔力が完全に無くなっていないため、それが別の魔力源……悪魔としての力である呪力が、マルクの魔力を食らっている為だった。
そして、喰らわれ続ければその結果悪魔となる……というのが、今マルクが思いついた仮説だった。
ならば、食らうべき魔力を無くせばどうなるか?完全に魔力が無くなった場合、人間は死ぬ。そのため、最低限の魔力は無意識で残すようにしているのだ。
だが、マルクはその魔力でさえも使い切る。すると、体を生かそうと呪力が流れ込んでくるだろう。だが、食らうべき魔力が無いためそこにあるのは『ただの呪力』もしくは『変換された魔力』となるのだ。
「だからせめて……俺の魔力が無くなる前に倒れないでくださいよ!」
「へっ……!」
戦っている当事者であるマルクとナツは気づいていなかったが、マルクの体は段々と『人間』に戻りつつあることに、周りの者達は気づき始めていた。
無論、離れたところで見ているウェンディ達も。
「ねぇ…ウェンディ。マルクの体……戻ってきてない?」
「うん……半身が、あんなに黒かったのに…今は、腕の部分だけしか黒くない……!」
少しだけ見たマルクの異様な姿。それを見たウェンディは自責の念に駆られていた。『気づいてやれなかった』と。無理矢理にでも、聞くべきだったのだ。
たとえマルクに嫌われたとしても、マルクの体を守るために無理矢理にでも聞いておけば良かったと。
だが、今はそれが収まってきていた。マルクが対処法を見つけたからか、ナツが発散してくれているかはともかくとして、マルクは元に戻りつつあるのだ。
「どうしたマルク!軽くなってきてんぞ!!」
「もうちょっと……だから待っててください……よ!滅竜奥義!」
「っ!!」
マルクは、本当の意味での自分の魔力を全て使い切る一撃を、ナツに向ける。この滅竜奥義で、これを行えばどうなるのが自分でも想像がついていない。
「滅竜奥義…!紅蓮爆炎刃!!」
「先出し……!?けど!それなら━━━」
先に、ナツが滅竜奥義を放ちマルクの滅竜奥義を防ごうとする。だが、マルクはそんな状況で逆に笑っていた。
ナツはその笑みに気づいたが、先に発動させてしまっているために、もう止められない。そして、直後に思い出した。マルクの滅竜奥義の1つのことを……
「はぁ、はぁ……ははっ、防ぎきりましたよ?ナツさん……」
「…早まりすぎた、か。そう言えば、あんまり使わないんで忘れてたよ、その魔法。」
「滅竜奥義、紫電魔光壁……あなたの魔法は全部吸収させて貰いましたよ。そして、俺の魔力も……」
ナツの全力を防ぎきったマルク。だが、それで全ての魔力を使い切ったせいか、自らの意識が曖昧になっていくのを感じていた。
気絶一歩手前、というのがしっくりくる感覚だった。なんとか、完全に気絶するのを耐えながら、マルクは自分の魔力源に何がが流れ込んで来るのを感じていた。
目論見通り、と言えればそうかもしれない。しかし、その結果は……
「すー……はー……」
「……スッキリしたか?」
「……えぇ、まぁお陰様で。この魔力を使いこなすための手がかりを、掴んだ気がします……あー、でも待って…まだちょっと頭ふらつきます……」
「マルク!」
ウェンディが駆け寄って、マルクを支える。マルクは、突然の事で驚いたが、しかしそれ以上に安心感を感じていた。
久しぶりに、本当の意味でウェンディと会えたのだから。
「……どうする?止めるか?」
「あー、えっと…これ収まったら…いいですか……ちょっとだけ手合わせ……」
「おう、慣れてねー力扱うのは疲れるのわかるしな。」
大きく笑いながら、ナツはマルクの頭を撫でる。あれだけ戦いあって、それでも膝をつかせることすら出来ない事実が、ナツに対して尊敬の念を寄せることになった。
「……そう言えば、なんでナツさんいるんですか。」
「ルーシィもいるぞ。」
「……ルーシィさんって、今は記者やってたんじゃ……?」
「よく知ってんな、でも俺が連れ戻した。
ナツの言った言葉にマルクは目を丸めた。妖精の尻尾を作り直す……それがどれだけ大変なことか、わかっていない訳では無いだろう。
だが、それを知ってもなおナツは作り直す気なのだ。目の前の男は、妥協も諦めも、ないと知っているのだから。
「ナツー、とりあえず街に戻ろうよー」
「お、そうだな。」
「……」
マルクは、少し怯えていた。勝手に消えて、今また勝手に戻る……それがどれだけ自分勝手な事なのか、マルク自身が良くわかっている。
だからこそ、怖いのだ。拒絶されることが怖いのか、自分が怒られてしまうのが怖いのか……いずれにせよ、自業自得なのだと認識はしているが。
「……大丈夫だよ、みんな優しいから。」
「……ありがとう、ウェンディ。」
ウェンディは、マルクの手を握る。マルクは、それに励まされてウェンディの手を握り返す。とても暖かいものだった。手の温もりも、それによって出てきた心の温かさも。
「マルク!なんだ随分と遅い帰りじゃないか。」
「えっ。」
「全く、勝手に出かける時は連絡網を回せ、と言われなかったか?」
「知らねーよそんなもん!!」
「お前がキレんなよ、嘘に決まってるだろ。」
「嘘かよ!!」
戻ってくれば、随分と簡単に終わらされてしまった。もっと厳格な感じで怒られるものかと思っていたが、まるで怒られる理由がない、と言わんばかりに簡単な注意で終わらされてしまった。
「あ、あの俺……」
「たった半年だ。10年20年いなくなっていたのならともかく、半年程度ならちょっと長いクエストに行っていた程度だ。」
「そ、そうですか……」
「……ふふ、みんなああ言ってるけどみんな心配してくれてたよ?」
「おいシェリア!それは言うな!!」
リオンが、凛とした表情でクールに決めようとしていたのか、シェリアが笑いながら真実を明かす。
しかし、どちらにせよマルクには一つだけわかったことがあった。
「まぁ、とりあえず……おかえり、マルク。」
「はい……ただいま……!」
このギルドもまた、家族なのだと。マルクは、しばらく泣き続けていた。帰って来れて安心したのか、それとも迎え入れられた安心感なのか。だが、優しさに触れられたことだけが、今わかっていることであった。
「……すいません、お見苦しい所を。」
「いや、いいさ。滅多に見られないからな、お前の泣き顔なんて。」
「意地悪いですよリオンさん……」
「……あれ?ウェンディとシェリアは?」
「二人で話しがあるってさ。」
いつの間にかいなくなっていたウェンディとシェリア。だが、マルクは2人が話すことでは大体理解していた。
それでどういう結末を迎えても、マルクはウェンディについて行くことを決めていた。
「ダメだったなー…」
「え、何が?」
「ウェンディの前で、私は1人でも大丈夫って見せたかったんだ。でも、それを見せようと思ってたら、全部マルクが終わらしちゃってた。」
「あれは私もびっくりしちゃったよ……」
シェリアとウェンディは、今は丘の上で話し合っていた。諦めが入ったような、なにか覚悟決めたような……そんな表情をしていた。
「……ウェンディは、マルクと一緒に妖精の尻尾にいた方がいいよ。ううん、マルクと一緒にいなきゃダメ。」
「え?」
「『愛』してるでしょ?」
「うえぇ!?そ、それはえっと………」
顔を真っ赤にするウェンディ。しかし、否定するべき程の言葉も気持ちもウェンディにはなかった。
「……ね?」
「うぅ……」
「行かなきゃ後悔するよ?ナツ言ってた。妖精の尻尾は潰れてない…ナツは妖精の尻尾を愛しているからここまで来たんだよ。
マルクだって、1人でどこかに行ってたけど…それも、ウェンディを愛しているから、だと思うよ。」
シェリアの言葉に、ウェンディは俯く。本当の気持ちは、彼女が抱える本当の気持ちは、既にわかりきっているのだ。だが、従来の彼女の性格である大人しさが、それを邪魔していた。
「私…」
「素直になって?ウェンディ。ギルドが違っても、私達はずっと友達…」
「シェリア……」
2人は肩を合わせる。ウェンディは、シェリアの優しさに触れられたこと、それによって自分の気持ちを完全に意識してしまったのだ。
つまり、妖精の尻尾に戻りたいという気持ちである。それが、今のウェンディにある大きな気持ちだったのだ。
「友達だよ。」
「…うん……!」
そして日が昇り、昼頃になってから一同はギルド前に立っていた。ウェンディの、見送りのためにである。
「長い間お世話になりました。」
「元気でなウェンディ。」
「私も一応礼くらい言っとくわ。」
「シャルル…」
「本当に、なんて言ったらいいのか……私、自分勝手で……」
涙を流しながらひたすら感謝を述べていくウェンディ。その頭を、マルクが撫でる。
「自分勝手、って言うならマルクの方が上だからな。気にすることは無い。」
「う……すいません。」
「気にするな、冗談だ。それに、二人とも元からそういう約束でウチに入ったんだろ。」
「そうだったのか!?」
「妖精の尻尾が復活するまでお世話になるってね。」
ウェンディは、感謝や申し訳なさでいっぱいいっぱいになっていたが、それを打ち消すかのようにシェリアが間に入ってくる。
「ウェンディは泣き虫だなぁ〜」
「だって……うぅ…」
「天空シスターズの片割れ俺がやるからさ!!」
「やめとけよ。」
「出番か。」
「オババもやめとけよ!!」
笑わせて、励ますかのように明るく振る舞う
「妖精の尻尾の復活頑張れよー?」
「グレイに宜しくな。」
「そう言えば足取りがわからなくなってるのよね。」
「ジュビアさんが絶対追いかけていってる気もしますけどね。」
「気をつけてなー!!」
「おおーん!!」
他愛もない話をしながら別れていく。ウェンディ達が見えなくなるまで、蛇姫の鱗の一同は手を振り続けた。
それだけ、ウェンディとシャルルが与えた影響が大きいということだろうとマルクはそう思っていた。
「……ふ、ふふ…そのまま追いかけるから、ね。」
……ただ1人、マルクを追いかける少女がいたのだが…それは、さしたる問題でもないだろう。
妖精の尻尾復活のために、ナツ達は向かうのであった。