「よー、マルク…お前随分黒くなったな。」
「……大魔闘演武優勝ギルド、
「あ?何言ってんだ。お前だって妖精の尻尾だろうが。」
ナツと再開したマルク。しかし、できる限りナツとは関わりたくなかったため、ウェンディと同じように面識のないフリをしていた。
「知らんな。俺はずっとそこの森に住み着いているだけだ。マルクなんてガキは知らないな。」
「んなこたァ知るかよ。お前はマルクだ。忘れたってんなら、殴って思い出させてやる。」
「ナツー、あんまり無茶苦茶やっちゃダメだよー?」
「わーってるよ。」
マルクは焦っていた。今のナツは、一年前とは比べ物にならないくらい強くなってしまっていることに、気づいてしまったからだ。
「さて……おい、3人とも離れてろ。服溶けんぞ。」
「服が!?」
ナツが言った通りに、とりあえず一旦は従うウェンディ達。ある程度離れたのを見送ってから、再びマルクに面と向かう。
「さて……で、なんで離れた。知らねぇフリして誤魔化そうとしたら、燃やすぞ。」
「……街に向かえば街の者達が、恐るからだ…!これで、いいだろう!!」
マルクは、足に魔力を貯めてそこから一気に飛び出して、脱出を図ろうとする。
事実、一瞬で離れることは出来た。前のナツなら、恐らくこの時点で鼻で匂いを追って追おうとするだろう。なにせ、一瞬で空高く飛んでナツが豆粒のように小さくなっていたからだ。
だが━━━
「そんなんで納得出来るかァ!!」
マルクに向けて、ナツはブレスを放つ。前よりも大きく、それでいて炎の質もちゃんと上がっている。直感的に、これを浴びるのはマズいと感じたマルクはお返しと言わんばかりにブレスを吐く。
「ちっ、流石に厄介か。」
「む、無茶苦茶じゃないか……!」
一応防げたものの、熱量だけでとんでもない熱さという事だけが理解出来た。マルクは直撃しなくてヒヤヒヤしていた。
「お前、ウェンディには話したのか?」
「……話せるわけ、無いでしょう。」
ここで、マルクはついに心の仮面を外す。今の一言で納得さえしてくれたら、どれほど良かったのかと思いながら。
「ウェンディ、シェリアに話してみたことを考えてくださいよ!!黙っててくれ、と言えば黙っててくれるような子達ですか!?」
「……まー、ウェンディは優しいからな。話したのに、黙っててくれと言われりゃあ1番困るだろうな。」
「えぇ……あの子に負担をかけたくなかった。それに、さっき言ったこともありますよ。」
「んなもん、1回1回説明していきゃあいいだろうが。」
「それでも、恐る気持ちは変わるわけないでしょう。怪物が目の前にいるんですよ?」
「街のヤツらのことを考えてまで、お前はウェンディと離れてよかったのか?」
とても、意地悪な質問だ。この答えのわかりきっているものをぶつけて、ナツはマルクの真意を探ろうとしているのだ。
そう、ナツにも答えはわかりきっているのだ。
「いいわけが、無いでしょうが!」
「っ!!」
そして、この質問に対して完全にキレたマルクは、ナツに殴り掛かる。その拳は、簡単にかわされてしまったが。
「どんだけ寂しかったか!一人で生きていく覚悟はあった!それでも、寂しかったんだ、悲しかったんだ!!
けどしょうがないだろ!そんな気持ちを押し殺さなきゃあいけなかったんだ!!」
「なんで押し殺す必要があんだよ。口で言わなきゃあ……分からねぇだろうが!!」
マルクにカウンターと言わんばかりに殴り掛かるナツ。しかし、その拳は受け止められてしまう。
「っ!!」
「さっきも言っただろうが……言って1番負担がでかいのは、ウェンディなんだよ……!」
ここで、マルクの蹴りがナツの腹に入る。だが、浅かったのかナツはすぐさま距離をとる。
「あぁもう……あんたに対して『これ』は使いたくなかったんだ…けど、あんたがわざわざ俺を挑発するからだ…魔力が完全にキレるか、俺が落ち着くまで……止まらない。」
「よし、1回本気で殴り合いたかったんだ。全部だし切れよマルク……ぶん殴って終わりにしてやるからな。」
さっきとは、全く比較にならないくらいの熱量を持った炎を噴出し始めるナツ。それに対して、マルクの体は段々と変色していく。
「あんたの炎も!挑発も!全て食らってなかったことにしてやる!!」
「そうだよ、その意気だ……!」
「俺の魔力なら、あんたの炎を無効化できる!いつまでも負けてばっかりだと思うなよ……!この1年間、自分の魔力を制御できるようにしたんだ……!
魔龍の咆哮!」
マルクは、ブレスを放つ。それは、とても範囲が広いものであり普通の魔導士なら避けようがないものだった。
だが、それをナツはかわそうとすらしない。
「吸収されんなら……されねぇくらい強い力でぶちかましてやらァ!!火竜の咆哮!!」
「っ!?」
マルクよりも圧倒的にでかいブレス。それは、マルクのブレスで即座に吸収できる量をはるかに上回っていた。
「ぐ、ぐあぁぁぁぁ……!?」
当然、かわせるはずもなくマルクはその炎に焼かれる。しかし、あくまでも熱いだけで、だ。
「はぁ、はぁ……!?とんだ化け物になって……!」
「にっしっしっ」
ギリギリで、なんとか自分の魔力を体にまとうことで完全に焼かれることを阻止したが、とんでもないパワーである。
力を出し惜しみしていては、勝てるとは思わない。だが、悪魔化をするべきか、と言われれば……
「どうした?勝つ気なんだろ、俺に。」
「……あぁ、あんたに勝つ気だよ俺は!!」
マルクはナツとの距離を詰めるために素早く近づく。ナツも、それに合わせて構えを取って対抗しようとしてくる。
「だらァ!!」
「っと…」
連続で拳を繰り出すマルク。だが、ナツはそれを全て紙一重でかわしていく。全て、『任意』でギリギリでかわしているのだ。
受け止めることすらしない。それが、マルクの心にさらに拍車をかける。
「うがァァァ!!」
アッパーを繰り出そうと、マルクは拳を振り上げる。それも、ナツは紙一重でかわすが、その直後に顎に衝撃がはしる。
「なっ……!?」
「油断しすぎだ!!何も出来ないまま翻弄されるだけと思ったか!!」
「へへっ……燃えてきたぞ…!」
「何が燃えてきた、だ!!」
マルクは、アッパーの勢いのまま顎に膝を入れていたのだ。全てを紙一重でかわしていくその自信が、その一撃を入れることを許してしまったのだ。
だが、逆に言えばもう通じない小手先の技だろう。それほどまでにナツは手加減してくれていた。
「は、はぁぁぁ!!」
「ふんっ!!」
間髪入れない連撃を行っていくマルク。拳を放ち、かわされれば即座に魔法で、あいた距離を詰める。
しかし、ナツはマルクの魔法でさえもすべてかわしていき、逆に距離を詰めてきたマルクを蹴り飛ばす。
「そんなもんじゃねーだろ、お前の力は。」
「だから、何だってんだ!!」
「中途半端に使うから、中途半端に終わるんじゃねぇのか。全部出し切っちまえば、食うやつもいなくなんだろ。」
「あんた……何を言って━━━」
ふとここで、マルクはナツの言葉で閃いた。ポーリュシカの言葉に、恐れだけを抱いてしまい、単純な対策を怠っていたことを。
そう、自分が悪魔の力を中途半端に使うから、体が中途半端に悪魔化していったのではないか、と。
なら、自分の中の魔力を全て一旦使い切り、改めて悪魔としての力である魔力を『自分で食って完全に自分に同化させればいいのではないか』と考えたのだ。
「……そうか、なら初めからそうするべきだった……!」
「へっ……顔つきが変わったな。」
「覚悟しろよ、ナツ・ドラグニル……今から俺は、あんたを殺す気でいく。ただ怒鳴るばっかで、感情を振り回してるだけじゃあダメだったんだ。」
「なんか思いついたか?」
「えぇ、おかげさまで……ついでに、今からあんたを倒して、妖精の尻尾でのパワーバランスを崩してやる。」
「かかってこいよ。まだ俺は、お前に倒されるほど落ちぶれちゃあいねぇからな。」
お互いに不敵な笑みを浮かべるマルクとナツ。しかし、お互いにとんでもない量の魔力を練り込んでいる。
それが、圧となって周りにいる者達に緊張を与えていく。
いつもなら、ナツが勝つだろう。だが、今のマルクはナツに対しての遠慮が全くないのだ。そして、今のナツと同様の力があるかもしれないということを、肌でひしひしと感じ取っていた。
「その余裕……いつまで続きますかね!!」
「へっ、そう簡単に負けるわけにゃあいかねぇよ。」
「そうです……かっ!!」
マルクは一気に飛び上がり、かかと落としをナツの頭上から決めにかかる。当然、ナツはこれを避けて当たらないようにしようとするが、直前にその行動をやめて、遅れながらも同じく足技で対抗しようとする。
「魔龍の尾激!!」
「火竜の鉤爪!!」
ナツは気づいたのだ、その一撃にはかなりの量の魔力が込められており、ただ避けるだけではその魔力の塊にやられてしまうと。
そして、2人の足技がぶつかる。ナツの炎はマルクの魔力に吸収されてしまう。つまり、単純な蹴りと魔力によるブーストのかかった蹴りの勝負になるのだ。
「へっ……けど、あんまり一直線だと意味がねぇぞ?」
「へっ……!?」
だが、ナツは繰り出した足を折り曲げて力を抜いた。今まで押し合いをしていたにも関わらず、片方が力を抜けばどうなるか?当然、押していた方は空回りするかの如く一気に相手に踏み込むだろう。
マルクだって、ナツが力を抜いたことによりかかと落としが空を切って、地面に激突していた。
「しまっ━━━」
「火竜の鉄拳!!」
それが、大きな隙となりマルクの体にナツの強烈な一撃が直撃する。油断していたところからの一撃だったので、防ぎようがない。
しかし、マルクもただでやられるほどではない。咄嗟に、ナツの繰り出した腕に、自分の腕を絡ませて拘束する。
「魔龍の尾激ィ!!」
絡ませた直後、ナツの脇腹にマルクの一撃が入る。ガードすらさせていない、マルクの中では最良の一撃だった。
「ガハッ…!?」
「ぐっ……」
マルクとナツは、お互いに距離をとる。お互いにブレスがあるのは理解していたが、それが相手に通用するものではないと理解しているのだ。故に、肉弾戦が得意な相手に対して距離を取って様子を見る、という行動に出た。
「……まさか、あんな手を使ってくるなんて。ナツさんらしからぬ手ですね。いつものあんたなら、あそこからさらに追加で威力を出してくるタイプなのに。」
「あ?俺だって頭使うぞ。」
「いやいや、ナツってば使う時少ないじゃん。」
「んだとー!?」
ハッピーがやれやれと言った感じで、呆れている。しかし、この場にいるシェリア以外のメンバーは、『いや頭を使う時は確かに少なかっただろう』と内心思っていた。
それでも、信念で突破していくのが一同のナツ・ドラグニルという男に対しての認識なのだ。
「……ま、そんなことはどうでもいいんですよ。」
「……まだやる気か?」
「言ったでしょ、あんたを倒すって。」
「へっ……!」
ナツのその笑みの直後、再びぶつかり会う2人の