FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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案外仲間は欺けない

マルク達が蛇姫の鱗(ラミアスケイル)に入ってから、3ヶ月ほどの時が経とうとしていた。

初めは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の事を引きずっていたマルク達だったが、段々とそれを見せなくなってきていた。だが、時間が経つにつれてマルクがギルドにいる時間も少しづつ少なくなってきていた。

毎晩、彼の体に痛みが走り続けるのだ。無視なんて到底不可能なほど、体をひたすら蝕んでいく激痛が。

悪魔の力を使えば、彼の体が変容するために痛みが発生する…とポーリュシカから聞かされてはいた。だが、使っていないにも関わらずその体は毎晩痛みを発し続けるのだ。

そのせいで、彼は毎晩夜遅くまで起きてしまい、そして気絶しては朝を超え昼を超え……と言ったことまであった。

そして、その痛みにはマルクの感覚ではあるが、段々と収まってきているような気がしていたのであった━━━

 

「ふー!ふー……!」

 

ベッドのシーツを噛んで、必死に激痛によって声を張り上げそうになるのを我慢し続けるマルク。

だが、そんな理性も掻き消えるかもしれない程には未に体に激痛が走っていた。

そして、この日は運良くすぐに収まった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

シーツから口を離して、ぐったりするマルク。クエストよりもこの体の痛みのせいで体力が消耗されていた。

 

「うぇ……汗がすごいな。」

 

汗を流すために部屋の風呂に行くマルク。あまりの激痛のせいか、体にうまく力が入っておらず、フラフラと歩くハメになっていた。

熱いお湯ではなく、冷めきったほぼ水の風呂でもなく、体温より少し下の少し暖かい程度のぬるま湯に浸かりたい気持ちが今のマルクにはあった。

 

「……っとと…隣に聞こえないようにしないと……」

 

元々マグノリアに家を構えていたマルクだったが、あのあと少し確認しに行ったら、冥府の門(タルタロス)との戦いに巻き込まれていたのか、家具諸共全壊してしまっていた。

故に、引っ越すことになったのだ。蛇姫の鱗の男子寮に。

 

「……不幸中の幸いというべきか、目か鼻がいい人が蛇姫の鱗にいなかったからなんとか今の今までバレることは無かったけど……そろそろ、バレそうだよなぁ……」

 

ウェンディやシャルル、シェリアは当然女子寮なので鼻か耳がいい上記の3人は除外されるのだ。

男子には、強力な魔導士は入れどそのような鼻か耳がいいという魔導士は、いなかったとマルクは記憶している。

と、その時であった。突然、マルクの部屋の扉がノックされたのだ。

 

「……服だけ着替えよう。」

 

汗だくの服でいけば怪しまれる可能性があるので、マルクは仕方なく服だけ着替えていくことにしたのであった。何もしないよりは、マシな程度ではあるが。

 

「はいはーい、誰ですかー」

 

そう言いながら、マルクは扉を開ける。男子寮とはいえ、こんな夜中に人が来る、というのは中々珍しいことである。

 

「……」

 

「……と、トビーさん?」

 

何故か目の前にいたのはトビーだった。いつもの上半身裸で、何故かぶら下がっている靴下。そしてどこを見ているか何を考えているかわからない男である。そして、魔法は爪を伸ばして爪自体に毒を付与する魔法なのだが……一応、顔は犬っぽい見た目だった。彼が鼻と耳がいいなんて話は、全く聞いたことがないが。

 

「……靴下、知らないか……?」

 

「…また、無くしたんですか?」

 

夜中に呻き声を上げていることを言われるかと思ったが、いつもの事というかなんというか、靴下の事だった。

 

「また、無くして……お気に入りだったのに……!今、部屋を回ってみんなに聞いて━━」

 

マルクは、首からぶら下がっているものに指を指す。その指の先にあるものに、トビーは目を移す。そして、無くしたと思っていた靴下を見つけてボロボロと泣き始める。

 

「ありがとう…!ありがとう……!」

 

「あ、うん……いやどういたしまして……」

 

「お礼にこれやるぞ。」

 

そう言ってどこから取り出したのか、箱に入った何かを渡すトビー。それで満足したのかマルクの部屋から離れていく。

 

「……何これ?」

 

マルクは恐る恐る箱を開けていく。中には、何やら瓶詰めの錠剤のようなものが入っており、ラベルもご丁寧に貼られていた。どうやら、店で買った薬らしい。

ラベルには『どんな激痛もたちまちスッキリ!痛滅魔法EX』と書かれていた。その瞬間マルクは、心臓が飛び跳ねるように驚いた。

 

「え…?ば、バレてないんだよ、な?」

 

トビーの部屋は、マルクの部屋の上下左右のどの隣にもない。というかそもそも、トビーが寮住まいだったかどうかも不明である。

しかしこんな時間にここにいるのだから、当然ここに住んでいる……筈である。

 

「……ま、まぁありがたく貰っておこう。」

 

先程あった痛みなんて、完全に忘れきってしまっていたマルク。とりあえずその日は、その薬を飲んで寝ようとするのであった。

 

「……まっず…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よー、マルク。元気かー?」

 

「元気ですよ、というかその質問昨日も一昨日もしてませんでした?」

 

「いやいや、気のせい気のせい。」

 

どうにも、マルクは昨日のトビーの事から妙に周りの事が気になり始めていた。

というのも、やけに自分の体調の事を聞いてくる人もいれば、やけに自分の手伝いをしようとする人が増えたような気がする……からである。

 

「よー、今日も奢ってやるよ。」

 

「いや、先々週も奢ってくれたじゃないですか。というかココ最近なんでそう奢ってくれるんですか。」

 

「そんな奢ってねぇよ、気のせい気のせい。」

 

やはりおかしい。マルクは疑心暗鬼とは言わないが、どうにも周りの動きがおかしい気がしていた。

しかし、そこは突っ込めない。ここまで周りが似たような行動をするということは、全体がグルである可能性があるからだ。

 

「うーむ……」

 

「おはようマルク。今日はこの仕事行こ?」

 

依頼書を持ってくるウェンディ。マルクはそれを見て考え込む。依頼内容は、最近暴れている珍獣の討伐、または捕獲を依頼するものだった。

決して安易に簡単だ、とは言えないが……はっきり言えば、ウェンディとシャルルさえいれば問題なくクリアできるようなクエストだろう。

 

「……そうだな、一緒に行くか。シェリアは?」

 

「リオンさんと一緒に仕事だって。」

 

「そっか、なら久々に3人でのクエストだな。」

 

「油断しないことよ。あんた達なら問題なく勝てるでしょうけどね。」

 

シャルルがそう忠告したのを、頭に叩き込む2人。そして、目的地まで馬車で向かうのであった。

だが、その間マルクはずっと考えていた。自分のことをやたらと可愛がってくれるのは、正直悪い気がしない。しかし、体調のことをやたら聞かれたり、やたらと奢る人物は前までそのようなことはしなかった者達だ。

それが起こり始めたのは、悪魔の力を使っていないにも関わらず、体に激痛が走り始める時期とほぼ一緒だった。

 

「……やっぱり、バレてる?」

 

「マルク?どうしたの?」

 

「いや、なんでもない。」

 

バレている、のだとしたら声が部屋から漏れているということである。しかし、いつも声は抑えているし、耳がいい人の部屋が隣接しているなんて話も聞いたことがない。

つまり、何かしらの方法でバレている、ということである。と、ここでマルクはウェンディに視線を向ける。バレるとすれば、同じ滅竜魔導士であるウェンディからであろう。耳と鼻がいいのは彼女がそうであり、そして彼女ならば痛みを我慢している自分を、どこかで見聞きした可能性が高い。

 

「……ウェンディ、終わったら天空魔法を使ってほしい。」

 

「え?でもマルクの体の痛みは取れるかどうか……あっ。」

 

「……純粋すぎて、偶にお前のことが心配になるよ俺は。

というか、やっぱりウェンディだったんだな?最近周りの人がやたら優しい気がしてたけど…言った?」

 

「うぅ……うん。」

 

カマをかけられて、ほぼマルクが望んだとおりの答えを出すウェンディ。バレてしまって、少し落ち込みながらも素直に頷いて答える。

 

「……どこで、知った? 」

 

「この間……森で苦しんでる声を聞いて……話したら、とりあえずバレるまで優しくしてやろう…ってマスターが。」

 

「……マスターが言ったってことは、少なくとも事情は全員知ってるってことか?」

 

「私が、言ったから……」

 

「そっか……」

 

少し考えるマルク。別に、怒ることではない。ただ、自分も痛みを我慢出来ずに周りに甘える程の子供でもないと思っていたため、ウェンディにどう言えばいいか、少し迷っているのだ。

 

「……バレたら、どうするって?」

 

「まだ、何も聞いてない……」

 

「はー……知ってるのは、それくらいか?」

 

「う、うん……理由はわかんないけど…痛がってるくらい……なんで、痛いの?」

 

マルクは、答えに言い淀む。素直に言うべきか、否か。言えば、間違いなくウェンディはマルクを糾弾するだろう。なぜ、自分に相談してくれなかったのか、と。

もし素直に話せば、ウェンディは恐らく蛇姫の鱗でも信用の高い者達に話して、治してくれるような医者を探そう、と言うに違いない。

そんな医者、闇医者でもいるわけがない。それ以前に、この悪魔化を無くしてしまえば……自分は力を失ってしまう可能性の方が高い。

ただの人間に戻ることは、決して許されない。ただの守られる立場になってしまうのだけは、駄目なのだ。

 

「……さぁな、だから最近ポーリュシカさんのところに通ってるんだ。」

 

「……いないのは、それが理由?」

 

故に、話せなかった。恐らく、これからまた色々なことが起こるだろう。ウェンディの隣には、シェリアかシャルルが立つだろう。隣に自分がいないのはいい。背中でも、彼女の前でも……どこでもいいから今の守り、守られの関係は決して崩してはいけないのだ。

だが、力を失えば…1度自分はただの守られる立場になる。何もお返しができない、守られるだけの一般人になる。自分だけが……逃げてしまうのと何ら変わらないのだ。

 

「あぁ、ごめんな?理由が判明するまでは、こんな生活続けるだろうけど……」

 

「ううん、ありがとう話してくれて。」

 

「あんた、重要なことはいっつも黙ってるけど……まだ何か隠してるんじゃないわよね?」

 

「はっはっは……」

 

「ちょっと!?」

 

シャルルが鋭いことを言うが、マルクは笑って誤魔化した。話したあとの結論が、見えきってしまってしまっているから誤魔化すしか方法がない。今は嘘をついて純粋なウェンディは騙せたが、勘の鋭いシャルルは騙せそうにもない。

 

「あんた、ウェンディ泣かせたら承知しないんだからね!?」

 

「大丈夫だっての……俺は、ウェンディをいつまでも守るつもりだからな。」

 

「わ、私だってマルクを守るよ!?」

 

「そりゃあ頼もしい、お互いに守り守られでいられて……っと、どうやら着いたみたいだな。」

 

馬車が停止する。目的地に到着したようで、お礼を言ってから料金を払って更に歩いていく。

クエスト内容は、討伐or捕獲。出来れば捕獲する方がいいのか、または討伐した方がいいのか。

それらを踏まえて、マルク達はクエストを始めるのであった。


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